第41話 食事をまずくさせる能力

ホテル暮らしになって数日目。


みんくは、料理の味をあまりおいしくなく感じた。

毎日豪華な料理ばかり食べたから、飽きてきたのだろうか。

いや、ちがう。


にがい。

すっぱい。

ざりざりする。

くさい。

にちゃにちゃしてる。


なにこれっ!? まずいっ!

みんくは思わずペッペと吐き出した。


「なにこれ!? おいしくない……。

 色も青いし、形もおかしい」


さっきまで色とりどりでおいしそうだった料理たちが

青く、黒く、ぐにゃぐにゃしていた。


とても、おいしそうには見えなかった。

いったいなにがおきたのだろう。


みんくは目の前の光景が理解できなかった。

もしかして……急にバグがおきた!?


「たぶん料理がバグってるんだ。

 こうなったら、バグを直さなきゃ!」


みんくは、料理をタッチして、プログラミングでバグを修正しようとする。

しかし、バグを直しても直しても、いっこうにバグがなくならない。


「直しても直しても元に戻らない……!?

 どういうことなの。これじゃ、無理だよ」


直しても直しても……かたっぱしから料理が腐っていく。

みんくは、料理のバグ修正をあきらめた。


「おかしい。

 まるで、料理がすごいスピードで腐っていってるような……?」


そのとき、みんくは気づかなかった。

みんくの少し離れた壁のむこうから、あやしい気配が存在することを。


「ごめんなさい、みんくさん。

 料理にバグを仕込んでおきました。

 ホテルの食べ物はもう食べられません。

 ちょっとかわいそうですけど……。

 これでホテルから出ないといけなくなります」


アノミーは、少し離れた壁の向こうで、

みんくのあわてる様子をうかがっていた。


「アノミー。いったいそこで何をしているの?」


「ぎくっ」


アノミーは急に声をかけられ、びくっとした。


「さ、さくりさん? いつのまにそこに……」


アノミーがふりむくと、茜さくりの姿があった。

落ち着きはらった様子で声をかけてくる。


「さっき、バグを仕込んだとか言ってたけど。

 まさかアノミーも何か特殊能力をもってるの?」


「……みんくさんには内緒にしておいてください。

 私は、バグを作ることができます。

 このままホテル暮らしがつづくと、みんくさんはだめになります。

 だから、心を鬼にして、料理に『すぐ腐る』バグを仕込みました」


「なるほど。たしかに、このままホテル暮らしがつづくと

 先に進めないし、みんくにもよくないよね。

 アノミーのしたことは正しいことだと思うよ」


「ありがとうございます」


さくりはあっさりと、アノミーのしたことを認めるのだった。


さくりとみんくは幼馴染。

アノミーは今、みんくの料理にバグを仕込んだ。


だから、何かとがめられると思ったけど、何もなかったので、

アノミーは拍子抜けした。


「さくりさん。意外と怒らなかったですね。

 ほっ。でも私の特殊能力のことをバレてしまいました。

 ……どうしましょうか」


アノミーはバグを作る能力のことをあまり知られたくなかった。

さくりにバレてしまった今、どうすべきか、考えつづけるのだった。



つづく

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