力と別世界


 翌日、眠りから覚めるとモソモソと布団からゆっくりと出てリビングに向かった。


 なんとなくは予想していたのだが、リビングの先には既に彼女が居た。というか気配は既に察知していた。

 彼女の名前は桜莉愛。どうやら知り合いだったらしく、今こうして関わりに来てくれている。


 「おはよう。まあ分かってはいたけど、まるで何事もないかのように無断で部屋に入るのは止めてくれないか?」


 しかし記憶が混濁しているのでまだ日を跨いでも殆ど関わった事の無い状態の彼女に声を掛けるが彼女は振り向いてくれなかった。

 反応が無い、恐らくは気付いていないのだろうが嫌われているのかと思って距離を置こうとするが何か様子が違ったみたいだったので少し彼女自身に問い掛けてみる。


 「ん?どうした、何かあったのか?」


 「そりゃあるよ、彼は今も報われてないんだから。他の人達だけ助かってもそれで良かったと思う訳が無いじゃない」


 彼女はどうやら俺と話している気は更々無くて、まるで誰かに愚痴を溢しているように見えた。多分何度もあるパターンで知り合いが来たとでも思っているのだろう。


 そしてその愚痴の内容は、どうやら俺が忘れている"俺"についての話だった。どうやらかなり面倒な問題を抱えているみたいで。


 「それは、俺が自分自身で決める事じゃないのか?」


 「そんな事!決められるなら彼はとっくに決めて………!?」


 最適解の答えを出して悩みを打開させようとするが、彼女はその考えを否定して此方を振り向いて衝撃を受ける。

 話し相手が本人だった事に気付いた彼女は慌てて口を塞ぐが、もうそれは既に幾つか手遅れのようだったらしくて、そのまま下を向いてしまった。


 彼女は呆けていたのか、はたまた疲れていたのか。どちらにせよ盗み聞きみたいな形になってしまった。


 「悪いな、勘違いさせるような事をさせちまって」


 「違うの!これはあなたの事について話していて」


 誤解を振り払い、彼女は弁明しようする。けれど元よりそのつもりは無かった。


 「悔む事なんてないだろ」


 「え?」


 「確かに分からない事があれば気になるのは道理だけど、俺は別に聞かない。それで関係が揺らいだら元も子もないからな」


 初めから言おうとしていたその言葉に彼女は顔を上げて、こちらを見てから納得する。


 「そっか、そうだよね。幸也はそういう人だったね。うん、分かったよ。私もこれ以上は言わないようにするし、今の幸也に向き合いたい」


 分からない事がある、知りたい事もある。けれどそれを今急がなくてもいい。


 「じゃあ、今日やる事を始めようか」


 さてその瞬間、まるで狙ったかのようにお腹の音が鳴り響き朝食の合図の様な状態になってしまった。


 「ま、まあその前に朝ご飯だな」


 今日はお客さんもいる事だから昨日のようにほんの少し趣向を凝らした料理を作りたかったが、残念ながらそんな才能は無くていつも作る大したことのないスクランブルエッグを作る事に決めた。


 皆はもちろん知っての通りスクランブルエッグは作るのはめちゃ簡単だ。焼く前に卵掻き混ぜて焼いて終わり………流石に適当過ぎたので一応補足を入れておく。


 スクランブルエッグは卵料理の一種でイギリス発祥の料理とされているが、発祥のイギリスは低温で調理するのが一般的でホウレンソウなど何かに混ぜて食べる事が多く、中国ではトマトと混ぜる番茹炒蛋が一般的なものとされている。


