第9話 銅像

一階に降りると、ちょうど皆が食事を長テーブルに並べている所だった。

 しかし、どうも料理の量が多い気がした。何ならホール全体が飾り付けまでされている。

 祝日か何かか?



「休憩ありがとうございました。ってか、めっちゃ豪華な食卓ですね。今日ってもしかしてこの都市では祝日だったりするんですか?」


「ふふふ、今日はケイちゃんの加入祝いをしようと思ってね!」


 地獄耳かの如く遠くの方からオリビア姉さんがひょっこりと顔を出して返事をする。

 顔のほかに生尻が一瞬見えたような気がしたが、気のせいだろう。


「あっ、さっきぶりですオリビア姉さん。ってか、オレの加入祝いか……正直物凄いうれしいです。皆さんありがとうございます」


 高校卒業後はフリーターとして実家で暮らししていた影響で、誕生日とかは誰にも祝ってもらえなかった記憶があるから懐かしい感覚がした。

 あと、やっぱり見間違いじゃなかったようだ。


「ケーキのカットは私に任せてください!」


 手入れが行き届いた美しい黒髪を左右に揺らせながら夜桜さんはそう自信満々に言う。

 可愛い女の子にケーキカットをしてもらえるのはうれしい。

 しかしだ、

 ……まさかとは思うが、今手に持っている刀で人なんて斬っていないだろうな?

 いやそれ以前に、なんで刀でケーキを切ろうとしてんだ!?


「あ、ありがとうございます。所で夜桜さん、オレは夜桜さんが普通の包丁を使っている姿を見てみたいです! 絶対に似合うと思うので!」


 我ながら完璧なカバーだったと確信する。


「……それはつまり、私に毎朝朝ご飯を作ってほしいという事ですか?」

 やや、もじもじしながら質問してくる。


 あっ……これはやったか!? 

 地雷原に片足突っ込んじゃったか!?


「あ、そういう事ではなく―――いやちょっと待ってください、なんでこっちに刀の切っ先向けてるんですか!? 」


「なに私の愛刀『空桜からざくら』がちょうど人の血を飲みたいと言っていまして」

 

 あああああああ!!! 全身ダイブしてんじゃねかあぁぁぁぁぁぁ!!!!

 お、落ち着け、まだマダガスカル


「ほ、ほら? 夜桜さんの黒髪って割烹着と包丁が似合いそうだなぁーって」

 

 どう考えても苦しい言い訳だけど何とかなれ! ってか、誰か助けてよ! なんで皆明後日の方を見てるんだ?


「成程。それはつまり私と結―――」


「アアアアアアア! 腹痛がァッ! すみませんちょっと食事の前にトイレに行ってきますねえぇぇぇっっ!!!」


 ヤバい!ヤバい!

 昔のバイト先の後輩があんな感じだったからわかる、初対面だろうが何だろうが関係なく、ちょっとそれっぽいことを言われるとすぐに落ちるタイプの人だ。 

 そういう人に限って粘着質だったりするから、フラグが立つ前に距離を開けるのが吉だ。

 

 後方を確認するが、どうやら付いてきてはいないようだ。


「とりあえずホールから逃げられはしたわけだけど……まぁ、さすがに失礼すぎたから後で謝っておくか。食事の準備が整うまでには戻らないとな。ってかここどこだ?」


 気が付いた時には見知らぬ部屋にたどり着いていた。

 薄暗い部屋をカーテンの隙間から差し込む月光がかすかに照らす。


「ん? なんだこれ、銅像か?」


 等身大程の銅像が八体奇麗に並べられていた。

 よく見ると羽の生えた者や、ケモ耳が生えている者もいた。


「へ~、七種族分の銅像か。でもそれだと一体多いな」


 七種族のイメージ像なら八体あるのはおかしい。


 もう少し近づいてみようとした瞬間後方から声をかけられた。


「やぁ。ここで何をしているんだい?」


「うわッ! びっくりした! ルークさん! 脅かさないでくださいよ。トイレに行こうとしたら迷ってしまって。まぁ、嘘ですけど」


「成程ね、トイレは中央ホールを出て右手の方にあるよ。……その銅像が気になるかい?」


「ええまぁ、これって七種族を模した銅像ですよね? でも数えた感じ八体ありますよね?」

 

 ルークさんは若干の間を空けた。

 これ、また……やったか?


