第4話 戦争

~~~~出発する少し前~~~~~~~


 一息ついてそろそろ出発するか、という雰囲気が出たタイミングで、ジェイクは何やらズボンのポケットをまさぐり始めた。

 どうやら出発する前に、まだやることがあるらしいので、しばらく様子を見ることにした。


「ん、あった! あった! そいよっとっ! 」

 ジェイクは、親指の爪くらいの大きさの正立方体状の何かを、空中へと軽く投げた。

 それは、目線くらいの高さに至った瞬間、折りたたまれていたものを広げるかの如く空中で展開を始め、32インチほどのPCモニターサイズまで広がり、空中でそのまま"静止"した。

 

「おおおお! なんだそれ! ってかなんで空中に浮いてるんだ!? 」

 目の前で超近未来的なテクノロジーを見てしまい驚きを隠せなかった。

 どう見ても、重力を無視しているように見える。


「これは、携帯型の通信機器<アリスキューブ>だ。小さくて持ち運びは楽だが、特定の場所にしか繋がらないっていう、少し変わった通信機械だと覚えておくといいぞ。」


 やや得意げに語り終えたと同時に、モニターにどことなくまだ幼さを残した、どこかの令嬢かなという風貌の少女が映し出された。


「は、はい!!! こちらギルド<アレス>です! どッ、どちら様でしょうかッ!? 」


 初めて会社の電話を取った時かのような慌てふためいた声で応答する。

 ぱっと見た感じ十代後半と言った所だろうか。

 それは、群青色のやや波打っている髪を後ろで纏め、髪と同じ色の瞳を持つ可憐な少女だった。


「うい~こちらジェイクだ。都市近くでデカい魔獣を仕留めたから、生産系ギルドの連中に『持って行っていいぞ』って伝えといてくれないか? 現在位置をはそっちでわかるだろ?」


 『魔獣』とかいう物騒な発言が聞こえたが、とりあえずはスルーすることにした。


「はい! 承りまジィ........ 」

 すごい勢いで舌をかんだ。


「……う、承りました。気を付けて帰ってきてくださいね........。」

 顔を手で隠しながら返答する姿に、どこかドジっ子故の哀愁が漂っていた。


「お、おう........クレアの方も気を付けてな。」

 気を使いながらジェイクが話を終えると、静かにモニターがブラックスクリーンになり再びキューブ上に戻った。

 

「さてと、とりあえずは魔獣の後処理の方は何とかなりそうだな。状況が状況ではあったが、殺したまま放置ってのは流石に鬼龍族の名が泣くんでな。」


 どうやら、ジェイクは結構律儀なタイプのようだった。 


~~~~~~~~ここから歩き始めた後~~~~~~~~~~~



「……な、なぁ。 そういえばさっき言ってた魔獣ってなんだ? 」

 つい先ほど聞こえたやり取りの中で出てきたどう考えても『厄ネタ』感あふれる単語について質問する。


「約千年前に<ラグナロク>って戦争が二度発生していて、その時発生した「魔害」ってので突然変異した猛獣の事を「魔獣」っていうんだ。専門家じゃないから詳しいことは知らないけどな」


「???」


 「とりあえずはまぁ、順を追ってこの世界についての簡単な話をしてやるよ。そっちの方がわかりやすいだろうからな。」


「すまん助かる。正直、ラグナロクやら魔害やらと聞いてもさっぱりわからないや」

 

「まずはこの世界の成り立ちからだな。」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

  この世界が始まるさらに昔、世界は別々に分かたれていた。

  本来であれば干渉するはずはなかった世界達だ。

  だが、七つの世界は何故か"同時"にそれぞれ異なった崩壊の道をたどり、そして、同時刻に強い光に全ての世界が飲まれ"一つ"の世界となった。 

  自身らの『罪』により、星の死を待つだけだった全ての種族が、滅びを回避し安堵したという。

  その後、すぐに自分達の過去の"過ち"を忘れ、世界は大きく二つの陣営に分かれ世界規模の大戦争を始めたそうだ。


  それが種族間戦争 通称<ファーストラグナロク>。

  『人類種』『獣人種』『森霊種』『海洋種』『天魔種』VS『竜神種』『吸血種』の二陣営による大戦争だ。


  血で血を洗う凄惨なる戦争の途中で『天魔種』によって大戦を終わらせるための兵器として疑似大天使降臨の儀が執り行われた。

  この際降臨した疑似大天使は不完全な状態での降臨だったため、暴走状態に変体し種族関係なく虐殺と蹂躙の限りをつくしたという。


  この事件を疑似大天使降臨 通称<セカンドラグナロク>と呼ぶ。


  戦争をしていた者たちはいつしか協力しあい、全種族合わせた約半数の犠牲を払ってセカンドラグナロクを突破した。

  その後、もはやそれぞれが戦う余力の無い事を認識した七種族によって、世界平和安全機関曰く、<七種族円卓会議>が発足した。

  円卓会議はこの世界を『セブンレイス』と再定義し、話し合いによる和平を目指した。

 

