第11話 白髪少女


 炎を纏いしおおとりが眼前へと迫る。

 距離が近づくにつれ「死」という概念が身近なものに感じてくる。


 オレとジェイクは来た道を逆走しながら疾走する。


「あばばばb……ジェイク君! 何かいいアイディアとかないの!?」

 隣にいる赤目、赤髪の褐色青年、ジェイク=リードに解決策を懇願する。


「……ケイ。お前の事は忘れない」


「待て待て待て! 鬼龍族の誇りはどこに行ったんだよ! ここで、見捨てたら絶対後悔することになるぞ!?」

 ここで見捨てたら、絶対に呪ってやるぞ! と言わんばかりの眼力で脅しにかかる。


「冗談に決まってるだろ。今のは落ちつかせるためのジョークだジョーク。現状、俺ではどうこうすることもできないからな」


「……つまり、オレなら何とかできるかもしれないって事か?」

 ジェイクできないけど、オレなら何とかなるかもという事だろうか?


「いや、今まともに使えるのは貪食袋グラトンバッグくらいだぞ? 出来ることと言ったら、あいつに投げつけて灰にする事くらいだと思うんだけど?」


 アルケディオスはもう既に50メートル付近まで接近しており後がない。

 その眼光は鋭く、まるでオレに対して怒っているようにも見えた。

 

 何かないかと貪食袋グラトンバッグに手を入れたその刹那、アルケディオスは突然加速し姿を消した。

 次に認識した時には、オレのすぐ後方までしていた。


「「な!?」」


「危ねぇッ!!!」


 ジェイクが庇う様にオレとアルケディオスの間に入ろうとする。

 アルケディオスの鋭い口ばしがジェイクの首筋に到着するその瞬間。


 時間が静止する。

 否、より正確に表現するなら、限りなく遅くなっているというのが適当だろうか。


 遅延する世界にて自身への後悔と怒りが走馬灯の様に押し寄せる。


「あぁ……『また』…なのか?」


 4年前の夏の日、幼馴染であった星城小雪せいじょうこゆきが亡くなった日の事を思い出す。

 思い出したくもない記憶だ。

 だが、それと同時に忘れてはいけない記憶でもある。


 その日、オレの家族は小雪の家族と一緒に海に来ていた。

 俗にいう家族ぐるみの関係というだった。

 オレと小雪は日中は海で遊び、夜は星を見に行こうと約束をしていた。

 その後は何事もなく日中は予定通り過ごし、そのまま一旦の夕食を取った。

 事件が起こったのはこのすぐ後だった。


 『夜に星を見に行こう』そう約束していたのに、オレは夏の暑さに負けて直前で約束を反故にしてしまったのだ。

 泣きながら外に出て行った小雪を、少し後になって「流石に最低すぎるな」と思い後を追いかけたが……もう時すでに遅かった。


 その後、あっちこっちを探したけど小雪の姿は見つからず、翌朝から警察の捜査が入ったが残念ながら小雪は見つけられなかった。

 ……19歳のあの夏にオレは全てを失った。



「……いやだ。やっとまた歩き出せそうな所だったんだよ…ふざけんな! 愚かさゆえに全てを失う事がオレの『運命』だとでもいうのか? オレはあの時の様にまた逃げるのか? …ははっ……ふざけんじゃねぇクソがぁぁぁぁ!!!」


 ……あの日、星を見ながら告白をしようと思っていたいたけど…途端に怖くなってしまったんだ。

 それがオレにとっての最大の「罪」であり「後悔」。

 


 ……だけど、『また』選択肢を間違えるつもりは毛頭ない。

 


 そう思ったや否や、どこからともなく声が聞こえた。


『全く。君はどうしてこうも災難に巻き込まれてしまう体質なのだろうかね。いや、運命すら君の前では一選択肢でしかないのかもしれないがね』


 まばゆい光が身体をを包み込む。

 より正確に言うのであれば、首にぶら下げていたが光り輝き始めた。


 突進してきたアルケディオスは光に目を潰され地面に落ちたようだ。


 次第にその光は小さくなっていき、気が付いた時には目の前に全裸の白銀少女が立っていた。


『―――やぁ、ご機嫌はいかがかな?』


「は?」


 わけが分からなかった。

 

