第19話 商人との出会い
馬車を襲ったレッドゴブリンを痛めつけた後、後始末はレベリング中のヒデとマナブに任せた。
オレは逃げ遅れたゴブリンを倒し、まだ近くに潜んでいないか探していた。
「粗方片付いたみたいだな…」
「ああ…ほとんどが逃げちまったみたいだな。まあ単体の奴らなら、一般の冒険者でも余裕で倒せるさ」
マナブがゴブリン達の馬車を指を差した。
「あの馬車はどうする?」
「中には相当量の宝があったからな…後で防衛隊に引き渡すか」
「そうだな…俺達は盗賊じゃないしな!」
「そう言えば二人ともレベルは上がったのか?」
「俺もマナブもかなり上がったよ!」
「ああ、特にあの赤いのを倒した時は、レベルが10も上がったよ」
二人ともレベル上げが楽しそうで何よりだ。
二人のステータスを確認すると、レベルが15まで上がっていた。
「レベル15か…早すぎる!普通の人なら1年以上かかる所を半日だもんな…」
「そんなにかかるの?赤い魔物様々だね!」
「おーい!」
オレ達が話をしていると、遠くから馬車に乗った男が走ってきた。
「あれは…」
「多分襲われていた商人だな」
「皆様ご無事で!?」
「ええ!そちらこそお怪我は?」
「はい!おかげさまで!助けていただきありがとうございました!」
商人が話していると、ヒデが耳元に小さな声で話しかけてきた。
「ねえ…彼は何て言ってるの?」
「ん?…あ!そうか!二人ともわからないんだっけ?」
「当たり前だろ。むしろたった3年でシュウがペラペラ喋れている事が不思議だよ」
「ああ、転移した時にはなぜか翻訳ってスキルを持ってたんだよね」
マナブとヒデがステータスを確認している。
「…俺にはそんなスキルないな」
「俺も!」
「そっか…転移したら自動的に付与される訳じゃないのか…あ!そうだ」
「あの…お邪魔でしたか?」
商人が申し訳なさそうにこちらを見ている。
「あ!すいません!少しお待ち頂いても?」
「は、はい!」
オレは徳ポイントを使用して、翻訳コニャックを交換した。
目の前に瓶が現れた。
「二人ともこれ飲んで!」
「何だこれ?」
「ポイントを消費して手に入れた酒だ」
「ポイント?酒?何だそりゃあ…」
「良い行いをするとポイントが貰えるんだよ。そのポイントを使ってレアアイテムとかスキルを交換出来るって訳。俺しか開放されていない機能だ…それでこいつは…」
これは瓶を高らかに持ち上げた
「翻訳コニャック〜!」
「……未来の世界のネコ型ロボットが持っていそうな道具だな…」
「ぶほっ!…でも名前から言って効果は…あれだよね?」
「うん…説明には、飲むとどんな言語でも通じるようになる酒って書いてある…しかもフランス産…」
「…何か…無茶苦茶だな」
「まぁとにかく飲んでみてよ!」
二人は言われるがままに、酒を口に入れた。
「美味しい!」
「これは上物だな…美味い…」
オレは商人の方向に向き直し声をかけた。
「お待たせして申し訳ありませんでした」
「いえいえ!」
「おお!話がわかるぞ!」
「本当だ!待たせてしまってごめんなさい!」
「とんでもない!改めて助けていただきありがとうございます!私、商人をしております。ガストンと申します」
ガストンさんは深々とお辞儀をした。
「ガストンさん。何事もなくてよかったです!私はマナブ。隣の彼は…」
「ヒデです!よろしく!」
「そして彼は…」
「あー!ジョ…ジョンです!」
マナブが不思議な顔をしてこちらを見ている。
オレは焦った顔で、マナブに目配せをした。
「…そう!彼はジョンです!」
「マナブ様にヒデ様にジョン様…」
ガストンさんは俺ら一人ひとりと握手を交わした。
「皆様のおかげで荷物も馬も無事でした…」
「それは良かった。どちらに向かわれているので?」
「ハイランドまで商売の荷物を持ち帰る所です」
ハイランドはフィリーミから南へ100キロほど離れた港町で、ラインバールに次ぐ大きな町だ。
「それと国から領主様宛に重要な書簡を預かっておりまして…本当に助かりました!」
「それは大変ですな…お一人でハイランドまで行かれるつもりで?」
「はい。何度も往復している慣れた道だったのですが、あんなに大勢のゴブリンの集団は初めてでしたよ…」
この辺りは魔物の強さも低く、群れをなして行動する魔物も少ないので比較的安全だ。
何より商人は命の次に大事な商品を守る為、普通の人間よりも強くなくてはいけない。
それなりの力を持った冒険者が、ギルドから輸送の依頼を請け負い、その繰り返しを経て商人に転職するケースが多いのだ。
「数匹のゴブリン相手なら問題はないのですがね…索敵のスキルを使用して走っていた所、1つだけすごく危険なシグナルを発していたので、慌てて逃げ出した訳です」
「なるほど…」
「ですが突然そのシグナルが消えて、ゴブリンのシグナルもほとんど無くなったので、戻ってみた所、皆様がいたので…瞬時に理解しました」
「我々はレベリングしてただけですので、偶然ですよ」
「いやいや!あのシグナルを放つ魔物を倒すとは…相当の腕前とお見受けします」
「いえいえ…それほどでは…」
「本当に助かりました…皆様はこの後はどちらへ?」
「奴らの馬車をラインバールへ引き渡しに行くつもりです。色々と積んでいたので」
「そうですか…私からもお願いします。商人仲間の血と汗の結晶を国に預けてください」
「わかりました!」
そう言うとガストンさんはオレに布の袋を渡した
「少ないですが…御礼です」
袋を開けると、中には金貨が10枚入っていた
マナブとヒデが目を見開き驚いている…
「これって…金貨だよな?」
ヒデが小声で話しかけてきた
「ねぇ…これってどれ位の価値があるの?」
「…日本円で1枚10万円位かな…」
「10万!?ってことは…」
焦ったマナブがガストンさんに
「こんなにいただけません!」
と話すと、ガストンさんは笑いながら答えた
「これでも少ないくらいですよ!」
「し、しかし…」
命の次に大事な商品を守れたのだから、本当にこれ位はどうって事ないのだろうな。
「マナブ…有難く貰っておこう。…ガストンさんありがとうございます」
「とんでもない!もしハイランドにいらっしゃる事があればガストン商会にぜひ立ち寄って下さい。従業員全員で歓迎致しますので!」
「近いうちにお邪魔しますね」
そう言うとガストンは再び深々とお辞儀をして、御者席へ乗り込んだ。
「それでは皆様またお会いしましょう!」
「お元気で!道中お気をつけて!」
ガストンさんはこれまでのロスを埋めるかの様に、疾走と去っていった。
-徳ポイントを獲得しました。
-商人を助ける 10pt
お、久々に徳ポイントを手に入れた。
ただ翻訳コニャックを交換したから、プラマイゼロだな…
気がつくと空はあかね色に染まっていた。
「さてと…街へ戻るか。馬車も引き渡さないといけないしな」
「そうだな…今日はこの位にするか。十分堪能したしな!」
ヒデがニヤニヤした顔で
「貰った金貨で朝の飲みの続きでもするか?」
「そういやマナブとは再会してから、まだちゃんと飲んでなかったしな」
「そうだな!異世界での飲み…楽しみだ」
「よし!帰るぞ!」
オレ達は馬車に乗り込み、ラインバールへと転移するのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます