第14話 死怨院乱道

「まさか…。乱月の意志での安倍晴明復活だと聞いた時に、まさかとは思ったが…。これが目的だったのか神藤業平…」


道禅がそう呟くと、神藤は言葉では答えずにやりと笑った。


「…死怨院乱道…。この世に『あらそい』を呼ぶモノ…」


『死怨院 乱道しおんいん らんどう

かつては人間の呪術師であったが、その道を究めるために『人造鬼神』の研究を始め、その技術を確立。自ら不老不死の鬼神と化した男。

その時に、その名の通りの『あらそい』を呼ぶ力を獲得。日本で発生した多くの争いの影で暗躍していた。

かの戦国時代の影でも暗躍していたが、その当時の蘆屋一族と土御門、それ以外の呪術師、尾張の大うつけ、サル少年らの活躍によって一旦滅ぼされた。

ただし、その影響は強く残り、江戸時代が始まるまで争いは続いた。

それが再び目覚めたのは、江戸時代の終わりごろ。それからしばらく、かの太平洋戦争の始めまで、日本の裏で暗躍することになる。

それを再び滅ぼしたのは、当時、太平洋戦争に参加していなかった、蘆屋一族であった。


「なぜだ! 神藤業平!! なぜこいつを復活させた?! ただ、乱月との盟約というだけではあるまい?」


「…その理由は、我々『赤き血潮の輪の結社レッドリング』の本来の目的を考えれば分かるだろう?」


神藤はそう言ってにやりと笑う。道禅は、


「…本来の目的。そうか、お前らの本来の目的は『妖魔族の根絶』。ならば、目指すことは一つだ…」


そう言って神藤を睨み付ける。


「…さて、我々は次の準備があるので下がらせてもらうぞ?」


「何?」


「さらばだ。蘆屋道禅」


神藤はそう言うと、自らの使鬼・光鏡水虎に命令を下す。すぐに、地面に水鏡が生まれて、神藤たちはその中に吸い込まれていく。


「まて!!!」


道禅は神藤を追おうとする。しかし、


【…おい、蘆屋の末裔よ、我を無視するか?…】


光の中の死怨院乱道が、道禅に話しかけてくる。


(く…。神藤を追いたいが、こいつをこのままにはしておけない)


道禅は乱道の方に振り向くと、右腕に紅蓮の炎を纏った。


【…ほう、蘆屋の秘儀『天羅荒神』か、道仙どうせんを思い出すな…】


「フン…そりゃどうも」


道禅はそれだけ言うと、乱道に向かって駆けた。


【…では、久しぶりの肉体だ、少し運動して慣らすとするか…】


そんなことを言う乱道にかまわず、道禅は炎を纏った拳を振りぬく。拳が乱道を貫いた…ように見えた。


「!!!」


【…ふ、危ない危ない…。危うく、また黄泉へ逆戻りするところであったわ…】


乱道は、道禅の背後でケラケラと笑っている。


【…では今度はこちらからだ…】


乱道は片手に剣印を結ぶとそれを横に一閃した。


ザク!!!


道禅の肉体から血しぶきが飛ぶ。


(く…速い…)


道禅は後方に避けて、胴が両断されるのを防いだ。


【…ほう、なかなかの身のこなしだ…。今ので死なぬとは驚いたぞ…】


「ならば!!」


道禅は、今度は左腕に雷を纏った。そして、


「疾く!!!!」


それを一気に、乱道に向けて放った。それは、魔王クラスの存在も消しズミにする強力な雷撃。


【…バンウンタラクキリクアク…】


逆五芒結界ぎゃくごぼうけっかい


ズドン!!!!!!


道禅の雷撃は、乱道の描いた逆五芒星に防がれ、轟音とともに消滅する。


【…ははは、そんな攻撃など…】


「まだだ!!!」


しかし、道禅の攻撃はそれで終わらなかった。道禅はいつの間にか、乱道の背後に回っていたのである。その右腕をふるう。


ズドン!!!!!


【…!!!…】


乱道は、道禅の右腕をまともに受けて、炎にまみれながら吹き飛ぶ。


(まともな奴なら…。これで消しズミになってるだろうが…)


道禅はそれだけで警戒を解くことなく、とどめを刺すため一気に駆けた。


「これでとどめだ!!!!」


道禅は、炎にまみれて倒れ動かない乱道に向かって、雷を纏った左腕を振り下ろした。


ズドン!!!!!


拳を受けた衝撃で、地面が大きく抉れる。しかし、


【…く、おおう、痛いぞ…。久しぶりの痛みだ…】


乱道は其処にはいなかった。道禅の後方はるか向こうで、炎にまみれながら全身を掻き毟っている。


【…よくも、よくも痛みを…。よく痛みを思い出させてくれた…。感謝するぞ蘆屋の子孫…】


「く…しぶとい」


道禅は舌打ちする。さすがは鬼神乱道と言ったところか。


【…フフフ、ならばこちらも感謝のしるしに。この体の力を、新たな我の力をもって返礼しなければなるまい…】


「まさか!!!!」


【…では、いでよ我が式神ども!!! 十二天将よ!!!!!!…】


道禅はその宣言を止めるために走る。だが、間に合わない。乱道の周囲、十二か所にまばゆい光が灯る。


「く!!! 畜生!!!!」


道禅は悪態をつくしかできなかった。



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「情けないですわねほんとに…」


咲夜は真名の肩を借りながらそう呟いた。


「でも、まあ。私の道の先がお前のところに通じていて、ある意味良かった。あのままなら尸鬼に食われてたかもしれんしな」


真名は笑いながらそう言う。


「そんなことありませんわ。どうせ、あの後、他の呪術師たちも追いついてたでしょうし」


真名たちは、秘宝奪還に参加した他の、土御門・蘆屋の呪術師たちと合流していた。


「…こんなところでぐずぐずしてたら。神藤たちの思う壺ですわ」


「…それは。もう遅いかもしれんな…」


「え? それは…。真名…。まさかあなた」


「ああ、今。邪悪な何かが生まれた気配を感じた。おそらくは…」


「く…」


咲夜は真名から離れて一人で立とうとする。しかし、


「痛…」


「無理はするな咲夜…。どうせ、目指すところは目の前だ…」


そう、真名たちは、儀式の間、目前まで来ていたのだ。そして、


「!!!!」


その瞬間を、皆で感じ取っていた。


「…何ですの? 今、巨大な何かが現れた気配が…」


「これは…。まずいかもしれん。急ごう…」


真名はそう言うと、咲夜に肩を貸しながら、儀式の間へと入っていった。



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前一騰虵火神家在巳主驚恐怖畏凶将


前二朱雀火神家在午主口舌懸官凶将


前三六合木神家在卯主陰私和合吉将


前四勾陳土神家在辰主戦闘諍訟凶将


前五青竜木神家在寅主銭財慶賀吉将


天一貴人上神家在丑主福徳之神吉将大无成


後一天后水神家在亥主後宮婦女吉将


後二大陰金神家在酉主弊匿隠蔵吉将


後三玄武水神家在子主亡遺盗賊凶将


後四大裳土神家在未主冠帯衣服吉将


後五白虎金神家在申主疾病喪凶将


後六天空土神家在戌主欺殆不信凶将



そこには、嬉しそうに笑う乱道がいた。


そしてそれを中心に…


根暗そうな髪のぼさぼさの男がいた。


モデルのような美女がいた。


目に悲しみをたたえた少女がいた。


筋骨隆々な男がいた。


礼儀正しそうな若い男がいた。


気品のある老人がいた。


アニメキャラのコスプレをした少女がいた。


優しげな老婆がいた。


コートのフードを目深にかぶった少年がいた。


恰幅のいい笑顔のおじさんがいた。


白衣の医者がいた。


髑髏の仮面をかぶった男(?)がいた。


それらの姿を見て咲夜が顔を引きつらせる。


「あれは…十二天将…」


「やはり…」


真名はその言葉に唇をかむ。



騰虵とうしゃ

炎に包まれ羽の生えた蛇。人の姿では、根暗そうな髪のぼさぼさの男になる。

強力な炎の呪を操り、彼には火術は一切通用しない。純粋な戦闘能力では十二天将最強。

極めて神経質で小心者。いつも何かに怒っている。


朱雀すざく

四方神が一人。南を守護する。朱色の鳥の姿。人の姿をとるときはモデルのような美女になる。

炎を操る基本能力に加えて、占いで未来を読む力を持つ。

贅沢が大好きで冷淡。


六合りくごう

目に悲しみをたたえた少女の姿。

風や雷を操る基本能力に加えて、電話やテレビなど通信機器に限定した、機械操作能力を持つ。

穏やかな性格で平和を愛する。争いは嫌い。


勾陳こうちん

金色の蛇の姿。人の姿をとるときは筋骨隆々な男になる。

土行の呪を操り。格闘戦では無類の強さを誇る。ただし頭脳戦は勘弁な…。ただし、術具を操るセンスは優れている。

愚直で単純な体育会系。


青龍せいりゅう

四方神が一人。東を守護する。青い鱗の龍の姿。人の姿をとるときは礼儀正しい若い男になる。

木行の呪を操る。どちらかというと財産の管理をしたりする補佐役であり、戦いなどの肉体労働は苦手。

人格方正にして、富貴だが、潔癖すぎるきらいもある。


貴人きじん

気品のある老人の姿。十二天将の主神で天乙貴人、天一神、天乙ともよばれる。

土行の呪を操る。さらに、彼に認められた行為には高い成功ボーナスが付く(ただしそれが邪悪な野心だと…)。

高貴で、気品に満ち溢れた優しい性格。


天后てんこう

現代っ子なオタク少女。

水行の呪を操る。アニキャラのコスプレで戦う。

何事にも楽しむことを重視する性格。


大陰たいいん

優しげな老婆の姿。時には少女の姿をとる場合もある。

金行だけでなく水行(冷気)も操る。さらに精神系の術にも優れている。

何事にも「清」を重視するため、人倫にもとる行為は大嫌い。


玄武げんぶ

四方神が一人。北を守護する。蛇の巻き付いた亀の姿。人の姿をとるときはコートのフードを目深にかぶった少年になる。

水行の呪を操り、さらに万物の死に関する呪をも操れる死神。

邪悪な性格をしており、ズルく陰険で冷酷。損得勘定をきっちりとする。ただし、型破りな人間には味方をすることがある。

外見が子供なのに女好き。


大裳たいも

恰幅のいい笑顔のおじさんの姿。

土行の呪を操る。防御戦闘以外の戦闘は得意でないが、料理・音楽など多彩な技能を持つ努力家。

人生を楽しむことを喜ぶが、そのことで周囲に忍耐を要求することもある。

他の天将の凶意を弱める能を持つ。


白虎びゃっこ

四方神が一人。西を守護する。白い毛並みの虎。人の姿をとるときは白衣の医者の姿になる。

金行の呪を操るだけでなく、疫病なども操ることが出来る。さらに、天将一のスピードを誇る。

かなり陰湿で暗い性格。だが切れ者。


天空てんくう

髑髏の仮面をかぶった男(?)の姿。

土行の呪を操る。他に人に不信感を与えることが出来る。さらに霧や黄砂を操ることも出来る。

十二天将の中で、最も卑雑な性質と言われる。根っからの詐欺師。



【…ほほう、客が増えたか…。ならば…】


乱道は心底邪悪な笑みを浮かべる。


【…殺戮を始めようではないか…。なあ十二天将よ…】


それは、最悪の状況であった。



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十二天将が、乱道の呼びかけで現れた。それはすなわち、その支配権を乱道が獲得していることを指す。おそらくは、安倍晴明の肉体を得ることによって…。


