第一章 中央都市≪セブンスセントラル≫
第3話 出会い
「ああぁぁああああああッッーー!!!! 落ちるううううぅぅぅうッッ!!!」
門に吸い込まれた後、光に覆われた道を何故か"落下"していた。
十秒ほどたった後、眼前に先ほど見た銀に輝く大きな門が口を開いてオレをお出迎えしていた。
「あっ........これ死んだワ―――」
緑色に覆われた地面にこれから、自分が受け止められることを悟ったオレは、咄嗟に身体を大きく開き大の字型に構えた。
「背中の傷は童貞の恥ーーーおおおおおおおおお!!!!」
どこかで聞いたことがあるセリフをパクりながらも、空気抵抗を最大限に生かした姿勢で門を通過した。
地面に直撃する瞬間、運動エネルギーがゼロになったかのように空中で一瞬静止し、地面に「ぽふっ」と落下した。
門は「わい、定時なんでほな」と、言わんばかりにひとりでに消えた。
いや、なんでエセ関西弁なんだよ。
うつ伏せの体勢からゆっくりと仰向けになって空を眺めた。
「あぁ、空、滅茶苦茶キレイじゃん........」
―――そこには、生きていたことに対する安堵によって、何故か空についての感想を述べる男がいた。
九死に一生を得た人間は、皆こんな感じになるんだろうね。
ジェットコースターに、三回連続で乗った後かのように重い体をゆっくりと起こし、辺りを見渡す。
「ちょっと、待ってくれ........ここ森林か!? 」
頭上は太陽の光で明るかったが、自分がいる場所以外は見渡す限り木々で覆われていた。
気温はさほど高くなく、四季があるなら「春」か「秋」といった所だろうか。
立ち上がり周りを再度確認すると、お墓みたいな物を見つけることに成功した。
「なんだこれ?」
近くに寄ってみるとそれは苔だらけで、墓の様にも、彫刻の様にも見える巨大なU字型の石のオブジェクトだった。
すると、運がいいことにそのオブジェクトのすぐ隣に、獣道の様な通路を発見した。
「とりあえず、ここがどこかはわからないけど、暗くなる前に森から抜け出さないと、どのみち助かりそうにないな........」
森でのサバイバル知識が無い22歳童貞でもわかる簡単な真理がそこにはあった。
そう、知識のない"素人"が夜の森で、生き残れるはずがないのである。
特に、猛獣等と遭遇したら一巻の終わりだ。
慎重に膝下程の雑草をかき分けながら15分ほど獣道を進むと、開けた「人道」のような場所に出た。
「あっぶねぇぇぇぇぇ! とりあえずは道に出れたな」
最悪のパターンはこれで回避できたが、人里まで一体どれだけの距離があるのかはわからない。
「どっちに行けばいいのかさっぱり分らないけど、とりあえず"左"か"右"どっちに進むかだな。………よし、ここは右に進むか!」
特にこれといった根拠はないが、頭の中にいる鎖を持った金髪の青年が、こう言っている「とりあえず左か右で迷ったら右に進め」と。
順調に歩き始めてから1時間程がたった頃だろうか。
突然、自身の後方から「ドシッ、ドシッ」と、ヤバさの塊かの様な音が徐々に近づいてくるのが聞こえた。
咄嗟に振り返り、足音の主を見る。
「………は? ティラノ........サウルス........? 何で? 」
『意味が解からなかった』
<ティラノサウルス>
中生代白亜紀末期に生息しており、白亜紀末に絶滅したとされる史上最大級の肉食恐竜とされている。手が短くて結構可愛いよな。
……違うそうじゃない。
そう、誰もが「見ればわかる」くらいにはメジャーな恐竜である。
そんな太古の存在が今、この瞬間にも「お前を喰ってやる!」と、言わんばかりに突進してきているのである。
「待て待て待て! それは聞いてないって! 光るジェットコースターの次は、リアルジュ〇シックワールドかよおおおぉぉぉ!!!」
ひたすらに叫びながら走る。
そう、「追いつかれたら"死ぬ"」というシンプルな現実を前に、ただ走ることしかできなかった。
「考えろ! 考えろ! どうすれば生き残れる!? 道から外れてまた森に入るか? 」
入れそうな所を目で探すが、どこも茂みで覆われており、下手をすれば枝で足をやられかねない。
