第7話



 卒業式。




 それは誰かしら思うところがある日。




 ある人は楽しかった学生時代を振り返り


 ある人は仲の良かった友との別れを惜しみ


 ある人は恩師に感謝と別れを胸に抱き


 ある人はこれから広がる未来に夢を馳せる。




 卒業式。


 きっと誰かしら思うところができる日。



 そして今、私の前には長蛇の列。


 ドウシテコウナッタ。


 …………。



 卒業式が滞りなく進行し、滞りなく終了した数十分前、珍しく仕事を休んでまで駆け付けてくれた両親と合流するべく前庭を歩いていると、旧生徒会と新生徒会の面々に囲まれた。


 数メートル先に着飾った両親がおり、軽く手を振ってくれた。

 私も軽く手を上げ会釈し、時間を取らせる事を詫びた。


 それに気付い元生徒会副会長の宮永輝良(みやなが きら)君が「一ノ瀬さんのご両親ですか?」と聞き連れてきてしまった。


 そして始まった写真撮影と餞別の言葉や花束のラッシュ。

「ご両親もご一緒に」とか言い出し、上を下への大騒ぎ。なのは私だけ。


「私が卒業するまで一緒にいて下さい!」とか「ずっとずっと憧れていました!」とか「本気で好きになったのは織姫先輩だけです!」とか「御姉様って本当は呼びたかったです!」とか最後だからって、やり過ぎだと思う。



 しかも両親の前で……。

 何だろう、この羞恥プレイは。


 でも、この時は両親もニコニコと微笑み終始穏やかな時間が流れていた。



 でもそう。それでも、其処まではまだ良かったのだ。



 何処かで「俺!玉砕してくる!」「おお!!」

 「俺も行く!」との声が聞こえた。

 かと思えば、目の前に何人かの男子がやって来た。




「山村和也です!一ノ瀬織姫さん、ずっと憧れていました!高嶺と花とは分かっていますが、そのクールさに一目惚れしました!好きです!付き合って下さい!」


「えーと。ごめんなさい」


「うく!あ、ありがとうございました!」




「俺!武田慎吾です!一ノ瀬織姫さん!何時も優しく声を掛けてくれて文化祭の時も率先して的確に指導していた格好いい織姫さんに惚れました!俺の彼女になってください!」


「えーと。ごめんなさい」


「良い夢見させてくれて、ありがとうございました!」




「一ノ瀬織姫さん!千原学です!一ノ瀬さんは勉強出来るのに、それを鼻にかけない処か優しく丁寧に教えてくれる、その優しさと気高さに憧れていました!同じ大学に行けなかったけれどお別れなんて嫌なんです!愛しています!僕の彼女になってください!」


「えーと。ごめんなさい?」


「うわあーん」




「い、一ノ瀬織姫ちゃん!神崎史織っていいます!あの!あの!私の!私の彼氏になってください!ずっと、ずっとずっと憧れてて大好きで、この思い止められないです!私の愛を受け止めて下さい!」


「え?えーと。ごめんなさい。私、異性が好きなので」


「お、織姫ちゃんのバカーあー!でも好きいいー!」


「え、えーと」






「凄、あの子行ったよ!なら私も」

「わ、私も行く!」

「先輩に告白出来るの今日が最後だもんね!私も行くよ!」



 そして、男女混合の第二波告白ラッシュへと続き、この告白大会は小一時間程続いたのです。

 両親は隣で笑顔で固まり終始無言でした。



 こうして、私の高校最後の卒業式の日は、幕を閉じたのです。







 私、泣いてもいいよね?




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