クラス分けテスト


 ここ二十五区には様々な伝説がある。


 曰く、ここには日本のトップがいるとか。

 曰く、人間の手に負えない化け物がいるとか。

 曰く、狂気と異常者の集まりだとか。


 二十五区が出来てからかれこれもう何十年かは経過するがこの場所には外部。つまりは地球外からの他の生命体の攻撃は今でも絶えることはない。


 人間と生物としての構造が全く違う生き物と良い関係性を結べるようになった場合もあれば、人間と殆ど同じ姿や考えをしているのに完全に対立してしまっている生命体も確認されている。


 しかし、まだ他の生命体と関わる事を始めて日が浅くて今まで関わりを全く持つことが無かった人類には、いかんせんまだまだ未解決な部分が多いのだ。


 「これがその噂の高校か」


 見上げる先には今までに雑誌やテレビなどで幾度となく見せられた場所、特立大学付属東京高等学校があった。

 電車で移動し、学校まで歩いてきた俺は改めてその大きさを認識する。学校だけの広さでまでいく大きさは正しく巨大と言え、その圧倒的な権力がある事を彷彿とさせる。


 そもそもこの学校の為だけに人工島を建設する辺りはもう既に学校とは呼べない代物であったとは思うのだが、これが全国だけでなく世界中あるので些か皆のその認識も変化して今では学校として扱っているのだろう。


「こんなにも高校らしさが無い学校ってのも中々に無いと思うけどな」


 この高校、特東にはあらゆる施設を完備している為、校内は校舎以外にも様々な建物が存在する。

 人為的な丘の上にあるこの高校はその丘の高さに加えて、さらに建物の高さもあって全く学校らしさがなく、他に聳え立つ建物全てを圧倒するモノがあった。


 ただ茫然とそれを眺めていると、ふと後ろから近寄って来た見知らぬ誰かに声を掛けられる。


 「ちょっと、そこの君?」


 「はい、何ですか?」


 「君は何しにここに来たの」


 振り向きざまに全くの赤の他人にいきなり壮大な質問をされた為に考えが全然出来なかったがとりあえず無難な答えを用意する。


 「勉学を学びに来る為に、ですけど」


 正直そんな気は全く持ってないのだけども答えておかなければ地雷の気配がした一応それらしい事を言っておく。


 「そう?どうやら君は、入りたくてここに来た人じゃないみたいね」


 「そう、なんですかね?」


 自分でも半ば疑問形になってしまったその答えに対してあからさまに不機嫌な態度を取る仕草を見せた彼女はキッパリと決別の意思を示してくる。


 「そんな覚悟で来るようじゃ、ここでは生きてけないわ」


 「アッハイ」


 その場から立ち去る彼女の後ろ姿を見ながら、この特東の意識の高さを実感させられたのだが


 「しかしなんだ今のは?まずアンタ誰だよって話だな」



 少し入学式の時間よりも早く来てしまったので雑に校舎を回ってその全貌を確認しようとしたけれど、あまりに広かった為に途中で時間一杯になってしまって断念した。


 入学式に合わせて移動してホール1にある新入生の集合場所へと到着すると自身の指定されている席に着き、静かに腰を下ろす。


 特東に入って、真っ先に思った事の一つはその生徒の質であった。ある者は気合を滾らせていて、またある者は気品に満ち溢れている。またある者は気骨のある精神を持ち合わせていて、そしてある者は復讐心を抱いている。

 どうして中々味の濃いメンツが集まったとも言える。ここに期待をしている者が多い証拠なのだろう。派手な格好をした者や変身者なども居たがそれは彼等なりの個性とも言えるものなのかもしれない。


 式が始まり、最初にこの学校の代表からの祝辞の話を聞くが、なんだか眠気が溜まってるのもあってかあまり耳に入ってこなかったが、途中でのある一言


 『君達はまだヒヨっ子だ。どんなに能力が優れていようとも、どんなに別の場所で経験を積もうとも、それを過信して決して慢心しないように』


 という最後の言葉だけはしっかりと頭に入ってきた。いい言葉だと思う、少なくとも今の皆に当てはまる事なのでしっかりと頭に入れておくべきだと強く実感する。


 けれどもこれと逆の事をついさっき家にいる彼女からは言われてしまったのだが。


 逆に莉愛からは本当に最小限の最低の力で参加してくれだとか出来るだけ目立たないようにしてくれだとか周りに合わせて行動してくれだとか。別に面倒になる事はしたくないし、力を誇示したいというわけじゃないからそんな事はするつもりはない。