「その通りだね。それらはこの古城を私が買い取った時に元からあったものでね、私も気になって売り手の人に聞いてはみたんだけど知らないらしくてね。」

 

 どうやら、地雷原ではなかったようだった。

 だけど少しだけ、ルークさんの話し方に違和感を感じた。

 嘘をついているとかそういうのじゃなくて、なんて言うんだろうか……話の根幹を話していない様に思えた。


 少し、揺さぶってみるか。


「じゃぁ、もしかしたらまだ発見されてない"八つ目"の種族がいたりするかもしれませんね」

 

 可能性としてはあり得る話だ。

 『アルカナ』なるものがここ最近になって発見されたのだ、当然誰にも認識されてない種族がいても何ら不思議ではない。

 そもそもの話、「歴史の裏で抹消される」なんて事例は、歴史の編纂においては当然の如く行われているだろうとオレは考えている。


「君はやはり結構頭が回るタイプのようだね。話そうか迷ったが一応は話しておくよ。人類種の右隣にある小さな妖精の様な見た目をしているのがあるよね? それが君の言う八つ目の種族である可能性があるやつだね」


 確かにジェイクが言っていたどの種族とも特徴が違っているように思えた。

 体が極端に小さく、羽の生えた姿。

 そう、妖精の様な見た目をしていた。

 これらの特徴は現七種族には観られないものだった。


「天魔種ではないんですか? 確かジェイクの話によると羽が生えているらしいですけど」


「実際のところ羽が生えているという特徴は似ているね。ただ、天魔種には『天使族』と『悪魔族』の二種類がいて、そのどちらもが頭上に何かしらの物が浮いているんだよね。ほら一番右にあるのがそうだね」


「ほんとだ、確かになんか天使の輪みたいなのが浮いてますね」


「まぁ、現状は『天使族』と『悪魔族』は昔から仲が悪かったから、分けて作って悪魔族の方の銅像が、途中で欠損してしまったって説が一番有力だね」


「大きさが違う理由って何かあったりするんですか? もしかして悪魔族の方が体が小さいとか」


「……どうだろうね。どちらも個体によって大きさが全然違ったりするから、その可能性があるのかもね」


「なるほど、ってか早くいかないと皆待たせちゃいますね! 変な事に付き合わせちゃってすみません」

 

 唐突に記念パーティーの事を思い出し、この話はまた今度にしようと一旦の区切りをつけた。

 銅像に関しては色々と腑に落ちない点があったりはするけど考察には限界がある。

 今のオレにはこの世界の情報、常識があまりにも欠如しすぎている。


「確かに、では急いでいきましょうか。この部屋は特別立ち入り禁止とかではないので、興味があったら自由に出入りして大丈夫ですので」


「オッケーです! それじゃ、戻りましょうか!」


 妖精の様な銅像に微かな違和感を感じながらも部屋をあとにした。


 【中央ホール】


 中央に置かれた大きい長方形のテーブルは既に、料理で埋め尽くされていて準備はできているようだった。

 今現在、このホールにいる10名で食べきれる量だとは全く思えないほどだった。

 全員が席に着いたタイミングでルークさんが話を始めた。


「えー皆さま、今宵は新人である保志間慶君の加入祝いに出席して頂き誠にありがとうございます。彼はまだこの世界について知らないことが多い事だと思いますので、それぞれがその都度教えてあげてほしいです。では皆さん、羽目を外し過ぎないように楽しみましょう! カンパーイ!」


「「「「「「「「カンパーイ」」」」」」」」

 

