第18話 その男達レベリング中につき
俺は一般的なゴブリンの両親から産まれた。
ガキの時から、親にお前は特別なゴブリンだと言われ続け、周りの連中からもチヤホヤされ育てられた。
好きな物を食べ、気に食わない野郎を殺し、気に入った女を襲い…何をやっても誰にも文句は言われねえ
そんな毎日を送っていた。
ある日俺の村に一人の男がやってきた。
その男は最強の兵を率いて、人間共の領地を奪い、世界を征服するべく、人材を探していた。
青二才のバカだった俺は、すぐに名乗り出て、その男に喧嘩を売った。
一瞬でコテンパンにやられてしまった。
俺は初めての挫折を味わったこの世で一番強いと本気で思っていた…まさに井の中の蛙だ。
俺はその男の兵士となった。
やがて男は魔王となり、名実ともに最強の王となったのだ。
-魔王落命
飛竜隊により魔国全土、そして遠征隊の全てに伝令された。
俺にその報が届いたのが2日前。
各部隊は踵を返し、一目散に帰還しているらしい…
これから先、魔国は序列の再編が行われる。
そう読んだ俺は帰還する旅路の所々で略奪を行った。
手に入れた金品を基に新たな魔王候補に付け入れば、将来は安泰だ。
だが…計画は完全に狂ってしまった…
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「魔王様の王冠…お、おまえ…まさか…」
「運が悪かったな…」
あの最強の王を倒した男…そいつと対峙していたのだ。
全身の血の気が引くのがわかった…魔王にやられた時でも感じられなかった感情…こんな事初めてだ。
これが恐怖…いや絶望…
このままでは殺される!何とかして生き延びねば…
俺は男の質問に答えた。
なぜここにいるか、そして何で馬車を襲っていたか
「それで…襲った村の人や商人は…」
「殺したさ…全て。跡形も残らずな…」
「…女子供もか?」
「言葉の通りさ。全て跡形も残らず」
「……お前ら以外にもフィリーミに残っている奴は?」
「お、俺ら以外の遠征隊は魔国へ撤退し始めているはずだ…」
「まだ少しは残ってそうだな…」
男は後ろを向き、仲間の元へ歩き始めた
「お、おい…み、見逃してくれるのか?」
男が振り返り俺に語った
「…オレが戦った魔王軍の連中は国の為に戦う、もっと気高く立派な武人ばかりだったんだがな…」
目を細め、軽蔑の眼差しを向けてきた
「利己の為に、盗賊へ成り下がったか…好きにしろ…」
助かった…緊張の糸が解けたのか、身体のあらゆる所から汗が噴出された。
「おい!誰か!手を貸せ!」
俺は部下に向けて助けを求めた。
誰からも反応がない。
「!? おい!聞いてるのか?手を貸せ!」
「…お前は本当に自分の事しか考えていないクズ野郎だな…周りを見てみろ」
男の言葉に俺は辺りを見渡した。
誰もいない…部下が一人もいないのだ
「な、なんで…」
「お前が必死に命乞いしている間にみんな逃げちまったよ!ゴブリンはみんな利己的…なんだろ?」
俺は今までの事を後悔していた…部下をただの駒。使い捨ての道具と思っていた…そりゃあ奴等に捨てられてしまうわけだ…
こんなはずじゃなかった…こいつ等と出会わなければ…
男は仲間の元へ戻り何やら話をしている。
すると男の仲間が剣を構え、ジリジリとこちらに近づいてきた。
「お、おい!見逃してくれると言っただろ!!」
後方に立つ男に叫ぶと
「俺はお前を倒しても何の得にもならないから見逃してやったがなぁ…彼らは今レベリング中なんだよ。格上の魔物を倒したら、すごい経験値貰えるだろうからなぁ…彼らに聞いてみたら?」
「ま、待て!見逃してくれたら、俺の財宝を全部やる!全部だ!だから頼む!助けてくれ!お願いだ!」
俺は男の仲間に嘆願した
「あ!そうそう!彼らはお前らの言葉はわからないから。…何を言っても無駄だ」
男が何やら言葉を発すると、仲間が短剣を振り上げた。
「やめろおおおおおおおお!」
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