第35話 支配人はうさぎです

日が暮れそうなので、みんくたちはホテルに入った。

きょうはホテルでお泊りだ。


ホテルの内装はとてもきれいで、ピカピカに輝いていた。

西洋のお屋敷みたいな内装だ。


フロントには、誰もいない。


「すいませーん。きょう3名泊まりたいんですけどー」


さくりが、誰もいないフロントに声をかける。無反応だ。

そもそも、このホテルに人はいるのだろうか?


「ベルとかあるんじゃないですか? ちりんちりん鳴らしましょう」


アノミーが提案する。


「うーん……そういうのは見当たらないな」


さくりが答える。


「このホテル……ぜんぜん人の気配がしないね。

 駅前もそんなに人いなかったし」


「この地域自体、人がそんなにいないんだと思う」


「ふーん……」


さみしい場所だな……とみんくは思った。


しずかなホテル。無人のフロント。

本当にここは従業員がいるのだろうか。

不安になってきたそのときだった。


「おやおや、お客さん。ここは無人のうさぎホテル。

 人はいないけど、うさぎはいますぞい」


フロントの奥から出てきたのは、うさぎだった。

でもそれは普通のうさぎじゃなくて……。

オシャレなスーツに身をつつんだ、二足歩行のうさぎさん。


「えっ!? うさぎ!?」


みんくたちが驚いていると、うさぎはぺらぺらしゃべりだす。


「私はラビー。このホテルの支配人のうさぎですぞい」


支配”人”なのに「うさぎ」?

みんくたちは首をかしげた。


「支配人なのにうさぎ? バグかもしれません。修正しましょう」


アノミーはすぐバグを警戒する。いつものくせだ。


「おまちくだされ! 私はロボットです。うさぎ型の。

 このうさぎホテルは、『無人ホテル』。

 従業員がいなくても運営できる、最先端のホテル。

 だからバグじゃないのですぞい。本当ですぞい」


目の前のうさぎは、あたふたと事情を説明する。

ロボットにしてはずいぶん感情ゆたかのような……。

アノミーはうたがいの目を向ける。


「さきほどは申し訳ございませんでしたぞい。

 なかなかフロントから出れなくて。

 私は体がちいさいので、フロントにいても気付かれにくくて」


ラビーの背は、みんくたちより低い。

半分くらいだろうか。


「じゃあ、うさぎさん。このホテルに泊めてくれるかな?」


みんくはしゃがんで、ラビーと目をあわせる。


「ぜひどうぞ。お部屋はどれも空いていますぞ」


さっきから人の気配がしない。

無人ホテルなので従業員がいないのはもちろんだが、客の気配すらない。

支配人うさぎの前で「客いないんですか」とも訊きにくい。


「……ずいぶん静かですね」


アノミーが言う。


「遠久野駅はさみしい終着駅。

 そのすぐ近くにあるホテルですから人も少ないのですぞ。

 従業員にお金を払うのが大変なので無人化となりましたぞ。

 でも意外と、客はゼロではないんですぞい」


「へぇ」


「終着駅マニアとか、遠久野市の自然を求めてやってくるお客さんもいますぞ。

 まあ、わざわざ平日にくる客はなかなかいないのですが……」


うさぎ支配人は流暢りゅうちょうにしゃべる。

本当にロボットなのだろうか……。


「まあ、あまりながながと話すのもなんなので、

 さっさとチェックインしてしまいましょうぞ。

 この紙に必要事項を書いてくだされ。

 宿泊代はチェックイン時にお支払いですぞい」


宿泊代……。


みんくはきづいた。

そういえば、ホテルに泊まるのってお金かかるんだっけ?

どれくらいかかるんだろう?


「あの……お金はあまり持っていないのですが」


さくりは冷静な口調で話す。


「ほほう。お金を……もっていない?」


うさぎ支配人の目があやしく光った。


ごくり。みんくは思わずつばを飲む。

なんだか不気味な目つきで緊張する。

怒っているのだろうか。


「ふっふっふ」


うさぎ支配人はなぜか笑い出す。

ここは笑うタイミングなのだろうか。

みんくは不思議がる。


「お代は1円でよいですぞ」


「1円!? うそでしょ!」


あまりに法外な価格に、さくりは驚き、あぜんとした。


「嘘ではありませんぞ。あなたがたは実に運がいいですぞ。

 あなたがたはこのホテル100万人目の客ですぞい。

 特別料金ですぞい」


うさぎ支配人はたんたんと説明する。


さくりとアノミーは、ありえない料金設定を「あやしい」と思い黙りこくる。

が、みんくだけは違った。


「すごーい! 1円だって! 安いね!」


のーてんきなみんくの反応に、さくりは即座にツッコミを入れる。


「いやいや……あきらかに安すぎる。あやしい」


「なにかたくらんでいるに違いありません」


アノミーは心底あやしそうな顔をする。


「1円で払わないというのなら、このホテルには泊められませんな。

 お引き取りくだされ」


うさぎ支配人は卑怯なことを言ってくる。


「そんな……この周辺には、他にホテルとかないぞ」


さくりは困ったような顔をした。


「ふっふっふ。けっして悪いことは起こらないので、

 1円で宿泊していってくだされ」


みんくたちは、結局、ホテルに泊まらざるをえなかった。

こんなあやしいホテルで、もちろん何も起きないわけがなく……。

みんくたちの運命やいかに。



つづく

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