 ルークさんの合図とともにパーティーは開始した。

 食事はとても美味で身体全体が喜んでいたのを感じ取れた。


「あぁ……やっぱりうめぇ。」


「ねぇねぇ! 君、さっき異世界から来たって言ってたよね! どんな世界から来たの!」


 先ほど、肉をオレの顔面にシュートしてきたココさんが質問してきたので、これまでの経緯を軽く皆にも聞こえるように話した。

 ちょっと離れた場所で、ジェイクとレイン先輩が腕相撲をしていた。


「へ~それってつまりタイムスリップってやつだよね!? 凄い! そうか千年前の人類種かぁ、ちょっと実感わかないなぁ」


「そうですよね。オレの方も全然実感わかないです。さっきまでいつも通り自室でぼーっとしていたのに、今では猫耳の生えた美少女と話しているんですもん」


 ちなみに、「犬派」か「猫派」どちらか、と聞かれたらオレは猫派であると答える男だ。

 今すぐにでも、ココさんの猫耳をわしゃわしゃしたいところではあるけど、そんなことをしたら遠くからこちらを凝視している女の子に、何をされるかわからないからやめておこう。

 ちなみに、

 ジェイクとレイン先輩は何故かあっちで大食い大会を始め、オリビア姉さんがあり得ない速度でどんどん料理を運んでいた。

 とりあえず、裸エプロンはやめてくれ。


「ふーん。君褒めるのがうまいねぇ~ あ、そう言えばまだちゃんと自己紹介をしていなかったね。私の名前は『ココ』で猫耳族だよん♡。職業は【盗賊】をやっているよ!」

 パッと見でわかる猫耳と黄色い目がとても特徴的な女性だった。

 「猫耳族」という発言から察するにおそらくは獣人種の一種族なのだろう。

   

「この世界では盗賊って大丈夫なんですか? オレのいた時代では犯罪者として牢獄のお世話になってましたけど……」


「大丈夫じゃないよ! 」


 駄目やんけ! 「盗賊」に「暗殺者」ってこのギルドやっぱりやばいんじゃ……


「でも今は基本的に『情報』を盗む事に特化しているって感じかな。昔は盗む事でしか生きる方法を知らなかった私だけど、最近このギルドに盗みに入った時にギルマスにつかまって言われたんだよね、『君の才能はそんな所で埋もれているにはもったいない』って。その後は盗んで現金化してないものは全部返して、売っちゃったものは全部ギルマスが何とかしてくれて今ここにいるって感じ!」


 いや、ルークさん何者だよ。


「とまぁ、私に関してはこんな感じかな。このギルドは結構変な奴が多いから気を付けるんだぞ」


「ご忠告ありがとうございます。ちなみにですけどあっちでフード被って未だに寝てる方と、金髪のロングヘアーの方には話しかけても大丈夫なんですかね?」


 一人は一応、席にはついているものの、黒いフードを被ったままテーブルにうつ伏せで寝ている。 

 二人目はtheエルフの様な見た目の美男子で、見るからに考え事をしながら静かに食事をしていた。

 

 現在わかっているのが、「ジェイク」「オリビア姉さん」「ギルマスのルークさん」「メンヘラ女侍」「清楚系クレアさん」「猫耳っ子のココさん」「骨っ子大好きレイン先輩」の八名だ。


「うーん。うつ伏せで寝ている子は『吸血種』のカインで、あっちの『森霊種』の子がリオンね。カインに関してはまだ時間的な問題があるから難しいけど、リオンは単純に『なんてコミュニケーションを取ればいいものか』とか考えていると思うから大丈夫だと思う」


「なるほど、やっぱり情報通は基本よく周りを見ているもんなんですね。猫耳美少女のココさん教えてありがとうございます!ちょっとリオンさんに挨拶してきます!」


「それはほめ過ぎだにゃ~///」


 ふむ。どうやら、ココさんは照れると語尾が猫語になるようだ。覚えておこう。


ココさんのアドバイスを元に『森霊種』のリオンさんに挨拶しに行った。


「食事中の所すみません、自己紹介をまだしていなかったと思うのでさせて頂きたく参りました」

 慣れない笑顔を作りながらも挨拶をした。

 近くに行くとすごいフローラルの香りがして何より、ブロンド色の髪の毛がとても美しかった。


「ええ、構いませんよ。本来であれば先輩の私の方から挨拶をするべきではあったが、要らぬ気づかいをさせてしまったな」

 早朝の湖の様に透き通った美声だった。

 見た目は奇麗系で、話し方は若干の俺様系か……い゛い゛ね゛


 オレにそっち系の趣味はないけど、これがギャップ萌えってやつか。 

 

