第2話

「突然、誰かが死んだとしてもそれは自然なことだよ」

 オウルの通る道には骸が転がる。

 そんな噂話が流れ始めたのはカシウスという男が冒険者になってから。

「人は死に向かい救済を乞う」

 森の道を行く。

 周囲は緑の鮮やかな葉をつけた木々が覆う。足場も悪いが、大した問題とは言えない。それは彼の背後に転がる大きな体、丸々と太った盗賊の死骸とその盗賊の部下であろう男女の無残なる肉が並ぶから。

「君たちは救われる。それは私が齎した救済である」

 歌うように彼は言葉を並べる。その背後に並ぶ幾つもの死体は物々しさすら感じさせる。

「人は死を持って羽ばたき、そしてーー」

 彼の目に一つの小隊が映り込む。

 カシウスはそちらに静かに歩み寄る。冒険者であるか、盗賊であるか、それとも兵士であるか。

 それは定かではない。しかし、それはカシウスにとってはどうでも良いことだ。カシウスは救いを施す。

 それが彼にとっての教義であるから。

「安らかなる救いに魂を委ねる」

 一歩。

 彼は近づき、また一歩。ゆっくりと小隊に歩みを寄せる。彼に寄り添う影はまるで梟のように。

 まるで教義を読み終えたかのように彼はパチリと瞳を閉じて、黙す。

「人よ」

 そして、再び目蓋を開けばその小隊は呆気にとられたようで、口をポッカリと開けてカシウスに視線を向けた。

「黙して死せよ」

 ここに来て初めて処刑魔法が発動する。

 処刑魔法、第五位階。

 それを人は梟首という。

 ただ、現実の梟首とは些かの違いはあるものの、それは酷く凄惨たる物であった。

「あ、あ、ぁあ、あ……」

 ストン、ゴロ、ビチャ。

 そうして落ちた首が、突如、地面に出来上がった台の上に晒されるかのように並べられる。

「あれ、獣も殺してしまったのか」

 並べられた頭部に一つ、人のものではない物がある。それは猪のような牙をはやした毛むくじゃらの獣だ。

 そして、切り離された首より下はギロチンに切り裂かれたかのようにバラバラと崩れていた。

 ただ、台の上もその下に広がる惨状も赤という言葉抜きでは語れない。

 深緑とは対になる赤色が台から滴り、血を濡らして、鉄の匂いが香る。

「まあ、構わないや。君たちに救いがあらんことを。……ディア・コープス」

 そんな場所で彼は気にもせずに、祈るかのように黙祷を捧げ、晒し首のままに彼はその場を去っていく。

「死は救済なり、救済なり」

 そして彼は再び唄うように声を鳴らす。その背後に並べられた頭は、救われたように笑っていて、それがより不気味さを引き立てていた。

「あっちには村があるんだよね」

 彼は懐に仕舞い込んでいた地図を取り出して、確かめながらその森を進む。

 彼の通る道は死の道だ。

「仕方ないな。みんな救ってあげなきゃな」

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