第13話 みんなで転移してみた
「おーい!シュウ!大丈夫だって!」
「あんナメた動画送ったら殺されるに決まってるだろ!」
ヒデが送った動画のせいで、オレは今から来る親友から身を守るため、トイレに隠れていた。
「大丈夫だって!あんなスキル使えるシュウなら殺される訳がないだろ!」
確かにそうだ。今のオレのステータスなら、マナブの攻撃なんて、大した事ない。
「…確かに。わかったよ!出ればいいんでしょ」
そう言うとオレはトイレから出て部屋に戻り静かに待っていた。
すると勢いよく玄関のドアを開ける音が聞こえた。
そして、ドスドスと言う音がこちらに近づいてくる。
バン!
乱暴に開けられた扉の向こうには、鼻息荒い親友のマナブが立っていた。
「よ、よう!久しぶり!」
彼はオレの言葉を無視して、オレの肩に重いパンチを放った。
「馬鹿野郎!どこに行ってたんだ!!」
マナブは涙を流し震えている。
「マナブ…悪かった…」
「シュウ……おい!どうやって転移した!?教えろ!早く!」
「本当に申し訳な…っていきなりそれぶっこむのー!?」
「当たり前だろ!シュウが異世界転移したなんて…俺悔しくて悔しくて…涙が出るわ!」
あ、思い出した…こいつヒデより
俺はヒデと同じ説明をして、デモンストレーションを行った。
---
「なるほど…酔っ払って、気づいたら転移してたと…」
マナブは神妙な面持ちで何かを考えている。
「ヒデ。酒くれ!俺も記憶なくなるまで飲む!」
そう言うと、マナブはテーブルのビールをハイペースで飲み始めた。
「わー!やめろ!お前は毎日記憶なくなるまで飲んでるだろ!」
「うるせー!俺だって異世界に行きたいんだよ!」
そう言いながら、三本目のビールに手をかけていた!
「早すぎだって!…ぎゃあ!お前こぼすな!シュウも何とか言ってくれよ!」
ぼーっと二人を見ながら、とある実験の事を考えていた。
「おい!シュウ!」
「わかった!わかったから二人とも落ち着け!」
落ち着く様子はない。
そこでオレは二人が黙るであろう、会心の一言を放った。
「落ち着け!異世界に行きたいんだろ?」
二人は時間が止まったかの様にピタっと争いを止めた。
「…異世界に行けるのか?」
マナブが真面目な顔で聞いてきた
「おそらくな…。まずはオレがどうやって帰ってきたか話すよ。オレはとある事を成し遂げて、その報酬でユニークスキルを手に入れたんだ」
「ユニークスキル?滅多に手に入らないスキルって事?」
「うん。そしてそのスキルの名前が…異世界転移」
『異世界転移!』
二人同時にハモってバツが悪いのか、お互い苦笑いを浮かべていた。
「このスキルは心に思い浮かべた世界へ転移出来るスキルだったんだ。まずは最初に使用する時に転移しても安全な場所を選んだ…」
「…日本か」
「ああ。日本に転移出来れば、最悪力を失っても、何とかやって行けるしね。無事に転移出来た後は色々実験をしてたんだ。未知の世界に行けるのかだったり、短距離転移が出来るのかとか…」
「短距離転移?」
「ああ。異なる世界を経由せずに、今いる世界の違う地点に転移出来るのか…簡単に言えば、瞬間移動だな」
「じゃあさっきのは」
「そう。あれは異世界転移スキルだったって訳。実験は成功したよ。あとはアイテムを所持したまま転移出来るのかとか…」
「なるほど…わかったぞ…」
マナブが笑みを浮かべた。これから行う事がわかったみたいだ。
「俺らを実験台にするって事だな?」
「実験台!?どういう事?」
ヒデは困惑した表情でマナブに問いただした。
「つまりはこうだ。まだ試していない事…それは人間…いや生物と一緒に転移が出来るかを試したいと…」
「流石マナブだな。大正解〜!」
「つまり…その実験が成功したら俺とマナブも異世界に行けるって事?」
「そう…そうなんだが…」
オレは深刻な顔をして、話を続けた。
「失敗した場合は、良くて死。最悪は時空を永遠に彷徨うかもしれない…」
「…」
二人は黙り込んだ。
もちろん嘘。失敗したら単純にオレだけが転移する、もしくはスキルキャンセルされるだけだろう。確証はないけどね。
ヒデにクレジットカードを勝手に使われたお返しに、ビビらせる為のお茶目なジョークだ。
「覚悟は出来てるさ」