「いやいや、オレの方から挨拶したくて来たので大丈夫ですよ。名前はさっきルークさんが紹介してくれた通りで、保志間慶といいます。ついさっきこの世界に来たばかりの元フリーターです」


「私の名前はリオン=テンペスト。気軽にリオンと呼んでほしい。分類上は『森霊種』に属していて、<アレス>には一週間前位に加入した新米だ」


 どうやらリオンはオレとさほど入ったタイミングは変わらないようだ。


「マジか! それってほとんど同期みたいなもんだな。と、言っても魔法一つ使えないオレなんかは大してできる事が多いやけじゃないから、その都度頼る事があると思うからその時はよろしくリオン!!!」


 かなり馴れ馴れしい感じになってしまったけど、まぁ、これくらいラフな方がちょうどいいのかもしれないな。


「ああ。私としてもまだ慣れないことが多かったりするからお互い助け合おう。ところで、魔法に関してなんだが、ケイは自身がどの属性に寄っているのかの検査はもうしたのか?」


「検査? なんだそれ?」


「なるほど、中央部に行かずに直接アレスに来たという感じか。正式なギルド加入申請を都市中央部でするんだが、その際に『魔力検査』っという物があるんだ。『魔力検査』は基本的にはその人の魔力属性の偏りや、魔力量、魔法名、適性職業診断など様々なことがわかる」


 どうやらオレのいた時代でいうところの「健康診断」に似ているようだな。


「なぁ、『魔法名』と『適性職業診断』ってなんだ?」


「『魔法名』というのは、便宜上そう呼んでいるだけで特に意味があるわけではないな。簡単に言ってしまえば『二つ名』だ。個人をデータ上で管理している都合上、二つ名があると検索する時に楽なんだそうだ。『適性職業検査』に関しては、ただのサービスの一環らしいけどな」


 「二つ名」とかはちょっと厨二病みたいで気恥ずかしさがあるがまぁ、管理上の都合なら仕方ないか。

 何よりそれがこの世界での常識であるなら従うまでだ。

 適性職業に関しては自分がどう判定されるのか楽しみだ。フリーターだったオレがもし「竜騎士」みたいなすごい適性があったどうしよう! あぁ、ワクワクするな。


「教えてくれてサンクス。 ちなみにリオンの『魔法名』ってなんていうんだ?」


「私の魔法名は【風の狩人】で職業適性は『狩人』だったな。このことからわかるに、結構正確性の高いものだと思う。私は今まで森で『狩人』をやっていたのでね」


「『狩人』かカッコイイじゃんか! 約千年前のエルフのイメージまんまだな。」


 リオンが居れば仮に夜野宿するハメになっても、人狼に襲われなくてすみそうだ。

 指定、リオンはオレ護衛固定で。


「全員が『狩人』というわけではないがな。約半数の『森霊種』は現代科学に魅了されて自身を『土科族ドワーフ』と名乗って、人類種と一緒に地下帝国にひきこもってしまったしな」


 どうやら「森霊種」も一枚岩というわけではなさそうだ。

 地下帝国というのも気にはなるが今は置いておこう。


「俗にいう『人類種』かぶれってやつか。今度時間があるときに詳しいことを聞かせてほしくはあるな。今回はちょっとこの後ルークさんに色々質問したいことがあるからさ」


 「謎の白い空間」や、オレの持つ【愚者】のアルカナなんかについても聞かないといけないしな。


「あぁ、構わないよ。ケイとは今後も長い付き合いになるだろうしな」



 軽く挨拶を済ませ、ルークのいる席に向かった。


「こんばんは、ルークさん。ちょっと色々と質問があって来たんですけど今大丈夫ですか?」


 ワインを飲みながらゆったりしている姿はまるでどこかの貴族の様に見えた。

 あっちでバカ騒ぎしている、ジェイクやレイン先輩にも少しは見習ってほしいものだ


「構わないよ。それで何を聞きたいのかな? 明日のギルド申請手続きの事だったらジェイクに任せているけど」


 流石のルークさんだ、もう既に手を回してくれていたようだ。


「親切にありがとうございます。今回質問したいのはオレ個人の事でして、ルークさんは時間的な概念とは隔絶している空間ってご存じだったりしますか? 凄い真っ白な空間だったりするんですけど……」

 あの謎の空間について質問をしてみる。


「ジェイクからある程度の情報は聞いているよ。私も気になって調べてはみたけどほとんど情報は見つけらなかったね。現状は、"誰かが"情報を意図的に抹消、もしくは規制しているのでは? と考えているよ。というのも、君の言う『白い空間』についての情報は、かなり高いセキュリティランクに属していて見ることが出きなかったんだよね。因みにその空間の名は『裁定の間』である可能性が高いと思う」


 ————裁定の間か、「最低の間」に改名した方がいいんじゃないか? でもまぁ、確かにあのウムルとか言うやつは「君にとっては裁定者でもある」とか言っていたな。


「それで君の『アルカナ』についても話しておくと、現状【愚者】のアルカナ保持者は君以外には確認できなかった、というのが調べた結果だね」


「まじか、ちなみにアルカナの種類や使い方ってわかったりしますか?」

 今後の事を考えるなら使い方を知っておくべきだろう。


「アルカナの総数は種族数×22枚。つまり、合計で154枚あるのではないか? と予想されているね。わかりやすく言うなら『人類種は白の愚者』『獣人種は赤の愚者』『森霊種は緑の愚者』の様に種によって色が違っていて、個体によっても若干の柄の違いがあるみたいだね。」


 自身の【愚者】のカードを確認してみる。

 確かにカードの縁が白で覆われていた。


「『アルカナ』の使用方法に関しても、現状これといった決まりはないとされているね。どこからともなくカードが現れて、触れたり、話しかけたりする事によって色々な事象を発現させたって事が確認されているね。そもそも、『アルカナ』とは何か?の明確な答えが出てない現状を鑑みるに仕方のないことだとは思う。今世界各地で『アルカナ』保持者を国単位で囲っているのを見ると、かなり危険な感じはするけどね」


「それてつまりアルカナ保持者の有無によって国家間のバランスが崩れるって事ですか?」


「そうなるね。アルカナ保持者は基本的にはかなりの戦力を持つことが多くて、特にここ中央都市の七魔聖帝『黒十字教会』のトップはかなり強い。彼は【神官】のアルカナを所持していて、魔法名が『血濡れの月ブラッディムーン』。この二つから『血濡れの神父』と呼ばれ恐れられたりしているんだよね」


「こっわ! 『血濡れの神父』とか絶対ヤバいやつやん! それ絶対近づいちゃいけないやつですよ! とりあえずは、アルカナの使い方に関しては追々自身で色々試す必要がありそうですね」


「今、試してみたらどうかな?」


「あー確かに。皆がいる時の方がアドバイスとかもらえますしね」

 ポケットから御守りを再度取り出し「ふぅー」と息を静かに吐き集中する。


 そして覚悟を決めてから大きく叫ぶ。


「アルカナ!!! 」

 

——————しーん。


 某有名な「〇ルソナ」と同じ用法で試してみたが効果はないようだった。


「ダメか。ワンチャンあるとは思ったんだけどな。よし、次行くか」


「覚醒せよ我が力!。 呼応せよ我がアルカナ!。 はああああああッッッ!!!! 」


——————しーん。


「卍〇!!!」


——————しーん。


——————しーん。


——————しーん。


「くっそ!駄目じゃねぇかァッッッ! 」


 その後も、パッと思いつく必殺技を色々試してみたがどれも変化は見られなかった。


「見たところ何か他の条件が必要みたいだね。とりあえずは、焦らずに行こう。君はまだこの世界に来てから一日と立っていないわけだしね」


 ルークさんの言葉を聞いて今日は諦めようと思ったその刹那、カードがゆっくり目の前で浮遊し輝き始めた。


「うわっ! まぶしッ! どうなってるんだよ!」


 光が頂点に達したであろうタイミングでカードから何やら色々な道具が出てきた。

 それらが音を立てずにゆったりとテーブルに着地し、タイミングを見計らったかのように【愚者】のカードは元に戻りそして"消えた"。


「え!? まって御守り消えたんだけど!? ってかこれなんだ?」


 良く見たところ「一mほどの細い木の棒」「王冠」「銀色の鍵が付いたネックレス」「白い杖」「白い布袋」「花柄の大きい一枚布」「白い太陽の付いた天秤」があるのがわかった。