「糞…」


道禅はその真実を理解して悪態をついた。


…と、その時。


【そうはいかないんだモ】


十二天将の中の一人、恰幅のいいおじさん『大裳たいも』が口を開いたのである。


【…なんだ。大裳どういう意味だ…】


乱道が大裳の方に振り向く。


【…確かに。お前は晴明様の力を受け継いでるモ。我々はお前に従わなくてはならんモ。でも、お前みたいなやつに、そう簡単には従わないモ】


【…抵抗するというのか…】


【とうぜんだモ】


乱道は他の十二天将を見回して言う。


【…ほかの者も同じ意見か?…】


それに対してまず口を開いたのは、悲しげな眼をした少女『六合りくごう』。


【私は、争いを呼ぶ貴方には従いません…】


次に口を開いたのは、優しげな老婆『大陰たいいん』。


【お前みたいな外道に従うわけがないさね…】


次はアニキャラのコスプレの少女『天后てんこう』。


【なんちゅうか…。勘弁してほしいよね青龍っち?】


話を振られた『青龍せいりゅう』も。


【まあ、そうですナ。何とも気に入らない話ですナ】


そう言って首を横に振った。


【…なるほど、そうか…】


…と、そう乱道が呟いた次の瞬間。


【【【【【がああああああああああああ!!!!!!】】】】】


今話した五人が頭を抱えて苦しみだした。


【頭が!! 割れるように痛いんだモ!!!】


その姿を見て乱道が笑う。


【…式神が主人の命に逆らえると思ったのか?…】


【【【【【がああああああああああああ!!!!!!】】】】】


五人の式神たちは頭を抱えて苦しんでいる。それを見て咲夜が。


「なんてひどい…」


そう言って、乱道を睨んだ。その目には気も止めず乱道は、


【…どうやら、こいつらはまだまだ支配に時間がかかるらしい…。それで、他の者も同じ意見か?…】


そういって、他の式神に目を向けた。

始めに声を出したのは、根暗そうな髪のぼさぼさの男『騰虵とうしゃ』だった。


【お、おれは、い、いいぜ…。お前に、し、従っても。人間ども、には、もともと怒りを覚えてた、からな】


次に声を出したのは、コートのフードを目深にかぶった少年『玄武げんぶ』。


【面白そうじゃん。いいよ僕も、あんたに従っても。人間を面白おかしく殺そうよw なあ、天空?】


話を振られて、髑髏の仮面をかぶった男(?)『天空てんくう』が答える。


【ククク…。タシカニ、オモシロソウダ。マエカラ、安倍晴明ハ、アマイトカンガエテイタ…】


それを聞いて、玄武は今度は、白衣の医者『白虎びゃっこ』の方に振り向く。


【で? 白虎はどうする?】


白虎は眼鏡をクイッと持ち上げて答える。


【…まあ、この現状で逆らう意味が分かりませんね…】


そう言って白虎は残りの三人のうち、モデルのような美女『朱雀すざく』と、筋骨隆々な男『勾陳こうちん』の方を向く。


朱雀は、


【わたくしは、贅沢できるなら何でもよくってよ?】


勾陳は、


【俺は、強い奴と戦えるなら何でもいいぞ!!! ハハハハハ!!!!】


そう言って笑った。


【…どうやら、他の者は我に従うようだな…】


乱道はそう言って、最後の一人。気品のある老人、十二天将の主神『貴人きじん』の方を向いた。


【是非に及ばず…】


貴人はそれだけ言うと、乱道に頭をたれた。

その姿を見て、道禅は驚いていた。まさか、十二天将の主神、貴人が乱道に従うとは。


(これは、かなりまずい…。十二天将のうち七人も乱道側につくなんて…。それに、残り五人も…)


【【【【【がああああああああああああ!!!!!!】】】】】


五人の式神たちは頭を抱えて苦しみ続けている。


(これは時間の問題だ…。ならば…)


道禅は、右拳に炎を纏うと一気に駆けた。


【お!! 乱道!!! 来るよw!!!】


玄武が笑いながら、乱道と道禅の間に割って入る。


ズドン!!!!!


本来、水行の式神には、炎の術は効かないが…。


【うお!!!!】


玄武は炎にまみれて倒れた。


(やはり!!!)


【ばか、が、おれ、に、まかせ、ろ!!!】


今度は、『騰虵とうしゃ』が割って入る。彼には炎は効かない。


「だったら!!!」


道禅は左手に水流を纏って、その拳を『騰虵とうしゃ』にたたきつけた。


【が!!!!!】


もくもくと水蒸気を噴き上げながら、『騰虵とうしゃ』は後方に吹き飛んだ。


【…ほう、さすが蘆屋の末裔…。なかなかやるではないか…】


乱道は、笑いながら道禅が駆けてくるのを眺めている。道禅は、


(やはり、今のうちなら、まだ乱道は完全に十二天将の力を引き出せていない…。十二天将の『霊格』が低いうちにこいつを何とかする!!!)


そう考えながら、一気に乱道との間合いを詰めた。しかし、


【ソウカンタンニ、ヤラセルトオオモウカ!!!】


貴人を除く、残り四人の式神が道禅に詰め寄る。道禅は一瞬歩を止めてしまった。


【お前強いな?!!!! ならば俺と戦おうぜ!!!! ハハハハハハ!!!!】


四人の中の、『勾陳こうちん』が拳を握って襲い掛かってくる。


(く…。土行が相手なら…)


道禅は右手の炎を雷に切り替える。しかし、


【ハハハハハ!!!! そう簡単に当たると思うか?!!!!!】


勾陳こうちん』は道禅の拳をかいくぐって、その懐へと入る。


【それ!!!! ぶっ飛びな!!!!! ハハハハハ!!!!!】


道禅の顎に『勾陳こうちん』のアッパーカットが炸裂した。


「くお!!!!!!!」


道禅は思いっきり上空に吹き飛ばされて、地面に激突、突っ伏した。


「父上!!!!」


それを見て真名が叫ぶ。


「真名…。わたくしのことはいいですわ。道禅様を手伝ってあげて」


咲夜は、心配そうに道禅を見る真名にそう言った。


「すまん。咲夜」


真名はそう言うと、咲夜をその場において、道禅の方に走っていった。


「咲夜様…」


一緒についてきた土御門や蘆屋の者達が、心配そうに話しかけてくる。


「あなたたちは、周囲の警戒を。あの戦いに巻き込まれたら、あなたたちの能力では、死ですわ…」


「…く」


土御門や蘆屋の者達は悔し気に、乱道たちの方を見る。確かに、普通の呪術師では、悪鬼乱道と十二天将の相手は荷が重すぎる。

…と、その時、部屋の外から誰かが走ってくる音が聞こえた。


「真名さん? 咲夜さん?」「やっと追いついたぜ!!」


それは、矢凪潤と美奈津だった。


「どうやら、間に合わなかったようですね」


潤はそう言って、乱道たちの方を見る。


「…ち、あたしたちが通路で迷ってる間に…」


美奈津は悔し気に唇をかむ。


「…でも、いいところに来ましたわ潤」


「え?」


咲夜が嬉しそうに潤を見る。


「潤…貴方の『使鬼の目』の力、今の十二天将の霊格ならば効くかもしれません。真名たちの手伝いをしてくださいます?」


潤はその咲夜の言葉を聞いて、決意したような面持ちになって言った。


「わかりました!!! 行ってきます!!!」


潤はそう言って、乱道の方に走り出す。それに美奈津も続いた。


「あたしも、使鬼の力を開放すれば、役に立つだろ? 一緒に行くぜ潤!!!」


その二人の背を眺めながら、咲夜はつぶやく。


「わたくしも、準備をしなければなりませんわね。もしものために用意したアレを出すときですわ」


そう言ってにやりと笑った。

悪鬼乱道そして十二天将と、現代の呪術師たちの、決戦が始まろうとしていた。



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「く…畜生」


勾陳こうちん』に吹き飛ばされた道禅は、頭を振りながらなんとか立ち上がろうとした。しかし、


【とどめを刺しましょうか】


白虎が手にメスをもって襲い掛かってきたのである。そのスピードはあまりにも早く、攻撃を食らってふらついている道禅には避けられるものではなかった。


「させるか!!!」


ガキン!!!


その時、道禅と白虎の間に割って入ってきた真名が、その拳で白虎の手を打ってメスを弾き飛ばした。


【ぬう?! やりますね。しかし、私のスピードに追い付けますかな? お嬢さん】


白虎は眼鏡をクイッと上げると、一気に加速して真名の背後に回り込んだ。メスが煌めく。


蘆屋流八天法あしやりゅうはちてんほう・かさね>


「ふ!!」


次の瞬間、真名の姿が白虎の前からかき消えた。


【おお!!! これは!!!】


金剛拳こんごうけん


いつの間にか白虎の背後に回り込んだ真名の拳が振りぬかれる。しかし、


【当たりませんよ!!!】


白虎は、辛くも真名の拳を避けた。


「ち…」


真名は舌打ちする。それから、白虎と真名の背後の取り合いになった。そのスピードは、他の誰も追いつけるものではなかった。


【おお!! 白虎の奴、楽しそうだな!! ハハハハハハ!!!! 俺も楽しませてくれ、道禅!!!!】


勾陳こうちん』が、拳をポキポキ鳴らしながら道禅の元へとやってくる。道禅は拳を構えた。そのとき、


【待ってよ。そいつは僕にらせてよ。さっきは痛かったからね】


そう言って目を怒らせた玄武がやってくる。


【ハハハハハハ!!!! お前、また燃やされるぞ?】


【燃やされねえよ!!!! 僕がこいつを殺す!!!】


さっき、燃やされたことが相当頭にきているようで、玄武は外見に似合わないドスの効いた声で叫んだ。


「まあ、どっちでもいいさ。かかってくるなら早くしろ」


【あらまあ、その者達だけではありませんわ】


【そ、うだ、我々、も、い、るぞ】


【コレハ、オーバーキルデハナイノカw】


そう言って、朱雀、騰虵、天空も現れる。さすがにこの数は…。


(ち…まずいな…これは…)


…と、その時。


「まて!!!」


矢凪潤が十二天将と道禅の間に割って入ってきた。


「道禅様…。僕も一緒に戦います」


「…しかし」


道禅は心配げな声を出す。


「大丈夫です。僕には『使鬼の目』があります。やれますよ!」


「あたしもついてるしな!!」


そう言って一緒についてきていた美奈津がガッツポーズをする。


「…。わかった。君の力あてにさせてもらおう」


道禅はそう言って微笑んだ。


【はは!! 餓鬼が増えたところで何が出来るってんだ?! バーカ!!!】


玄武がそう言って嘲り笑う。しかし、


「出来るさ!!!」


ギン!!!!


