100万円を手にした男

古新野 ま~ち

第1話 1000円

柳原は千円札を拾った。排水溝に落ちていた。


落ち葉の上に有名人の肖像画と目があう。名前が出てこないが、千円札であることは間違いない。拾ってすぐ財布に入れた。朝に栄養ドリンク夜にカップ麺と繰り返し購入しているだけなのに一向に金を常備できないこの財布。今の札も、あと2日もてばよいほうだ。


帰宅途中だった。地下鉄のホームに向かおうと階段を下りかけたとき、少し遠くのディスプレイにアニメキャラがみえた。パチンコの新台のCM、なぜ自分が中学くらいに放送していた深夜アニメを今さらと一瞬だけ考えた。この年齢層をターゲットにしているんだという当たり前のことにはすぐに気がついた。かつての上司が、バジリスク、まどかマギカ、緋弾のアリア、エヴァンゲリオン、マクロス、コードギアス、シンフォギア、アクエリオン、などと時折休憩時に煙草を吸いながら話しているのを聞くことがある。柳原は上司がバジリスクの話をするから、気に入られようと、自分の最も好きなシーンであるナメクジめいた能力の忍者が海で溶けて死にましたよねと語りかけたら、知るかそんなのとあしらわれた苦い記憶がある。

ふと、どうせ千円を栄養ドリンクに換金するくらいなら銀色の玉で遊ぼうと決めた。

知人は、駅前のパチンコはだいたい厳しいと言っていた。放っておいても客がくるから全く熱くならないと言っていた。

ただ拾った千円を散財させるだけだ、いまの自分の財布はあと小銭くらいだけだ。無駄遣いは貧乏で予防している。

入店すると、無茶苦茶な雑音、ガキのオモチャ以下の光、鼻が痛いほどの煙が柳原を襲う。急にうんこがしたくなったとき以来の入店であった。パチンコで金を使うことは初めてだった。


アニメの台はあらかた座られていた。ディスプレイのアニメはもちろん、柳原の産まれる前のアニメやアイドルの台も同様だ。すこし空いているところは、海物語という、名前だけ知っている台であった。どうせなら自分の知っている何かで使いたいと歩いていたら、すこし前に死んだタレントの台があった。別に好きなタレントではない。何をしていたのかすらあまり知らない。その隣のアイドルグループの台に座ろうと決めたが、なんの気が向いたのか、千円をタレントの台にいれた。

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