「うーん。ただのアンティーク品の様にしか見えないけど、これが『物凄い戦力』ねぇ……」


「もしかしたら、戦闘用のアルカナではない可能性があるかもしれないね。話によると、こういった魔導具が出ることもあるとは聞きくからね、ただ、結構量がおおいですね。すこし調べてみましょう」


 どうやらアルカナは基本的にはその所持者にしか触れないらしいので、自分で一つ一つ確認することになった。


「この木の棒みたいなやつは普通の樹の棒だよな。王冠とネックレスを試しに装備してみたけど特に変化なしと。杖と花柄の布も普通だな」


 王冠やネックレスのように、身に着ける系の物ですら反応はなかった。

 最期に小さな布袋を確認しようとした時に一つの可能性を思いついた。


「……待てよ。まさか!」


 謎の木の棒を布袋の口の方からゆっくりと中に入れてみた。

 絶対に入らない大きさではあったが、みるみる飲み込まれていき最後にはその姿を消した。


「いやこれ……四〇元ポケットじゃねーか!」


 そう、あの国民的なアニメに出てくるアイテムに似ている事が分かった。


 その後、先ほど入れた木の棒を取り出そうと試みた結果。思い浮かべながら手を突っ込む事で、ちょうど手元に出現することが分かった。

 他にも口より大きな椅子を入れてみようとした結果、吸い込むようして収納する事ができ、出した後も元の形を保ったままであった。


「ルークさん、おそらくですけどこの布袋は『何でも入れて置ける魔法の布袋』の可能性が高いですね。中にあるときは時間の経過はあるのかとか、液体状の物を入れたらどうなるのか、は追々検証が必要ではありますけどね」


「かなり便利な能力ですね。現状道具を収容する事の出来る魔導具は存在していますが、入口より大きい物まで収容できる物は今回初めて見ましたね。命名するのであればそう『貪食袋グラトンバッグ』といったところでしょうか」


 貪食袋……可愛くないな。

 個人的には、「なんでも入るちゃん☆」が一番しっくりくるんだけどな。

 まぁ折角だし、ここはルークさんの命名を有難く使わせてもらうかな。


「これいったいどこまで入るんですかね? ってか……」


 唐突な眩暈と脱力感が身体を襲う。


「……もしかして、これ使うたびに魔力を消費してたりするやつじゃないですか?」

 

「見た感じそのようだね。君はまだこの世界に来て日が浅い、体が魔力を消費していることに気が付いてないんだろうね。そのうち感覚として認識できるようになるからそれまでは無理しない方がいい。どうやら君のアルカナは、一度出してしまえば能力を使用するまでずっと具現化している『装備系』のようだから、一旦今日はもう能力の使用はやめておいた方がいいね」


 おそらく、物体を出し入れしたタイミングで魔力の消費が行われたんだろうな。

 感覚的ではあるが、どうやら物を入れっぱなしの状態での魔力消費はない様だ。

 冷蔵庫君も少しは見習って電気なしで働いてくれよ。


「……そうします。最後に場所を取りそうな物を『貪食袋』に入れて今日は食事に戻ろうかと思います」


「明日は朝からジェイクと一緒に中央部に行ってギルド加入の正式な手続きをしてもらうから、あまり暴れすぎないようにね」


 ルークの助言を聞いた後「銀の鍵が付いたネックレス」以外はすべてしまい、宴へと戻った。

 王冠は目立つけど、ネックレスくらいなら大丈夫だろう。それに、いったいどのタイミングで能力を発揮するのはわからないから、できるだけ身に着けてはおきたい感はある。


 この日は、途中夜桜さんとクレアさんの喧嘩を軽く止めつつ、レイン先輩とジェイクの絡み酒に付きあいそのまま寝落ちした。


 途中、誰かに部屋まで運ばれている感じがしたが、結局そのまま意識を睡魔に奪われた。


 

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