状況の整理


 元王城から王様を連れ出し、楽しい冒険が始まってから早数時間。歩いても歩いても変わらぬ景色に対して、完全に飽きた俺はその王様に提案をする。


 「あのさ〜?こう言っちゃあアレなんだけどさ〜?–––––––––転移していい?」


 「駄目です」


 即座に否定したその同行者はただ単に歩くというこの行為に、何らかの目的があるようにも見えた。


 「じゃあ質問していい?」


 「はい、それなら」


 このままただ歩いていても出来る事は限られているし、時間があるのでここぞとばかりに彼女に対して片っ端から質問をしていく。


 「名前は?」


 「ルナ・アーガスウェイトです」


 「種族は?」


 「通常種、人です」


 「歳は?」


 「15歳です」


 「うっそ、マジかよ」


 「何でそこだけ反応が違うんですか!」


 予想よりもだいぶ歳を取っていた事に驚くとデリケートな部分だったのか即座に彼女に突っ込まれてしまった。


 「いや、まあ俺と同い年だから」


 「そうなんですか!意外ですね。もっと年上かと思ってました。あ、そうだ。あなたの名前は?」


 「俺の名前は煌夜だ」


 「コーヤさんですか。覚えました!」


 手を合わせて嬉しそうにそう呟く彼女は少し魅力的ではあったが、まだ質問が終わってないのを思い出して仕切り直す。


 「そうかい。んで、本題なんだが」


 俺は首と体を捻りながら一面を見渡してから彼女に目線を合わせる。


 「何でここら辺全部砂漠しかないわけ?」


 「知りません、昔からそうだったとしか言えません」


 「そうか。じゃあ俺自身で調べるしかないか」


 その至極当然と言わんばかりの反応からして、彼女は本当に何も知らないのだろう。


 片手で砂を掬い、もう片方の手を大陸に当てながらその起源を探り出す。


 部分的に手が輝き、魔力が見えるモノに変化していく。この星がいつ出来たのか?どんな影響で出来たのか?どうして出来たのか?その全てを調べて、俺は砂の大元の答えに辿り着く。


 ……こいつが、原因か。


 「成る程、古の大戦か」


 やる事を終わらせて調べるのを止めるとルナが足早に近付いてくる。


 「今ので分かったんですか!?」


 「うん、まあな」


 この惑星の半分が砂漠になっているこの世界はその昔、それはそれは大きな戦争があったらしい。けれどその大きな戦争はこの巨大な爪跡を遺しても尚終わる事が無かったみたいだ。