 というか今のは全部、問題児に注意とかしつけで言う事だと思うが、あまり自分も変わりはないので受け止めてはおいた。


 その後も多数の有名人やOBやスポンサーなどから式典を祝う激励の言葉を多数から貰い生徒は一通りの行事を執り行った後、暫しの休憩を与えられて皆が一息落ち着かせる。


 だが、本題とも言えるクラスや教員の紹介は未だにされずに皆の中には軽く戸惑いがあり、ザワザワと騒いでいた。


 「クラスが無いのか?もしくは決まっていない。一体これはどういう事なんだ?」


 「それは多分、これからやるんだよ」


 突如として後ろから声を掛けられたので思わずビクッとして後ろを見るがそこいるのは勿論、知らない人だった。


 「お、おう。えっと?」


 「ごめんごめん、高峰正信だ。お前は?」


 「俺は新越幸也、よろしく。んで、今のこれからやるってのはどういう事なんだ?」


 なんか露骨に内部事情を説明してくれそうな人が近くにいたのでそいつに話を伺ってみる。


 「なんか詳しいルールは知らないけどここで何かしらして優劣を付けるんだと思うぞ」


 「んで、それがクラスになると?」


 「多分な。実力が強い能力者からクラスが決まっていくから今日戦う事で決めるんじゃないかな?」


 目の前の奴の様子を見る限りだと推測でモノを言っているのだが、なんだが微妙な説得力があり、こちらも納得してしまう。


 するとここで突如として急にホールが動き出して形が変貌していく。ただのホールだったのが人為的に動かされ、ものの数秒で戦闘場が作成される。


 「マジで?今から戦うのかよ」


 「何か準備するような事でもあるのか?」


 探りを入れるように彼は聞いてくるが、その様子は警戒しているというよりかは話のネタとして集めようとしている節が見えた。


 「まあな」


 残念ながら主に自分の心の準備とかなんだから事前に能力を使って調べておくのもありではあったが、ここは特東の敷地内なのでどのくらいのレベルの者が見てるかは分からないし、バレるリスクもあるので迂闊に行動出来ない。


 「ほうほう、それは興味深いですなぁ?」


 「何だ?やっぱり事情通なのか?」


 今度はこちらから緩く浅く聞いてみるとまるでお目が高いと言わんばかりの表情をした後に楽しそうに話しだす。


 「まあね。ランク別に見てたりすると意外に面白いんだよねー、これがまた」


 「へー?ここだと公式で強さとか分からないのか?」


 この学校の事についてはよくわかんないから適当なことを言ってカマかけてみる。


 「一応、公式でランキングは出るけど、実力を隠してる人とか結構いるからその人達とかの実力も書いたりするね。ランク別はいざ戦う時の参考程度にね?」


 分かっての通りではあると思うが俺は俗世に疎い。本来なら調べる必要があるのは当たり前の話なのだが、記憶を取り戻す前はそう言った事にまるで興味のない人種の性格をしていた事とここ最近の激務によって何も情報を仕入れる事が出来てなかったのでこうして単純に話を聞けるのはありがたい。


 恐らく彼は情報通という事もあって安心して色々聞ける為、これからも利用させてもらうとしよう。その安心ついでに続いて彼のその観察力についても牽制をしてみるのありかもしれない。


