第21話 もし文

「んじゃ、そろそろ帰るよ」


みんくは、さくりに別れを告げると、帰宅することにした。

が、すぐに、さくりに止められてしまう。


「待って。帰るのはいいけど、正門にはケルベロスがいるよ」


「あっ。そうだったね……」


ケルベロス。

この世界で、さくりが飼っている番犬の名前。

「地獄の番犬」という意味らしいのだが、

ペットにしては、大げさな名前の気がする。

ここは地獄じゃないんだし……。

みんくは心の中で「ケルベロス」というネーミングセンスに突っ込みをいれる。


「ケルベロスは、ボク以外にはなつかないから……。

 そのまま行くとあぶない。噛まれると思う」


「そうなんだ……。あっ、そうだ!」


みんくは、何かをひらめく。


「ねぇ、さくり。ケルベロスを少しだけ止めててくれる?」


「止める?」


「さくりにしか、なつかないんでしょう?

 それなら、少しだけ、ケルベロスの相手をしててもらえる?」


「ああ。その間に、みんくたちは帰宅するってことか」


「それもあるけど、他にもやりたいことがあってね」


「?」


「まあ、ケルベロスのところに行けばわかるよ」


「わかった。じゃあ、一緒にいこう」


ケルベロスの前にいくと、案の定、みんくたちを見て

いきなり牙をむきだした。

が、飼いさくりの姿を確認すると、

ケルベロスは口をとじて座り、しっぽをフリフリとしだすのだった。


「あっ。おとなしくなった」


「さすが、飼い主の力はすごいですね……。

 いまのうちに通りぬけましょう」


アノミーは、早く通りぬけようと言い出す。

それでもいいけど、みんくには、まだやり残したことがあった。


「待って。まだ終わってない」


「みんくさん? どうしたんですか」


「このケルベロス君にさわっていい?」


「ま、まさか……」


「プログラミングするの。

 わたしたちを見かけても警戒しないように、ね」


「そうですね。そのほうが、いいかもしれません」


みんくは、ケルベロスがおとなしいうちに、

ケルベロスの頭をなでるような感じで、タッチした。


すると、空中に画面があらわれ、ケルベロスのプログラムが表示された。


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■犬プログラム


犬とは

 →動物である。

 →4本足でうごく

 →わんわんと鳴く。

 →嗅覚・聴覚にすぐれる。


「犬プログラム」を、「茜さくりの家の犬」に適用する。


■茜さくりの家の犬

名前:ケルベロス

種類:雑種犬

体重:15Kg

性別:オス

年齢:(秘密)


「茜さくりの家の犬」を、以降「ケルベロス」と呼称する。


もし、ケルベロスに人が近づいた場合


 →もし、茜さくりである場合

  →ケルベロスはおとなしくなる。


 →もし、茜さくり以外である場合

  →ケルベロスは警戒モードになる。


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「『もし文』があるね。この『もし文』をいじったら

 わたしたちを警戒しないようになるかも」


みんくは、プログラムの中に、「もし文」を見つける。


「もし文」というのは、「もし〇〇である場合」という意味の文章をあらわす。この「もし文」があると、ある条件を満たす場合、特定の動きをする。


さくりが近づけば、ケルベロスはおとなしくなる。

さくり以外が近づくと、ケルベロスは警戒する。


すごく単純な「もし文」プログラムだ。

修正するのは簡単なように見える。

みんくは、さっそく、プログラム修正にとりかかる。


もしこれを読んでいるそこのあなたなら、

どのように「もし文」を修正するだろうか。

少しだけ想像してみたあと、つづきを読んでみてね。



つづく

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