第19話 普通の小学生(魔女)

二階の窓から声がしたので見上げると、

そこには、みんくの見慣れた顔があった。

幼馴染の――茜さくり(あかね さくり)だった。


「さくり! 勝手に来ちゃってごめんね。

 ちょっと遊びにきたの」


「遊びに? ボクちょっといそがしいんだ。

 いろいろ実験しててね」


なんの実験なのだろう?

みんくは背筋がぞわっとする。

怖くなってきたので、あまり深く考えないことにした。


「さいきん遊んでなかったし、おうちに入れてよー。

 あたらしいお友達も連れてきたんだよー」


「しょうがないなぁ……。

 じゃあ、入ってきてよ」


さくりは、かったるそうな顔をしていたが、

どうやらみんくたちを受け入れてくれるようだった。


みんくとアノミーは勝手口から入る。

中は静まり返っている。

そのまま二階へ上がっていく。


この部屋に、さくりがいるはずだ。

みんくにとっては、ひさしぶりの、さくりの部屋だった。

ゲームが楽しすぎて忙しかったので、なかなか遊びにいけなかったからだ。


みんくは、さくりの部屋のドアを開けた。


「ぎょっ!?」


そこは「でろーん でろでろ」という不気味な効果音が似合う部屋だった。

よくわからない”黒い”グッズ、”赤い”グッズで部屋がうめつくされ、

よくわからない十字とかS字とかの模様が壁に書かれている。


きわめつけは、机のうえのビンに入ってる、謎の赤・黄・青・緑の液体たち。

なんのクスリ!?(たぶん絵の具入り水)


それに、なんだか部屋が全体的に暗いし……。

お化け屋敷みたい。


元の世界ではこんなにひどく……じゃなくて、

「個性的」な部屋ではなかったと思うけど。

みんくは、思わず、ドアを閉めたくなってしまった。


うしろにいるアノミーも、異様な雰囲気を感じたのか、

眉が下にさがり、びくびくしているようだった。


「き、危険を感じます。帰りましょう」


アノミーは、みんくの洋服のすそをひっぱって、逃げようと警告する。


「だっ、大丈夫だよ、たぶん……」


みんくは、アノミーに帰らないように言おうとするが、

それでもだいぶ及び腰な様子だった。


「せっかくボクの部屋に来てくれたのに、もう帰るの?」


そう言いながら、部屋の奥から、黒い人影がゆらりとあらわれる。


「茜さくり」だ。


みんくと同じ年齢なのに、魔女のような黒い服を着てるせいか、

大人っぽい感じがする。


「これはとんでもないバグがあらわれましたね。修正しましょう」


アノミーがいきなり言ってくる。

さくりが個性的すぎて、それをバグだと認識してしまったらしい。


「だ、だめだよ、アノミー!

 これこそが茜さくりちゃんなんだから!」


「こんな怖い部屋に住んでる子供はいません!

 こわれてます! バグにちがいありません!」


「アノミーちゃん落ち着いて!」


アノミーは顔が青ざめて、あたふたしてて、冷静さを失っている。

でもちょっとだけそんな様子が「かわいい」とみんくは思った。


「失礼な……。ボクはこの部屋が好きなんだ。

 それに、だれなの? そのうしろの子は」


さくりは、質問してきた。

うしろの子というのは、アノミーのことだ。

さくりはアノミーのことを知らない。


みんくはアノミーの紹介について、考えこんだ。


さくりにアノミーのことをどうやって説明しよう?


人間じゃない謎の生命体……とはさすがに言いにくい。

いや、さくりなら、受け入れてもらえる可能性はあるけど。


従妹いとことでも言ってしまおうか?

そのほうが通じやすそうだ。

そこまで考えたとき、アノミーが勝手にしゃべりだした。


「私はアノミー。この世界を作りなおすために、

 みんくさんと一緒に行動しています」


言っちゃった。本当のことを……。 ど、どうしよう!?

「従妹」ということで説明するつもりだったのに。

みんくはあぜんとして、かたまってしまった。


「あのみー? うーん。外国人の子かな?

 それに『世界を作りなおす』って……どういうこと?」


さくりは、とうぜんの疑問を口にする。


「あ、あの、それはね、アノミーの口ぐせで、

 ほんとはちがうの。なんというか、

 ちょっと変わったことを話す子で……」


みんくは、アノミーのことを「ちょっと変わった従妹」であると説明しようとした。


「いいねぇ……ボク、そういうの好きだよ」


「はい?」


「ボクは茜さくり。

 今こどもの姿をしてるけど、本当は魔女なんだ。

 この世の不思議なことをいっぱい調べていて……。

 幽霊とか妖怪とか悪魔とか……。

 今の話を聞いて、アノミーちゃんのことも調べてみたいなぁって思ったよ。

 アノミーちゃんの正体は何なのかな? 神かな?」


さくりは、演技がかった口調で、本気か冗談かわからないことを言う。


本当は魔女でもなんでもないし、わたしと同じ小学生なのに……。

さくりはちょっと気取りすぎ。

みんくは心の中であきれるのだった。


「か、神!? そんなたいそうな存在ではありません」


アノミーは少しずれた否定の仕方をする。


「ふふふ。なんにしても、これからじっくり調べればわかることだよ」


さくりは、トカゲのような笑みを浮かべた。

危険を感じたアノミーは、みんくの背中のうしろに、すばやく隠れる。


「みんくさん、やっぱりこの人、バグっています。修正しましょう」


「だめだってば。これがさくりの『普通』だよ」


「ふ、『普通』ってなんなんでしょう……?

 私、人間のことがわからなくなってきました」


アノミーは頭が混乱してきたようだった。



つづく

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