第5話 魔法


 だだっ広い高原を抜け、都市の入り口に到着した。

 さっきまでゼ〇ダやってたのに突然、近代化された世界が目の前に広がり、あまりの落差に風邪をひきそうだった。

 メカニックな材質で出来た大きな門をくぐり中に入ると、円柱状の大きすぎる建物が一番に目に入ってきた。

 ぱっと見でもあの建物が重要であるという事が分かるほどだ。

 ジェイクの話によるとこの都市は七種族会議用の建物を中心に円形状に広がっており、それぞれの区画に六分割された構成になっているらしい。


「なぁ、ジェイク。もしかしてここから見えるあのバカでかい建物が、円卓がある所だったりするのか?」


「そうだな、あれが円卓会議用の建物だ。あそこの一階でギルドの申請を受け付けてるんだよな。基本的にギルドに加入する為には、ギルマスの承認サインが必要になってくるから、まずはうちのギルドに向かうぞ。」

 

 はぐれない様にジェイクの後を付いていく。

 とんでもない数のモニターが、所狭しと敷き詰められた大きめの空間に到着した。

 端的に行ってしまえばthe空港といった感じの印象だ。

 そして、多くの者が足早に行きかっていく場面を見て驚愕する。


『わっつあふぁっく!?』


 驚きのあまり、恥ずかしい似非英語をかましてしまったがそんなことは気にならない。

 何故なら、それ以上に想像を絶する光景が眼前に広がっていたからだ。

 黒いスーツを着た羽の生えた女性や、とってつけたかのような犬耳の生えた若い男性など、多種多様な見た目をした存在が早足に行きかっていた。


「ジ、ジェイク!!!! 彼らは俺たちと同じように普通に会話できたりできるんか!?  ってか襲ったりしてこない???」

 

 軽くにやつきながらもジェイクは答える。


「基本的にこっちからケンカ売らなければ大丈夫だぞ。ただし、腹が減ってたりしたら喰われるかもな」


 ややからかうようにニマニマしながらこちらを見ている。


「あばばばばばばb。。。。。」

 泡を吹いて倒れる22歳元フリーター。


「HAHAHAHA! 冗談! 冗談だよ!」

 ジェイクが手をたたき爆笑している。


 こちらの様子に気が付いたのか、猫耳の職員が話をかけてきた。


「あのぅ お客様どうかされましたか?」

 倒れたオレの顔をしゃがみながらのぞき込んできた。


 その一瞬のタイミングをオレは見逃さなかった。

 オレの脳みそはかつてないほど回転し、その光景、『エデン』の様を脳に焼き付けた。

 つまりは、そう水色だった。何がとは言わないが。

 結構攻めている色ではあるが、オレは好きだ。

 

 「お姉さんありがとうございます。おかげで正気に戻りました。」

 決め顔+イケボで猫耳お姉さんの方を向き感謝の言葉を述べた。

 

「よかった! もし、また気分が悪くなったようなことがあれば、受付にお申し付けください。」

 軽く一礼をしそのまま猫耳お姉さんさんは自身の仕事に戻っていった。

 やっぱり、猫耳はいいね。


「お前........最低だな........」

 いまだににやける変態に対して軽蔑を含んだ視線を送ってくる。


「……ジェイク知ってるか? 時にパンチらってのは如何なる良薬よりも効いたりするもんなんだぜ」

「今は効かないかもしれないが、いずれパンチらは不治の病をも看破するのやもしれん」

 

「ん?不治の病なんてもうないと思うが?」




「........やっぱり時間の経過ってスゲーわ」

 

 この世界の異様さとすばらしさの両方を軽く堪能しつつ、二人は受付で滞在許可証を貰い空港の様な場所を後にする。




 建物を出てすぐに、空中に浮かぶ新幹線に似た乗り物に乗車しギルド<アレス>に向かう。


「あれだな。この世界の住人じゃないのに普通に滞在許可おりるんだね」

 元居た世界ではパスポートが必要なのに対して、ここではそういったものが必要ないことに驚き質問をする。


「ケイがいた世界がどういう感じだったのかは知らないが、こっちの世界だと基本的に出入りは自由なんだよな」

「大きな理由として、この都市で犯罪なんて"大それた"事するバカはまずいないってのがあるな」

「セブンスセントラルには七魔聖帝の一つ『黒十字教会』ってのがあって、悪質な犯罪行為を行った場合、まず間違いなくこの都市から生きては帰れないだろうからな。」


「いや待って! それちょっと怖すぎない!? 」

 あまりに物騒すぎる法律モドキを聞き股間が震える。

 つまりは、重犯罪者は極刑って事か!?


