第20話 強制転送魔法

「おや……。侵入者が来たようだね」


突然、さくりが言い放った。


「え? しんにゅうしゃ?」


みんくは、きょとんとした様子で言い返す。


「そうだよ。ボクの家には監視魔法が仕掛けられていて……。

 まあ、こまかい話はいいんだ。

 とにかく、この家に、『誰か』がいま入り込んできたということだ」


「えっ……こわい」


「だからケルベロス(番犬)を用意していたんだけど……。

 まったく、いったいどこから侵入したんだろう?

 ケルベロスに気づかれないなんて」


「あっ……そういえば」


みんくは、裏手のブロック塀に、ドアを設置したことを思い出した。

まさか、あのドアから、何者かが入ってきたのだろうか。


「もしかして、あのドアから入ってきたんでしょうか。

 みんくさんが……プログラムで作ったドアから」


「うそっ。そんな……ごめんね。

 さくり。わたしが、勝手にドアを作っちゃったから」


みんくは、何の考えもなく、勝手にドアを設置したことを後悔した。


「気にすることはないさ。

 ボクは、ケルベロスだけに頼っているわけじゃないからね。

 ボクには特殊能力があるんだ」


「へ?」


みんくは、さくりの言っていることがよくわからなかった。

とくしゅのうりょく? 何をするの?


「見てればわかるよ」


さくりは、自信満々の様子だ。


「さて、そろそろ近づいてくるころだ」


がたん、がたん。

階段を上がってくるような音がする。


「きゃっ……こっちにくる」


みんくは、こわくなり、その場にうずくまった。


そして、ドアが不気味な音をたてて、開いていく。

そこに現れたのは、木製のマネキンのような物体だった。


頭はあっても顔がなく、表情はうかがいしれない。

そのマネキンは、ゆらゆらとゆれながら、不安定なてんびんのように

こちらに向かってくる。


さくりは、おちついた様子で、マネキンにむかって、

何かをとなえはじめた。お祈りだろうか。

早口すぎて、みんくには理解ができなかった。


「きえなさい」


その直後、マネキンはふっと消えた。

最初から、何もなかったかのように、けむりのように、消えてしまった。


「これで大丈夫だよ」


「さ、さくり? いまのはいったい……」


「言っただろう? 特殊能力だよ。

 この世界のボクは……魔法使いなんだし」


「は、はぁ……?」


みんくは、さくりが言っていることが理解しきれず、

頭のなかに「?」をいっぱい浮かべる。


「低レベルの不審物くらいなら、今の『転送』魔法で

 どこかに飛ばせるってことだよ」


「あのマネキン、どこかに飛ばしたの?」


「それはボクにもわからないなぁ。

 ランダムなんだよ、転送先が。

 雪山の頂上かもしれないし、海の中かも」


雪山の頂上? 海の中?

なんだかすごすぎて、みんくは、反応に困ってしまった。


「みんくも、使えるんだろう? 特殊能力……プログラミングを」


「えっ? そ、それはそうだけど」


「この世界には、さっきのマネキンみたいな不審物がうろうろしてる。

 これは、この世界のバグなんだ。

 出どころは、おそらく町の工場だと思うけど、

 ボクにはそれを止めるチカラがない。

 みんく。君の能力なら……工場のマネキン生産を止められると思う」


「それって……プログラミング能力で、

 マネキン工場を停止できるってこと?」


「そうだよ」


「そうなんだ。じゃあ、その工場にいかないといけないね」


「うーん。それが、簡単ではないんだ。

 工場までの道は遠いし、このへんにはさっきみたいな

 変なマネキンがうろついている。

 危険だから、準備してから、注意して動いたほうがいい」


「わかったよ。

 ところで、さくり。さっきの変な魔法みたいなのって

 どうやって身に着けたの?」


「この世界のボクには、最初から特殊能力があるのさ。

 学校や塾でならったわけじゃないし……」


ふーん、とみんくが少し納得したところで、

アノミーが耳打ちしてくる。


「みんくさん、みんくさん」


「なに?」


「もしかしたら、さくりさんの特殊能力って、

 ある意味、この世界のバグなのかもしれません。

 ですが、これはいま直す必要のないバグだと思います。

 マネキン対策には有効ですから。

 でも、いずれは、直さないといけないのですが」


「直さないとダメなの? 怖いマネキンをぶっとばしてくれるのに」


「いずれ、さくりさんとケンカすることがあれば、

 その特殊能力で、みんくさんがやられてしまうかもしれませんよ」


「えー。さくりがそんなことするわけないよ」


「みんくさん、油断は禁物です。

 まあ、ケンカさえしなければいいのですが」


「今は、そんなことより、裏手のドアを消しにいこう。

 わたしたちが入るためにドアを作ったけど、

 まさか、侵入者に勝手につかわれるなんて、思わなかったもん」


「それがプログラミングのこわいところです。

 役に立つ反面、侵入など犯罪目的でも使われます。

 みんくさん、いい学習ができたと思います」


「そうだね。プログラミングするときは、気をつけなくちゃ……」


その後、みんくは、裏手に作ったドアのプログラムを消去するのだった。



つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る