 ウチの場合は味に飽きないように中にチーズや舞茸、輪切りにカットしたソーセージを混ぜるように入れて旨味を加えている。

 味付けは正直作った後でも出来るので食卓のテーブルに胡椒やマヨネーズ、ソースやケチャップなどをいつも置いといてる。


 トーストを焼き、準備が出来るとマーガリンを塗ってから数種類の冷やしたジャムを冷蔵庫から運んで持って行く。


 牛乳も出して、箸とジャムナイフも同時に持ってきて準備を整える。

 皿にスクランブルエッグとベーコン、パンを載せて席に座る。


 「簡単なものしか作れないから朝食はこれしか出さないけど我慢してくれ」


 「ううん、これがいい。どんな料理よりもこれが好き」


 「やめてくれ、恥ずかしい」


 「嬉しい。ありがとう」


 もしかすると多分、前にも同じ物を彼女は食べた事があるのかもしれない。そんな事を作っている時に感じてはいたが、その顔と言葉が何よりも証拠だった。


 「じゃあ、食べるか」


 「うん」


 「「頂きます」」


 食事が終わり、皿を食洗機で洗いながら食器を元の食器棚に戻した後に彼女に改めて確認をする。


 「んで、今日は昨日言ってた莉愛のサポートをすればいいんだな?」


 「でもその前に力を取り戻して欲しいから能力の練習をしてもらうよ」


 「あー、そういや言ってたな」


 彼女が言っていた力が強大過ぎるのだという事を思い出しながら話をそのまま聞き続ける。


 「コウヤは何を使って戦うのか、コウヤは何が使えて戦えるのか。というところね」


 「やけに大雑把だな。して、俺は何が出来るんだ?」


 「何でも出来る」


 「は?」


 思わず固まってしまった。力の使い方は分かるが何が出来るのか分からない故に軽い気持ちでどんな事が出来るかというものを聞いたつもりがまさかこんな風に答えが返ってくるとは思ってもなかったからだ。


 「感覚が取り戻せてたらだけど、本当に何でも出来るの。具体例を挙げなくても自分の思った事や考えた事、見た事や聞いた事でも好きに出来るの」


 話が上手く耳に入らなかったが、彼女が言葉を強調して語り掛ける事で意識がそちらに戻る事が出来た。


 「問題はコレをあなたが生前に何に使うかという事なの。私が居る理由の一つはその監視及び抑制をする為なの。だから、昼になったらなったら私の手伝いをして貰うわ」


 「分かった。成る程な、これは本当に時間が掛かりそうだな」


 彼女と再び再開する事を約束し、外に出て自らの力を確認する事にした。



 確認出来る事は俺の力はもはや能力とかいう代物ではなく自分自身で全ての改変が行える程のもの。行使するだけではなく支配するとも言った方がより正しいだろう。力自体の影響力に関してはそれだけで事象が歪められてしまう。


 能力を使う頻度ならば、生活で言うならば日常で偶に使うというのが生活の一部になっているという事。


 己だけの空間が作る事が出来、自分だけの世界が創造する事も行える。そして同時にそれを破壊する事も可能で、正しく使い方を間違えればその全てを破滅させる事も出来てしまう。

 それは彼女の言う通り、正に最強の力と言えるものであった。



  ––––––––悍しい。






 やがて昼になると、途中から自分自身の空間を作って力の確認をしていた所を呼ばれ、いよいよ彼女の言っていた手伝いというものを本格的にさせられる運びとなった。


 「ここは………」


 彼女の指示通りに転移で移動したそこは黄緑色の芝生が広がるまるで地球で見た事のある様な景色の場所だった。無論完全に初見なので彼女から何処からとも無く説明が飛んできた。