そう、思考した一瞬の隙を狙ったかの様に、ティラノサウルスは自身の体めがけて噛みついてきた。
「あっ........これ死んだワ――― 」
拝啓
恐竜が出るくらい穏やかで、春の風が気持ちよくなってきた季節ですね。
この度は私、保志間慶は恐竜の餌になることとなりました。
お母さん、22歳にもなって子供部屋おじさんフリーターを愛してくれてありがとうございました。
どうかお末永くお元気でいてください。
体が死を悟り、無意識のうちに母に対しての感謝の言葉が脳裏に浮かんだ。
結びの言葉を言い終わる前に突然、頭上から誰かか叫ぶ声が聞こえた。
「右に飛べええぇぇ!!! 」
叫びを聞いた瞬間、咄嗟に体を右に投げた。
その刹那、強烈な爆音が鳴り響き暴風に巻き上げられた砂が顔を殴った。
静寂が辺りを包み込む。
「―――え? 何が起きたんだ........?」
状況がわからず素っ頓狂な顔をして、ティラノサウルスがいた場所を見る。
砂煙の向こうから誰かがこちらに歩いてくるのが見えた。
「よう! 大丈夫だったか少年? 」
身長は180後半くらいだろうか、赤髪を後ろに流し、赤眼を携えた褐色肌の細マッチョ男だった。
どう見ても、日本人って感じはしない。
「………あ、あぁ。大丈夫......助かったよ」
助かった安堵からか語彙力が働くのを辞めていた。
そう、まるでかつての俺の様に……
「そっか! いやぁ~ぎりぎり間に合ってよかっぜ。飛行船から誰かが追っかけられてるのが見えてよ~びっくりしたぜ」
『 は? 』
咄嗟に空を見上げた。
すると、飛行船が確かにゆったりと飛行しているようだった。
そう、"はるか上空"に。
「……つまり、あそこに飛んでる飛行船から飛び降りて、助けてくれたって事!?」
「ん? そうだぞ? "それ"がどうかしたか?」
まるで、それが「普通」だぞ? と言わんばかりに目を丸くする。
……いや、どう考えても普通じゃない。
「……もしかし、アベン〇ャーズとかに出演されてたりします?」
「何をわけわからないことを言っているんだ? とりあえず自己紹介はしておくか、俺の名前は"ジェイク"だ。見てわかるとは思うが
『??????』
何がみてわかるのか全く分からなかったが、とりあえずこちらも自己紹介を返すことにした。
「22歳 童貞 異世界からやってきた
一見頭がおかしいやつだと思うかもしれないが、オレは何も"嘘"をついていないのである。
「おっ! 珍しい異世界から来たやつだったか! って事はこの世界のことを何も知らない感じじゃないか? ってか22歳って俺と同い年じゃねーか!!!」
「オレ以外にも異世界から来るやついるんかーい!」
そう、恥ずかしながらも実は「この世界を救う為」に呼ばれたんじゃないのか?と思っていたのである。
あと、こいつはどう見ても二十代後半だろおい。
「とりあえず今言えるのは、ついさっきこの世界に来たばっかりで、右も左もわからない状況であるって事くらいかな」
「なるほどなぁ。まぁ、あれだ、俺の"直感"がお前をギルドに連れていけと、言っているからとりあえずは安心していいぞ」
"ギルド"とかいう如何にもファンタジーにありそうな単語が聞こえたが今はスルーだ。
「まじか!? 助かったぁぁぁ........」
安堵と同時にここまでの疲れが一気に波のように押し寄せてきた。
どうやら、恐竜の胃袋の中にお世話にならなくてすみそうだ。
「見るからに疲れてるようだから日が落ちる前にこの先にある中央都市<セブンスセントラル>に向かうぞ。詳しい話は歩きながら聞かせてやるよ。」
そう言うと、ジェイクは親指を立ててグッドサインの形を作った。
「サンキュ~~~って、意外と都市が近かったんだな」
疲れすぎて返事がふにゃふにゃになってしまっていたが、こちらもしっかりグッドサインは返す。
二人は並びつつ中央都市<セブンスセントラル>に向かうのであった。
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