 見た目は、服を何も身に着けておらず、身長は140中盤と言った所だろうか。

 瞳は宝石の如く蒼く輝いていて、ややジト目ぎみだった。

 髪は絹の様に繊細で美しく、風で靡くなび度に光で輝き、銀髪のように見える。

 オレはその美しさに一瞬、目を奪われてしまった。


『どうしたのかね? 私の美しさに言葉を失ってしまうのは仕方のない事ではあるが、今は現状の危機を回避する事の方が先決ではないかと進言するよ』


 見た目は10代前半の子供にしか見えないのに、しゃべり方は年相応のそれとはかけ離れていた。

 言うなれば、シャーロックホームズを彷彿とさせる硬い喋り方だった。


 ……ってかなんで全裸なんだよ。


「おい服を着ろ馬鹿! 誰かに通報でもされたらオレが疑われるじゃねーか」


 自身の黒いパーカーを脱いで銀髪少女に投げ渡す。


『……ふむ。君の匂いがするな』


 そう言い大人しくパーカーを着た。

 遠くから見たら黒いドレスに見えなくもない。


 ……すまん、さすがに見えなかったわ。


「……それで、この状況を打破する方法を知っているのか? あと、君の名前を教えてほしい」


 この子が何処の誰なのかはわからないけど、今のオレには謎の銀髪少女に頼る以外の選択肢がない。

 「藁にも縋る」ならぬ、「銀髪少女にも縋る」といったところだろうか。


 ……そういえば、ジェイクは大丈夫だったのか!?


 隣を走っていたジェイクの方を確認する。


「……あぁ、目がああぁぁぁぁぁぁぁ」

 地面を左右に転がりながら小さく呻いていた。

 どうやら、オレ以外には結構なダメージが入っていたようだ。


 まぁ、これもコラテラルダメージといった所だろう。

 なんかすまん。


『……ふむ。少し考えてはみたのだが、自身の名前を思い出せそうにないな。記憶喪失といったところか。……いや、そもそも名前なんて元からなかった可能性すらあるのか……』


 抑揚の少ないまったりボイスでどうやら自問自答をしているようだった。

 いや、「記憶喪失系銀髪少女」って設定盛りすぎでは?


「銀子君。一体いつまで自問自答を続けているつもりなのかね? 事は急を要すると君が言ったのだろう」


『……ぎんこ? それは私の名前なのかね? ふむ。やや安直な感じがしなくもないが…どうやら、私の体は喜んでいるようだ。ぎんこ……実に懐かしさを覚える響きだ。それと、私の喋り方を真似するのはやめたまえ』


 三秒で考えた名前ではあったけど、どうやら喜んでくれているようだった。

 若干の罪悪感があったりはするけど、直観がそう名づけたのだから仕方ない。


「それで、何かいい方法があったりするんだったら早く教えてくれ。アルケディオスが今にも羽ばたきそうな気配がするからさ。いやマジで?」


 先ほど落ちたアルケディオスが、再び飛翔しようと羽をばたつかせた。


『ふむ。では、少々過激な鳳調教を始めようか。』


 口元を「ニヤリ」と歪ませながら目の前の少女は笑う。


 ……こいつ本当に子どもなのか?


『まずは、「貪食袋グラトンバッグ」から「白炎色の杖ツンデレロッド」を出したまえ。どうやら、一番やる気があるようだ』


 ……ツンデレロッド?

 頭おかしいんじゃねーの?


 ……いや待て、もしかしてあの「白い杖」の事か? 

 オレは貪食袋グラトンバッグから白い杖を取り出す。


『そう、それだ。では次に、君が想像できる最大限の「エロ」を想像しながら火の魔力を流したまえ』


「……え? なんて?」


 聞き間違いだろうか。

 この銀髪少女は今「エロ」と言わなかったか?いやまさか……


『さっさとエロいことを考えるのだよ』


 聞き間違いじゃなかったぁぁぁぁぁ!!!!


「そんな事、突然言われても無理だろ! ほら、アルケディオスがこっちに飛んできてるぞ!」


『では、朝あった事件を思い出したまえ。中々いい揉み心地であったろう?』


 あっ。

 それを聞くや否や、朝の出来事を思い出し股間が盛り上がる。 


『やればできるじゃないか。そのまま「炎」を頭でイメージしながら杖を振るんだ! 掛け声は可愛い系がいいな』


 炎をイメージか……メラメラメラ、激辛料理、熱い暑い熱い暑い

 ……いや何で、なんで可愛い系なんだよ! 


 アルケディオスが地上から飛び上がり、オレ達の目の前で停止し翼を大きく広げ威嚇する。


「……あまり22歳の性欲をなめるんじゃねーぞ鳥公が」


 股間を膨らませながら杖をアルケディオスに真っ直ぐに向ける。


 「すぅー」と深く息を吸い覚悟を決まる。


「あああああ! きゃっぴきゃっぴ萌え萌えきゅんきゅん! 私のエロスが貴方の心をロックオン! ケイちゃんマジックが君を虜にしちゃうぞ♡」


 22歳成人男性が、股間を膨らませながら可愛い女の子の様なポーズを決めていた。

 控えめに言って「地獄絵図」である。


 前口上が終わったや否や、杖の先に蝙蝠の羽の様な物が出現し、紅蓮の炎が身体を飲み込んだ。


「うおおおおお!!! なんじゃこりゃぁぁぁ!!!」 


 服が次々と消えていき炎の中でオレは全裸になり、全く違う衣装に身を包む。


「…………」


 衣装チェンジが終わり炎が消えて体が少し浮く。

 オレは自身の姿を見て驚愕し言葉が出なかった。


 それは赤をベースとしたもので

 赤黒い鍔の広い帽子に、赤いマント、赤と白のフリフリの丈の短いドレスの様なものを身に纏っていた。

 そして何より驚いたのは……長くなった髪の毛を赤いリボンで左右に二つ結んでおり、…オレの体がやけになっているという事だ。


「……銀子これはどういう事なのか説明してくれるのかな?」


 いつもの声とは違う声で銀子に説明を促す。


『ふむ。よく似合っているではないか。因みに、それは「魔法少女的な物」に変身できる杖だ。私も昨夜、目が覚めたばかりで詳しい記憶や記録は持ち合わせていないのだが、それがこの状況では最適解であると直感でわかる』


 違うそうじゃない。


「いや何で魔法『少女』になる必要があるんだよ! 『魔導士』みたいなかっこいい系でいいじゃん! わざわざ女体化する意味とは? びっくりしすぎてアルケディオスも硬直してるじゃん!」


 アルケディオスは様子を見ているのか、その場で羽をばたきながら空中で停滞していた。


 わかるよその気持ち。

 もし、目の前で突然おじさんが魔法少女になったらオレでもその反応するわ!


『そんなことを私に聞かれてもな。自身の名前すら憶えていない存在に理由を聞いてどうする。まぁ、軽く推察するに、「魔法少女」というのは君の潜在的な性的欲求の具現化だったのではないのかね? 軽く引くわ』


 オレに対して軽蔑の眼差しを向ける。


「違う! 無実だ! オレは魔法少女じゃヌけない派の人間だ! 信じてくれ! オレは年上好きでロリコンなんかじゃない!」


 当然だ。

 年下に甘えるよりも、頼れるお姉さん系の方がいいに決まっているだろう。

 黒ストッキング踏み踏みのすばらしさを知らない奴は、人生の10割を損しているといっても過言ではない。

   

『その事については深くは問うまい。誰しも人には言えない隠し事というのはあるものさ。例えそれが自分自身であったとしてもね……人間は気が付かぬうちにだましだまし生きているものだ。それは、対象が自分であったとしても例外ではない。君は自分を「ロリコンじゃない」と騙しているだけではないのかな?』


 まるで、「もうわかってるんだぞ」と言わんばかりの言いぐさだった。


「本当に違うんだって! 信じ―――」


 説明をし終わる前に、アルケディオスの口から火の玉が飛んできたのが見えた。


「おいおいおい! お前、遠距離攻撃持ってんのかよ!」


 飛んでくる火の玉を紙一重で避け、戦闘に集中する。

 どうやら、ただの馬鹿だと気が付かれたようだ。


『今の君はまだ魔力量も少なくコントロールもできていない。だからこそ、頭を使ってこの局面を乗り越えてみたまえ。一つ教えると、魔法の発動に一番重要なのは「イメージ力」だ。本来であれば魔法構築理論を理解する必要があったりはするのだが、それは「白炎色の杖ツンデレロッド」が何とかするだろう、今回は君の思う通りにやってみたまえ』

 


