第11話 にがい
ドアのむこうには、毎日みかける風景が広がっていた。
1階への階段と、お母さんの部屋。
特にあやしいものは、何もない。
みんくは、ほっとして、胸をなでおろした。
そして、ゆっくりと階段を下りる。
でも安心しきってはならない。
おかしなことが起こりうる世界に、今いるのだから……。
お母さんがいないかもしれない。
夕食もとれないかもしれない。
みんくは、いつもとちがう気持ちで、階段を下りていく。
そろり、そろりと。
「みんく、ご飯よー!」
途中までおりたそのとき、声がひびく。
お母さんの声だ。
みんくは、その声をきいて、安心した。
「この世界にお母さんはいるんだ!」
急いでバタバタと駆けおりる。
そして1階の食卓のある部屋へ入る。
そこには、いつも見なれた、お母さんがいて、食事があった。
テーブルの上には、オムライスとサラダが置かれている。
「わぁ! おいしそう!」
「ほら、冷めないうちに食べなさい」
「言われなくても! いただきまーす!」
みんくは、スプーンを持ち、オムライスを口に運んだ。
「うええええ!? にがいっ」
にがい。まずい。サクサク感がする。
こんなのオムライスじゃない!
思わず、吐き出してしまいそうになった。
オムライスって、もっとふんわり甘くて、
やさしい味のはずなのに……。
お母さんの料理の腕がにぶったに違いない。
さいきん仕事ばかりしていたから……。
みんくは、口直しにサラダを食べた。
「はあああ!? あまいっ」
サラダの味付けがおかしい。
ふんわりあまくて、とろとろしている……。
あれ? なにこれ? 味が逆じゃない!?
料理のプログラムがおかしくなってるにちがいない。
わたしの部屋に、ドアが無かったときみたいに……。
「ふっふっふ……。おいしい?」
お母さんの顔が、悪役キャラクターみたいな表情でゆがんでいった。
みんくは、その顔を見て「この人はお母さんじゃない」と思った。
「だ、だれ……? お母さんじゃないの!?」
「この世界に、まどかさんのお母さんのプログラムは存在しません」
無機質な声がひびく。
あきらかに、お母さんの声ではない。
みんくは、テーブルから立ち上がり、身がまえた。
「こ、この声は……まさか、パソコン君!?」
「私の名前は、パソコン君ではありません。
たしかに、まどかさんとは、パソコンのときの姿で話しましたが……」
「なんのつもりで、こんなことをするの?」
「ゲーム作りがしたいって、言ってたじゃないですか。
だからつれてきたんですよ。この世界に」
「だからって、にがいオムライスを食べさせるのは
おかしいよ!」
「まどかさん……この世界は、バグだらけです」
「バグ?」
「バグというのは、プログラムを間違えたことにより発生する問題のことです。
この世界は、間違いだらけだし、中途半端な作り方をされています。
ですから、まどかさん。
あなたがこの世界を、正しく作り直してほしいのです」
「え? 無理」
即答してしまった。
「だって、お腹がすいてるのに、無理だよ。
世界をプログラムで作り直すなんて……どう考えても」
「それはそれは……。
人間のからだは、不便なのものですね」
「とりあえず、食事しないとね。
オムライスとサラダのプログラムが逆になってるでしょ。
それを今から直させて」
「そこまでする必要はないですよ」
「どういうこと?」
「まどかさん。自分のお腹をタッチしてみてください」
「はい?」
自分のお腹をタッチする?
パソコン君(仮名)が何を言っているのか、みんくにはよくわからなかった。
みんくは、自分のお腹をじっと見る。
別に何も異常はない。
さっきから、ぐーぐー鳴ってること以外は。
「……どういうこと?」
「やってみてください」
みんくは、おそるおそる、自分のお腹をタッチした。
つづく
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