マナブは笑いながら答えた。ヒデはと言うと…
「マジかよ?…俺は怖くて無理だ…」
ビビってるビビってるw
「ヒデ君。オレへの借りを返そうよ…どっちがいい?実験に参加するか、君が勝手にカード使った事を通報して、刑務所転移するか…」
「…刑務所の方がいいに決まってるだろ!」
どちらにしても地獄の選択に、ヒデは顔面蒼白だ。
妖怪ぬりかべの様な顔をしている。
これ以上やるのは可愛そうなので許してあげることにしよう。
あの顔が見れただけで満足だ。
「ハハハ!嘘だよ嘘!死んだり時空に取り残されたりはしないよw」
「ふぇ!?」
「転移出来ない場合は、何も起こらないだけだと思うよ。一回一度も行った事がない場所を想像してスキルを使った時は、キャンセルされたみたいに、何も起きなかったよ。」
「心臓が痛い…怖い冗談はやめてくれよ…」
「勝手にカード使ったお返しだよ!これで済んで良かったな!」
オレとヒデのやり取りを笑いながら見ていたマナブ
「懐かしいな…こうやって集まるのは3年ぶりか…よく話してたよな。ゲームの世界へ行けるなら、何になりたい?って。ヒデが勇者で俺はナイト。シュウは…」
「オレは…魔王だったな」
「そうそう!懐かしいね!何でシュウは魔王になりたかったの?」
「お前達に気を使ってたんだよ!ヒデは100%主人公キャラを選ぶだろ?マナブは必然的にライバルキャラだし。そうなったらオレは3番手のキャラか、対を成すキャラ以外選べないだろ」
「なるほど…気が付かなかったわ」
「俺とシュウとヒデ。3人で本当に異世界に行けるんだな。妄想が現実へとなるんだな…」
「ああ…でも魔王は嫌だぞ……さてと…じゃあ行きますか!」
『おう!』
3人集まると何歳になっても、子供に戻ってしまう…。でも子供の頃からの共通の夢が叶うと思うと胸に込み上げるものがある。
その夢を叶える為にオレは異世界転移スキルを使用した。
「ありゃ?……駄目だ失敗だ」
『ええぇ!』
「3人で転移してるシーンを想像したけど駄目だった…」
「そんな…」
マナブは膝から崩れ落ちた
「ただ想像するだけじゃ駄目っぽいな……そうだ!二人とも手を繋ごう」
「キモ…」
「俺だって好きこのんで38のおっさんの手を繋ぎたくないわ!俺と触れる事で関連性が出来て、転移出来るかもと思ったの!ほら所持品だってオレが身に着けているって関連性があるだろ?」
「確かにな…やってみるか」
3人で手を繋いだ姿は確かにキモかった…
「あ、そうそう。転移する時一瞬で景色が変わるから、目を瞑った方がいいかも」
そう言うと二人は素直に目を瞑った。
「目を瞑ると更にキモいな…」
『いいから早くやれ!』
「はいはい…」
再び異世界転移スキルを使用した。
「うお!浮いた?」
「うわ!」
身体が一瞬浮く感覚があった。今度は上手く行きそうだ…
◇◇◇◇◇◇◇◇
「もう目を開けてもいいぞ」
二人はゆっくりと目を開けた。目の前に広がるは、こげ茶の木目調で揃えられた家具がある部屋だ。
オレ達はフィリーミの宿屋へ無事に転移した。
「ほんとに…」
「ああ…転移したぞ!やった!」
予め転移の説明をしていたおかげか、狼狽えている様子はない。
ヒデに至っては…
「見ろよマナブ!映画に出てくる様なバカでかいベット!」
もちろんダイブして大はしゃぎだ。
「いい年したおっさんがはしゃぐなw」
「落ち着いていられるかよ〜。シュウは慣れてるかもしれないけど、俺達は初めての異世界なんだから!」
確かにオレも同じ状況だったら大はしゃぎしてるな。多分…他の誰よりも。
「二人ともそこのバルコニーから外を見てみなよ。びっくりするぞ」
目を合わせた二人はバルコニーへ走った。
「なんだこれ……」
「すごい…」
宿から見える大きな山の中腹にそびえ立つ、巨大な城。
統一されたデザインの家々が立ち並び、その家々は山の麓から城までへビがうねっているように続いていた。
そしてバルコニー見える彼方には、水晶で出来た山脈が立ち並んでいた。
二人ともこれ以上の言葉は出なかった。ただただ圧巻されていた。
「ヒデ!マナブ!オレの第二の故郷、フィリーミ王国へようこそ!」
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