 「よく見てるんだな。弱点とかバレるともうそれがお前の武器になりそうだな」


 「いやいや、俺そんな強くないから」


 そう言う彼を少し透視で肉体を見ると意外にも体を鍛えていたりと能力的なものも中々に悪くなかった。


 「そうか?少なくとも、他の奴等よりはまだマシだと思うけど」


 「そりゃどうも。でも、あんま期待しないでくれよな?」


 何か本人は隠したがってる部分もあってそれ以上はあえて聞かなかったがきっと何か目的があるのだろう。なので先程までの話に戻して詳しく掘り下げてみる。


 「なあ?ちなみにその公式の奴って生徒以外の奴とかもあるのか?」


 「うーん、軍に所属してる人もいれば能力者の団体に入ってる人もいるよ」


 つまりは個人の戦闘力の判断基準はランキングやクラス、ランク以外にも何種類かあってそれを隠している奴もいると。


 「へー。あ、じゃあ他の外から来た人とかは?なんか仲間になってる奴とか居なかったっけ?」


 質問に対して少し口を開けた彼はその後呆れて渋々話してくれる。


 「他の外って、お前………まあ、地球外から侵略目的でやって来た奴達は大体が強いからな〜。一応書いてはいるけど今後関わる事も無いと思うぞ」


 「凄いな、本当にデータがたくさんあるんだな」


 「俺は何だろうな」


 「能力による使用制限とかあるもんなこの学校」


 「え、そうなの?それはもう完全に初耳なんだが」


 ほらこれと言って見せてくれたデータには様々なルールが全て力で示す内容が記されていた。


 「生徒会もランク制による独裁か。意欲を向上させる制度だな」


 学校の明確なルールを見ていてふとここで新たな疑問が生まれる。


 「ここって、部活とかはあるのか?」


 「部活っていうか団体だな」


 「それはどういう違いが?」


 「チーム名みたいなのには名前を付けてるけど所属扱いみたいになるんだよ。その場合部屋は基本的には寮だから特にコレと言った事は無いけど、みんな集まって暮らしているから楽しい事が多いって言うのは良く聞くよ。だから今回の通過儀礼でどれくらい強さをみせれるか。どのクラスで活躍できるかに掛かってるね」


 ポイントを説明してくれた彼は実にいい顔をしていたがそれを放置して考えに耽る。


 「実力が強い能力者からのクラス、か」


 「ランキングによってもクラスの人は結構変わったりもするけど、そんなに強さが劇的に変わる事もないから普通は大体一緒のレベルのクラスだよ」


 「勉強で入って来る人達もいるけどそれはどちらかというとここのファンの子が多いと思うだけど。ん?でもそれって一緒にしちゃマズくないか?」


 その力によって見せ付けて学校に普通の人がいるのはマズイのではと考えるが、それに対して彼がまた補足をしてくれる。


  「そうだね。でも彼等は普通科でクラスは違うけど、実力としてのランキングには入ってる人もいるよ。訳あって普通科に移動したり、自らそこを希望する人もいるけどね」


  「なあ、ここって全校生徒何人居るんだっけか?学年ごとだとそれなりに違うと思うけど」


  「いや、同じだよ。みんなどの学年も一学年合計千二百人。普通科二百人、ウチも千人で成り立ってるよ。だから全校生徒でいうとちょっと訳ありもいるから四千人かな?流石にやめてたり、休学や留学してる人達とかまでは流石に知らないけど」


 「嘘だろ、流石に多過ぎだろ。もう軽い大学みたいなもんじゃんそれ」


 あまりの人数に驚きが抜けて、普通に話してしまった。


 「一応付属校だからね。ここ中等部とか初等部もあるから。教員とか関係者とか諸々合わせるとこの東京本部だけで数万人はいるって話だけどな?まあ、本部だから他より多いってのはあるけどね」


 するとここで思い出したかのように彼がまたフォローする。


 「あ、そうだ。さっき言ってた奴だけど、今も言った通りウチにはウチ以外にも付属校があるからやっぱり力は付けておいた方がいんじゃないかな?」


 「でもそれって、世界中にあるんじゃなかったっけ?そこまで行くと範囲が広過ぎてヤル気が出ないわ」


 「いや、まあそうなんだけどさ。警戒しといた方が良いよ?海外もそうだけど日本の他の付属校とはすぐ交流があるらしいからね」


 「それはヤバそうだな」


 「個人で戦う大会なんてのもあるからね」


 「正気かよ。そんなに色々として強くなりたいのか?」


 「勿論、ココを守る為だからね」


 そう言って彼は下を指差す。勿論それがこの惑星、地球の事を表しているのは分かっているけれど実感は全くと言って良いほどに湧かなかった。


 「そんなもんなのかね?まあ見るには盛り上がってて楽しそうではあるけどさ」


 「まあ、飽きはしないだろうね」


 納得しつつまだ時間があるみたいなので俺はついでに学校の他の事も聞いて見る。


 「ここって授業とかはどうなってんの?」


 「基本的には日曜日以外はあるよ?ただ午前が普通の学校と同じ座学を学ぶんだよ。そんでもって午後からの授業は自己形成って事で先生がオリジナルの授業をしたり、自らの能力を鍛えたりするんだよ」


