第7話 アルカナ
建物内にも関わらず、扉の向こう側に全く違う景色が広がっている事に、驚きを隠せずにいた。
古城の様な建物まで200メートルはあるだろうか。
二人は並んでギルド<アレス>に向かう。
「凄いな。これマジでどうなってるんだ? どこでも〇アやんけ! ってまぁ、確かによく考えたらオレからしたらここ31世紀だもんな……」
「ふふふ、これは指定した場所とを繫げることのできる魔法の扉よ。何をやるにしても中央都市に来なくちゃいけない。だけど、それだと人口が過密状態になっちゃうから、拠点は別の場所に置いて、用があるときだけ来ましょうね、ってのがここでは暗黙の了解になっているのよね。」
成程な、オレのいた時代も、都市部の一極集中が問題になってたっけな。
まぁ結局、北海道と福岡を都市部化して、人口分散させていたんだっけな。
その後、オリビアと一旦別れ、古びた城の様な建物に向かう。
「ところで、ジェイクはなんで飛行船で移動してたんだ? 空間移動できる便利なもんがあるなら、こっちを利用した方が時間効率的にはいいんじゃないか?」
これだけ便利なら、国家間の公共の場にいくつか置いてあっても不思議ではない。
「単純に扉の数と通行費用の問題だな。空間を繫げる魔法ってのは、ここ十年位前に発見されたものでまだ普及していないし、そもそも"これ"がどういう原理で機能しているのかもまだわかってないんだよな。結果、安全保障条の問題で、公共の場での設置はまだ疑問視されてるって感じだな」
解析が終わるまでは、利便性よりもリスクケアの方を取りましょうよって事か。
「怖ッ! ……何かあっても自己責任にも関わらず、なんでそんな得体のしれない魔法を皆使えてるんだ?」
「リスクはあるけどこればっかりは仕方ないな。ほらここに来る途中、宙に浮いている建物が多かっただろ? つまりは、もう使える土地が空中しかない位には限界が来てたんだよな。土地を開拓するのにも他の国々がそれを認めないし、なにより"皆"がその辺をわきまえてるからこそ、今の平和が保たれているわけだしな」
「なるほどね、確かに特例を認めたら、他の国々も国土を拡大し始める可能性は高いよな」
「そうだ。ここに来る前に暗闇の森があっただろ? あれは俗にいう非干渉地帯で、国家間には必ず設けられてるスペースで、もしどちらかが下手に干渉でもしようものなら、七魔聖帝が武力で叩き潰す仕組みになってる」
この世界では『魔法』という概念がある以上は戦争をしない事が一番の戦略って事か。
こっそり空間つなげて、兵器ぶっぱなんてされたらたまったもんじゃないだろうし、そりゃ、公共の場に設置する事を軽率には決められないよな。
「そういや、空間を繫げる魔法がここ十年で見つかったって言ってたけど、結構時間がかかったんだな。個人的には誰かが創暦10年位から探してそうなイメージがあるけど」
時間短縮の様な作業効率を上げる魔法が、今になって見つかるってのは違和感がある。
「あぁ、実は結構訳アリでな。というのも俺はそれを"魔法"と呼んではいるけど、実際のところは、今までの魔法とは全く違う力って可能性があるんだよな」
「ん? オレの中ではわかりやすく、大まかに『科学』『魔法』の二種類に分けてたりするんだけど、それとはまた別の概念って事? 」
「そうだ。ここ十年位前から、正体不明の力が各地で若干数報告されていてな。最初は未確認魔法とされていたんだが、どうやら従来の魔法とは少し違っていて、今までの魔法ってのは『自身の魔力を燃料にして外界に対して干渉する力』だったのに対して、最近発見されたのは『自身の魔力とは別の"何か"を使って、外界に対し干渉する力』だったんだよな」
ぱっと内容を聞いてもよく違いがわからなかった。
魔法の扉って名称なのに、魔法じゃなくてアルカナという力が関係してるって事か? なら、アルカナの扉って名称じゃないとおかしいような気がするけどな。
「ンンン? どういう事だってばよ?」
「つまり、全くの謎って事だ」
「おいいいい! 全く謎の力で出来た扉をオレは通ったのか? もし、異世界から来た人は"死にます"とかだったらどうしてたんだよ!」
かなり極端な話ではあるが可能性は0じゃない。
もし、魔法の扉が「異物」を弾くように出来ていたら、オレはどうなっていたかわからない。
「そん時はそん時だ。ちなみにその謎の力は、発現者全てに昔人類種が使っていたタロットカードに似た物が出現した事から、便宜上【アルカナ】と呼んでいるな。」
一瞬、頭の中が真っ白になった。
……どう考えても、オレが持っている"あれ"が関係してくるやつなんじゃないのか!?。
いや、決めつけるのはまだ早い。
そう思いジェイクにポケットからお守りを見せた。
「な、なぁジェイク……これって何かわかるか?」
しばしの沈黙の後やや震えながらこちらをみる。
「……は? ええええぇぇッッッ!!! アルカナやんけ!!!! 実物は初めて見たぞ!?!? なんで持ってるんだ!?」
はい。案の定でした。
あのクソ"ローブ"が大切なものって言ってたけどそういう事か。
成程。チート武器や能力の配布がなかったのは"お守り"が既に"チート"だったって事か。
ならば、俺がここでいうセリフは"あれ"しかないだろう
「"俺また何かやっちゃいました^^;?"」
「いやいや。確かに全くの謎ではあったけど、この世界一日目のやつが持っているのは正直驚いたわ。どういう効果のカードなのか俺にはわからないけど、まぁ詳しいことはギルマス辺りが知ってるかもな」
どうやら会話に夢中になっている間に、鼻先の距離まで城に近づいていたようだった。
―――近くで見るとやはり西洋の廃城の様な老朽感があり、どことなく不気味さを醸し出していた。
目算で三階建てといった感じで、一部やや高い塔の様な所が見られた。
「ただいまあああああぁぁぁぁぁl!!!!! ふううううううっっっ!!!」
重そうな扉を開き馬鹿大声で挨拶をした。
やめろこっちが恥ずかしくなってくるから。
「おかえりなさいジェイクさん!!! 」
「全く、あなたは簡単な依頼一つスマートにこなせないのですか? これだから野蛮人は」
「おかえりなさい 2037、2038、2039........」
「Zzz........」
「てめえぇぇぇぇこれは俺の肉だろうがよぉぉぉ!!!」
「はぁ? 私がオリ姉に作ってもらったんだよ! 放せオラッ!!!」
うわぁ........個性の殴り合いか? といわんばかりの光景がそこには広がっていた。
内装は、かなり大きめなホール状の空間で、中央に縦長の強大なテーブルが置かれていた。
さらに、左右に通路が二つずつ見え、ちょっと離れた右奥に、趣味のいい鉄製の扉が設置されていた。
ホールの先には、なにやら赤い二本の槍がクロスしているかのようなマークが飾ってった。おそらく、このギルドのマーク的な奴だろうか。
他の面々を確認してみる。
さっき森にいるときに見た青髪の少女や、耳が尖っている小奇麗な金髪紳士、何故か素振りをしている黒髪の美女、フード被ってうつ伏せで地面に寝てるやべーやつ、肉を取り合う犬耳男に猫耳女。
ってかなんで、木刀振ってんだよ! 時代錯誤にもほどがある。
「ジェイク君。もしかして、この方たちが<アレス>のメンバーなのかな?」
入ってきた扉に対して向きを変える。
ジェイクはオレの腕をがっつりと掴みながら言う。
「あぁそうだ。設立してすぐ、それぞれが簡単なクエストをこなしてきて今丁度、再度皆集まってきたって所だな。俺が遠出している間に加入したやつとかもいるから何人かは俺も初見だ。」
「なるほどね........」
どのみちここを出ても行くところなんてない.......覚悟を決めるときか。
バイト戦士時代に培ったコミュニケーション能力をここで発揮する!
大きく息を吸い込み多種多様な面々に対して顔を向ける。
「ハロ~ エブリワン! マイネームイズ ケイ ホシマ! ミーと仲良くしてくださいネ!!!」
勝った!