そう潤が言った瞬間、『使鬼の目』が起動する。


【【【【【!!!!】】】】】


五体の式神たちは、その目におののいて後退った。


【てめえその目は…】


「ははは。これは、確かに有効だな」


そう言って道禅は笑う。

そう、普通の呪術師相手には、特別効果を発揮しない『使鬼の目』だが、式神相手にはそれの力を押さえる効果を発揮するのである。

潤にとって、式神の相手は、誰よりも得意なのだ。


「では行こうか潤君、美奈津君」


「はい!!」


「おう!!!」


そう言って二人は、道禅の言葉に答えた。


…と、その時。


【…おい、貴人…。仲間を助けなくていいのか?…】


乱道が、動こうとしない貴人に話しかけた。


【必要なし…】


貴人はそれだけを答える。


【…ふむ、まあいい。万が一、奴らがやられても…】


【【【【【がああああああああああああ!!!!!!】】】】】


乱道は、頭を抱えて蹲る五体の式神を見る。


【…こいつらを使えばいいことだ…】


彼らの、洗脳は目前に迫っていた。



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大阪府高月市。その山中。


「お、一刀戻ってきたか」


胴に包帯を巻いて青い顔をしたフリーデルが、一刀を出迎えた。


「お前も、結構やられたな」


フリーデルは、一刀の失われた手首を見て笑う。


「拙者…少々遊び過ぎたのでな。手痛い反撃を食らった」


一刀は、かの少年の顔を思い出す。自然と笑みが出た。


「それに、そこの二人も…」


フリーデルが顔を向けた草むらには、二人の男女が座り込んでいた。


「あ~。ほんとに死ぬかと思ったぜ」


「思いのほか。深かったですわ」


直治と明はそう言ってため息をつく。二人とも何とか助かったようだ。


「それで…。業平…。あの乱道の奴を手伝わなくてよかったのか?」


フリーデルはそう言って、地下施設の方を眺めている、神藤業平を向いた。


「いや、あれでいい。どういう形であれ。あれが復活したなら、必ず『あらそい』は起こるだろう。どういう形であれ…な」


そう言って業平は目をつぶる。フリーデルは、


「どういう形であれ…ね。もしかして、乱道が奴らに負けるとか思ってる?」


そう言って業平の肩に手を置いた。


「さあどうだろうな」


業平はにやりと笑って、フリーデルの方を見た。


「とにかく。みな無事揃った。とっとと帰るぞ」


神藤業平はそう言って皆の方を振り返る。


「ふう…まあいか」


フリーデルはそう言って、煙草に火をつけた。



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【この!!!】


玄武が水でできた鎌を振り下ろす。それには一撃死の呪いが宿っている。しかし、


ザク!!!


鎌で切られたしろうが再び元に戻る。


【我には、その呪はきかんよ!!!】


しろうは意に介さず、玄武に風撃を放った。


【が!!!! この畜生が!!!】


玄武はそう悪態をついて、水流をしろうめがけて放った。


また別の場所では…。


【お兄ちゃん!!】


「大丈夫!!! 当たらないよ!!」


潤とかりんが、天空の操る無数の石弾を避けていた。


【チ…。チョコマカト】


天空は更なる石弾を生み出して放つ。


(やつの術を止めないと、近づけない…。どうする?)


潤は石弾を避けながら考える。


…そして別の場所では。


美奈津が朱雀に格闘戦を挑んでいた。


「そらよ!!!」


霊装怪腕金剛拳れいそうかいわんこんごうけん


ズドン!!!


【きゃああ!!!】


「そら、どうした? その程度か朱雀!!」


【く…この、私の大事な服をこんなにして…。許さないわ】


「け、何が服だ…。もっとズタボロにしてやるよ」


そう言って美奈津は笑った。


そして…。


(こいつ相手に接近戦は不利だ…)


そう考えながら道禅は勾陳を眺める。しかし、


【お、れ、がいるのを、わ、忘れるな】


騰虵がそう言って、手に炎を宿す。


(確かこっちは、戦闘全般…接近戦も遠距離戦も得意だったな…)


これはかなり不利な戦いだと、道禅は考えた。

さっきは、不意を突いてぶっ飛ばした騰虵だが、戦闘能力は十二天将最強なのだ。

接近戦を恐れて近づかなくても、騰虵の強力な遠距離攻撃が飛んでくる。

どっちにしろ、不利ならば…。


(あえて突っ込む!!!!!)


道禅はにやりと笑って、右手に雷、左手に水流を纏った。

一気に二人に向かって駆ける。


【おお!!! 来るか道禅!!!! 思い切り、やり合おうじゃないか!!! ハハハハハハ!!!!】


勾陳が嬉しそうに笑った。



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「オンバザラタラマキリクソワカ…」


潤達と十二天将の戦いが始まっている部屋の端では、咲夜が印を結んで呪を唱えていた。

すると、今までで見たこともないほどの巨大な光が生まれる。


「…な、咲夜様これは…」


その光の中にあるモノを見て、他の呪術師たちが驚きの声を上げる。


「フフフ…。これこそ、わたくしが世界魔法結社アカデミーで最も力を入れて研究していたモノ…」


それは、全長4.6mの人型。


対神呪装兵器たいしんじゅそうへいき…。神体ゴッドフレーム・イザナギですわ…」


咲夜はにやりと笑った。



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「おおおお!!!!!」


吠えながら突っ込む道禅。それを迎撃する勾陳と騰虵。


【ハハハハハ!!!! あえて突っ込んでくるとは、度胸があるな道禅】


勾陳が笑いながらカウンターを狙ってくる。しかし、


「ふ!!!」


【なに?!!!】


道禅は、勾陳の目前で消滅した。いや、正確には勾陳の死角に回り込んだのだ。


【こ、勾陳、ひ、左だ!!】


騰虵が声を上げる。しかし、


「もう遅い!!!」


ズドン!!!


雷を纏った拳が勾陳に直撃する。


【うおおおおお!!!!!】


勾陳は左わき腹に拳を受けて吹き飛んだ。


【お、おのれ。ど、道禅!!】


騰虵が道禅に向かって走る。その腕には紅蓮の炎を纏って。そのスピードは勾陳に勝るとも劣らないほどだ。しかし、


「まだだ!!!!」


道禅がさらにスピードを上げて、騰虵の右腋に回り込む。


【く!!!】


(まだ、勾陳も騰虵も、本来の力を取り戻せていない。乱道が枷になって霊格が落ちてしまっている。今のうちに仕留める!!)


道禅は水流を纏った拳を騰虵にたたきつけた。


ズドン!!!


騰虵が水蒸気を上げながら吹き飛ぶ。道禅は叫ぶ。


「よし!!!」


【何が『よし!!!』なんだ道禅! ハハハハハハ!!!!!】


いつの間にか立ち直っていた勾陳が道禅の背後に立っていた。


「しまっ!!!」


【ハハハハハハハ!!!!!】


勾陳の岩のような腕が道禅の腹に叩き込まれる。道禅はしこたま血反吐を吐いた。


「ご!! ぐお!!!」


【ハハハハハ!!!!! 二対一だということを忘れるなよ!?】


道禅は、なんとか立ち上がって後方に飛ぶ。間合いを取ってから、周囲を見回した。


西の方では、潤とかりんが天空の石弾の雨に対して攻めあぐねている。

東の方では、美奈津が朱雀相手に有利に戦っているようだが…。次第に動きを読まれ始めているようにも見える。

南の方では、しろうが玄武相手に戦っているが、玄武はどうやら調子を取り戻しつつあるようだ。

真名と白虎は…。動きが速すぎて目には見えないために、どのような戦況なのかわからない。


(これは、まずい…)


このまま戦いが長引けば、十二天将たちが力を取り戻してしまう。そうなれば、こちらの敗北は必至だ。


…と、さらに道禅たちを追いこむ出来事が起こる。


【…さて、もういいかな大裳…】


【申し訳なかったモ。ご主人…。我ら五人もご主人に従うモ】


そう言って大裳が乱道に頭を下げる。他の四人もそれに従う。


【…ならば、行くがいい。我に逆らう愚か者どもを引き裂いて来い…】


【【【【【は!!!】】】】】


乱道の言葉に、大裳たちは言葉をそろえて従った。大裳たちは五方に飛ぶ。


潤とかりんの元には六合が。美奈津の元には青龍が。しろうの元には天后が。道禅の元には大陰と大裳がやってくる。


「おいおい。俺には一体四かよ…」


道禅は口の血反吐を拭きながら笑って言った。


【少々詰まらんが! これで終わりだな!! ハハハハハハハ!!!!!】


勾陳がそう言って豪快に笑う。確かにこのままでは…。…とその時。


「さて…それはどうかな?」


そう言う声が道禅の背後から聞こえてきた。道禅が振り向いてみると。


【く…あ…】


白衣がズタボロになってその場に突っ伏している白虎と、ところどころ傷だらけだが立って笑っている真名がいた。


【ほほう!! 白虎にスピードで勝ったか!!! ハハハハハハハ!!!!!】


真名はその言葉には答えず印を結んで呪を唱える。


「カラリンチョウカラリンソワカ…」


蘆屋流鬼神使役法あしやりゅうきしんしえきほう鬼神召喚きしんしょうかん


「酒呑百鬼丸、来い!!」


「了解ですわ姫様」


鬼神召喚の呪とともに百鬼丸が現れる。


【そ、そいつは、ま、まさか…】


騰虵が驚きの声を上げる。それもそのはず、なぜなら百鬼丸は…。


【あ、蘆屋八大天、の、の一柱、魔王・、しゅ、酒呑百鬼丸か!!】


真名は百鬼丸に向かって言う。


「今回は、特別な触媒を持ってきてるからな。全力で戦っていいぞ」


「あら、姫様…。それは、本来の。魔王の力を開放してもよろしいということですね?」


「ああ、その通りだ…。こいつらに目にもの見せてやれ」


そう言って真名はにやりと笑った。


…と、その時。


ズダダダダダダダダン!!!!!!