 「そこでは帰って良いのか」


 「まあ、帰っても良いけど普通はみんな残るからね。というか幸也はガイダンスちゃんと受けたの?」


 「マジかよ、そもそもガイダンスあったの知らなかった」


 「あらら、ヤル気のある生徒が集まってるからね。まあ潰されない程度には頑張って」


 話が一区切りついてステージが変化して完成した戦場になったホールを見て改めてここが日常とは掛け離れた高校なのだという事を自覚させられる。


 「これホールって名前の割には戦闘場みたいな場所だな、コレ」


 「ここら辺のホールは大体全部のいろんな施設に自動的に変えられるからね。ここに入るからにはこの設備は必須だと思うけどね」


 新たに解放されたその場所には他の学年の生徒や関係者が座っていて観戦出来る仕様になっていた。スタジアムの中にいる感じでしかも戦いにはうってつけの場所であった。


 「しかしまあ………これじゃあ完全に見せものだな。あまり良い気分ではないな」


 「あながち間違いでもないね。それだけ今年の俺達に注目してるって事だろ」


 「いや、この見せものってどうせ毎年あるんだろ?俺はそれが嫌だと思っただけ」


 「まあ上級生やお偉いさん達がスカウトしようと躍起なってるからね、そうなるのも仕方がないよ」


 と、ここで急にタイミングよくすぐに周りの生徒が急に静かになり、俺達も自然に話を終了すると雑音の後でマイクによる一言が放たれる。恐らくは前方にいる先の学校の代表が現れたからである。


 『それでは、闘いを始めよう』


 ビープ音を戦闘開始の合図の音として鳴り響く。音はスポーツなどで聞くただのブザー音なので音には特にこだわりなどは無いみたいだ。所々のいい加減さが見受けられるが大した問題でもないのでスルーしておく。


 「んじゃ、まあどうするk」


 試合が始まったその瞬間、喋る間も無く、いきなり数百メートル先にある壁に拳の殴りによる殴り飛ばしで叩きつけられた。



 –––––これは試合開始からいきなりだな。



 しかし反応には即座に気付いていたのでわざとブッ飛ばされといた。正確に言うと更に自分から移動して壁に減り込まれたように見せていたのだが。

 若干名の教師と生徒の数人に怪しまれたのか警戒されている。失敗したかもしれないの後で今怪しんだ奴らの記憶を消しておくべきだろう。


 まあ眺めもいいし、幸いにも大多数に速攻で片付けられた奴だと思われてるからこのまま眺めておくか。


 『おーっと!早速新入生の速攻による攻撃で一人吹き飛ばされた!壁に減り込んでいる辺り復帰は不可能かぁ!?』


 実況の女子生徒の声が聞こえて来るが、このまま張り付いているのは試合後まで変わりないのでそのまま試合の様子を眺めている。


 「邪!」


 「覇!」


 「ハァァァ!!」


 「ぜぇあ!!!」


 闘いを始めた彼等は様々な攻撃方法で己が力を示していく。防御などの手段で自身の有能さを示すものもいたが、ここでは恐らく力による行使が一番有効なのだろう。


 剣で斬り付けて銃を乱射し、能力を行使して力で潰す。不意打ち問わず乱戦構わずか、もう地獄絵図だなこれは。


 戦いが繰り広げられていく中でやっと俺の存在に気付いた高峰は何故か申し訳なさそうな顔をしながら独り言を喋る。


「あらら、幸也君のやつってば一瞬でやられちゃったか。まあ相手が悪かったよね、ドンマイ!」


 お前な、聞こえてるっつーの。全く、本当にこれは良い見せしめだよ。もうこれは完全に雑魚の象徴だろ。Y字で綺麗に壁に減り込んでるからなんか展示物みたいになってる。


 能力を扱うにあたって彼等はいくつかの優れた能力を使っている。しかも使うだけでなくてそれ以外の戦闘技術が求められるのがこの学校。

 先程の彼のデータを見せて貰った時に能力の自動閲覧したがその内容がもうこの現代世界を物語っている。


 力の使い方を覚えて使いこなし、自らのモノにしてやっと一人前。又は救世主として責務を果たすのが他の育成校としたら、ここは更にその上を行く。

 ここでの最強と呼ばれる者達は、簡単に環境を破壊出来、一人一人が戦略級の兵器といっても良いくらいに強さの質が違う。


 それがどれだけ異常な事なのか、それがどれ程イカれた事なのか。何もかもが、全てにおけるスケールが違い過ぎるのだ。


 一つだけの力を使う者もいるけど、その多くは複数の力を酷使して闘っている。大体、一つだけだとその力が余程強くない限りはここで弱いのだ。つまりは生き残れないという訳だ。


 ここに入学するレベルの基準さえ、複数の力を保持している事が推奨されている。力を取り戻す前の自分が招待されてたのが不思議なくらいだ。ただ相手を凍らせたり燃やしたりする程度の力じゃ世間では活躍は出来るがここでは雑魚扱いされる。

 あまりの力の大きさに天才でさえ呑み込まれていくのだ。


 そんな事を振り返っているといつの間にか試合終了の音が響き渡っている事に気付く。

そしてアナウンスで拡声器から教師であろう者からの次の指示が出される。


 『今立っている者達は次のステージで戦ってもらう。負けた者は精密検査を受けた後、怪我をしている者は治療をしてもらって同じく精密検査をした後にホール2に移動してもらうように。以上だ』


