第2話 3万円

金をいれるとLEDが乱雑に光る。目が痛むほどの光量で回転する、パチンコ以外では絶対に見かけないフォントの数字があらわれる。太い二という字と人物イラストの書かれたタイルが画面の両端にでた。もう数字が揃うのか、七はこのタレントだと分かる絵だ、男の絵が流れていく、三で回転が止まる。するとまた画面が小芝いじみたムービーを垂れ流し、また画面の両端に四が止まる。しかし今度は中央が確定せずにムービーが始まる。台詞が聞き取れない、なんの映像を見せられているのか分からない。数字が七で止まる。


"PUSH"連打と命じられ、従う。ボーナスチャンスと女声が囁く。すかさず連打を要求される。中央が赤やら青やらギラギラ光るのにまかせていた。すると五五五と揃ってタレントが「大当たり」という。ならばと放っておくと勝手に三三三。同じく「大当たり」という。放っておくと、3つ同時に回転している。


先程のような大袈裟な演出はなく、すっすっと数字が確定する。また連打を命じられた、さっきと同じ茶番劇が流れる。この声優、聴いたことあるなと流し見していると銀河のような映像、そして「大当たり」。


柳原の財布は約1万円に増えていた。切り捨てして1万円である。ここが柳原には重要だった。千の位で四捨五入せねば1万になることなどほとんど無い柳原にとっては富豪の気分だった。すかさず500円以上するアルコールが飲みたくなった。コンビニに入り、サントリー角瓶のポケットサイズを買って栄養ドリンクのように一気に飲み干し、ブラックニッカの700mlを飲んで歩くことにした。ついでに常備している精神安定剤も飲んだ。大変心地よく帰路につこうとしたが、まだ当たる気がした。一気に飲み干した。結果、三万まで増やすことができた。


一気に手持ちの金が増えた興奮から、頭が冴えていく。なんとなく遊び足りないような寂しい気分が彼を満たした。仕事の鞄をコインロッカーに入れ、繁華街をうろつく。なにか三万を有効活用できないものかと街を見渡した。

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