第34話 うさぎホテル
「遠久野駅に到着しましたー」
電車のアナウンスが車内にひびく。
何時間、電車に揺られただろう。
みんくたちは、いつのまにか眠りこけていた。
いま何時なのだろう?
まぶしい夕日が車窓からさしこみ、みんくの目を刺激した。
まぶしいっ。
おもわず、みんくは手で顔をかくす。
かくした手の指の間から、夕日の光が漏れた。
「みんな、起きて。ついたよ。遠久野駅に……」
「むにゃむにゃ」
「もにゃもにゃ」
アノミーとさくりは寝ぼけていて、変な声をだしていた。
ふたりとも互いによりかかり、まるで姉妹のようだった。
寝ているうちに、お互い寄りかかってしまったのだろう。
みんくは「ふたりとも仲良さそうにしてるっ」と少しやきもちを焼いたが、
そんな場合ではなかったので、さっさと起こした。
みんくは、ふたりの肩をつかみ、仲をひきさくように揺らす。
「ほら起きて起きて。ふたりとも!」
「ああ、もうついたのか……。寝てたよ」
「寝てました」
さくりもアノミーもつぎつぎと目ざめる。
席から立ちあがり、車外へと出ていく。
遠久野駅は、とくにさしたるバグもなく、とても普通の、少しさみしい駅だった。
おりる人もまばらで、駅内に人もすくない。
みんくたちは、遠久野駅を出ると、駅前の時計を見てあんぐりとした。
「ええっ。もうこんな時間……。おうちに帰る時間だよ。
どうしよう。いまから帰る?」
みんくは時計を見て、あわてたように言う。
それもそのはず。いつもなら、この時間はおうちにいるはずだから。
「そんなことはできないよ。今から帰ったら深夜帰宅だし、
またここまで来なきゃいけないよ。
きょうは、ここで泊まろう」
さくりはあきれたように言う。帰るつもりはないようだ。
「の、野宿!?」
「そんなことあるわけないだろう?
テントとかないんだし」
「どこに泊まるの?」
「あそこだよ」
さくりは、駅前のホテルを指し示す。
「ほ、ホテル!?」
「そうだよ」
「ええっ!」
みんくは驚きの感情をあらわにする。
ホテルに泊まるなんて、みんくにとっては初めてだったからだ。
「さくりは、ホテルに泊まったことがあるの?」
「両親との旅行でね」
「すごーい、大人って感じ!」
みんくは目をかがやかせた。
さくりは、みんくの何歩も先をいっている。
大人ってかんじで憧れだ。ちょっと変なところはあるけど……。
「そんなにすごいことじゃないよ。
さあ、いこうか。日が暮れる前に……」
みんくたちは、駅前にあるホテル「うさぎホテル」に入っていった。
このとき、うさぎホテルで待ち受ける罠を、みんくたちは知るよしもなかった。
つづく
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