第8話



「うわ、これは確かに地味だ。地味過ぎて逆に目立つ。成る程」



 鏡の前にソバカスメイクに黒淵メガネ。それに三つ編み御下げという風貌の女性が映っていた。


 まあ、私だ。



 今私は、引っ越してきたアパートで荷物の整理をしつつ、大学地味デビューの為の地味メイクをマスターしようと練習していた。



 モテメイクの雑誌とかをアルバイトで使うので本屋には良く立ち寄るのだけれど、この前ふと立ち寄った本屋で私はメイクのというか、ある意味バイブルを見つけてしまった。

 いや、ライトノベルなのだけど。


《冴えか○》

 この本で主人公君は地味も積み重なれば人を惹き付けるキャラになると言っていた。

 なので、試しに地味キャラメイクを仕上げてみたが、目の前に映し出された自分を眺め、これは目立つなと思った。

 確かに一度目にしたら印象に残ること請け合いだ。



「うん。これはないな」


 大学が始まる前に気が付けて本当に良かった。

 では、どうするか。

 実は、この《冴え○の》には私の理想も語られていた。

 私の目指すべき着地点。



 それは、冴えない加藤ちゃんだ!



 そこそこ可愛く。ギャップを無くし。無個性を目指す。

 後なんだっけ?そうそう、肌もまあまあキメ細かく、出るところはそこそこ出て、引っ込む所も中々引っ込んでる。

 けれども、それすら覆い隠す薄い存在感。


 ボディー自体は魅惑のボディーをgetしているからOKとして。

 それを隠す薄い存在感か。



 うん?無理じゃね?

 自分で言うのもなんだけど、魅惑的過ぎやしないかな?この身体。

 キャラを殺す程の中途半端感を一体どうすれば。



 地味デビューすればなんとかなるとか思ってたから結構ピンチな気がしてきた。

 加藤ちゃん張りの薄い存在感がはたして醸し出せるのかな。



 ぴったりめの服とか着なければ、何とか誤魔化せるかな?

 うーん。それでも薄着になる夏場は完全にアウトだよね。





 大学……だもんね。サークルとか飲み会とか、誘われるよね絶対。


 はあ、加藤ちゃんみたいにステルス性能が発揮出来れば最強なんだけどなぁ。

 ……。



 出来ない事もないかも。




「駄目ダメ。あれは最後の手段」



 気を緩めると直ぐ便利アイテムに頼りたくなる。

 いまなら直ぐにドラ○もんの秘密道具に頼りたくなる○び太君の気持ちがよく分かる。

 悪い傾向だ。


 それよりも、冴えない加藤ちゃんだ。

 そこそこ可愛く……。

 ?


 そこそこ可愛いいって、どれくらいだろう。

 手の届きそうなアイドルみたいな?

 よく分からない。



 ギャップを無くす。

 今の私のギャップって何だろう。


 私、思っていた以上に結構たくさん告白されていた、と言うか頭オカシイ位に告白されていたから恐らく、モテる美人顔なのは間違いないようだ。

 けど私、ずっと無表情だったよね?


 おかしくないか?


 もしかして美人で無表情なのがギャップでモテてたのだろうか?



 ならば無表情を無くす為に毎日演技するとか?


 いや、何時も演技してたらアルバイトでの身バレ必死だよ!

 それって本末転倒ていうんだよ!



 後は無個性は……。

 既に無理だよね。

 無表情キャラ確定だよね…。


 何時も表情を表に出すって事は、つまり演技するって事で、それってつまり嘘を付き続けるってことで。

 そんな生活続けてたら、私の心が死んでしまう。




 ブンブン

 頭を振って嫌な考えを振りだす。




「うん。変に考えすぎは良くないよね。よし、ご飯食べよ」


 パン屋さんで購入した惣菜パンを齧る。


「うーん。一人分だと作る気力が起きないってのも一人暮らしの弊害なのかな?」


 きっと気付かない内に独り言とかも多くなって、ある時に気付いて驚愕するんだろうな。




 はあ、明日入学式どうしよう。

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