……イメージ力か。


 アルケディオスは遠距離攻撃が出来て尚且つ動きが速い。

 遠距離での打ち合いをしても、こっちの魔力が先に切れてしまう可能性が高い。

 つまり、オレには制限時間があるという事だ。

 おそらくだけど、この姿を保っている間はずっと魔力を消費し続けてるんだと思う…アホみたいに体が疲労していく感覚がある。


 なら、作戦は一つ―――


「接近戦じゃあぁぁぁぁぁぁ!!!《紅の盾ファイアーウォール》!」


 オレは目の前に四角い炎の壁を作る。

 

「かーらーのー! 《愛の矢ファイアーアロー》!」


 黒い羽の付いた杖の先を、《紅の壁》から見えるように頭上へと掲げ大きな炎の球を三方向、左右真っ直ぐに分けて飛ばす。


 アルケディオスはそれに対応するべく、炎の球を三つ生成しこれを相殺した。

 激しい爆風と共に《愛の矢》は消滅し、アルケディオスは再び《紅の盾》に視線を移す。


 一瞬の静寂を挟み、耳を劈くような鳴き声を上げる。


 すると、先程までとは比べ物にならないくらい大きい炎の球を前方に作り出した。

 空気が焼けるような臭いが強くなり、何かがはじけるような音が聞こえてくる。

 