 「なあ、さっきの質問の続きなんだけど?じゃあ今、隣の王城と啀み合っているのは一体いつからなんだ?」


 「それは……確か私がお爺様に子供の時に聞いた話だと既にお爺様が産まれた時には戦いの真っ只中だったみたいです」


 その情報を基に更に自分が入手したものと照らし合わせ、整理する。砂の形と地層の形からして大戦は一度だけではなくて断続的に続けられていた事が分かった。

 そしてこの王女様のおじいちゃん、つまりは先先代の王の生まれた時代の時でも戦火の真っ只中だった事を鑑みる限り––––––


 「そうか、という事はそれなりに長いな。お前のおじいちゃんが子供の頃から既に国同士が戦ってたのを考えると古の大戦からずっとだな」


 「そうだったんですか」


 何も昔の事なのでみんな知らなくて当然だ。形跡を見たところ、過去に何度か停戦という形で何年か争いが起きていない時期もあるが。


 「なあ?先代の、お父さんの時はどうだったんだ?」


 その質問をした時、彼女は少しだけ悲しそうな顔をしながら少しずつ話してくれた。


 「父の時も戦争はしてましたがそこまで激しいモノでもなくなって来たんですが、病死で亡くなった時に急に向こうから停戦の申し出が来て」


 「相手からってのは少し変だが、戦争自体が減少傾向にあったってんなら普通かもな」


 「それで停戦締結してから一年か二年経ったある時、王城を魔王城と勘違いし始めた勇者が現れ始めたんです」


 「んで、それが今のコレか」


 だが不思議なのはそんな長年均衡状態だったのが何故今の形になったかだ。この流れは確かに自然かもしれないが不可解な部分が多少ある。

 戦力が弱まっている事や急に過去に何度か停戦した事。そして勇者が現れ始めた事。それらを踏まえてもしそうだと考えると………


 「なあ?やっぱりもう帰っていいか?」


 「ダメです!」


 これは初っ端から面倒な自体に陥ったな。正直に言えばやりたくない。


 「でも、周りは全部は調べたって言ったよな?ここは個人的に一気に相手側の城に行って原因を調べた方が良いと思うんだよ」


「でも今のそんな話されても私、コーヤさんが何かした所見てません。一体どうやってそんな事したんですか?」


 確かに。彼女側からしてみれば俺は何もしてないように見える。なので俺は今し方行った"技"というべきようなその仕組みについて話をしていく。


 「さっき俺がしたのはこの世界に振動を送ってそこから人の動きや形をしてる奴を片っ端から調べたんだ。んで誰も居なかったから今の提案に至ったわけ」


 「この世界に、ですか?」


 「いや、言い方が悪かったな。説明する。実はな?この世界は数ある世界の内の一つなんだよ」


 「えっと?どういう事ですか?」


 彼女が上手く理解出来てない為、俺は段階を踏んで喋っていく。


 「えっと、まずはこの俺についてだ。自己紹介をしてなかったが俺はこの世界の住人じゃない。おk?」


 「何となくそうなんじゃないかとは思ってましたけど、凄いさらっと言うんですね。結構驚いてますけど一応は分かりました」


 「まあ簡単に言うと、この場所だけがこの世界の全てではないという事だ。まずはこの世界……だと分かりにくいな。この場所は世の中の物凄い小さな位置取りしかしてないという訳だ」


 「位置取り」


 一応それらしい話をしたものの彼女自身にしっくりしてきてないようなので今度は物を使って説明してみる。


 「あー、説明ってムズイな。つまりはこの場所を表した物をこの小石だとするとこの世界にはこの小石が他にも幾つもあるって事だよ」


 「そうなんですか」


 今度は分かったみたいだが、彼女はどこか俺の言葉を今の一つ信用していないように見えた。


 「信じてないな?」


 そう言うと彼女は少し軽く否定する。


 「そんな事は無いですよ、ただ実感が湧かないだけですから。今までその世界だけで暮らしていたら、いきなり他の世界の人に世界は一つだけじゃないって言われても普通は困惑するだけですよ」


