死ぬまでつまらない街を飛び出したら。

@yugamori

スタートから刺激的過ぎた。

「早く来いよ! もう向かいの電車が来るって!」

 リクが貨物列車の手すりにつかまりながら叫んだ。風が強く、手すりにしがみついていなければすぐに吹き飛ばされそうな勢いだ。

「なんで特急貨物なんて選んだんだよ! こんなん捕まってるだけで精一杯だぞ!!」

「るっせえ時間なかったんだから選択肢なんざなかっただろうが! 飛空挺が飛び立つ時間に間に合わなきゃなんのために街飛び出したか分かんねえだろうがよ!!」

「こんなもん死んだらなにもかもおしまいだろうが! それレベルだぞ!!」

「るっせえあの街いるくらいなら死んだ方がマシだ!! 成人の日にあの街にいたら一生あっこで暮らすハメになんだぞ!! それに乗ったからテメエも来たんだろうが!!」

「あーもうくっそ!! つっても別に飛空挺に乗れなきゃ終わりってわけじゃあねえだろうが!!」

「いいんだよ勢いってのが大事なんだよ! これ成功すりゃ大陸でも成功できそうじゃねえかよ!!」

「スタートから命かけてたらいくら命あっても足りねえっつうの!!」

「じゃあ死ななきゃいいだけだよ! オラ来たぞ!!」

 突風のなか特急貨物の進行方向を見ると、対向列車がどんどん大きくなってくるのが見えた。

「待てよあれ貴族用の客室列車じゃねえか!!」

「だろ言ったじゃねえかこれで飛空挺まで一直線だぜ!! お偉方乗せまくりの豪華飛行だ!!」

「ぜってえ捕まるだろ! つうか飛空挺もそれだと軍用じゃねえか!! せめて一般人の乗る飛空挺にしろよ!!」

「どうせ無茶苦茶やるなら無茶な方がおもしれえだろ!」

「目的達成すること優先しろよ! 見つかったらそこで終わんのによ! 大陸に渡りゃ済むだろうが!」

「見つかんなきゃいいんだよボケが! おら飛び移るんぞ! もう後に引く選択肢なんざねえぞ!!」

「あーーーーークソが!!!!」

 暴言の勢いのまま、二人して同時に反対側の線路で走る貴族列車に向かって飛んだ。こんな無茶が始まりだなんて、コイツについてきたのがいまになって悔やまれる。けれどコイツと来た時点で、もう悔やんでいる場合じゃない。コイツと来た選択肢を選んだのが俺自身なんだから。どこまでも無茶苦茶やってやる。

「あー死ぬかと思ったわ!」

 リクが藁の上で転がりながら笑い飛ばした。

「生きてるのが不思議だよマジで」

 もはや棒読みで言った。心ここに在らず。列車最後尾の家畜車両の藁の上に着地しなければ、どうなっていたのかも分からない。いや確実に死んでいた。

「屋根がないパターンでよかったよなーホント。いや一応調べといたんだけどたまに屋根があるみたいなこともあるみたいだしさー」

 リクが呑気に藁の上で話しているのを聞きながら、もうどうにでもなれと思った。こんな調子でスリリングになることが、街にいた時には想像もできなかった。同じことの繰り返しで、街の大人のように、同じような人間として生きていくことが当たり前だと感じていた絶望に比べれば。

「とことん無茶苦茶にやってやるよ」

 リクがむくっと起き上がって、藁の上で大の字になって寝そべっている俺を見つめた。

「んだよ」

 俺の言葉に、リクはニヤニヤと笑って返した。

「そうこなくっちゃな」

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