 「なんだ、そういうやり方だったのか。もう少しくらいやっとけば良かったな」


 大会スタッフから救助され、よろよろと歩く振りをしながら出口に向かうとさっきこちらのことを哀れんだ彼が出口付近に居た。


 「お前、大丈夫だったのか?多分そこまで深い怪我じゃなかったと思うんだが」


 「いきなりは、な?それにしても、詳しく見てんだな。この実力の検査ってのもしっかりしてると思うよ。ただ他の人の闘いも見ていたいな」


 「まあ、あまり沢山の人に知られてもね」


 「それもそうだな。じゃ、お前は次のステージも頑張って来いよ?」


 「軽く傍観だけしてくるよ」


 そんな軽いやり取りをして彼と別れ、出口へ向かうとその出口付近に拡声器に声を出している人を見つける。


 『ホール2へ移動する生徒はこちらで精密検査を受けてもらいまーす!』


 検査員の掛け声に誘導され並んで後方に待機している間に一つの問題点に気付く。


 「ああ、これ俺が調整しないといけないパターンか」


 自身の番が来る前に能力を使った目視で記録されてるデータを分析し、今までの退出した人達の平均よりやや下の数値を結果に調整しておいた。



 ホール2の会場には先程とは随分と変わり見物人の数が減っていた。この高校では確かに弱い者には用はないということだろう。余程の者好きにしか需要はないのかもしれないと思われる。


 入学生の個々の強さを見る限り先程の会場に居た強い者に匹敵するレベルの生徒も居るが全体的に質が落ちている。

 個人的には下位のクラスの人達が今後どのように強くなっていくかが見ものではあるのだが。


 やがて人が集まるとすぐにホール2による二回目の審査が始まり、また戦いの火蓋が斬って落とされた。


 正直、二回目の戦いぶりは一回目とそんなに変わらなかった為に内容は詳細に言わないでおくが、下手して何か問題を起こしても困るので手を抜いてすぐにやられた扱いで退場しておいた。


 そしてその後、更により精密な検査を受けた後にさっさと仕度をしてもう帰ろうとした時にさっき知り合ったばっかりの高峰からまた、偶然出会って声を掛けられる。


 「よ、どうだったか?あれ?てかもう帰りなのか?」


 「まあな、だから見てわかるだろ?それにここに長く居ても俺が困るだけだしな。んで、そっちはどうだったか?」


 軽いつもりで聞いてみると、彼は肩を震わせながらこちらを見る。あ、まずい。これ意外に面倒かもしれない。


 「一昨年、去年とも凄かったけど、今年はヤバイよ。さっきお前をすぐにぶっ飛ばした人居たじゃん?」


 「ああ、なんか荒ぶってた人ね」


 「そしたら今度はあいつが一瞬で倒されたんだよ。同じ場所、同じ攻撃方法で」


 確かに凄いかもしれないが、そんなある意味律儀な奴がいるという方の驚きの方が強かった。


 「それやった奴、絶対性格悪そうだな。つまりはそいつは一回目の時は力を示してなかった訳だろ?」


 「そうなるね。それでその後もその人、圧倒的な力で半数の人を倒してたら時間切れになって。俺らはわざわざ組み直しなんて食らっちまってよ」


 「じゃあそいつは更にプラスで大人気ないって訳だな」


 「否定はしない、とにかく今年の一組はきっと超強者揃いだよ。あんなのすぐ世の中に出てくるよ。そうだ、お前クラスはどうだった?」


 思い出したかのように最後に聞くが、それもうわかるだろうよ。


 「Zクラスだって、一番下のクラスだったよ。あんなやられ方すりゃあ当然だけどな」


 「俺は今のところはLクラス、結局あれから何もしなかったからね」


 対応が丸々俺と一緒だったのでツッコミを一応しておこう。


 「個人的に楽しむなよ」


 「すまんすまん。まあ様子見って事よ」


 訳があって敢えてその位置にした部分があるのだろうと思うのだが正直自分にとってはどうでもいい話なのでスルーしておく。


 「どうせお前は実力は隠してるんだろ?」


 「違うってば、ただ単に情報収集しやすいだけだよ。まあまた会う事があればその時はよろしくな?」


 「おう、まあ多分会わないけど」


 「酷くない!?」


 だってすぐに学校行かなくなる事になると思うし、忙しいからとは言えない。


 「まあまあ、そんな冗談は置いといて。またなー」


 本気で言ってるのだが、そんな心の想いと裏腹に笑顔で彼に手を振って別れると周りに人がいない事を確認してから自宅に向かって転移した。

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