第11話(改)

 ……え?好き?




 いやいや待て待て。……って俺は一体誰に向かって言っているんだ。

 好きってなんだ? 俺に人を好きになる感情が残っていたのか?


 …………いや、分かっていた。


 信頼していた妻や家族に去られて、本当は寂しくて苦しくて辛かったんだ。

 そういうの隠して誤魔化して強がって人を愛するとかいう感情を押し殺していただけ。

 いくら信頼しても愛しても裏切られる。怖かっただけ。逃げただけ。


 今、こんなにみんなに支えられているというのに。信頼してもらっているというのに。

 こんな俺に気遣い、あまつさえ好意さえも向けられているのにな。


 俺ってやっぱりバカなんだなぁ……


 自分の感情さえ見えないところに押し込んでいたんだな。




「誠人さん、どうかなさいましたか?」


「いえ、自分のバカさ加減に突然気づいてしまいました」


「?」


 胡桃さんは首を傾げてわからない様子。まあそうだよな。


「俺ってみんなに支えられてばかりでしょうがないなぁって思いましてね」


「そうかも知れませんが、元々誠人さんがいて、誠人さんが行動したからみなさんが集まって居力してくれているのではないですか? 誠人さんだけが支えられているわけではないですよ」


 じっと胡桃さんは俺を見つめる。


「そうですかね」


「そうですよ。私だってそうなんですから、みんなそうに違い有りません」


 そうか、あなたに言われるとそんな気がするから不思議。


「ありがとう」




∞*:;;;;;;:*∞*:;;;;;;:*∞*:;;;;;:*∞*:;;;;;:*∞




 資材置き場では、みんなが準備を終わらせて、待っていてくれた。


「こんばんは。今日はお誘いありがとうございました。すごく楽しみにしてました」


 胡桃さんが挨拶するとみんな俺の方を見てニコニコする。


「なんだよ。さあ始めそうぜ」





 夜空を花火が照らしている。






「もうお腹いっぱい」


「もう食べられないね~」


 澪ちゃんと凛ちゃんがお腹ポッコリで寛いでいる。


 両彼氏が甲斐甲斐しく動き回っている姿は、他人事なのでおもしろい。


 胡桃さんも俺もそこそこ食べたが、お酒が欲しいのではやく帰りたいと話していた。



「姉さんと店長は先に帰ってもらって大丈夫ですよ。私たちで片付けてから帰りますから」


 凛ちゃんが提案してきてくれた。


「でも、申し訳無いよ」


 胡桃さんが言うと、

「店長は今日の分を全部用意してくれましたし、姉さんは仕事帰りで疲れているでしょ? もう帰ってゆっくりして。私たちは私たちでこれから夜本番よ?」


 そう言われると返す言葉がなくなる。


「わかった。じゃあ、後は頼むな」




 軽バンの助手席に胡桃さんを乗せて家に帰る。


「胡桃さん、疲れてない? 居酒屋とかぐらいなら近場にあるし代行頼めるから行けるけど」


「ご迷惑でなければ、誠人さんのところでお酒、いただけたら嬉しいです」


 対向車のヘッドライトに浮かぶ表情にドキリとする。


「俺んちでいいの?」


「はい、お願いします」


 微笑みながら胡桃さんはそう答えた。



 自宅に着くと先ずはエアコンをフルパワーで効かせる。

 部屋は間違いなく暑いのだけど、それ以上に自分の体が熱いせいで汗が引かない。


(なんでガキみたいに緊張しているんだ?)


 車に戻り、胡桃さんのキャリーケースと一緒に胡桃さんも家の中に入れる。


「わあ、素敵なお宅ですね」


 うちは古民家リノベーションした今どきのオシャレ空間にはなっているとは思う。


 胡桃さんに褒められてちょっと得意げになっている自分が恥ずかしい。




 BBQで腹はいっぱいなので、本当に簡単なつまみを数点だけ用意することにした。


 昨日から麺つゆをお酢で割ったものに漬けてあった蛇腹胡瓜とウォーターシンズのクラッカーにサン・フェリシアン、後はイワシの蒲焼の缶詰だ。足りなかったらその時点で何か用意すればいいだろう。


「胡桃さん。ビールにワインにウィスキー。焼酎もあるし日本酒もあるよ。何ならカクテルだって作ろうと思えばできる材料はあるよ」


「ふふふ。誠人さんたら私が酔ったらのですか?」


「え?」


『酔わせてどうする?』『酔わせるつもり?』ぐらいは言われると思っていたけど『何をしてくれる』とは、何かされるのが前提なのか。


「お気の召すままに」


 取り敢えずは誤魔化しておく。


「もうツマラナイですね」と笑うが、演技なのか本気なのかわからないよ。何なの女優なの?


 さっきの言葉ではないが、いきなりアルコールの強いものも酔わせてしまいかねないのでビールを渡す。


「「おつかれさま、乾杯!」」


 コツンと缶ビールを当てる。グラスに入れた方が良かったんだろうけど、気が回らなかった。


「ん~、オイシイ♪」


 本当に美味しそうにビールを飲む胡桃さん。


「誠人さん、私今日の花火は本当に本当に楽しみにしていたんですよ。お誘いして頂いて本当に嬉しかったです」


『本当に』が三回出るくらい喜んでもらえたなら誘ってよかった。大翔に感謝だな。


「そういえば、出先から直接来たって言っていたけど、どこに行っていたの?」


 ビールをあおりながら横目でこちらを見る胡桃さんは何か思いついたように笑う。



「さーてどこでしょうか?」


 隅においてあったキャリーケースをガラガラ引いてきて開ける胡桃さんは、もしかして既に酔い始めているのか?


「じゃーん」と言ってキャリーケースの中からTシャツを出して広げた。


 これは酔ってら。


「テレレッテレ~♪ シーサーTシャツ! どう? かわいいでしょ」


 シーサーってことは沖縄に行っていたのか?


「あ、スミマセン。私酔うとご陽気さんになりますので、先に言っておきます」


 うん。わかってた。


「沖縄に行っていたの?」


「そうでーす。これは誠人さんにお土産です」


「あ、ありがとう。沖縄から直でこっちに来たんだ疲れただろ?」


「平気でーす。誠人さんに誘われたのですからどこへでも行きまーす」


 ふふふふ、って楽しそう。ちょっと酔うといつもの丁寧さが抜けて可愛らしい。


(俺が誘えばどこにでも来てくれるなんて嬉しすぎて涙出そう)


「沖縄へは何をしに行ったの? 旅行か何か?」


「お仕事でーす。撮影でーす。映画のシーン撮りでーす」


 へ~ 仕事。


 ん? 撮影? 映画?

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