 『ここは地球と似た生態系の惑星です。えっと、ここの場所は………とは言っても分かりますかね?これ』


 テレパシーか何かなのかと思ったのだが今はこれで意思疎通を図る事が出来るので深くは考えないで彼女の質問に対応する。


 「大丈夫だ、後でググる」


 『いや、そういう次元の問題じゃないんですけど。まあ、地球の感じで言えば今回は並行世界のおとめ座超銀河団局部銀河群天の川銀河いて腕大陽系の第七惑星です』


 「なるほど結構離れてるんだな」


 『いや、結構近いですよ?というか分かってたんですか?』


 「いや全く」


 『じゃあ平然と嘘付かないでくださいよ。まったく………今回は太陽系があるオリオン腕のご近所さんです』


 「いや、もう太陽系出てきた時点で遠いじゃん」


 『そうですよね。その感覚じゃやっぱり遠いって感じますよね?––––––––ほら、やっぱり違うんじゃん』


 色々とスケール感が違う気がしたがそこはやはり力に関係があるものなのだろう。


 「ん?てかさ。そんな事誰が言ったのさ」


 『あなたですよ』


 「俺かよ」


 『それじゃあ、 このまま例の件もお願いしますね。何かあったら呼んでください』


 「分かった。じゃ早速質問なんだけど」


 『なんですか?』


 「俺、明日から高校なんだけど。この場合、どうすればいいんだ?」


 場が硬直するのを心身に感じた。まさかしなくともそうだとは思うが。


 『………ごめんなさい。それは自力で帰って来てください』


 「マジかよ」


 「一旦帰る練習して帰れるようにはなったけど、そう言うのは頼むからもっと早く言ってくれよ?」


 『はい、すみません』


 「あと、このやり取りなんとか出来ない?これ側から見たら誰も居ない空間に語り掛けてるただの変人だから」


 誰もいない空間にただ独り言を話している状態、見られてないからマシなものの見られたら障害者かなんかを疑われてしまう。


 『ああ、それなら思った事をそのまま私に伝えようと思えば伝わりますよ?』


 『あのさ、だからそういうのはもっと早くに言ってくれよ』


 『ごめんなさい』


 『いや、今のは考えれば誰でもわかる事だった。ごめんな』


 どうやら二人コミュニケーションの問題もまだあるらしい。


 足を伸ばして行き、村に辿り着いた時にまた彼女による説明が入る。


 『ここは始まりの村とされている場所です。勇者とかの冒険者達はここから旅を始めて行きます』


 『後ろに魔王城あるのに?』


 『………こ、この世界の理はこの世界の住人にとっては絶対なんです』


 『じゃあ、俺は関係ないからさっさと終わられせてくるね?』


 そんな身勝手な行動に彼女は慌てて止めようとする。


 『いや、せめてもうちょっとこの世界を堪能したらどうですか?可哀想ですよ』


 『世界を救うのにそんな時間掛けてたまるかよ。––––––それに早く帰りたいし』


 『その心の中邪念さえ聴こえなけば最高のセリフだったのに』


 『邪念じゃあないよ?早く帰りたいと思う事は何も悪くない』


『ま、まあいいです。良い心がけです。それじゃあ後はお願いしますね』


「おうよ、任せな」


 事前に通信は最初の説明時だけと言われていたのでそこで音沙汰が無くなり、見られている様子も消えるのが確認出来た。


 「さて、いっちょやりますか」


 一先ずここの世界の言語設定だけ整えて事前に会話が出来るようにしておいた。




 魔王城の前に一瞬で移動すると門番の彼等をワザと大きく派手な足音を立てて気付かせて牽制する。


 「なっ!?貴様、何者だ!」


 その言葉と共に此方に襲い掛かって来ると同時に峰打ちの要領で手動で彼等を気絶させ突破するとそのまま一気に魔王の部屋まで転移で移動する。


 「いよいよ、ボスの部屋か」


 扉を開けて、中に入ると大柄な魔族らしき男と人らしき女の子供がいた。

 男の方は2mは優に超えてそうな所々が引き締まっているガタイで黒い髪の頭から生える二本のツノは人一人分の顔くらいの大きさがあり、禍々しさが滲み出ている。

 恐らくはこの者が魔王なのだろう。


 「誰だ?」


 「お前に戦いを挑みに来た。悪いがこの世界の平和は、返してもらうぞ」


 だがどうやら言っている事が違っていたらしく目の前の魔族らしき男は訂正を入れる。


 「何を言っている?言っておくが、魔王は俺ではないぞ」


 「え?」


 「わ、私が…………魔王です」


 問答をしている大柄な男の後ろにいる弱々しく手を挙げるその魔王は、とても小柄な女の子だった。


