第31話 改札機と券売機を倒す

「……来ます! 気配が、します!」


アノミーは敵の気配を察知したようだ。

鈍感なみんくは「え?」という表情を出すことしかできなかった。


「あの通路の奥から気配がします」


「まずは隠れて……それで観察するんだよね」


「そうです。さいわいにも、ここには障害物が多いですね」


迷路と化した駅の構内には、無造作にダンボールや機械が置かれている。

ここなら隠れて様子をうかがえそうだ。

障害物の間から、敵の様子をのぞきみる。


ガシャン、ガシャン。

物音を立てながらやってくる、改札機と券売機。


ばたんばたん。

改札機から何か物音がする。


みんくは、改札機の様子をじっと見る。

改札機は板のようなものを両側からバタンバタンと動かしている。


みんくでも分かる。

たまにテレビドラマで見かける、焦った乗客が挟まるやつだ。

あれは、挟まってもあまり痛くなさそうだ。


いっぽう、自動券売機のほうは。


しゅしゅしゅしゅ。

券売機から何かチケットのような紙吹雪がひたすら排出されている。

それらはまるで本当の吹雪のように舞い、足もとが雪のようにつもっている。


みんくがよく見ると、その紙吹雪は「切符」のようだった。

切符は「となり駅」やら「遠久野駅」やら印字されている。


どうやら、あの券売機は、ただひたすら切符を吐き出しているだけのようだ。

切符なら当たってもいたくない。


みんくの心に、だんだんと勇気がわいてきた。

相手のことをよく観察すれば、何がやばくて、何がやばくないか、よくわかる。

アノミーの言うとおりだ。


「アノミー。わたし、わかったよ」


「なにかわかりましたか?」


「打開策」


「ほほう……」


「まあ、見ててよ」


みんくは、隠れていた障害物から飛びだし、改札機の前におどりでる。

改札機は、みんくの気配を察知し、近づいてくる。


ガシャン、ガシャン。

みんくの目の前に、改札機がバタンバタンと開け閉めしながら、せまる。

みんくは引かなかった。自信があったから。


「みんくさん!」


アノミーが叫ぶ。

みんくの体が、改札機のフラップドアに挟まった!


が、その威力は大したものではなく、みんくは平然としていた。


改札機のドア(フラップドア)は固くもなく、たいした速度もないため、

挟まれても大したダメージが出なかった。


「ふふん。きいてないよーだ」


みんくは得意気な顔で、改札機を見くだす。


そして改札機をタッチし、あっという間に、

「改札機とは、足が生えてて動く機械」というプログラムのバグを修正した。


「きゃー」


みんくの背後で悲鳴があがった。アノミーの声だ。

振り向くとそこには、切符の紙吹雪まみれになったアノミーの姿が。

自動券売機にやられたらしい。


悲鳴といっても、急に紙吹雪を浴びたせいで驚いただけで、

別に痛くもかゆくもなかった。


これも、みんくが近寄って、あっという間にプログラムを修正していった。


「自動券売機とは 切符を吐いて紙吹雪を起こすもの」

「自動券売機とは 足が生えてて動くもの」

といった、あきらかにおかしな部分を削除した。


改札機も自動券売機も、とうとう元の姿を取り戻した。


「やった! これで電車に乗れるよ!」


「やりましたね、みんくさん」


「ところで、アノミー」


「はい?」


「きっぷってどう買うの?」


みんくは、あまり電車に乗ったことがなく、

物知りなアノミーから基本的なことを教わざるを得なかった。


こうして、みんくは、きっぷの買い方をおぼえて、

改札を抜け、電車にたどりつくのだった。

電車に乗るのは久しぶり。みんくは少しだけワクワクしていた。


だが、そのワクワクをぶち壊しにする出来事が起こるとは、

みんくはこのとき予想もしていなかった……。



つづく

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