 「確かにそうだな。まあ、普通はそんなに自分の場所から他の場所に行く事は無いんだけど、ウチの場合は意外に他の場所に余所者が行く事があるんだよね」


 やはり他の世界に住んでる者だと価値観が異なってしまう。今後これは考えていかないといけない課題だろう。しかしながら今は話を続けなければならない。


 「んで、俺はこの世界。まあ俺たちがいつも読んでる名前でいうと惑星に振動を与えてその動きで周りを確認したっていう訳だよ」


 「なんか、凄いですね」


 けれどもこうやって説明してもルナがこの先どうするかは分かっている。


 「でも、それでも。歩いて行くんだろ?」


 「ハイ!やっぱりこういう真実は私の目と足でで確かめたいので」


 「オーケー、分かりましたよ王女様。取り敢えずは俺の目的の要因が分かるまでは一緒にお供しますよ」


 「もう、そういう時だけ特別扱いしないでください」


 この世界の確認や力に関してはまだまだ確かめる事が山積みではある。んで、俺は明日までに帰られならければならないと。


 さて、どうしたものかね?まあ多分この子が寝てる間に戻るしかないと思うんだけど。



 ★


 結局その日は、特に話す事もなく歩き続けて夜となった。


 「じゃあ、今日はもう寝るか。寝間着とかってあるか?」


 「特に無いですけど……」


 疑問符を浮かべてくるルナに対して文化の違いを体感しながらこれから使用するであろう魔力を集める。


 「分かった。じゃあ家を作ろう」


 「え?」


 「取り敢えずは砂を木材に変えて、そこから魔法で自動組立てをして。布団は空間転移で家から持って来るか」


 「ちょっと待ってください!あなたは何しようとしてるんですか?」


 「驚いて止めてくるルナに対して疑問を覚えた俺は今しようとしている事をそのまま彼女に伝えようとする。


 「いやだから家を」


 「違います!何なんですかその魔法は?」


 「すまない、驚かせたなら止めるけど。でもこれ一応、この世界の魔法だぜ?」


 「もう、あなたに会ってからいうもの驚かされてばっかりです」


 そして寝床が出来ると俺と彼女はすぐに布団に入る。


 「おやすみなさい」


 そう、一言だけ言うと彼女はすぐに寝てしまった。今日一日、色々な事があって疲れたのだろう。


 俺はその様子を見てから転移で家に帰って行った。



 家に戻ると例の女、莉愛が居た。陽に当たる彼女を少し軽く見ながら学校の身支度をしていく。


 「どうだった?」


 「惑星の自転が地球と同じくらいで時差が日本と離れてて助かったよ。お陰で高校に通えるよ。疲れそうだけど」


 「それはダブルブッキングみたいになっちゃってごめんなさいね」


 「なんだよ見てたんじゃないのか」


 「まあ最初だけは見てたけど。ずっと見てるのも悪いかなって思ってさ。それに私もそんなに暇じゃないし」


 「そうか」


 会話が途切れた時点でふと思い出す事があった。


 「あのさ?思ったんだけどコレって遊ぶ暇なくね?」


 「そんな暇あるわけないよ。これからはどんどん手伝ってもらうよ?」


 「お前な………まあ、いろんな奴らに関われるから良いけどさ」


 「というか、遊ぶ暇どころか寝る暇もないと思うよ?」


 「は?」


 ブラック企業もビックリのセリフに驚いた俺は思わず行動を止めてしまった。


 「いやー、最初の一週間は検査とか色々あるから出来れば高校の方にもちゃんと参加してもらわないと困るなー的な?」


 「お前さ、俺のこと一体何だと思ってるんだ?」


 「ごめんなさい」


 頭を下げた彼女に対して溜め息をついていいよと許した俺は遅刻しない為にもそのまま身支度を再開する。


 「それと、私にはこれからしばらく会えそうにないからこの子置いて行くね」


 「こいつは?」


 下を見た先には元気に俺の周りを駆け回る犬が一匹いた。


 「司令犬だよ、色々と時空を超えて依頼とかを持ってきてくれるの」


 「ただの芝犬だろ。じゃなくて、この犬ウチで育てるのか?」


 「餌はいらないよ。勝手にどっかで食べてくるから。トイレもしないしいいでしょ?煌夜には行って欲しい所まだまだあるからね。その世界に生じたズレを修正しに行って欲しいんだ」


 救済、と言えば丁がいいが実質的に言えば侵略ではないかと思ったりもする。


 「そんな風に言うけどさ、そんなにポンポン他の惑星に干渉して良いものなのか?」


 「いやいや、特異の修正みたいなものだから大丈夫だよ。ほんとはその上位互換と考えてくれれば良いんだけどね」


 「あ、そう。でもさ?今やってる事ってそれまでの歴史とかも狂わせてないか?」


 「それは違うよ?だってその時、今に介入しないとその惑星は実質もう死ぬからね。例え今までとは違う事が起きてもそれはダメな事ではないんだよ」


 「そうか。あ、あと気になってた事があるんだけど他の惑星としてではなく別世界として捉える考え方は?」


 「それはどっちでも良いけど事実は同じ世界の違う惑星って事だけだからね。捉え方は個人の自由でいいと思う」


 「まあ、だな。ったく、それにしてもしばらく家にはお前が居るのかと思ってたけど居ないのか。それは残念だな」


 しかし何かあったのか、その言葉に莉愛が動揺する。


 「私に、居て欲しいの?」


 「そりゃあ一人よりは二人の方が楽しいからな?」


 「別の家に住んでるけど、こっちに引っ越そうか?」


 「あ、いや別に嫌なら大丈夫だから」


 「部屋余ってるでしょ?」


 「分かった、それじゃあよろしくな?ルームメイトさん」


 「うん」


 どこか嬉しそうな顔をする莉愛に思わず顔が綻んでしまう。なんか少し前まで考えられなかったような光景な気がする。


 とは言っても莉愛も所用があるみたいなのでしばらくは会えない。またお互いに沈黙が流れるが途中でさっきの話の思い出した事があったみたいで莉愛は補足を加えて話してくれる。


 「学校は最初の一週間だけ行って、途中から分身作ってそれに行かせればもう行かなくて良いよ」


 「マジかよ。なんだちょっと楽しみにしてたのにな」


 「別に学校なんて煌夜ならいつでも行けるじゃない」


 「いやでも歳食ってから通うのは精神的にキツイからな」


 「大丈夫、いざとなったら過去に戻ってやり直せば良いんだから」


 「つまりは二、三年活動して過去に戻って通い直せって事だな?」


 恐らくは過去に戻る事を俺は前にやっていたのだろう。少し驚いたが試してないので出来そうかもしれないという気はする。


 「通う時期は別に言ってないからそこもあなたの自由じゃない?」


 「そうかよ。じゃあ俺も入学式だからもう行くな?」


 「うん、行ってらっしゃい」


 「ああ、行ってきます」


 そのやり取りに何処か昔に感じた懐かしいような心に染みるモノを感じつつ、若干徹夜明けみたいにはなってしまったが準備万端で家の扉を開けて外に出た。

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