 「やめろ。魔王様は今、とても疲れているのだ。大体、貴様で魔王様に挑む勇者とやらは今回で四百八十三人目だ」


 「マジかよ。すごいなアンタ」


 「いえいえ、とんでもないです」


 「じゃ、早速挑ませてくれ」


 「貴様!今の魔王様の話をちゃんと聞いていたのか!?」


 気が狂ったとでも言いたいような顔をしながらこちらに感情をぶつけてくる彼に誤解のないように素直にもう一度理解させる。


 「聞いてたよ?勇者多過ぎてインフレ起こしてるってな」


 「なら何故!?」


 「だからって、ここで戦わないってのは話がまた別だろ?なあ魔王様?」


 魔族らしき男が俺に問いてくるが、即座にそれを俺は否定する。その考えに納得したのか彼はてっきりその場を離れると思ったのだが–––––


 「分かった。ならば私が相手をしよう」


 「いえ、結構です」


 「なんだと!?」


 「いやだって、お前戦ったところでメリットがないじゃん。なんも痛め付けるのが趣味で此処に来てるわけじゃねんだよ俺?」


 そう、そもそも魔王とすら戦う必要がないのだ。今回の目的は別にあるのだから。


 「食らえ!」


 「嫌だよ」


 こちらに隙が見えたと勘違いしたのか、魔族らしき男が魔法っぽい攻撃を仕掛けてくるがそれを即座にカウンターをして返す。


 「グハァ!!」


 あ、避けると思ったら食らってた。この魔族思った以上に弱い。


 「お前さ?普通戦う時はいつまでもそんなに同じ場所に立たないでしょ。何してんの?厨二病?」


 「おのれ、不意打ちとは卑怯な」


 カウンター攻撃を食らった魔族らしき彼はそんな事を言うがこっちからしてみればただの当て付けである。


 「不意打ち?正面から叩き潰してるんだから不意打ちじゃないだろうが。じゃあ何だ?お前にとっては技を放つ間に攻撃する奴は全て不意打ちっていうのか?」


 「だがしかし!」


 「分かったよ、要するにお前が納得する勝ち方をすればいいんだろ?」


 苛立ちが溜まっている魔族らしき彼を落ち着かせる為に言った言葉だったが、その魔族らしき彼はまるで言質を取った言わんばかりにニヤける。


 「お前のその言葉、いずれ後悔する事になるぞ!」


 そのまま俺は魔族らしき彼の本気を体感する事となる。


 「フッ!ハッ!セイッ!オラァ!」


 技を放つ掛け声なのか、思わず口から出てるものなのかはよくわからないが、そのまま魔族らしき彼は数分ほど攻撃をし続ける。勿論こちらから手を出さないで満足してもらうまで攻撃をさせてあげる。肉体自身の自然治癒で体に傷は付かない。


 「はい、これで満足か?」


 魔族らしき彼は既に疲れ切っていて肩で息をしていて話す事もままならなかったので、俺はそれを肯定と受け取った。


 「じゃあこの世界の法則に従って満足な攻撃を倒すって事で」


 この部屋に入る前から感じていた違和感を失くす為にせめてもの手向けの花としてこの世界に存在する魔法を使って攻撃をしようと詠唱を始める。


 「紅なる火炎よ、その焔を持って、生なる全てを焼き尽くせ」


 「何だこのサイズは!?こんなの上級魔法どころではないぞ!!」


 息切れの状態から何とか声を絞り出した魔族らしき彼は俺の異常さを語ってくれた。そう、これはこの世界での上級魔法で神秘の奇跡だ。

 けれど確実に本来の上級魔法の威力ではない事は誰もが分かっている。


 その威力が、その熱量が、この星を破壊し得るモノへと変貌しているのだ。人間が出せる領域ではない。


 「オイオイ、人のセリフを妨害すんなよ。不意打ちか?それにこれはちゃんと上級魔法だ。才能がある者が使えば恐ろしいモノへと変貌する。それはどの世界でも同じ事だ」


 「ふざけるな!何故貴様にそんな魔法でこんな技が使えるのだ!?」


 「しつこいな、コレ投げるぞ?レッドカラミテ」


 「待ってください!」


 誰がどう見ても絶望だと感じる中で急にそれを止めに入る者がいた。本来の戦う相手だった長である。


 「お、何だ?ついに王様が戦ってくれるのか?」


 彼女に対して直接確認を行うが、彼女は首を振ってそれを否定する。


 「わ、私自身は戦えません。既に戦う力無いし、万全の状態でも万に一つも勝ち目がありませんから。でも、この人だけは私が守ってみせます!」


 「それはそれはお優しい。だがな、そいつからは邪念が感じるんだよ。なんか反魔術的な良くない要素を」


 その瞬間、静かに立ち上がる彼から蒼黒い可視化された魔力がゆっくり漏れ出しているのが見えた。彼女がいい性格している分その行動が無駄にされた気がしてとても残念な結末である。