凄まじい破裂音が部屋の端の方から響いた。皆がそちらを見てみると。


「やっと、起動しましたわ。もう少し、起動を簡略化する必要がありますわね」


そこにいたのは巨大な人型。鋼鉄の巨人。神体ゴッドフレーム・イザナギであった。真名は驚いた表情で言う。


「その声は、咲夜か? なんだその、ロボット(?)は…」


「フフフ…。これこそわたくしの隠し玉。神体ゴッドフレーム・イザナギですわ」


「まさか、お前そいつに乗り込んでるのか?」


「そう、これは、人が中に乗り込んで操縦する人型兵器ですわ。正しくは、精神を機体に直接繋げて、機械義手などのようにコントロールするんですけど…」


【ハハハハハ!!!! そんなおもちゃが何の役に立つというんだ?!!!!!】


勾陳はそう言って笑うが…。


「…これでもそう言って言われますかしら? 勾陳様?」


イザナギは手にした巨大なライフルの銃口を勾陳に向けた。


「20mm多目的符弾投射機ですわ!」


ズダダダダダダダダン!!!!!!


凄まじい破裂音とともに符弾が何発も発射される。そして、


【うおおおおお!!!!】


その直撃を受けた勾陳は一瞬にして消滅してしまう。


【ま、まさか、これは…】


騰虵のその言葉に咲夜は…、


「そう、人型というのは、呪術的な重要な意味を持ちます。このイザナギは、人を中に取り込むことによって、普通に呪術を扱えるのですわ。そして、その巨体で発動される呪は、その体の大きさに合わせて拡大・強化されていますわ」


そう言って答えた。


…と、その言葉に割り込んでくる者がいた。


【…ほう、さすがは人間。そこまで技術を発達させたか…】


それは、乱道であった。


【…面白い。面白いぞ女…】


乱道は嬉しそうに笑っている。イザナギはそんな乱道にライフルの銃口を向ける。


「なに、楽しそうに笑ってんだてめえ!! こいつでハチの巣になりやがれ!!!!」


咲夜はそう叫んで、引き金を引く。弾丸が吐き出された。


ズダダダダダダダダン!!!!!!


【…はははは!!!!…】


乱道はそれを笑いながら避けていく。


「…ち。素早い奴だぜ」


咲夜はそう悪態をついて、発砲を中断した。それに対して乱道は…、


【…フフフ、貴様らがそんなものを持ち出してきた以上、こちらも本気でいかなければならんだろうな…】


「何?」


道禅はその言葉に絶句する。まさか…。


【…遊びは終わりだ、十二天将よ。その力を取り戻すがよい…】


一旦消滅した勾陳を含めて、十二天将たちが乱道の周りに集まってくる。そして、


【…さあ! 十二天将ども、まずは『魔王』まで霊格を引き上げるぞ!!!…】


その言葉に呼応するように、十二天将たちの霊格が跳ね上がる。そして、


「く!!!!」


その時、道禅が感じた霊力は、すさまじいほど巨大だった。なにせ、十二体もの魔王が目前にいるのである。


【…さあ、こいつら相手に、その機械がどれだけ役に立つか見せてもらうぞ?…】


乱道はそう言ってにやりと笑った。



-----------------------------



「真名…。咲夜君。潤君…。こうなった以上、連携して奴らに当たるぞ」


道禅は皆に呼びかける。それに頷いて答える真名たち。


「奴はもう、神クラスまで、十二天将の力を引き出せる可能性がある。だから俺は、そうなる前に乱道本人をたたく。真名と咲夜は十二天将を迎撃、潤君は『使鬼の目』で十二天将を威圧するのと、真名たちの援護を頼む」


「「「了解!!」」」


真名たちはいっせいに答えた。


「では行くぞ!」


道禅の言葉とともに真名たちが駆ける。


【…ハハハハ!!!! 面白い、我に立ち向かってくるか!!!!…】


乱道は心底うれしそうに笑った。


【…さあ、十二天将ども、奴らをたたきのめして来い…】


その乱道の言葉に呼応するように、一斉に十二天将が動く。


「む。姫様!」


「ぬう、こちらには白虎と玄武と天后が来たか!」


【お嬢さん! 今度こそあなたを切り刻んであげますよ!!】


そう白虎が叫ぶ。しかし、


「そう簡単にいくか白虎!

 百鬼丸! 後は頼んだ!」


「了解です姫様!」


蘆屋流八天法あしやりゅうはちてんほう・かさね>


白虎と真名は再び、超高速で切り結び始めた。

百鬼丸は玄武と天后に立ち向かう。


【ははは!!! 君の属性は火行だろ? 僕たち水行の式神に勝てると思ってるのかい?】


「属性の強弱だけが、戦いに影響するわけではないことを、思い知らせてあげます!!」


百鬼丸は腰の打刀をすらりと引き抜いた。玄武は死神の鎌を、天后はアニメのキャラクターが使うような剣を構える。


「さあ行きますわ!!!」


気合一閃、百鬼丸は玄武たちに向かって駆ける。戦いが始まった。


…さて、他の場所では…。


「しろう、かりん、美奈津! みんなは僕が十二天将を威圧する間、僕の周囲を守っていてくれ」


「わかったぜ!! 潤!!!」


美奈津が元気よく答える。其処に、朱雀と六合と青龍が現れる。


【あなたのその目、わたくしたちの力を押さえ込んでいますわ。このまま放置するわけにはいきませんわ】


朱雀のその言葉に…。


【悪いけど。お兄ちゃんには指一本触させないよ!】


かりんが元気よく答える。

しろうは六合を威嚇して押しとどめ、かりんは青龍と相対し、美奈津は朱雀とにらみ合った。


「さて…。魔王クラス相手にどれだけやれるか」


美奈津はそう呟いて笑った。


…さて、別の場所では。


【ハハハハハハ!!!!!! よくもやってくれたな痛かったぞ!!!!】


勾陳が咲夜の方に向かって言った。


「あら。まだ生きていたのですか勾陳様それに…」


勾陳に付き従うように大陰、大裳、天空も咲夜の前に現れる。


「一機相手に魔王が四人も…。ご苦労なことですわ」


そう言って咲夜は手にした、20mmアサルトライフルを構える。


【俺はこういうのは好きじゃないが!!! 全員で集中攻撃させてもらうぞ!!! ハハハハハ!!!!】


「そりゃどうも…。しかし…」


咲夜はイザナギの中で凶悪な表情に変わる。


「対神兵器・神体ゴッドフレームを甘く見てんじゃねえーぞ、コラ!!!!」


神体ゴッドフレーム・イザナギの各部位から、霊力の奔流が放出される。一気に加速する。

それは、全長4.6mの巨体とは思えないほどのすさまじいスピード。


「刻まれな!!!!」


咲夜のその言葉とともに、イザナギは腰の巨大なダガーを引き抜いて一閃する。


【ガ、コノスピードハ!!!!】


ダガーは狙いたがわず天空に直撃、それを胴で真っ二つにしてしまう。

無論、それだけではなく…。


ズダダダダダダダダン!!!!!!


20mmアサルトライフルが火を噴く。それは大裳の向けて放たれた。


【そんな攻撃防いでくれるモ】


大裳が手を広げると、地面がせりあがって巨大な壁になる。しかし、


ドカン!!!


20mm弾の嵐に耐えきれず崩壊する岩の壁。そして、


【モ!!!!!】


20mm弾は大裳を粉々に砕き散らしてしまった。


【く…!!!! これは!!!! 四体でもかなわないか?!!!! ハハハハハハハ!!!!!】


勾陳がそう言って笑うと、それに対して大陰が…


【大丈夫じゃて。こやつは物理的戦闘能力はすさまじいが。こちらの精神攻撃ならきくかもしれん。わしに任せい】


そう言って印を結んだ。


【なるほど!!!! じゃあ、俺たちは、お前を守ることに専念するぜ!!!! ハハハハハハ!!!!!】


勾陳は大陰をかばうように前に出た。他の二体も、再び蘇ってくる。


【さあ行くぞ!!! お前たち!!! ハハハハハ!!!!】


【【【おう!!!】】】


「…何か、こっちが悪役みてえじゃねえか。これじゃあ」


咲夜はひとり呟いた。


…そして、


【ど、道禅…。こ、ここから先には、す、進ませない】


騰虵が道禅と相対していた。


【さ、さっきまでは。俺の力、見せられなかった。でも、もう違うぞ】


「そりゃどうも…。でも、あんたを倒して、乱道を潰すぜ」


【そ、そうはいかない】


そう言うが早いか、騰虵が道禅に向かって駆けた。そのスピードは白虎にも匹敵するほどだった。


「何?!!」


一瞬で道禅は騰虵に背後をとられる。騰虵の拳の炎が閃く。


【し、死ね道禅!!!】


「く…」


それでも何とか印を結んだ道禅は天狗法でスピードを強化。なんとか騰虵の攻撃をかわす。


(ち…。これは、一発でも喰らうと、かなりまずい…)


そう、道禅が思考したとき、騰虵は拳の炎を爆発させた。


「うおおおお!!!!!」


道禅は爆発に巻き込まれて、木の葉のように舞う。


【そ、それ!! 行くぞ!!!!!】


空中で身動きの取れない道禅に、騰虵の拳が閃く。このままでは。


「こな糞!!!!」


道禅は気合の声とともに印を結ぶ。五芒星が煌めいた。


ズドン!!!!


五芒星障壁と騰虵の拳が衝突する。防御はなんとか間に合った。


「く…。これは、ただでは進めんか」


そう、地面に無事に着地した道禅が呟く。乱道との距離が、あまりに遠かった。


…と、その時、潤達がいた方で叫び声が上がった。


「ああああ!!!!!」


そこでは、美奈津が朱雀の炎術に巻きこまれているところだった。


「く…。やっぱり、魔王クラス複数相手はきつい…」


潤がそんな弱音を吐いて膝をついている。


【主!!】【お兄ちゃん!!】


しろうとかりんが心配そうに叫ぶ。潤たちは、魔王三人相手に押され始めていた。


【フフフ…。さあ、観念して殺されなさい坊や…】


朱雀が潤の方を向いてそう言う。

それを見て道禅は…


(やはり、潤君には荷が重すぎたか?)


…と、その時、


「ざけんなてめえ!! あたしはまだやられてねえぞ!!!」


美奈津がそう言って立ち上がってくる。


「なあ…潤…あたしのこと。信じてくれるか? 信じてくれるならあたしは!!!」


美奈津のその言葉に潤は。


「信じないわけないだろ? 君は僕の大事な妹弟子なんだから」


そう答えた。


「よっしゃ!!! ならば、行くぜ!!!!! あたしに力を注ぎ込んでくれ!!!」


「わかった!!!!」


潤は意識を集中して、自身の霊力を美奈津に注ぎ込んだ。そして、


「その霊力を、あたしの体内で練り上げ、さらに増幅する!!!」


その瞬間、美奈津がまばゆく輝きだした。


【まさか?! 鬼神が変身する?!!】


まばゆい輝きの銀の鎧が、美奈津の体に装着される。それは、鬼神の霊格が上がった証。

そう、美奈津は自身の霊力と、潤の霊力を結合し、練り上げることによって巨大な霊力を獲得したのだ。それは、魔王にも匹敵する力だった。


「いくぜ、朱雀!!!!」


美奈津はそう叫んで一気に駆ける。朱雀はそのスピードに反応することが出来なかった。


霊装怪腕金剛拳れいそうかいわんこんごうけん・連打>


ズドドドドドドドドン!!!!