 そして、その大炎球の力が最大になったであろうタイミングで《紅の盾》に対して発射した。


「嬢ちゃんあぶねぇ!」


 いつの間にかに復活していたジェイクが銀子を抱きかかえて戦線を離脱する。


 直撃し再度大きな爆風を発生させ、近くの店もろとも《紅の盾》を爆散させた。


 沈黙が場を支配し、次第に辺りが晴れていく。

 しかし、そこには保志間慶の姿がなかった。


「……よう、スッキリしたか鳥公」


 アルケディオスは声のする方、すなわち自身の頭上へと視線を向けようとした。


「もう遅い! くらえオラァ! 《杖で叩くただの物理技》!」


 頭上を見上げたアルケディオスが行動を起こす前に、思いっきり杖で頭を殴る。

 成人男性の腕力で振るわれた杖は、防衛用に現れた火の魔法障壁もろともたたき割る。


『キュゥーーーーン』


 アルケディオスは情けない鳴き声を上げながら地面へと落ちていく。

 どうやら、物理攻撃には弱かったようだ。


 そして何故かそのままオレも一緒に落ちていく。

 どうやら、時間には勝てなかったようだ。


「ああああああーーーー!!! 落ちるぅぅぅぅ!!!」


 すると、上の方から銀子が仰向けに落ちていくオレの腹部に「ぽふっ」と座る。


 空気抵抗を考慮してもまずあり得ない落ち方をしてきた。

 言葉にするなら、「パラパラ漫画の様にコマ送りに見えた」というのが妥当だろうか。


「いや、自由落下運動無視するなぁぁぁぁぁ!!!!」


 訳の分からない悲鳴を上げながらそのまま落下し続けた。


『少しは落ち着きたまえ。そう叫ばれると座りにくいのだよ』


「いや、無理だろ! ってか、この体勢だと地面までの距離が見えないよ!」


 オレはあと何秒で落下死するのかすらわからない状況なのである。


『安心したまえ。もうすぐに救援が来る』


 すると、後ろの方から頼もしい声が聞こえてきた。


「よっしゃ‼ こんなこともあろうかと一階に移動しといよかったぜ!」


「ジェイク!!!!!」


 ジェイクは上方に高く飛び、落下するオレをお姫様抱っこの様に受け止め着地する。


「お前ら大丈夫か?」


「あぁ、助かっ―――」

『なかなかに良い仕事ぶりだったぞ。私に負荷をかけることなく受け止めるとはやるじゃないか。君に名誉ぎんこ賞をあげよう』


 銀子がオレの発言をかき消す。


「それならよかった。ってか、ケイ……お前いつの間に性転換したんだ? もしかして、実は女で普段は男の格好をしてたとか?」


「いや、それはオレが聞きたいね。とりあえずは、そこにいる銀子に話を聞かせてもらおうかな。君は一体何者だ?」


 まずは、迷子センターにこの子を送り届けるのが先だ。


 しばしの沈黙を経てゆっくりと口を開く。


『そんなものは私にもわからんよ』


「…さっき言ってた記憶喪失って事か?」


 状況的にあまり話が耳に入らなかったが、確か「記憶喪失」がどうたらこうたら言っていたのは聞こえていた。


『おそらくはそうだろうな。私が目覚めたのは昨日、君が【愚者】のアルカナを起動した時で、それからは状況を理解するためにずっと鍵の状態で様子見をしていたよ』


 知ってた。

 つまりは銀の鍵の擬人化って事か。

 魔導具は条件さえ満たせば人型になることも可能ってのは驚きだ。

 いや、アルカナから発生した存在は例外に含まれる可能性もあるのか……

 普通の魔導具は無理だけど、アルカナの魔導具は擬人化できるみたいな。


「……うーん。記憶のない銀髪美少女か。……銀子君、白い修道女の格好をしてみてはくれな―――」

『断る』


 ふむ。どうやらオレのヒロイン枠というわけではなさそうだ。


「そういやケイ、さっきアルケディオスと戦ってる時に、気が付いた時には頭上に移動してただろ? あれどうやったんだ?」


 確かに、はたから見たら《紅の盾》もろとも爆散してるように見えたかもしれないな。


「あぁ、あれは真ん中の《愛の矢》の影に隠れて移動したんだよ。アルケディオスの攻撃と相殺爆発した瞬間に、爆風に紛れて頭上に移動して、最高のタイミングまで待機してたってだけ。《紅の盾》に関しても攻撃を防ぐって寄りは、相手の視線を切るのが目的の物だったしな」


「はえー、リスク高いのによくやったな。最悪、爆風に飲まれてバラバラになってただろうに」


「あんなやべぇよやつと正面から戦ってもじり貧なだけ、なら魔力が残ってるうちにワンチャンかけた方が現実的だろ?」


 二人が先の戦いを振り返っていると

 入口の方からいかにも教会関係者です、と言わんばかりの装いをした集団がやってきた。


「遅くなり申し訳ございません。お怪我はされていませんか? それと、炎仙鳥を気絶させたのはあなた方でしょうか?」


 神父服を纏った肌の黒い大男が優しく話かけてきた。

 

「オレが杖で叩き落としました!」

 オレはドヤ顔で答える。


「なるほど、ではこのまま黒十字教会にお越しいただきますね。炎仙鳥への攻撃行為は『重罪』ですので」


………???


「いや、ここで止めなかったら莫大な被害が出たかもしれないんですよ!」


 あのままモールの攻撃でも始めていたら、一体どれだけの犠牲者が出ていただろうか。

 獣人種連中は逃げられたかもしれないが、人類種の人たちは崩れた建物の下敷きになっていたのかもしれない。


「申し訳ございません。私としても心苦しくはあるのですが規則なので。最大限の憂慮の方は私、黒十字教会統括エイデン=ウルファスが保証いたします」

 

 唐突に出てきた「黒十字教会統括」という言葉に驚きを隠せなかった。


 え!? 統括自ら現場に来るのか!?

 ってかこの人、【神官】のアルカナ持ちの『血濡れの神父』じゃないのか!?

 やべぇよやべぇよ。

 どうすんだよこの状況!


 ちらっと、ジェイクの方を見るが、両手を上げながら首を横に振っていた。

 どうやらお手上げらしい。


 すると、銀子がおもむろに近寄ってきてオレの首に手を回す。

 ……可愛い困ったちゃんだ。


「おいおいおい。公共の場だぞ? いくらオレがカッコいいからってそれは大胆過ぎるぞ。時と場合を考えてくれよ全く」

 まぁ、いうてまだ子供だ。

 これくらいの子供故の可愛いさは許してあげよう。


『口をとじたまえ。?』


「へ?」


 言葉の意味を考えるよりも前に事は起こった。


 倒れていたはずのアルケディオスがゆっくりと目を覚まし、こちらを再び視認した。

 先ほどと打って変わってかなり落ち着いた眼差しをしていた。

 

 ―――そして、気が付いた時にはオレは空を飛んでいた。


 そう、目を覚ましたアルケディオスはそのままオレを口ばしでつかみ拉致したのであった。


「へ?」


 あまりの事に頭が追いついていない否、考えることを辞めたオレと

 首に引っ付いている銀子のしばしの空の旅が始まった。



「ああああああああなんでこうなるんだよぉぉおぉぉ!!!!」


 オレの叫びも空しく、アルケディオスはオレを嬉しそうにくわえてどこかへと向かっていた。




 

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