 「よくわかったな、お前」


 「何となくだ。なんかお前だけ、違う生物に見えたからな」


 その言葉にまたニヤけると今度は自信を持ってこちら向けて指を差してくる。


 「もうすぐであの方の計画はついに完遂するのだ。今更余所者に邪魔はさせないぞ」


 そう宣言した後、湧き上がって来たモヤのような魔力と共に彼はそのまま姿を消した。


 どうでもいいからこれからどうしようかと棒立ちしてる俺に先程の魔王様が声を掛けてる。


 「あの!」


 「何だ?言っとくが、俺は別に戦いたくてここに来てるわけじゃないぞ?」


 「あ、それは知ってます」


 「やっぱり嘘だ、この世界を支配する」


 「えぇぇぇぇ!?やめて下さい!!お願いします!何でもしますから!」


 「ん?今何でもするって言ったよね?分かった、なら止めよう」


 「あわわわ、なんでもすると言ったのは言葉の綾で……」


 彼女を軽く揶揄った後で当初の目的を彼女に状況を説明する。とは言ってもそのまま真実を言ったところで混乱させるだけなので手短に済ませようと試みる。


 「俺がここに来たのはこの世界を良くするためだ」


 「良くするため?どういう事ですか?」


 「生きている者達が幸せに暮らせるようにするって事さ。で、如何にも内情を知ってそうな王様に相談しようとした訳だ」


 説明したは良いもののあまり理解をされてないのかと思ったが、その考えとは別の疑問が彼女から問われた。


 「あのさっきも今も言ってましたけど、どうして私の事知ってるんですか?」


 「ん?何が?」


 「その、王様って」


 「あーやっぱりか。いや、何となく?ただ魔王様って呼ばれてた時に少しだけ辛そうにしてたから、もしかしたらって思ってな」


 出会った時に初めから分かっていた。例え他の誰かが見てもそうだ。この見た目とあの性格で悪言われる存在になる訳がないと。


 悪というのはもっと断絶するような……何か変な事を考えたかもしれない。今は考えないでおこう。


 「凄い、良く見てるんですね」


 悪気のない一言で意識を戻され、気持ちを切り替える為に少しネジを外す。


 「よせやい照れるだろ?褒めても天地創造ぐらいしか出来ないぞ?」


 「そんな事まで出来るんですか……」


 「まあ茶番はこのくらいにしといて。今のこの環境の現状を説明してくれ」


 この世界の事を知らない為、彼女に説明を求めるとどうやら事情がある為か事細かく地図を用意してくれた。


 「まずこの場所はグスタムという場所で、一応事実上の魔王城という事になってます。知っての通り、私が王様だったので本当はここは王城なんですけど。この反対側に位置するのが今の王城です」


 指を指しながら解説をする彼女へ一つ疑問を投げ掛ける。


 「それじゃあ、そこは以前王城じゃなかったのか?」


 「いえ、今も昔もそれは変わりません。けれども昔は隣の王城だったんです」


 「なんか戦争でもあったって事なのか?」


 彼女の過去にも繋がる事なのであまり深くは聞けない事だが確かめなければ話が進まないので惚けながらやんわり確認する。


 「恐らくはそんな感じだと思います。私が生まれて来た時にはもう既にこっちのグスタムは魔王城扱いされてましたからね。祖父より前の世代の話ですから聞かされた話と事実が異なる可能性もあるので詳しい真実は分からないです」


 「そうか。どんな原因があったのかは知らないが悪者扱いにされてしまったと」


 「はい。それで、私の当面の願いは出来れば二国間の関係性を出来れば修復したいと思ってるんです」


 彼女の思いは真っ当だった。しかしそれにはこの世界が合わな過ぎている。どうにかこの状況を変える誰かを現地で用意してあげたいものだが。


 「成る程ね、なるほど。断りたいのが本心だったけど、こっちで何個か気になる事が出来たから……分かった。付き合うよ」


 「ほんとですか!?」


 途中まで代わりにしてあげようと協力を受諾したのに対して憑物が晴れたように喜ぶ彼女は愛らしく、こちらまで気が晴れたと錯覚してしまう。


 「というかコレが嘘だったら俺が何の為にここに来たかいよいよ分かんないからな」


 「破壊と、創造?」


 「え?何?そういう風に言うって事はそうして欲しいって事なの?いや、まあ出来なくはないんだけどさ」


 「止めてください死んでしまいます」


 交流するくらいには軽い冗談を言った後に彼女に旅の決意をさせる手を差し延べる。


 「じゃあ、行きますか?」


 「はい!」


 その手を掴む彼女はとても希望があり、未来があり、羨む程に眩しく見えた。

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