第3話 8万円
自分と同じく会社帰りの人々や、雑で安っぽい髪色の大学生。
ここにいても何も楽しく無さそうに思えた。やはり真っ直ぐ帰ろうか悩んだ末、久々にカラオケに行くことにきめたのは、おそらくパチンコ店に流れていた懐かしいアニソンのせいだ。彼が中学から高校にかけて友人たちと遊びに行くとなればカラオケが定番。するとアニソン派とボーカロイド派とアイドル派とJPOP派に別れていた。もはや誰とも顔を合わせていない、名前すらおぼえていない。
会員アプリをダウンロードしてくださいと言われた。柳原は財布から取り出した会員証を見せた。申し訳ありませんが、と大学生くらいの店員が表情を変えずにQRコードを読み取るだけですのでお願いしますという。柳原は会員証を差し出した。
―なぁ、俺は会員になった。つい1年ほど前までなら普通に使えた。なんにも問題なく。でアプリをお願いしますって同じような処理してるんだろ?
―ですからアプリをダウンロードしていただくだけです。どうかご協力お願いします。
―無能か? 会員証あるだろ? 他になにかいるか? 免許か? 卒業証書か? 俺は日商簿記3級の賞状をもってる。あとはパスポートと保険証。なぁ何がいる?
柳原はなんとかアプリをダウンロードすることなく2時間、フリードリンクで入室した。速度制限がかけられているのでスマホを使用したくなかったため非常に助かった。
トイレに行くと少しゲロを吐いてから大量の小便をした。
一曲目からマキシマムザホルモンの『爪爪爪』を選曲した。扉を開けたままだったのを店員が閉めにやってきた。
暑かった。エアコンのリモコンが見当たらない。柳原は扉を開けた。次は『絶望ビリー』か『ぶっ生き返す』。もしくは懐かしいアニソン『Only my railgun』。やくしまるえつこがいいか。『少年よ我に帰れ』。そういえば、最近なぜか聴いているビリーアイリッシュもいいか。英語はわからないが。ビリージョエルなら歌える。『The Longest Time』にしようか。
アルコールを飲み過ぎたせいかトイレが近すぎた。最大2人のトイレは当然のように混んでいる。ようやく順番が回ってくるころには尿が漏れかけていた。個室に入るとトイレットペーパーホルダーに長財布が置いてあり、その中の現金を抜き取る。どうやら下ろしたばかりらしい。5万円以上入っていた。小銭ももらう。合計5万円と3758円。自分の財布になおして8万をこえた。
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