第42話 チェックアウトだ!

「は? ホテルを出たい? なにか問題でもありましたかな」


うさぎ支配人は、みんくたちの「ホテルを出る」という言葉におどろきを隠しきれない。


うさぎ支配人は、みんくたちをずっとホテルに泊まらせるつもりでいた。


おいしい料理を出して、ゲームをずっと遊ばせつづけ、

プログラミングをする気力を失わせるつもりだった。


ねらいどおり、みんくたちはずっとホテルにいつづけた。

何連泊しただろうか。


しかしきょうついに、その連泊はストップした。

こんなはずではない。うさぎ支配人はおおあわてだ。


「問題だらけだよ。

 ご飯はすぐ腐るし、ベッドが石みたいにかたいし、

 ゲーム機は壊れちゃうし、お風呂に入ったら泥んこだらけになった!」


「ええっ!? そんなバカな……!」


信じられないクレームの数々に、

驚きのあまり、うさぎ支配人の長い耳は自信なさそうに垂れていく。


もちろん、うさぎ支配人にはまったく落ち度はなく、

すべてアノミーによる「バグを作る能力」のせいだ。

みんくがだらけてしまわないように、わざと居心地わるくさせたのだ。


「ということで、きょうかぎりで、私たちはホテルを出ていきます」


みんくの横から、さくりが出てきて、うさぎ支配人にたたみみかける。


「そ、そんな……何かのまちがいですぞ!

 うぬぬ……。

 これはあきらかに、ホテルにバグを仕込まれているに違いないですぞ。

 まさか、あなたがたのなかに、バグを作る能力者でもいるのでは」


「そんなことはありえません。

 とにかく、ここを出ていきますので……。

 いこう、みんく。アノミー」


さくりは、みんくとアノミーを連れてホテルをチェックアウトしようとした。

うさぎ支配人は、おおあわてで、ホテルの出入口に立ちはだかる。


「ここは通しませぬ。

 なんとしても、このホテルから出すわけにはいかんのです。

 さあ、ここを通りたければ、私をたおしていきなされ!」


うさぎ支配人は、自分の背よりはるかに高いみんくたちを前に、

必至にホテル玄関をふせいだ。


が、うさぎ支配人の体格が小さすぎるせいか、

みんくたちは恐怖を感じず、かまわずに進もうとする。


うさぎのぬいぐるみが門番をしているようなものだ。

みんくたちはまったく怖くなかった。


そんな状態なのに、うさぎ支配人はその小さな体で

ぴょんぴょん飛び跳ね、なんとかみんくたちを止めようとする。


「進ませませんぞ! 進ませませんぞ! そりゃ! そりゃ!」


「強制転送魔法」


「あ~~ れ~~ !!?」


さくりは強制転送魔法を唱え、

うさぎ支配人をはるか遠方の見知らぬ土地へと飛ばすのだった。


「さ、さくり。ちょっとやりすぎだったんじゃ……」


みんくは心配そうな顔になる。


「だいじょうぶ、だいじょうぶ。

 あのうさぎ支配人、見た目は怖くないけど、この変な世界の住人だから、

 何か変なことをするまえに対処したほうがいいよ」


「そ、そうかな」


ちょっとかわいそうだと思ったけど仕方ないよね。

みんくは、さくりの言うことをしぶしぶ受け入れるのだった。


みんくたちは数日ぶりにホテルを出る。

ホテルの外は太陽がまぶしいほど輝き、ひさしぶりの良い天気だった。



つづく

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