第17話 退会
その日の夜。宿題を終えて汗の滲む部屋で寝転がり、スマホでネットサーフィンをしていた。
寒くなってきたのでエアコンを消して窓を開けたので、外から夏の生暖かい風が入ってくる。高い山頂ならもっと澄んで、涼しくて、気持ちの良い風なんだけどな、とふと思った。
七月はじめに山開きした富士山は今年も大混雑らしい。アップされている画像をスライドしていくと、ふと手元のスマホが音を立てる。葛城さんからのメッセージだ。
はじめはいつものように当り障りのないやり取りだったけど、今日バスケ部の練習を眺めていたことを不意に思い出す。
思い出して、気になり始めたら止まらなくなる。
とうとう我慢できなくなって、疑問に思っていたことを聞いてみた。
『薬師寺さんと上手くいってないみたいだけど、ひょっとしてレギュラー争いが原因?』
そう打ち込んで送信する。
改めて自分の文章を読み返した。
僕の入っていない部活の話題、レギュラーのこと。
これはない。
人付き合いに乏しい僕でも、これはまずいと読み返して思う。
でも後悔しても、送信した文章は戻ってこない。
僕は他人のプライベートに何を土足で踏み込んでるんだ。こんなことを聞かれたら葛城さんだって気分を害するだろう。
冷房を切っているから、汗がにじむはずの室内。
それなのに暑いと感じない。
ラ●ンに新しいメッセージが表示される瞬間を恐怖とともに僕は待つ。
いつもより返信が遅い。
既読はついたから、読んだはずなのに。なぜ?
僕に対する怒りの言葉を考えているのだろうか。
ひょっとして僕とのラ●ン自体を止めたのだろうか。でもそれなら
『junさんが退会しました』
というメッセージが表示されるはず。
嫌な想像ばかりが膨らんでいく中、手元のスマホが音を鳴らす。
葛城さんからのメッセージだ。
『心配かけてごめんね』
そこにあったのは、僕を糾弾する言葉でも、非難する言葉でもなかった。
安堵のため息が静かな自室に響く。
『でもレギュラー争いじゃないから』
詳しく教えてくれた。
同じポジションだからレギュラーの座を巡って争っているのかと思ったけれど、バスケは控えの選手も多く、試合中に何度も選手の入れ替えがあるスポーツなので同じポジションに二、三人レギュラーがいるのが普通。
最初にコートに立つスタメン、スターティングメンバーだけがレギュラーじゃないらしい。
葛城さんはパスが上手く、ドリブルが上手いチームに相性がいい。
逆に薬師寺さんはドリブルが上手く、マンツーマンでマークしてくるチームと相性がいいそうだ。
だから監督が相手チームの戦術や自チームの疲労に合わせて選手を入れ替えていくらしい。
じゃあ何が原因なんだろう?
そこまでは教えてくれず、バスケのルールを表示したメッセージで今日の会話は終わった。
以前高尾山で言っていた去年の秋という言葉や、三年がいないことがヒントになりそうだけど。
さっきやらかしてしまったことを思い出し、それ以上は心の内でも追及することをやめた。スマホの電源も切る。
山と比べて少ない星しか見えない夜空を見上げ、僕はため息をつく。
何をやっているんだろう。
もう葛城さんとか、バスケ部にはかかわらないって決めたはずなのに……
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