【きゃあああああああ!!!!!!】


朱雀はあっさりと吹き飛ぶ。そのまま消滅した。


「さあ! 次だ!!」


美奈津は勢い込んで、六合と青龍を指さす。どちらも、戦闘が得意な天将ではない。もはや、大勢は決していた。


…さらに、真名の方でも大勢に動きがあった。


【く、まさか…この私がこうも…】


白虎が腹を押さえて呻いている。白虎と真名の戦いは、真名の勝利で終わっていた。


「お前は確かにすさまじいスピードを持つ。しかし、私に対してはそのスピードに意味がない。私には『八天法・かさね』があるからな…」


【なるほど…。私があなたと戦うということは。私の得意分野であるスピードを自ら殺す行為でしたか…。無念】


そして、百鬼丸も…。


【く…なんでだよ。なんで僕の攻撃が当たらないで。そっちばっか当たるんだ?】


【これは…。単純に剣士としての力量の差だーね。こりゃ】


玄武も天后もその場に突っ伏して動けないようだ。


それら、皆の動きを見て、道禅は思った。


(こりゃ…。俺が一番役に立ってねーんじゃねえのか? こいつはまいったぜ)


そう自嘲的に笑った。


【ど、どうした道禅。こ、来ないなら、こ、こっちから行くぞ】


騰虵がそう言って道禅に向かって、炎の渦を投射する。


「ち!!」


道禅は炎の渦を避けながら思う。

これならば、他の誰かが乱道を追い詰めるかもしれない。

ならばせめて、こいつを自分に引き付けておこう。道禅はそう思い始めていた。

…そして、それはとても甘い考えだったのである。



-----------------------------



「さて、どうやら勝負あったな? 勾陳様?」


【ハハハハハハ!!!! まさか、そのおもちゃ…。いやイザナギだったか? それに、対精神魔法防御まで付与されていたとはな!!!! これはまいった!!!!】


そう、結局大陰の試みはうまくいかなかったのだ。

目の前でズタボロであえぐ勾陳を除く、三体の天将はすでにイザナギの攻撃で消滅していた。


【ハハハハ!!! 我々が力を取り戻していれば、こんな情けない結果にならなかっただろうに!!!!】


勾陳はそう言って唇をかむ。次の瞬間、イザナギのダガーが閃いた。


「しばらく眠ってな!! 勾陳様!!!」


【ハハハハハハ!!!!!】


勾陳は笑い声を残して消滅した。


「さて…」


咲夜は道禅の方を見る。

道禅は、騰虵相手に攻めあぐねているようだった。


「ならば…」


咲夜は今度は乱道の方を見た。


(道禅様が乱道を倒せなくても。わたくしが乱道を倒せば…)


そう考えた咲夜は一気に乱道に向かってイザナギを走らせる。


【…ほほう、これは…】


乱道が咲夜の方を見る。


【…勾陳どもを倒してきたか…】


「覚悟しやがれ。乱道!!!!」


咲夜がそう叫んで、20mmアサルトライフルを構える。

しかし、乱道は嬉しそうに咲夜を見ていった。


【…それは、思った以上に強力な機械だな…】


「はん? それがどうした?」


【…おそらく、今の十二天将どもでは、太刀打ちできるものではないのだろうな?…】


「ああ、伊達に対神兵器と付けたわけじゃねえからな」


【…そうか、ならば…】


乱道は静かに印を結ぶ。


【…十二天将どもよ…】


「まさか!!!」


咲夜は、その先に何を言うのか思い至って叫んだ。20mmアサルトライフルの銃口を乱道に向ける。

…と、不意に黙って見ていた貴人が動いた。


【止まるがよい】


地面がせりあがって無数の蛇になって、イザナギに巻き付く。


「く、こんなもの…」


すぐに、イザナギはその岩の蛇を砕いてしまう。

…だが、その一瞬が命取りになった。


【…その、力のすべてを開放せよ…】


安倍晴明流式神使役法あべのせいめいりゅうしきがみしえきほう源神開放げんしんかいほう


「糞!!!!」


咲夜は悪態をついた。乱道は、問答無用で殺しておくべきだった。しかし、もう遅い。


【…さあ、人間かすども、これで最後だ。一方的な殺戮を…】


乱道は心底邪悪な笑みを浮かべて言った。


【… 楽 し ん で  死 ぬ が い い …】



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「まさか!!! この霊力の高まりは!!!!」


その時、道禅は自身の考えの甘さを痛いほど痛感していた。

目の前の騰虵の霊力が一気に跳ね上がったのを感じたのだ。

そして…、それはそれまでの戦況を一瞬で変えてしまった。


「うわああ!!!!!!」


美奈津は、一瞬で復活した朱雀に一方的になぶられている。


【ほほほほ!! さっきまでの威勢はどうしたのかしら?】


潤は…。


(く…。相手の霊格が高すぎて、今の僕では…)


相手の霊威に逆に圧倒され始めていた。


そして、しろうとかりんも…。


【主…】【お兄ちゃん…】


六合と青龍の猛攻の前に倒れ、突っ伏している。


一方で、真名は…。


【さあ行くよお姉ちゃん!! 今度は僕も相手だよ…】


玄武が白虎と連携を組んで真名を覆い詰めている。


「ち…。かさねを封じに来たか。おまけに相手は…。まずいな…」


そして、百鬼丸は。


「あなた一人で、私に相対すると?」


【そうだねw。でも、さっきと同じと侮らない方がいいよw】


百鬼丸は天后と打ち合っている。


そして…。


【ハハハハハ!!!! また復活したぞ!!!!】


「く…しつこい…」


咲夜の前に、再び勾陳たちが現れる。


「もう一度消滅しな!!!!」


ズダダダダダダダダン!!!!!!


咲夜は叫んで20mmアサルトライフルを発砲する。しかし、


【そんなものもう効かないモ】


大裳が巨大化して、その腹で弾丸を受け止めたのである。


「な?!!!」


【いくら、強力でたくさんと言っても、所詮は符術なんだモ。神位相手にそうそう効かないんだモ】


【さて! 今度はこっちの攻撃の番だな!!!!! ハハハハハハハ!!!!】


勾陳は心底楽しそうに、拳をポキポキ鳴らした。


「く…」


勾陳のその霊力はそれまでとは比べ物にならないほど巨大であった。


【それ!!!!!!】


勾陳が太い腕を振りかぶって、イザナギを殴る。


ズドン!!!


「くあ!!!!」


凄まじい衝撃とともに、イザナギは吹き飛ばされた。


【ハハハハハ!!!! 今ので壊れないとは、さすが対神!!!!! これは、思いっきり楽しめそうだな!!!!!!】


咲夜は、吹き飛ばされた先で、なんとかイザナギを立ち上がらせる。その腹部装甲は大きくへこんでいた。


「これは…まずい。この攻撃を浴び続けたら。イザナギでも耐えられないぜ…」


イザナギの胴の傷を見つめて、咲夜は唇をかむ。


【さあ来いイザナギ!!!! 俺と戦おうぜ!!!!! ハハハハハハハ!!!!!】


そんな咲夜を見て勾陳は豪快に笑った。



-----------------------------



…乱道が、十二天将の力を全開放してどれだけが経ったろう。


戦いは…


十二天将の一方的な蹂躙で終わっていた。


潤も、しろうやかりんも、美奈津も…


そして真名までもその場に膝をついて、血反吐にまみれていた。


「姫様…」


天后の猛攻を受けてズタボロな百鬼丸は、なんとか立って真名を他の十二天将から庇っている。


その時、イザナギは…。


勾陳、大裳、白虎、玄武、大陰、大裳、天空という七人の天将を相手に、ズタボロになりながらなんとか立ちまわっていた。


そして、道禅は…。


「く…」


【さ、さあ、もうそろそろ、と、止めと行こうか?】


騰虵、朱雀、青龍の三人相手になんとか立ちまわっていたが。それも、終わりつつあった。


(これまでなのか? これで終わりなのか道禅…)


道禅は血反吐を吐き、その場に突っ伏しながら、そう心の中で考える。


【…フフフ。もうあきらめて、黄泉へと旅立ったらどうだ? 蘆屋の末裔よ…】


そう言って、乱道が嘲笑う。


もしそうできたら、どんなに楽か…でも。


(なあ、永昌…。そう言うわけにはいかねえよな?)


道禅は最後の力を振り絞って立ち上がると、印を結ぶ。


(これで最後…。天将どもを振り切って、奴を…、乱道を何とかしてぶちのめす。奴を潰せばそれで終わりだ!!)


「ナウマクサマンダボダナンアビラウンケン…」


蘆屋流秘法あしやりゅうひほう森羅万象しんらばんしょう


次の瞬間、道禅の体が輝きだした。


【…ほほう、その術は…】


乱道が感心したようにつぶやく。


(制限時間は10秒!!)


「おおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


道禅は雄たけびを上げて一気に走る。そのスピードには、十二天将でも追いつけない。


【し、しまった!!!】


騰虵達は声を上げて道禅を止めようとするが、間に合わない。


「これで終わりだ!!!!!」


ズドン!!!!!


道禅の拳が、乱道の腹に確かに、確実に命中した。そして、


【…おおおおおおおお!!!!!!!…】


乱道は、胴から真っ二つになって吹き飛んだ。


次の瞬間、十二天将たちへの霊力の供給が経たれた。その力が一気に落ちていく。


【く、まさか…】


騰虵たちは狼狽える。まさか乱道が死んだというのか。


「や、やったのか?」


道禅がそう言ったとき…。


【…勝利の余韻に、少しは浸れたか?…】


どこからか乱道の声が響いてきた。


「な?! 乱道?」


【…フフフ、その程度で我が倒されると思ったか…】


「く…畜生…」


道禅はそう言って地面を殴る。


【…さて、蘆屋の末裔…。いや、道禅とか言ったか? お前にはここで死んでもらおう…】


「く…」


【…お前の術、残せば我の脅威になりかねんからな…。確実に死んでもらうぞ?…】


そう言う声が響いた次の瞬間。


ドシュ!!


どこからか乱道の上半身が飛んできて、その手刀で道禅の腹を突き刺したのである。


「ぐお!!!!」


道禅は大量の血反吐を吐く。


【…さあ、死ね…】


乱道はそのまま、道禅の腸をかきだそうとする。


「さ、せる、か…」


だが、道禅はあきらめてはいなかった。片手で、乱道の腕をつかんで、もう片方の拳で乱道の頭を打ち据えたのである。


【…うご、抵抗するか道禅…】


「このまま、てめえの、頭をたたきつぶす。そうすれば貴様とて…」


【…フフフ、さすがは蘆屋の末裔…。最後まで楽しませてくれる…。だが…】


「?」


…と、その時、道禅のそばにやってきた人影があった。それは、


「貴人かよ…」


それは絶望的な状況だった。いくら、力が失われたと言っても十二天将。瀕死の道禅を殺すくらいたやすいだろう。


「道禅様!!!」


他の十二天将を振り切ったイザナギがこちらに駆けてくる。しかし、その足はおぼつかず、間に合いそうもない。


(これで終わりかよ?)


