第6話 魔術
窓からは巨大なモニターが見え、多種多様なケモ耳を携えた、アイドルの様な見た目の女の子達のプロモーションが見えた。
さらにその横では、そのアイドルたちが踊っている立体映像が映し出されていた。
目線を下にずらすと、道路はプラスチック?の様なもので出来ており、デコボしている箇所は見受けられない。端正で無機質といった印象だ。
走る車の様な物は排気音などはなく、かなり円形状な見た目をしていた。
空中では、浮いている車がいくつかあり、どうやら空中にも信号機はあるようだ。
なんなら、自分で飛んでいる者もいるほどだ。
自由すぎんだろおい。
自身の記憶にある東京とは全く雰囲気が違っていて、上空には機械の様な施設が浮いており、どうやって浮遊しているのかさっぱりわからない。
どうやら、この都市では空中にも建物があるようだ。
浮遊する丸型の乗り物から降りギルド<アレス>に向かう二人がそこにいた。
一人はだぼだぼパーカーのいかにも冴えない感じの黒髪の青年、保志間慶。
もう片方は引き締まった筋肉に赤髪、褐色肌の「アニキ」と呼ぶのが似合いそうなイケ男ジェイク=リード。
「なぁ、あの車ってどうやって浮いてるんだ?」
無音で走る否、移動する円形状の車の様なものを指さして質問する。
「ん? あれは反重力魔術で浮いてるんじゃなかったっかな」
成程、人類は千年後には、重力すらコントロール出来るようになってるのか。
「へー科学の力じゃないんだな。そういえば、『魔術』と『魔法』の厳密な違いってあるのか?」
「反重力魔術は化学だぞ。 それに基本的には『魔術』も『魔法』も同じものだな」
「『魔術』は一定の規則に則って、予め決められ条件に合わせて魔術を機械的、科学的に発現させる公式みたいなやつで」
「『魔法』ってのは魔術を機械的ではなく自発的、応用的に活用するときの名称って感じだな。場合によって出力を調整でき、なにより規模が大きくなりがちってのが主な特徴だ」
「まぁぶっちゃけ、現代における『魔法』ってのは、ほとんどが解明されていて『科学』の一分野って感じなんだけどな。科学者曰く、『第七感』の自発的な公使を指す言葉らしいぜ。」
ジェイクの話を聞いている間まるで、オカルト番組を見ているかのような気分がした。
『魔術』は回路で『魔法』はマニュアルって感じか?
まぁ、そのうち分かってくる来るだろうから、今は置いておくか。
「な、なるほど。やっぱり、まだにわかには信じがたいな。ちなみにジェイクは魔法を使えるのか?」
「使えるぞ。」
そう言うと、ジェイクの身体の周りから、何やらバチバチと音が聞こえてきた。
「ほれ、俺の手を少し触ってみな? ビリビリすっから」
若干の恐怖心はあったものの「体験してみたい」という、好奇心からジェイクの手を軽く握る。
瞬時、触れた指先に軽い電流が走る。
「あ゛あ゛あ゛あ゛……なるほど、原理はわからないけどなんとなく『魔法』って感じがしたわ」
そう、理屈はわからないが"本能"でこれが魔法であると感じた。
「電気的な感じがしたんだけど、って事はジェイクは『竜人種』なんか? 確かさっきの説明だと竜人族は『雷』の属性があるって言ってたよな?」
「いや、俺は『鬼龍族』だな。 鬼龍族ってのは『竜人種』と『人類種』の混血の事を指していて、赤い髪の毛と赤い目が特徴的な種族だな 」
「へぇ~ でもなんで『鬼』なんだ? あんまり鬼って感じはしないけど」
一瞬驚いた後にニャッと笑いながら答える。
「その昔、竜人族との子供ってのは人類種側から怖がられたんだよな。何せ半年間、種族間で殺し合いしてた訳だからな。身体能力や魔法適性が純血の人類種より高くて、竜人側に寄ってる個体は角が生えていたりもするからな。それが人類種でいうところの『鬼』に見えたらしいぜ。」
「……なんかごめん…もしかしてあんまり触れない方がよかったやつか?」
恐怖は時として差別を生む。流石の童貞22歳でもその辺は察することが出来た。
「いや大丈夫だぞ? 寧ろ『鬼』ってカッコよくね? とすら思ってるんだが?」
「おい! オレの心配を返せよ!!!!」
「ハハハ 勝手に勘違いしたのはお前だろ!」
とまぁ、そんなやり取りをしつつ、ギルド<アレス>の前まで到着した。
周りの建物とは、若干の時代のズレを感じさせる古典的な見た目をしており、ザ喫茶店の様な風貌をしていた。
わかりやすい表現をするのであれば「スマホの横にガラケーがある」というのがしっくりくるだろうか。
「……なぁ、ジェイク。........もしかして<アレス>って老舗店かなんかだったりするのか?」
個人的にはもっとこう、「未来的」な感じを想像していた。
「言いたいことはわからなくもないが、ギルド<アレス>は設立してからまだ三ヶ月も経ってねーぞ?」
『ま!?』
「結構古風な見た目なのはギルマスの趣味らしいぜ。まぁ、俺は結構まったりと寛げるから好きだけどな。とりあえずは中に入るぞ、あぁその前に先に言っておくぞ」
————若干の間を開けてから、真剣な顔でオレの顔を見る。
「この世界は基本的には平和だ。だけど、いざという時に力のないものは何もできず簡単に淘汰されちまう世界でもある。」
「ギルド<アレス>のモットーは『救う三原則』にこそにある」
(1)「もし、目の前で泣いている人がいれば手を差し伸ばせ」
(2)「もし、目に見えない所で苦悩し泣いていると知ったら、余計なお世話であっても解決できるだけの行動を起こせ」
(3)「そしてそれら全てが偽善であると罵られてもなお、自分の正義を信じて手を伸ばし続けろ」
「もし、この先アレスの一員として生活していこうと思うなら、この三つだけは忘れないことだな」
そうこの先の「何か」を確信しているかのようにジェイクは語る。
オレは少し考えてから真剣に答えた。
「……正直いきなりそんなことを言われても、オレ自身に誰かを救う事が出来るのかなんてわかんない。でもちゃんと考えてはみるよ。どのみち今何をやればいいのかなんてわからないしな」
人助けというのは、自身が思っている以上に大変な事だ。
時には「誰か」の為に、自身を犠牲にする選択を迫られる事があるだろう。
その時に、オレは「誰か」の方を選べるだけの覚悟があるのだろうか?
……考えても答えは出ない。
その時になってみないとわからない事だと思うから。
「ハハッ!なんとなくお前という人間が少しはわかった気がするな。まぁ、あれだ、そこまで心配する必要はないと思うぞ?」
「いやいや何を根拠に言ってるんだよ。こちとら異世界生活一日目だぞ」
「いいことを教えてやるよ。実は、俺の"直観"ってよく当たるんだぜ?」
ジェイクは自信満々にそう言うとギルドの扉を開いた。
————カランカランと鳴る鈴の音を聴きつつギルドの中に入った。
木造でできた趣味のいい内装をしていた。
控えめな量の太陽の光が差し込んでいて、カウンターの近くには美しいシャンデリアが何個か吊るされていた。
「あぁ^~〇がぴょんぴょんするんじゃあ^~」
無意識のうちに口から言葉が出ていた。
その刹那カウンターの向こう側から、何かが物凄い速さで近づいてくるのが見えた。
「あぁ~らジェイクちゃんおかえりなさい♡」
2mはあるんじゃないか? という巨体に奇抜な衣装、それに濃い赤い口紅をした黒い犬耳を生やした男が声をかけてきた。
「それにこちらの可愛い坊やはジェイクちゃんのお友達かしら?」
筋骨隆々のいかにも"そっち系"の人であろう事がわかる。
突然のインパクトで言葉を失っている間にジェイクが答える。
「そんなところだな。セントラルに戻ってくる時に魔獣に襲われてる所に出くわしてよ、助けた後そのまま拾ってきた。今日異世界から飛ばされてこの世界には来たばかりらしいぜ。」
まるで"いつもの事"であるかのように狼狽える素振りを見せずに事を説明する。
「なるほどねぇ、事情は分かったわ。私の名前はオリビア=ウィリアムスよ♡。このギルドの総料理長兼管理人を務めさせてもらっているわ。気軽に姉さんと呼んでね♡」
だからピンク色のエプロンをつけていたのか!
「オレの名前は保志間慶です。22歳でフリーターやってました 」
「ケイちゃんね、よろしく♡ 管理人としてケイちゃんの立ち入りを許可するわ。」
特にこれといった質問をされたりすることなく話が進んだ。
やはり、この世界では異世界人というのは珍しくはないようだ。
「え? 軽率じゃないか? どこの馬の骨かもわからないんだぞ?」
「うふ♡ こう見えて私は"鼻"がいいのよ。ケイちゃんは大丈夫な匂いだからオーケーよん♡」
一瞬悪背筋が凍る感覚がした。
「とりあえずは、ギルドホールにいって挨拶を済ませちゃいましょう♡」
おもむろにカウンターのすぐ隣にある扉に近づき、再度こちらを見る。
「ギルド<アレス>にようこそ! ケイちゃんを歓迎するわ♡」
そう言って扉をゆっくりと開いた。
扉の先には外見からは想像もできないくらい広々とした草原が広がっていた。
さらに、驚くこと老朽化した大きな古城の様な建築物がそこに"建って"いた。
「……え? どういうこと? ここ、室内だよね?」
やはり、2030年における常識というのは最早時代遅れであった。
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