第4話
アルバイト中の私は基本、陽キャ系お姉さんを演じている。
実の姉さんも基本、陽キャ系で変態オタクな癖に異様に対人スキル高くて結構な陽キャラだったのだ。
ある意味、私の目指す見本が頭の中にいたゆえに演じるのは容易かったレパートリーの1つではある。
なので、相手からの希望がなければ陽キャ系お姉さん一択でもある。
後、もう1つのレパートリーは、おっとりお姉さん。
実は母がおっとりお姉さん系だったので、家で良く見ていた見本があって演じやすかったのもある。
基本はこの2つをベースに相手によって演じ分けをしている。
ただ、姉さんはテンパったりキレたりすると関西弁を何故だか良く話していた。
関西人でも無いのに謎である。
ただ、恐らくはお気に入りのギャルゲーキャラの影響だと予測はしている。
但し、今はそのキャラ設定は使用していない。
めんどくさい上に余計なキャラ設定は自分の首を絞めかねないと自覚している。
演技にもう少し余裕が出来たら加えても良いかな位には考えているけれど。
そして、それに加えてデート中は基本〔女性のさしすせそ〕をベースに最後の5分前に手を繋ぎ、相手に見られた時に恥ずかしそうにうつむき、顔を上げてからのニッコリ微笑みで仕上げをする。
これだけで、評価が上がり、リピート率があがる。
これだけ聞くと男はチョロいと思うだろうが、実は私もこの時ばかりはドキドキする。
何度やっても慣れない。
何せ、実際に私は彼氏という者がいた事がないのだ。
天才ではないし、伸ばせる才能があるわけではない私は勉強に勉強を重ね、努力して体裁を取り繕った。
学校では生徒会。
放課後はスクールとアルバイト。
遊びに誘われても、断り続けていたら誘われなくなった。
友達はいても親友と呼べる人はいなかった。
勿論、彼氏も。
沢山、告白されたけど、私にはお付き合いするような余裕も時間も無かった。
まあ、気になった人が居なかったのもあるけれど。
なので、私のデート経験値は全て演技によるバーチャル。
感情が上手く表に出せないゆえの嘘ばかり。
実際、相手に申し訳ないと思ったりもするが、相手も夢を買っている人ばかりなので気にするなと前に社長に言われたこともある。
その社長にも嘘をついているので、やはり罪悪感は消えない。
だけど、私はこの仕事結構好きだ。
楽しく会話しながら、美味しい食事したりして相手を満足させる。
リピーターにはその人の好みや得意分野を褒めたり盛り立てたりする為に前回からの情報を基に勉強もした。
お陰で今までの私なら興味すら無かった情報も取り入れる事になり今では結構な雑学博士な感じだ。
それもこれも記憶力強化キャンディのお陰でもある。
相手の対応に余裕が出来ることによって全体を俯瞰して第三者視点で自分を捉える事が出来るようになったし、それゆえに対応力と洞察力も鍛えられる上に、ついでにお金も稼げる。
これは正に一石三鳥なアルバイトなのだ。
そして、今日も目的を遂げるためだと自分に言い聞かせ仕事に向かう。
◇
「紺のジャケットに青のジーンズ。それに白黒マフラー。貴方が小倉 宗谷さんかな?」
「…………え?マジ写真のまんま?」
「えーと?」
「あ、はい!小倉 宗谷っす!はじめまして!」
「ふふ。はじめまして、よろしくね。宗谷君でいいかな?それとも宗谷さん?」
「は、はい!ど、どちらでも!」
「ふふふ。緊張し過ぎだよ、宗谷君。私の方が年上だから良いよね?宗谷君で」
「はい!」
「じゃあ、何処行こっか?」
「あ、俺決めてあるんで、それで」
「そっか。それじゃあ、エスコートお願いするね」
「はい!任せて下さい!」
「ふふ。楽しみだね」
◇
・
・
・
◇
「もう時間になっちゃたね。残念」
「うん」
「今日は本当に楽しかった。ありがとうね」
「うん」
「ふふ。名残惜しいね。……帰ろっか」
「……うん」
二人、駅に向かう途中、そっと手を繋ぐ。
ガン見する彼に恥じらいながらうつむき、顔を上げハニカミながら笑顔を向ける。
そして恋人繋ぎで歩く。
いつものルーティーン。
甘い沈黙の中、駅の入り口でそっと手を離す。
「それじゃあ……またね」
「ああ……また」
手を振り別れる。
3時間程延長されて、今は19時。
夕食はご馳走になったのだけど、疲れたから早く帰ってお風呂に入りたい。でも……
「うーん。延長、そりゃされるよね。ハア、スクール今から行けば30分は出られるけど、どうしよう」
サボるか。
30分でも出席するか。
それとも例の時計を使うか。
出来れば、謎アイテム達は非常時のどうしようもない時用に取っておきたい。
こんな便利グッズ、絶対に回数制限とかありそうだし。
もしも使い切ったら姉さんとの繋がりが辿れなくなるかもしれない。
それだけは絶対に避けたい。
「うし、30分でも行こう。授業代、勿体ないもんね」
電車で2駅先のスクールへ向かう為、電車の時刻表を駅構内で確認しつつ、タイミング良く1分後の電車を発見し、慌てて乗り込むのであった。
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