道禅がそう考えたその瞬間、


【よく頑張った…】


貴人がそう言ったのである。


「え?」


【なんとか、間に合いましたぞ。なあ道満様…】


その言葉の意味を乱道が聞き返す。


【…それはそう言う意味だ、貴人…】


【それは、そのままの意味ですぞ。乱道様】


【…まさか貴様、裏切っていたのか…】


【まさか…。私は貴方を裏切ってなどいません。なぜなら、そうする必要がないからです】


【…なに?…】


【この私は、私が認めた行為に高い幸運を与える能を持ちます。ただし、それが邪悪な野心を持つものであった場合、私が認めたが最後、そのものには最終的に破滅が待っておるのですよ】 


【…破滅だと!!!…】


【そう、このように…】


…ふと、道禅たちの周囲に、巨大な五つの妖気が現れる。

それは、蘆屋八大天。毒水悪左衛門、天翔尼、甲虫王・千脚大王、狒々王・笑絃、樹霊王・延寿であった。


【…く、今更、鬼神が現れたとてどうなる。道禅は、これこの通り…】


「誰が道禅だと?」


【…何?…】


突然、道禅の声音が変わっていたのである。


「ふん!!!」


道禅は立ち上がると、乱道の頭を引っ掴んで潰そうとした。


【…く!!!…】


乱道は、なんとか道禅の手を振りほどいて、後方に飛翔する。其処に下半身があった。


「ふははははははは!!!!! 久しぶりに蘇って見たら、何とも面白そうなことになってるじゃねえか?」


【…貴様。道禅ではないな? 何者だ…】


乱道のその言葉に、道禅は不思議そうな顔で言った。


「そんななりで、俺のことを知らんのかよ。晴明の偽もんよ…」


そう言う道禅を見つめて、騰虵が狼狽えた声を上げる。


【こ、この気配、…ん? ま、まさか…】


【…知っているのか?…】


【ま、まさか…】


その次に発した言葉は、さすがの乱道ですら信じられない言葉であった。


あし  どう まん ! ! !】 



-----------------------------



【…蘆屋道満だと?…】


乱道は驚きの声を上げる。


【い、いや、確かに、こ、この気配は蘆屋道満のもの、だ…】


騰虵がそう言うと。道禅(道満)はケタケタ笑った。


「ああ、よく分かったな騰虵。久しいの!!」


【な、なぜ、貴様が…。そんな、バカな…】


騰虵がそう言って絶句していると。


「そりゃ。其処にいる乱道とかいうもんのおかげさ」


【…なん、だと?…】


乱道が苦虫を噛み潰したような表情で言う。


【…我は貴様など呼んではおらんぞ?…】


「いや。正しくはお前の中で、眠りこけている晴明あほうのおかげだな」


【…なに!!…】


「そいつが、俺を呼んだのよ。そして、それを手助けしたのが貴人よ…」


そう言ってケタケタ笑う。


【…く、貴人め、初めから裏切っておったか…】


乱道の表情が凶悪なものに変わる。


【…これなら初めから、奴もまとめて支配下に置いておけば…】


そう言って、貴人を睨み付ける。しかし、


「そりゃ、無駄だな」


【…なに?…】


「貴人は『神位特効』として、主人が邪悪な野望を持っていた場合、破滅をもたらす。というものを持ってる。お前みたいなやつじゃ、貴人を本当に従えても、結果は同じだぜ…。

 貴人ってやつは、基本的に晴明みたいなやつにしか扱えない式神なんだよ…」


【…く、ならば…】


乱道は、その掌を貴人に向ける。そして…


【!】


貴人は自分の掌を見て、驚いた表情をした。


「ほう。貴人を式神から外したか…」


【…ふん、たとえ貴人がいなくても、残り十一の天将がいれば我は負けぬ…】


その言葉を聞いて道禅(道満)は、


「その自身はどこから来るんだ? 晴明の偽もんごときが…」


そう言って呆れたような表情をした。


【…フフフ。たとえ、貴様が本当に蘆屋道満だとて。どうせ、晴明に負けた負け犬ではないか…。恐れることがどこにある?…】


その乱道の言葉に、道禅(道満)はにやりと笑って


「ほう、言うじゃねえか。まあ確かにその通りだが、一つ勘違いがあるな」


【…勘違いだと? 我が何を勘違いしているというのだ…】


「それはなあ…」


…と一瞬で道禅(道満)がかき消えた。


【…!!!…】


道禅(道満)は乱道の背後に一瞬で回り込んでいた。


「俺が晴明に負けた戦いでは…、俺は鬼神を一切使わなかったんだぜ?」


【…貴様…】


乱道は、その動きに驚愕していた。その動きは、全開放した白虎にすら勝るとも劣らないものだったから。


「俺は、晴明と十二天将相手に一人で戦ったんだよ…」


【…く、十二天将ども!!…】


乱道は素早く、前方に飛んで逃げると、残り十一人の十二天将に呼びかけた。


【…我をこの者から守れ!!…】


「はははは!!! 逃げるか鬼神よ!!!」


道禅(道満)は楽しそうに笑う。そして、


「なあ、悪いが今回は、以前の晴明との戦いとは違うぜ? 今回は、きっちり…」


道禅(道満)は印を結んで言う。


「…俺の使鬼…。蘆屋八大魔王を使役して戦うからな!!!」



-----------------------------



「姫様…」


その時、真名の傍では、百鬼丸と静葉が真名を心配そうな目で見つめていた。


「…行ってくるがいい。百鬼丸、静葉…。そして、大口…」


「しかし…」


「私は大丈夫だ…。本来の主人・道満様に従って、奴を、乱道を止めるんだ…」


「わかりました姫様」


百鬼丸は、そう言うと。後ろ髪をひかれるような表情で、去っていった。


「ひめさま…」


「静葉…。お前も行きなさい」


「すぐにもどります…」


「ああ、行ってらっしゃい」


そう言って真名は微笑んだ。


「…大口は…。挨拶もなしか」


真名はそう言って、クククと笑った。


「…後は頼みました。道満様…」



-----------------------------



今、道満の周りには、八人の魔王が集結していた。


蘆屋一族八大天筆頭・毒水悪左衛門


森部山天狗衆筆頭・天翔尼


狗神王・大口


鬼神王・百鬼丸


甲虫王・千脚大王


狒々王・笑絃


樹霊王・延寿


播磨土蜘蛛王・静葉


「さあ行くぜ、魔王ども!! 晴明をぶっ飛ばして…目え覚まさせるぜ!!!!」


「「「「「「「「おう!!」」」」」」」」


八大天は一斉に声を上げた。


ふと、道満は、一人取り残されている貴人を見て言う。


「おい、貴人。お前も一緒に戦うか?」


【いや。私の主は晴明様一人。貴方に従うわけにはいかん…】


「ほう、まあいい。ならば、せめて倒れてる連中の手当てをたのめねえか?」


【…それぐらいなら。お安い御用でしょう】


「助かるぜ…」


道満は、それだけ言うと、乱道に向き直った。


「さあ、やり合おうか、鬼神よ! いや、乱道とか言ったか?」


それに対して乱道は、


【…く、貴様をもう一度黄泉へと返してくれるわ…】


そう言って印を結んだ。


かくして、蘆屋道禅+蘆屋八大魔王と、死怨院乱道+十二天将の戦いが幕を開けたのである。


【…朱雀! 六合! 天后!…】


乱道は叫ぶ。それに呼応して三人が駆ける。


式神使役法しきがみしえきほう神滅三界奔流しんめつさんかいのほんりゅう


朱雀は炎を、六合は雷を、天后は水流を一斉に放つ。その一つ一つが、ビルをも砕く威力を持つ。

それに対して道満が…。


「千脚!」


その声に従い千脚大王が前に出る。


鬼神使役法きしんしえきほう数万脚護法障壁すまんきゃくごほうしょうへき


千脚大王が巨大なムカデと化して道満を覆い、朱雀たちが放った三つの奔流を防ぐ。


【…ちっ、ならば、白虎!…】


その言葉に呼応して、白虎が一筋の閃光と化す。


式神使役法しきがみしえきほう魔破虎迅撃まはこじんげき


閃光と化した白虎が、千脚大王の障壁の隙間を通り抜けて、一気に道満の首を取ろうとする。しかし、


ガキン!!!


「フフ…」


それは、毒水悪左衛門に防がれてしまった。


「行け百鬼丸!」


その道満の言葉に呼応して、百鬼丸の打刀が炎に包まれる。


鬼神使役法きしんしえきほう火天荒神斬かてんこうじんざん


深紅の閃光と化した太刀筋が、白虎を切り裂く。


【が!!!】


その一撃で白虎は消滅した。

そして、さらに二回深紅の閃光が走る。


【きゃああ!!!】【ああ!!!!】


その閃光を受けて、さらに朱雀と六合が消滅する。


【…く…玄武!】


その言葉に呼応して玄武が駆ける。


式神使役法しきがみしえきほう死鬼古月連斬しきこげつれんざん


玄武の手にした死神の鎌が数回閃く。その閃きに合わせて月輪が現れ、百鬼丸へと殺到する。


「く!!!」


その月輪の連撃を受けた百鬼丸はそのまま消滅する。


「はは!! やるな、ならば! 天翔!!」


その言葉に合わせて天翔尼が前に出る。その手には悪星必滅の槍を持っている。


鬼神使役法きしんしえきほう天魔封滅神槍てんまふうめつしんそう


ズバ!!!


天翔尼の手から、槍が閃光と化して飛翔する。的確に玄武の胸を貫いた。


【あああ、僕が!!!!】


その言葉を残して、玄武は消滅する。

それを見た、乱道は。


【…ならば、勾陳!!…】


その言葉に反応して、勾陳が前に出る。


式神使役法しきがみしえきほう討魔爆轟拳とうまばくごうけん


一瞬にして閃光と化した勾陳は、一息で天翔尼に迫り拳をふるう。


ガキン!!!


両者の間に火花が散った。


【…次は、大陰!…】


その言葉に従い大陰が前に出る。


式神使役法しきがみしえきほう旺陰精滅陣おういんせいめつじん


大陰の、その手から放たれた光が天翔尼をとらえる。


「く!」


呪を受けて一瞬、天翔尼は隙を作ってしまう。それを見逃す勾陳ではなかった。


【ハハハハハ!!!!!】


勾陳は笑いながらその拳を振りぬく。天翔尼はその拳をまともに受けてしまった。


「ああ!!!」


その一撃で天翔尼は消滅した。


「ほう! ならば、笑絃!」


その言葉に従い笑絃が前に出る。


鬼神使役法きしんしえきほう討魔爆轟拳とうまばくごうけん


それは、先ほど乱道が使ったものと同じ呪。


「ははははは!!!」


笑絃は笑いながら一気に加速する。


ガキン!!!


