謎と後悔


 砂漠の地帯を抜けて俺達を待っていたのは一つの大きな都市であった。


 実はこの惑星、地球でいうところの四季が存在せず何故か完璧に微動だにせず垂直に縦に回転し続けている星なのだが原因を来た時に痕跡を探したが何一つ見つからなかった。


 もしかすると何かあるのかもしれないと思ったのだが、それ以外は特に地球と変わらないので気にしないでいた。


 しかしあの砂漠を抜けた後に存在している国の中でそこの歴史が書いてある年表を見てその考えが変わった。


 「これは–––––––強烈な違和感だな」


 そう、この世界には歴という概念が変化していたのだ。


 違和感と感じたところは生物でいうところの年齢が存在しているのに他の物事には年数が統一されてない。春夏秋冬の文化が無いこの世界であっても一定の同じサイクルを刻む事は分かっている。


 例え存在しなかったとしても、年が変化した日から数えて次の年まで計算すればこの世界の年数も分かる筈。なのにこの世界ではそれが明確に解明されていない。それは何故なのか?


 答えは簡単、改竄を行なっている者がいるという事。何か暴いてはいけない隠し事が存在している、もしくはそれに手を加えて何か秘匿している者がいる。


 しかしそれにしても余りにもバレやすい痕跡なので何か意味があるのかもしれない。

 けれども自身が引っかかっているのはそこでもなく、問題はそれを行う事が出来る者がこの惑星には存在しないという事だ。


 これは急革改変と言って、突如として無理矢理変えられた正規の歴史を整えようとしたものである。しかしその影響として出たのがこの今回のところでいう年数であった。


 急革改変をするにはタイムスリップやタイムトラベル、タイムリープやタイムワープ、タイムスキップやパラレルワールド、並行世界や類似世界への管理などというモノで行えるものではなく、定理修復や創造事象で改変するものなのだ。


 言うならば、個人的な事で済ませられ、自身やその周りの人程度で解決出来る問題がタイムスキップやタイムトラベル等の範囲で、集団や膨大な力で一新するのが世界を塗り替える事情なのだ。今回は後者である。


 一般的にはそんな事を行える者などまず存在しないのだが、稀に個人でそれらしきものを行う事が出来る者がいるのだ。しかし実際に存在していた訳ではない。


 けれどもこれは完全に違う。内容が根本的から違って完璧に個人で行なっている。形跡や痕跡が完全に無いのだが、もしこんな事を行える奴がもし居るとするのならこれは間違いなく俺の強敵になる事だろう。


 だからさっきで怠けた考えを捨てた。最大限の警戒で切り抜ける事だけを意識して––––


 「ぇ!ねぇってば!聞いてるの?」


 考えが思った以上に深かったのが一緒にいた彼女にまで響いたようだ。怪訝そうな顔でこちらを見ている。


 「どうかしたの?さっきからずっと怖い顔をしてたよ?それでそれ買うの?」


 ルナが指を指した先、つまりは自分が握っていたのは動物の置物だった。無意識のうちの気づかない間にいつのまにか握っていたのだろう。気になっても居ないのに知らないうちに手に取っていた。


 「ああ、悪い。これは買わないでおこう。ここの歴史については大体分かった。こっからは俺がボーっとしてた分、少し急ぐか」


 国の中にある街をそれなりに散策すると、通過する形でひっそりとこの国を出た。理由としては姫様である彼女の気分が良くなかったというところでだ。

 そりゃそうだ、何故なら今は敵対国なのだから。受ける視線の一つが怖いと思う。相手がその気では無くとも中々居心地の良い場所ではないだろう。


 のどかな草原に移動すると息を大きく吐き出したルナを見て心配の声を掛ける。


 「大丈夫か?」


 「うん、もう大丈夫。でもちょっと気持ちを落ち着かせたいかな」


 思うところがあるのだろう。ここは一人にさせておくのが一番だろう。


 「分かった。じゃあしばらくコイツ連れて外で鍛えておくわ」


 「しかし姫様を一人にさせるなど」


 ルナの事を想っての行動だったのだが、どうやらそれはノーランも同じだったようで彼女を守りたいが為に反対の意思を示す。


 「一人にしてやれ。嫌でも俺はお前を連れてくからな。おら、死なない程度にボッコボコにしてやるよ」


 「それはありがたい。でもそれだとただの痛め付けではないか!?」


 騒ぎ立てるノーランの襟を掴みながらズルズルとその場から離れていく。どうやらノーランにはまだ空気を読むという事は難しいようだ。



 連れ出して距離を取るとノーランはすかさずに武器を構えてくる。


 「行くぞ」


 掛け声と共にこちらに撃突しようとするノーランを勘違いの無いように静止させる。


 「一応言うが外に出たのはお前を鍛える為じゃなくて敵がいたからだ。あそこで敵がいるからなんて言ったら見映えが悪いからな」


 「なんだ、そうなのか。ってそれなら早く倒さないと!」


 どうやら付けて来ている敵にノーランは気付かなかったようで辺りを探し回っている。


 「モンスターね、一体コイツらはどういう訳で発生してるんだろうな?出てこいよ!出ないなら勝手に倒すけど、良いのか?」


 分からなかったようで少し驚きながらも出てくる敵はこちらを見てすっかり臨戦状態になる。


 見つめる先には戦闘は任せろとか言って一人でモンスターと戦うノーラン。剣を使っての攻撃は確実に敵の弱点らしき部分に当てながら絶命させていく。


 一通り倒し終えると側に歩いてやって来て気を紛らわすようにこちらを覗いてくる。


 「な?俺も戦えるようになっただろ?」


 戦っている姿を見てこの世界の住人と強さを比較すると比較的強い方だと思われるがこれから戦う相手には今一つ足りないといったところだろう。

 けれども貶してはいけない。それでは成長しなくなってしまう。ここは嘘でも良いので褒めておく。


 「ちょっと身体の動きが良くなったみたいだな。戦力として戦える戦士になってくれて良かった。これでこっちのする仕事が減るってもんだ」


 「けど、まるで勝てる気がしないんだ。俺はもっと強くなりたい」


 それまでの彼の様子が一気に暗くなり、表情に影が曇る。原因は先程の武人との戦闘で志半ばで負けたからだろう。


 「まあ大丈夫だ。いざとなったら俺がやるから。ところで、このモンスター達については何か知ってたりするのか?」


 「いや初めて見ました。俺たちが戦っていたのは基本的に人か亜人です。モンスターってのはよく分からないが俺たちの所ではあんな化け物は普通出てこないです」


 話を切り換えたつもりが新しい疑問に変化してしまった。どういう事だ?本来ならこの星にこの生命体達は居ないだと。だとするならコイツらの存在そのものが脅威。


 というか本当にリアが言っていた最初の勇者と魔王の下りはなんだったのだろうか。何をさせて欲しかったのか疑問が増えるばかりである。


 「あ、そうか。アイツか原因は」


 思い出したのはルナの居た王城で彼女の側に居たルーカスという魔人らしき者だった。


 彼はルナや人を憎んでいて今まで様々な無関係な者達を立場を利用して殺していて経歴はすっかりルナの腹心と放置していたが何も調べて居なかった。もしかするとノーランとの繋がりで何かヒントになるものがあるのかも知れないと考えると彼に訊ねる。


 「なあ、ルーカスって男の事はルナから聞いてると思うが何かアイツの事について知ってる事なんかあるか?」


 「ルーカスは最低最悪の男でしたが腕は確かでした。昔、王城に居た時に彼と模擬戦する機会がありましたが私は簡単に負けてしまいました」


 思い出と共に過去のルーカスの事を紹介してくれたノーランだったが、表情はそれに反して悔しそうな顔付きになっている。


 「そういや、お前の事について何も知らなかったな。良くない事を聞いた、話したくなければ無理に話さないでくれ」


 見ようと思えば相手の記憶を見る事も可能なのだが、人道的ではないので自ら控えてさらにルーカスの事も慮ろうとすると彼から止められる。


 「いや、聞いて欲しい。これは今後のアイツとの戦いで参考になるかもしれない」


 「言い方が引っ掛かるな?どういう事だ」


 「アイツは人間を化け物に変える力を持っています」


 ノーランの発言に少し肝が冷える。恐らく奴の目的が見え隠れして来たからかもしれない。


 「さっきのは人間だったって事か。何か手を加えられてる奴だと思っていたがそういう事だったのか」


 「そうだ。そしてそれは奴の本拠地に近付いている事を表している。さっきは分からなかったが倒した時に彼等から声が聞こえてきたんだ。助けてくれって」


 「下衆な野郎だ。想像以上に倒し甲斐があるじゃねぇか」


 「私の仲間は彼に全員化け物に変えられました。偶々任務で外に出ていた私は戻る途中に王国が崩壊した話を聞いて戻る途中に魔人らしき誰かに私は石にされて。今まで固まって何も出来ませんでした……」


 拳を強く握り締める。力が無く、後悔した彼に何故か強く胸が締め付けられる。いや、誰であろうともそんな状況に陥れば辛い事だと感じるだろう。


 「お前は何も悪くない。悪いのは全部ルーカスだ。あいつを止めるのがこれからの俺らの目的だろ?」


 自責の念で自ら潰れそうなルーカスに対して惑いがないように励ますが、彼は自分の事はあまり考えていなかった。


 「ルナ様は、辛い選択をし続けたのでしょう、話を聞きました。私はルナ様が孤独にも戦い続けた事に誇りを思います」


 彼は護衛隊の一員だったという。いつからかいつの間にかこんな風に変わっていってたが、かつては彼女を守る騎士だったという。


 「これから守り抜けばいいだろ?もう彼女を守れるのはお前しかいないんだから」


 「私は!私は一番弱いのです。あの護衛の中でも最弱な私は戦いに出る事を恐れてるのかもしれません。仲間が皆化け物に変えられて私は何も出来ない不甲斐なさが許せない。だから!だからこれから先で戦う覚悟をしようとしたのですが…….やっぱり勝てる気がしないんです」


 塞ぎ込む彼は長い間に精神が暗いものに変わったのかもしれない。しかしだからといってそれが悪いという事ではない。


 「別に、一人で勝とうとしなくてもいいだろうよ。お前は一人で戦っているんじゃないだろ?」


 ルーカスは前が見えなくなっている所があったのかもしれない。今の言葉にかなり心を揺さぶられている様子だった。


 「俺を頼ればいいし、ルナを頼ればいい。アイツだって自分が何か出来る事をってやって来たから今日まで誰にも染まる事なく生きてるじゃないか」


 盲点だった様子でこちらにじっと見つめるとそれまで苦しそうな様子だったのが嘘みたいに少し笑って落ち着きを取り戻す。


 「悲観的になり過ぎてましたね。そういえば頼れる存在にあなたがいました。前向きに捉えた方がいいですね」


 「おい、俺の労力返せ。ったくあっちもこっちもメンヘラばっかかよ。話が重いわ、ルナの所に帰るぞ」


 「了解」


 戻る二人の後ろで倒した化け物が塵になっていき消えていき、何処かに流れていく。まるで何かを回収するかのように。


 

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