「最初の方はそういった意見が多かったらしいぜ? ただ、出入りがほぼ自由なのをいいことに、過激な思想派のテロ行為や、重犯罪者の亡命先になって治安が悪化しちまったってのが、世論を動かしたらしいぞ」


「だったら、出入りをもっと厳重化すればよかったんじゃないか?」


「そういった意見とかもあったらしいが、種族間差別になりかねないってことで却下されたらしい」


「うわ........千年後たってもその辺は今も昔も変わらないんだな」


 確かによくよく考えてみたら多種が共存する社会において『一定の基準』を設定するのは難しいところだよな。

 話に聞く『吸血種』の血を吸う行為は吸血種からしたら「食事」だけど、ほかの種族からしたらただの「殺傷行為」だもんな........


「そういやなんで『教会』なんだ? 教会ってのは祈る場所だと思うんだけど。もっと超戦闘隊第一部隊みたいな攻撃的な名前の方が適当じゃないか?」

 

「詳しいことは俺も知らないが、円卓会議発足時に『人類種』の中で一番力を持っていたのが教会だったらしくて、その名残が続いてるって話を聞いたことはあるな」


 まぁ、圧倒的『災厄』を前にして人間にできる事と言ったら、せいぜい「神様に祈る」事くらいだろうからな。


「ふーん。つまりは、中央都市は『人類種』の七魔聖帝が担当してるってことか。結構重要そうな都市だから、一番力のある種族が担当した方がよくない?」


 家と銀行のセキュリティの硬さが違うように、都市部の様な重要性の高い所は、一番硬くしておかないといけないのは自明の理である。


「そういやまだ『魔法』について話してなかったな」

 ジェイクはそういうと人差し指を立て魔法についての解説を始めた。


 【魔法】


 この世界における魔法には大きく分けて7つある。

 『無属性』『火属性』『水属性』『土属性』『雷属性』『光属性』『闇属性』

 

 『無属性』は分類不可能な属性で効果に規則性はない。原則人類種にしか使えない。

  無属性所持者は全ての属性に適性があり、他属性使用時は50~70%ほどの出力が出せる。


 『火属性』は獣人種

 『水属性』は海洋種 『氷属性』吸血種

 『土属性』は森霊種

 『雷属性』は竜人種

 『光闇属性』は天魔種


 上記の様に種族によって使える魔法の適性はある程度は決まっている。

 過去の血縁に人類種が一人でもいる場合は理論上どの種族でも魔法適性の縛りは受けないが、血の濃さによって魔法適性の偏りは出る。

 そして、属性の合わせ方によっては、全く新しい魔法が生まれたりもする。

 


「とまぁ、こんな感じだな。何か質問はあるか?」

 

「つまり、人類種の血が濃いやつは全属性バランスよく使えるけど、出力はほかの種族よりも出ないザ器用貧乏型で。竜人種の血が濃いやつは雷属性の出力がほぼ100%近く使えるけど、ほかの属性の魔法をほとんど使えない属性特化型って感じか? 」


 ややゲーム脳的価値観で一旦情報を整理していく。


「おう。大まかにはそんな感じだな。ただ、種族によってマナの保有量や上限値ってのが違うから、あくまで魔法適性における割合ってのは、参考程度にしておいた方がいいかもな」

「つまり、人類種の雷70%と竜人種の雷5%をぶつけた場合、基本的には人類種側が一瞬で消し炭になってしまうって事だな」


「まじか!? じゃあ、なおさら中央都市を人類種が担当しているのが謎なんだけど」


 当然の疑問だった。


「その辺は簡単な話だな。問題を解決する際に必要になってくるのは対応力だ。事、中央都市においては"あらゆるパターンに対応できる"能力が求められるんだよな」

「つまり、全属性をまんべんなく使える人類種は適任って事だ。それに、黒十字教会のトップは、アホみたいに強いらしいから戦闘能力面も大丈夫だと思うぞ」


「なるほどなぁ。色んなバイトを経験した人と、勉強しかしてこなかった人との、仕事における応用力の差みたいなもんか。」


 数多くのバイトを経験してきた非正規雇用の言葉には、どこか「憐憫」を感じずにはいられなかった。


 そうこうしているうちにギルド<アレス>の最寄り駅に到着したようだ。


「よし。 後もうちょいでつくから寄り道せずに行こうか」


「そうしてくれると助かる。正直もう足がパンパンなんだよな」

 バイト戦士だった影響である程度は体力に自信があった。

 しかし、山の容赦のなさには勝てなかったようだ。

 

「待った。 確かそこのシュークリーム屋に新作が出ていたような」


「おい! ! !」


 きらびやかなお店や奇怪な超高層ビルをしり目にギルド<アレス>に向かうのであった。

 

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