勾陳と笑絃は空中で打ち合った。


【…馬鹿が、そんなことをしても…】


大陰の呪が今度は、笑絃に向けられる。しかし、


「それ! 大口!」


鬼神使役法きしんしえきほう封天霊神顎ふうてんれいじんがく


その言葉に呼応した大口が、その口を大きく開ける。それは、見る見るうちに巨大化して、大陰に襲い掛かる。


【ああ!!!】


大陰は、巨大な口に齧られ、バラバラになって消滅した。


「さらに!! 延寿!」


鬼神使役法きしんしえきほう霊樹妖封縛れいじゅようふうばく


その言葉に、眠りこけていた延寿が目覚める。延寿は見る間に巨大な木になって、その蔦で勾陳を絡めとる。

そして、


「ははははははは!!!」


笑絃が笑いながら、勾陳を殴り飛ばしたのである。たまらず、勾陳はその一撃で消滅する。


【…まさか、此処まで…】


乱道は、それまでの道満との対戦で、白虎、朱雀、六合、玄武、大陰、勾陳の六体の式神を失っていた。それに対し道満は、百鬼丸、天翔尼の二体である。


【…のこり、こちらの手札は、騰虵、青龍、天后、大裳、天空の五体か…】


「こっちは、悪左衛門、大口、千脚、笑絃、延寿、静葉の六体だ…」


乱道は唇をかんで道満を睨み付ける。それに対し道満は余裕の笑みを浮かべている。


【…おそらく、次で勝負は決まる…】


「そうだな…」


乱道と道満、この二人の呪術師の最後の攻防が、今始まろうとしていた。



-----------------------------



「真名さん!!」


貴人に傷を回復してもらった潤が、真名の元へとやってくる。


「大丈夫ですか真名さん?」


「ああ、大丈夫…。とは言い難いが…。情けない…」


真名は苦しげにあえぐと、乱道と道満の方を見る。


「これは、もうそろそろ決着が付きそうだな…」


その言葉を聞いて潤は、


「そうなんですか? 僕にはすさまじい戦いとしかわかりませんが…」


そう言って頭をかいた。


「いいか、潤。この戦いをしっかり見て、頭に焼き付けておくんだ。この戦いはめったに見られるものではない」


真名はそう言って道満たちの方を指さす。


「一見、簡単な呪をお互いに撃ちあっているように見えるが、実際は違う…」


「はい。彼らの扱っている呪は一つ一つが、僕らのものとはケタ違いです」


「…そう、彼らが扱っているのは、対神用の呪だ。その一つ一つが、一瞬で我々はおろか、神ですら消滅させる威力を持つ」


「そうですね。あの天翔尼様が一撃でやられたほどですから…」


真名は潤の方を振り返り言いう。


「しかし、彼らはどちらも、切り札を残している…」


「そうなんですか?」


「ああ、最強の『シキ』それこそがお互いの切り札と言えるだろう。…いや、あるいは…」


真名は少し考える。


「あるいは…なんです?」


「あるいは…道満様なら…」


そこまで口に出して、真名は黙って道満を見た。


そちらでは道満と乱道の攻防が始まろうとしていた。



-----------------------------



沈黙を伴った睨みあいに終止符を打ったのは。道満だった。


「喰らえ! 大口!!」


その声とともに大口が口を大きく開く。


鬼神使役法きしんしえきほう封天霊神顎ふうてんれいじんがく


しかし、


【…馬鹿め! 同じ呪が二度通用するか!! 天空!!…】


その言葉に従って天空が前に出る。


式神使役法しきがみしえきほう魔征砂封陣ませいさほうじん


その瞬間、天空の体から巨大な砂嵐が現れ大口に向かって飛ぶ。

大口はそれを巨大な口で飲み込んでいく。そして、ある一定量吸い込んだとき、大口に変化が起きた。


「…」


大口が何も言わず姿を消したのである。道満は舌打ちする。


「…ち、鬼神契約を一時的に切断されたか。こりゃ、大口はしばらく戻らんな…」


【…ただ攻撃するだけが呪術ではないということだ! それ天空! 他の使鬼も…】


その言葉に従って砂嵐を操る天空。しかし、


「さっきお前が言ったこと、そのまま返してやるぜ! なあ笑絃!」


鬼神使役法きしんしえきほう夢鏡霊針縛爆むきょうれいしんばくばく


笑絃が前に出て、その髪の毛を一本引き抜き、天空に向かって飛ばす。それは砂嵐を超えて的確に天空の額を打った。

すると、天空の放った砂嵐がそのまま天空に向かって帰っていく。砂嵐はそのまま天空の口から、耳から、穴という穴から、体内に侵入していく。そして、


【クアガガガ!!】


天空の体は次第に膨れ上がり、ある大きさまで膨張した後、


【カ!!!】


その一言を残して、爆発したのである。


【…く、呪をそのまま返されたか…】


乱道は苦い顔をして笑絃を睨む。


【…ならば、天后!…】


その言葉に応じて天后が前に出てポーズを決める。


式神使役法しきがみしえきほう輝水天女恋殺きすいてんにょれんさつ


「うお…」


その瞬間、笑絃が苦しげに呻く。そして、


「おおおおお!!!!」


そのまま雄たけびを上げて、天后に向かって突っ込んでいく。


【はい、これでおしまいっす】


天后はそう言って、剣を取り出して、その刃を笑絃に向ける。突っ込んでいった笑絃は何のためらいもなくその刃を胸に受ける。


「か…」


その言葉を残して笑絃は消滅した。


「ははは! 自分から死にに行ったか笑絃!」


道満は他人事のように笑う。


【まだまだいくっす】


天后は今度は、眠りこけている延寿に狙いを定める。


「おふ…」


延寿はびんと飛び起きて天后を見る。そして、


「かははははああああ!!!」


変な雄たけびを上げながら天后に突っ込んでいく。


【これで二人目っす…】


天后の刃をまともに受ける延寿。しかし、それから先の展開はさっきとは違った。


【え?】


刃を受けた延寿は消滅しなかった。それどころか、天后に掴みかかり、それを体内に取り込み始めたのである。


【きゃ、きゃああああ!!!!】


天后は悲鳴を上げる。それを見た道満は、


「残念。延寿は攻撃能力は皆無だが『不死無限再生』の神位特効を持ってるんだよ」


そう言って笑った。

延寿に取り込まれ、その肉に押しつぶされた天后は、悲鳴を残して消滅した。


「さて…もうそろそろ、ネタが尽きてきたろ? 乱道…」


道満はそう言って乱道に笑いかける。乱道は、


【…く、いやまだだ、我はまだ切り札を残している…】


そう言って、自身の残り三人の式神を見る。


「ほう、ならば。来いよ、それともこっちから行くか?」


道満はそう言ってにやりと笑う。乱道は、


【…笑っていられるのは今のうちだ! 青龍!!】


その言葉とともに青龍が前に出てくる。


式神使役法しきがみしえきほう至天轟雷刃してんごうらいじん


青龍の体から無数の稲妻があらわれ、それが一本の雷の尾に変わり道満めがけて飛んでいく。

その一撃は、ビルを一瞬で消しズミに変えるほどであった。

しかし、


「ぬるいな乱道!! そんな呪じゃ…」


鬼神使役法きしんしえきほう数万脚護法障壁すまんきゃくごほうしょうへき


ズドン!!!!


その一撃は、千脚大王の胴によって防がれてしまう。


「それじゃあ今度はこっちだ! 千脚!」


その言葉に従って千脚大王が鎌首をもたげる。


鬼神使役法きしんしえきほう数万脚飛迅裂針すまんきゃくひじんれっしん


その瞬間、千脚大王の無数の脚から、さらに無数の金属の針が打ち出される。それは、青龍を狙っていた。


「これで青龍も…」


…と、道満が笑ったその時、


式神使役法しきがみしえきほう福腹防刃転撃ふくふくぼうじんてんげき


いつの間にか大裳が、青龍の前に立っており、その福々とした腹を巨大化させていたのである。

無数の針は、大裳の腹に命中すると、そのまま方向を反転させて、今度は道満の方に飛んだ。


「!!! 呪を返したか!!」


道満に殺到する無数の針。しかし、延寿が道満を庇う。

延寿は、先ほども説明があった通り『不死無限再生』の神位特効を持つ。無限再生する樹木によってすべての針を受けたのである。


【…ち、防がれたか…】


乱道は舌打ちする。それに対して道満は、


「なるほど、青龍の攻撃は、こちらに金行の呪を打たせるための『誘い』だったか」


【…】


乱道は黙して語らない。


「だが、乱道よ、その作戦のおかげで、大裳の防御の弱点も晒しちまったな。すなわち、福腹防刃転撃は金行の呪しか返せないんだろ?」


【…く…】


乱道は悔しげに唇をかむ。


「ならば、こっちは。悪左衛門!!」


その言葉に従って悪左衛門が前に出る。


鬼神使役法奥義きしんしえきほうおうぎ九頭竜極天轟爆震くずりゅうきょくてんごうばくしん


その瞬間、悪左衛門の姿に九頭竜権現の姿が重なる。そして、その口から膨大な量の稲妻が吐き出される。

それは、一瞬にして街一つを消滅させる戦略級の超々大火力呪法。悪左衛門はそれを一点に収束させて放つ。


「ははは!!! これで終わりだ!!!」


道満は笑いながら叫ぶ。その叫びとともに、大裳が一瞬で蒸発する。しかし、九頭竜極天轟爆震の火力は衰えずそのまま乱道に向かって飛ぶ。


…と、その時、


【…はははははははは!!!! それを待っていたよ!!!! 道満!!!!!…】


「なに?!」


次の瞬間、


式神使役法しきがみしえきほう錬気雷旺昇陣法れんきらいおうしょうじんほう


式神使役法奥義しきがみしえきほうおうぎ騰虵極天轟爆震とうしゃきょくてんごうばくしん


まず青龍が駆けて九頭竜極天轟爆震に体当たり、その身の消滅とともに呪をかける。それは、九頭竜極天轟爆震にある方向性を与える。

次に騰虵が前に出て、その身の奥に宿る超々大火力を開放、一気に解き放つ。


【…騰虵よ!! 道満の呪を呑み込め!!!!…】


九頭竜極天轟爆震は、その身をほつれさせると、一瞬にして騰虵の騰虵極天轟爆震に取り込まれる。そしてそれは、二つの呪力を取り込んだ、超々々絶大火力の炎呪と化したのである。


騰虵極天轟爆震の絶大な火力が、千脚大王を取り込む、一瞬で蒸発した。

次に延寿が道満をかばって前に出る、しかし、延寿の無限再生ですらその火力には無意味だった。そのまま、延寿も消滅する。そして、


「こりゃ…まずいな、悪左衛門!」


道満がすかさず悪左衛門に命令する。


鬼神使役法奥義きしんしえきほうおうぎ九頭竜極天轟嵐震くずりゅうきょくてんごうらんしん


悪左衛門が大量の水を吐き出す。水行は火行を剋する能を持つ。しかし、


ズドン!!!!


