第47話 いろんな角度から

このままでは、バスが工場に到着すると爆発してしまう。

工場にたどりつく前に、バスのプログラムを直して、バスを止めなければならない。


みんくは、急いで、バスのプログラムの修正を始めた。


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■バスプログラム


バスとは


~中略~


■バスAの動作

前に走る

右に曲がる

左に曲がる

バックする

スピードを上げる

スピードを落とす

停車する

ドアを開ける

ライトを点灯する

ライトを消灯する

運賃を計算する

整理券を発行する


~ 以下プログラムが続くが、表示を省略する ~

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「バスを止めればいいんだね。つまり……前に進まないようにすればいい」


みんくは「バスAの動作」プログラムから「前に走る」を消した。

これで、バスは前に走れなくなる!

みんくは勝利を確信した。


バスはすぐに停車した。前に進めなくなったからだ。

これでバスは止まり、爆発はしなくなる。


「やりましたね。みんくさん!」


アノミーはみんくを絶賛する。


「くっくっく。それはどうかな。詰めが甘いよ」


偽運転手は、不敵な笑みを浮かべた。


「どういうこと? もうバスは止まったのに」


「このバスは今、バックしかできない。

 でもバックしかできなくても前には進めるんだぜ!

 こんなふうにな!」


偽運転手はハンドルをぐるりと急回転させた。

バスは右に曲がり、タイヤがすごい摩擦音を出しながら、一回転する。


「きゃああああ!?」


急にバスがみんくは悲鳴をあげる。


「バックで前進する!」


偽運転手は、バスを逆回転させ、バックで前進することにした。


「うわー。その手があったか……」


みんくはがっかりした。


「落ち込んでいる場合ではありません。

 バスのプログラムから『バックする』を削除しましょう。

 これで完全に動けなくなるはず……」


「そうだね、そうしよう!」


みんくはバスのプログラムから「バックする」を削除した。

バスはバックができなくなり停止した。


「ちっ……止まったか。まあいい。まだ手はあるんだぜ」


偽運転手はまだあきらめていないようだ。

いったいどんな手があるというのだろう。

みんくたちは身構えた。


「あ、あれは何!?」


さくりが叫んだ。みんくも前(運転手席の方)を見る。

何か黒い物体が迫ってくる。


「あれは……トラック!?」


「えっ!? このままじゃバスとぶつかるよ!」


「ま、まさか……」


「くっくっく。そのまさかだよ!」


トラックがバスにじょじょに近づき、やがて前方に迫る。

そして――大きな地震のような衝撃!


「うわぁっ!!」


ガガガガガガ!!!

バスの運転手席の窓ガラスに大きなヒビが入っていく。

完全には割れていないが、相当な破壊状況だ。


そして、トラックは、バスとぶつかってもなお、走り続ける。

トラックのほうが力は強い。


停車したはずのバスが、トラックの強い力に押し出され、動き始める。

さっきよりはゆっくりだが、確実に進んでしまっていた。


「まさかトラックをぶつけて動かすなんて……!」


「はっはっは。俺の勝ちだな!」


偽運転手は勝ち誇ったように笑う。


「まずい! 工場前のバス停が見えてきた!

 あそこにたどりついたら……爆発してしまうぞ!」


さくりが叫ぶ。

後方の窓ガラスからは、たしかにバス停らしきものが見える。大きな工場も。

あれが工場前のバス停に違いない。

あそこに到着したら、もし嘘でなければバスは爆発する。


このままでは本当にまずい。早急にバスを止めないといけない。

しかし、手立てが思い浮かばない。状況は絶望的と思われた。


「いろんな角度から検証する、いろんな角度から検証する……」


呪文のように、みんくは唱え始めた。

そして、みんくの頭の中に「はっ」とひらめくものがあった。



つづく

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