第5話 60万円
青年は柳原をおしのけて走った。全身にアルコールがまわっていたため、簡単に押し退けられた。
「警察を呼ぶぞ」と大声でいうと、一転、金なら払うからと黙っててくれと言った。
―なぁ、俺がそんな汚い奴に見えるのか? 俺はなぁ、生まれてこのかた犯罪なんかとは無縁なんだよ。
―声がでかい、たのむから。
青年は使い捨てマスクごしにでも口内が乾ききっているほど緊張していることが分かる。柳原は飲みさしの八海山を渡した。日本酒は苦手だったようで、口に含んだとたん青年は吐き出した。
―お前の金なんて知れてるよ。なに売ってるんだ? 大麻か? まぁいいや、雑魚そうなやつに吹っ掛けろ。その分け前で黙っててやるよ。な? winwinだ。お前は俺の写真を撮れば証拠も残るだろ?
―犯罪なんかしないんじゃねえのか?
―これがはじめてだ。嘘じゃない
柳原は青年と二人で歩いた。今度は書店の駐車場らしい。そこにいた高校生らに予定の2倍ほどで売りつけ、柳原は合計33万円手に入れた。
―なんで売人なんかしてるんだ、真面目に働いて稼げばいいのに
― これが一番はやいから
―バカみたいだ。そんで俺みたいな奴にたかられて
柳原は鼻で笑って、青年の肩をたたいた。まぁ、なにかしらんが頑張れよと適当に励ました。
―そういやさっきの客の車も写真に撮ったんだけど、どこにすんでるか知ってるか?
―あの人、土地勘はありそうだからこの近所だと思う
青年は用が済んだとみると急ぎ足で立ち去った。
四捨五入してみれば60万円をこえた。財布におさまらない、鞄に仕舞おうと決めたがコインロッカーに入れたままであった。
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