  七種族円卓会議は大戦時の二陣営『人類種』『獣人種』『森霊種』『海洋種』『天魔種』と『竜人種』『吸血種』で構成されている。


  円卓会議は中央都市<セブンスセントラル>に存在し、中央都市はギルドの入会申請手続きをしたり、商人が多く出入りする物流の中心地でもある。

  

  ギルドには様々な役割があり代表的な仕事は、二度のラグナロクの際発生した『魔害』によって生まれた『魔獣』の駆除や、世界七カ所に存在している七魔聖帝の軍事的暴走を抑止する目的がある


  七魔聖帝とは、世界各地の紛争問題や、七種族円卓会議に対しての反乱を抑えるのが主な目的な、それぞれの種族で構成された軍事部隊の事を指す。

  基本的には、七種族円卓会議が七魔聖帝を管理する。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「とまぁ、基礎的な事はこんな感じだな」


「待て待て待て! どういった世界なのかなんとなく想像はできたんだけどさ........」


 ジェイクの話を聞き自分の中でとある"仮説"が浮かんでしまった。


「……ジェイク。 この世界の現在の暦と、七つの世界が一つになる前の人類種の"最後"の暦って知ってるか?」

 

「ん? 今は創暦995年で、人類種の最後の暦は何だったかなぁ~、俺の母親が昔言ってたきがするんだけどうーん........」


 ジェイクは三十秒ほど悩み、まるで歯茎に挟まったジャーキーがとれたかの如く勢いで答えた。


「そうだ! 確か西暦2030年だったと思う!!! いや~思い出せてスッキリしたぜ!」

 満面の笑みで親指を立ててこちらを見る


「................」


 オレは大きく息を吸う。


「うああああっッッーーーー!!!! やっぱりそうじゃんか! どう考えてもここ千年後の世界じゃねーか!!! ふざけんなよ、あのローブ野郎!!! ってかなんでじゃあ、ティラノサウルスがいるんだよおおおあああああ!!! ああああ頭おかしくなりゅぅぅぅぅぅ!!!」


 勢いよく地面に倒れこみ、ゴロゴロ左右に行ったり来たりして転がる。

 まるで母親におもちゃを買ってもらえずにぐずる子供の用だった。


「おいおいおい。大丈夫か? 一旦落ち着けよ」


 ―――二十秒ほど転がった後ゆっくりと砂まみれの体を起こした。


「取り乱してすまん........」

 一度深呼吸をして状況を整理する。


 ここはオレのいた世界から千年後の世界である可能性が高い。

 つまり、あの白い空間を経由して未来に来ちまったって事か?

 いや、白い空間で『千年の時を過ごしてしまった』って可能性もあるのか。

 そして、『君は真実を知らねばならない』とローブ野郎は言った........成程、どのみちまだオレには知らなきゃならないことがあるって事か。


 まぁ、それでもとりあえずの目標は衣食住の確保からかな。

 まずは、生きていけるだけの土台を建てるかな。


 一時的な目的を自身の中で再確認し、ジェイクに一通りの仮設を説明する。

 つまりは、オレが過去から来たかもしれない、という事をだ。


「なるほどなぁ。話に出てくる白い空間とかなら、ギルマス辺りはなんか知ってるかもしれないな。おっと、そうこうしてるうちにそろそろ見えてくるぞ。あれが中央都市<セブンスセントラル>だ。」


 そういいジェイクは軽い坂道を一気に跳躍し森を抜ける。

 それを見て、自身もおいていかれないようにと、同じように駆け上る。

 

「前を見てみな! すげぇいい景色だぜ!」

   

 額に滴る汗を右腕で一気に拭い、眼前に広がる光景を見た。

 

 だだっ広い高原の先には高層ビルがいくつも立ち並び、奇怪な形をした建物も多く広がっていた。

 しかも、どうやら空中に建物があるようにも見える。

 どうやら、重力先輩がストライキを起こしたようだ。


「……待って。バカ発展してね?」

 

 異世界ファンタジーあるなるな中世ヨーロッパ風な光景を期待していだが、実際は"やはり"というべきか、どう見てもそこにあったのは千年後の世界観だった。

 

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