その火行はあまりにも巨大すぎた。もはや、道満の奥義呪法ですら対抗できるものではなかった。そのまま、消滅してしまう。


「…ダメか」


道満がそう言ったとき、


「道満様…あとはお任せいたします」


悪左衛門が、騰虵極天轟爆震に向かって突っ込む。そして、一瞬にして両者は何処かえと消えた。


【…ほう、空間転移で我が呪を自らとともに何処かへと飛ばしたか…】


乱道は感心したように言う。


【…その忠義はさすがだ。…だが、それは全くの無駄な行為だな…】


その乱道の言葉に、道満が答える。


「そりゃ、どういう意味だ?」


【…こちらの残り手札は、十二天将最強の騰虵…。貴様の残り手札は…】


その言葉を聞いて道満は、自分に残された最後の使鬼を見る。


【…貴様の残りの使鬼は、蘆屋一族八大天最弱の土蜘蛛静葉だ…】


そう、その通りであった。土蜘蛛静葉は、魔王として最低限の能力しか持っていない、あくまでも『技術者』であった。当然、攻撃呪など皆無である。


【…さあ、道満、これでこの戦いは終わりだ…。黄泉に帰って、お前の子孫たちが来るのを待っているがいい…】


乱道はそうにやりと笑って言った。


「ふう…。そうか…」


道満はそれだけを言って目をつぶる。


【…さあ、騰虵! こいつを騰虵極天轟爆震にて焼き尽くせ!!!…】


そう言って乱道が印を結ぼうとした次の瞬間、


「静葉」


「はい、どうまんさま…」


「行け!!!!!!」


道満が静葉に向かって叫んだのである。


鬼神使役法きしんしえきほう妖縛糸不動羂索ようばくしふどうけんじゃく


騰虵の周りに無数の蜘蛛糸が舞う。


【…なに?!…】


宙に舞っていた蜘蛛糸が一瞬炎をまとったように赤く輝く。そして、次第に糸同士が絡まりあい、無数の縄に姿を変えた。

蜘蛛糸の縄が騰虵に絡み付いていく。


【が!!!】


騰虵はその場につなぎとめられ、全く動けなくなった。そして、


八天秘法奥義はちてんひほうおうぎ天羅荒神てんらこうじんきわめ


「はああああああああ!!!!!!!!」


道満が気合一閃、その拳を動けない騰虵に叩きつける。その一撃で騰虵は消滅した。


【…な! なんだと?!…】


「乱道!!!!!!!!」


道満が乱道に向かって一気に駆ける。そして、


「歯あ食いしばれ!!!!!!!!」


ズドン!!!!!


思いっきり、乱道の頬を張り倒した。

乱道はその衝撃で宙高くほおり投げられ地面に激突した。そのまま動かなくなる。


「ははははは!!!! これで、本当に終わりだな!!!!」


かくして、蘆屋道満と死怨院乱道の戦いは幕を閉じたのである。


「なあ…」


ふと、道満は突っ伏している乱道に話しかける。


「いい加減にしろよてめえ…」


【…な、ん、だと…】


「てめえじゃねえよ! てめえの中で眠りこけてる晴明あほうだ!」


そう言って、道満は乱道の首根っこをつかむ。


「いい加減にしろ! 晴明!! いいのかよてめえ! こんなんで!」


道満は目を怒らせて言う。


「てめえの子孫を困らせて。周りに迷惑かけて、それでいいのか? 晴明!!」


【…ぐ…】


「こんな、糞下らねえ戦いでいいのか? 晴明!!」


その周りに、傷の癒えた真名たちが集まってくる。


「なあ!! 違うだろ晴明!! 俺とお前の戦いは、こんな糞詰まんねえ戦いじゃねえ!!!

 もっと、血が沸き立つようなもんのはずだ!!! なあ晴明!!!!」


【…が、やめろ…】


その声に、乱道が苦しみ始める。


「いい加減目え覚ませ!!!!!!

 俺の最大の…

 生涯最後の宿敵

  べの せい めい ! ! ! ! ! !」


次の瞬間、


「…ふう、相変わらずですね。蘆屋道満…」


そう、乱道が口にしたのである。


「…」


道満は乱道を睨み付けている。


「もう少し、優しく目を覚まさせてくれてもよかったのですよ?」


「そんな暇があるか、あほう…」


「はははは…。まあ、そうですね。緊急でしたからね」


乱道(?)はそう言って笑う。


「やっと、目え覚ましたな。晴明」


「はい。すみません。随分と迷惑をかけました。道満…」


「俺とお前の間で、迷惑も何もないだろうに…」


「…はは。そうですね」


晴明はそう言って頭をかいた。


「ま、まさか安倍晴明様なのですか?」


イザナギから降りてきた咲夜がそう言って膝をつく。


「そんなに畏まらずとの良いですよ我が子孫よ…」


晴明はにっこり笑う。


「申し訳ありません。私としたことが、鬼神に取り付けれてこんなことを…」


「いえ…そんなこと…」


咲夜がその言葉におののいて言う。


「でも安心してください。もう大丈夫、私は目覚めました。

 今から、私は私の力とともに黄泉へと帰ります…

 そうすればもう、乱道は私の力を使えません」


咲夜はその言葉に驚く。


「昇天されるのですか?」


「ええ、無論ですよ。この時代は貴方たちの時代です。私や道満がいていい時代ではありませんから」


「でも…」


「子孫よ。大丈夫、私がいなくてもあなたたちは真っ直ぐ生きていけるはずです」


「晴明様…」


咲夜はそう言って頭をたれた。


「さあ、道満…行きましょうか?」


その言葉に道満は…。


「ああそうだな。てめえと一緒に昇天すんのは、ちょっとゾッとするが…」


そう言って笑った。


「道満様…」


真名がそう言って道満を見る。


「まあ、俺様の子孫もなかなかによくやってるみたいで安心したぜ。これからもせいぜいがんばんな…」


そう言って道満は微笑んだ。


…そして、


「あ! 真名さん!! 光が!!」


何処かより射した光が道満と晴明を包む。

そして、そのまま二人はどっと地面に倒れた。


「父上!!」


真名が叫んで、道満が抜けた道禅を支える。

道禅はすぐに目を覚ました。


「道満様に…。もっとうまくやれって言われちまったぜ…」


そう言って道禅は自嘲的に笑った。


どうやら、道満と晴明は無事に黄泉へと旅立ったようだった。


「真名…これは…」


咲夜が地面を見る。其処には木箱が置かれていた。それはまさに『安倍晴明の遺骨』であった。


「ふう、これで目的達成だな…」


そう言って、道禅が笑う。


…と、その時。


【…く、おのれ…】


地面に突っ伏していた乱道が目覚めた。乱道は、よぼよぼにやせ細って見る影もなかった。


【…まさか。この私が、此処まで…】


乱道はそう言って悔し気に唇をかむ。


「乱道、観念するんだな。もうお前には力は残っていまい?」


【…まだだ、まだ…十二天将よ!!!…】


…と、その時、その言葉に従うように、十一人の影が現れる。それは、確かに十二天将だった。


「まさか!!」


道禅は驚きの声を上げる。


【…十二天将よ! 我に従え! そして、こいつらを殺せ!!…】


【…】


だが、十二天将は動かない。


【…どうした?! さっき我に従うと言ったろう? 十二天将ども…】


乱道のその言葉に玄武が答える。


【悪いけどさ。僕ら、晴明様の式神なんだよね。晴明様の力を失ったあんたに従う理由は、欠片もないんだよね】


【…な、に…】


乱道は絶句する。

他の十二天将も玄武と同じ考えだった。


【…く、おのれ…】


「ははは。残念だったな乱道これで本当に終わりだな…」


そう言って、道禅は乱道の体を押さえ込む。乱道は地面に突っ伏して動けなくなった。


【…おのれ、おのれ…】


「もうあきらめろ乱道…」


しかし、


【…おのれ、おのれ、おのれ、おのれ、おのれ、おのれ、おのれ、おのれ、おのれ、おのれ、おのれ、おのれ、おのれ、おのれ、おのれ、おのれ!!…】


「?!」


その呪いのような呻きが最高潮に達したとき。突如、その首が、胴体から抜けた。


「な?!」


【…おのれ!!!!!!!!!…】


胴体から抜けた生首は、超高速で部屋の外へと飛翔していく。


「待て乱道!!!」


道禅が追いかけようとするが。そのスピードはあまりに早く、一瞬で視界から消えてしまう。そして、


【…覚えておけ道満の子孫ども!!! 必ず、必ず貴様らにこの恨みを…、この借りを返してくれる!!!!!…】


その言葉を残して、乱道の生首は何処かへと飛び去ったのである。


「く…。何てことだ…」


道禅は悪態をつく。それを見て真名は、


(もしかすると。これからが本当の、乱道と我々の戦いなのかもしれんな…)


そう考えてため息をついた。



-----------------------------



【…おのれ、おのれ…】


乱道の生首は、何処かの森の奥に落ちていた。


【…おのれ、おのれ…】


…と、そこに何者かが現れる。


「おやおや、乱道さま、お久しゅうございます」


【…貴様は!! まだ生きておったのか?!…】


「ほほほ。そうですな、最もわたくしは、半分腐っておりますが…」


【…貴様は…。貴様は破門したはずだぞ…。なぜ我が前に顔を出した…】


「まあまあ、そう言わず。こっちの話を聞いてはいただけませんか?」


【…話だと?…】


「そうですよ…乱道さま」


そう言うとその者は、自分の背後に向かって声をかける。


「さあ、こっちですよ。彼が我が師匠乱道様です」


「ハアイ!! これはなかなか面白い師匠ネ!!」


そう言って現れたのは…


【…外の国の女?…】


「そうヨ乱道サマ! 私のことは…そうね、シルヴィア…。シルヴィアとでも呼んでネ」


【…偽名か…】


「さてネ…」


【…それで、話とは何だ…】


「そうヨ。私、乱道様にいい話持って来たネ。蘆屋とか、土御門とか、復讐できるヨ?」


【…なに?!…】


「そうネ。我が世界魔法結社アカデミーには、土御門の秘術の情報保管されてるネ。それがあれば、あなたの復活はおろか、あなたの中にある、安倍晴明の力の欠片を使って、あなただけのオリジナル『twelve天将』を生み出せられるヨ?」


【…な…貴様…世界魔法結社アカデミーだと…】


「おっと、ちょっと口が滑っちゃったネ。あははは」


そう言ってシルヴィア(?)は笑う。乱道は、


【…まあいい…。もし我を騙せばどうなるかわかっているだろうな?…】


「大丈夫ヨ。騙さないネ。さあ私達と一緒にレッツGOヨ?」


【…】


こうして、乱道は世界魔法結社アカデミーを名乗る女とともに姿を消した。

邪悪の種は決してこの世からは消えないのであった…。

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