古今東西、初手"元気な挨拶"は最強の一手とされてきた。
初対面で友好的な態度をする相手を、一方的に攻撃する事はまず考えられない。
普通の感覚であれば、まずは状況把握の為に話を聞く時間を設けるはずだ。
そう思うや否や、顔面に肉の塊がフライハイして来て、そのまま開いた口の中に落ちた。
どうやら、千年後の肉は飛ぶらしいな。
「あっつ!!!! ってかウッマ!!! なんだこれ!!!」
租借するたびに口の中でほぐれていき、内包されている肉汁が口内でダンスを踊る。
数時間飲まず食わずに移動してきた、オレにとっては殺人的な美味しさであった。
「ふふん♪ どう? オリ姉の料理は最高でしょ!?」
オリ姉とはおそらくオリビアさんの事かな。
あの人、女子力めっちゃ高いな。
「う゛ま゛い゛」
「そっか! よかった! 私の名前はココよろしくね!」
そう言うと猫耳娘はウインクを飛ばしてきた。
可愛い。
「おいおいおい! それは俺の肉だったんだぜ? どう落とし前つけてくれるんだよおおんっ?」
如何にもガラの悪い犬耳をした青年が詰め寄ってくる。
「あん? なんか不満そうだなぁお前。 おおおおおんッ?」
「いやいや、誤解だって肉の方からオレの方に飛んできたんだし、不可抗力ってもんでしょ?」
「うるせぇ! オラ俺の肉吐き出せやぁぁぁ!!!」
あっ........こいつ人の話聞かないタイプだわ。そう悟ったや否や、ジェイクが後ろポケットから何やら取り出し上に投げる。
「わおーんッッ!!!」
「うわッ なんだ!?」
びっくりして空中を見ると、そこには「骨をくわえる犬耳男」の姿があった。
「えぇ........」
犬やんけ。
「レインお土産だ。」
「チっ、わぁーったよ。お前もあれだ、なんつーの?……いきなり詰め寄って悪かったな」
若干の謝罪をした後、そのままさっきまでいたテーブルに戻っていった。
オレは何とか助かったと胸をなでおろす。
「いやぁ、助かったよジェイク。 サンクス!」
「おうよ! 困ったときはお互い様だ! 」
ジェイクと軽くやり取りした後に、こちらの様子をうかがいながら、青髪の少女がコソコソと近づいてくるのが見えた。
「おうクレア! さっきは連絡と伝えてくれてありがとな。」
いきなり名前を呼ばれて、一瞬びくっとした後に柱の裏から、青髪少女が出てきた。
「はい! ちゃんとクレートさんに伝えてきたので大丈夫かと思います。あと、……そちらの方はどちら様なんでしょうか? ホシマケイさんとおっしゃってましたが」
オレに対して、やや警戒心を持った眼差しを向けながら少女は問う。
「そういや、クレアは若干の人見知りだったな。こいつはホシマケイ。さっき異世界から来たんだってよ。俺の直観がギルドに連れていけって言ってたから持って帰ってきた」
「成程、異世界から来られた方でしたか。空間を繫げるアルカナがあるのだから、異世界とを繫げるアルカナがあってもおかしくはないですよね」
「初めまして、私の名前はクレアと申します。アレスにて騎士見習いをさせてもらってます」
さっきまでが、動物園かの様に騒がしかった影響か、突然の丁寧な挨拶に面を食らった。
ってか、騎士見習いってマジで言ってんのか?
オレのいた時代よりもだいぶ前の概念だと思うんだが……
まぁ、可愛いからいっか。
「初めまして、保志間慶です。いやぁ~普通の人がいてよかったです」
「おおんッ?」
……あっ、やっべ。
「いや~このギルドは皆さんカッコよくてびっくりしましたよ」
こちらを睨む視線は消えた。どうやらまんざらでもなかったようだ。
「おやおやおや、人類種の方でしょうか? 私の名前は、夜桜 葉月と申す者です」
丁寧な挨拶をしながらクレアさんの"前"に出る
「……葉月さん? 今は私が挨拶している時ですよ? なんでしたっけ、刀とかいう"玩具"をあっちで振っていたらどうでしょうか?」
「うふふ、これだからロマンに欠けるロングソード厨は困りますね。貴方こそあっちで"騎士ごっこ"でもしていたらどうですか?」
「「……」」
さっきまでの優しそうな雰囲気はもうそこにはなく、二人とも笑顔のまま罵りあっていた。
丁寧な言葉ではあるけど、ぶっちゃけ「怖い」
今にも決闘が始まるんじゃないかというタイミングで、奥にある大きな扉がゆっくりと音を立ててと開いた
「やぁ、おかえりなさいジェイク。おや?そちらの青年はもしかして新しい加入希望者かな?」
金髪黒縁眼鏡の優しそうな雰囲気をした、the好青年が鉄扉の向こうから現れた。
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