第6話
年が明け、自由登校が始まっていた。
うちの高校は生徒会選挙というものがないので、後輩ちゃんに会長の座を明け渡しても、直ぐに引退は出来ない。
いや、出来ない事もないのだけれど。
まあ、大体の人は受験もあるので、早々に丸投げするらしいのだ。
だけど、それは余りにも後輩ちゃんが可哀想だと思い、推薦も決まっていたので去年ギリギリまで引き継ぎと生徒会のノウハウを叩き込んだ。
後輩ちゃんは泣いて喜んでくれていた。
多分。
泣いていただけかもしれないけど……
因みに会長に指名した後輩ちゃんは旧生徒会の書記ちゃんだ。
身長150㎝の小さな体(胸部装甲は小さくなかった)で何時もチョコチョコと後を付いてきていた。
「織姫先輩の替わりなんて無理です~!」とか宣っていたので、私の真似ではなく早織(後輩ちゃん)の出来る会長を目指せと言っておいた。
視野も広いし学区内の情報を良く話てくれていた。
なので、全体を俯瞰できる会長を目指せるだろう。
閑話休題
そして今、私はお母さんと一緒に不動産にいる。
何故かというと、大学入学から一人暮らしの許可を得たからだ。
今までも普段の生活態度から、ある程度の信用を勝ち得ていたので、実家でも門限のようなものは無かった。
でも流石に常識的な範囲で帰ったり、連絡をいれなければ、信用はガタ落ちするというのも世の常。
けれど、色々していれば(意味深)常識的な時間に毎回帰れる訳ではない。
アルバイト初期の頃なんて色々トラブル続きでまともに帰れた日はなかった。
では、何故今、信用を得ているかと言えば、例の便利な謎アイテムのお蔭である……。
あるのだけれど、時間の巻き戻しを使用する事により、私の今の状況は年齢18歳で有りながら、なななんと22歳の身体を持つ、お姉さん女子高生になったのだ!
……言ってて虚しくなった。
なので、なるべくこれからは、お姉さん化(お姉さんだよ!)しないよう緊急時以外は使わない様にしようと思ったわけで。
で、考察の結果、帰る家に待つ人が居なければ、帰る時間を気にしなくて良いという事に至り、両親を説得して一人暮らしをgetするに至った訳なのです。
私はアルバイト以前に演技スクールに通っていました。
姉さんと巻き込まれた事故以来、私は感情の表現が薄くなってしまい、あの日から感情を表に出す事が難しくなった。
両親にその事で声をかけられたのは無表情になってから2週間後。
居もしない姉について淡々と語るので反抗期かと初め思っていたらしい。
会話のキャッチボールは出来ている。
だけど、いつまでも淡々と語る私を流石に心配になったらしい両親は私と向き合う時間を作ってくれた。
それまでの間、私はスマホに在ったハズの姉さんの痕跡が無い事に愕然としていた。
両親に聞いても頭を傾げられるだけ。
真面目に向きあってくれる両親を、これ以上混乱させるのも気が引けたので、ある時から感情の表現が難しくなった事だけを話した。
それで、このままでは将来の職の選択に大きくマイナスになる事を切々と訴え、演技スクールで少しでもマシになるならと通わせて貰うことになった。
因みに演技スクールの先生とバーチャルラバーの社長はご兄妹です。
偶然知った事実なのですが、世間は狭いですね。
けれど織田先生は私が天宮織姫であることを知りませんし、織田社長は私が一ノ瀬織姫であることを知りません。
……バレてないよね?
「ここなんかお薦めですよ?」
「あら、そうねぇ。姫ちゃん。ここ良いんじゃない?」
「え?うーん。確かに良いけど、何だろう。嫌な予感がするんだよね」
「ええ?何を言ってるの?姫ちゃん」
「あ。いやー。本当何いってるんだろうね私」
「それで、どうされます?」
「ここにしなさいな。今時2DKでバス、トイレ別、敷金礼金なしでこの家賃はそうそうないわよ」
「はい。お客様は良い時期にお越しになられたと思いますよ。
毎年、これから一気に新社会人や大学の新入生がアパートを探しにきますので、今お決めにならなければ直ぐに埋まってしまうと思いますよ」
「そうよねぇ」
「あー。うん」
「ちょっと姫ちゃん。貴女が住むのよ。なにか気になるの?」
「ううん。大丈夫だよ。お母さん。ここにする」
「そう。ではここでお願いするわね」
「何か気になる点があるのでしたら実際に物件を御覧になりますか?」
「ううん。大丈夫」
「左様ですか?ありがとうございます。ではお手続きを致しますのでこちらの用紙に記入をお願い致します」
なんて感じで住むアパートも決まった。
だけど、何だったんだろう。
あの嫌な予感。
まあ、でもこれで姉さん探しに本腰が入れられる。
土台は築いた。
後はこれからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます