第1話 プロローグ
美人の事を、〔立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花〕とはいうけれど、僕のクラスにも超がつく程の美少女がいる。
でも笑わない。
咲き誇る花の様な笑顔を見たことがない。
名前は一ノ瀬 織姫さん。名前も美しい。
でも笑わない。
彼女は四字熟語で表せば、品行方正、文武両道、眉目秀麗。
でも笑わない。
笑ったところを誰も見たことがないのだ。
笑わない。愛想がない。基本ボッチ……なのだろうか?あれは。
挨拶をすれば返されるし、話かければ対応するし、グループで割り当てられた仕事は皆を指揮して難なくこなし、周りを囲まれてお喋りに興じている場面もある。
あるけれど、基本興味がないのか、相づちを打つか、質問に答える位で、気がつくと何時も一人で本を読んでいる。
学校帰りに遊びに誘われても何時も真顔で断り、自分からは言葉を発する事がない。
入学当初の新入生代表挨拶で朗々と迦陵頻伽の如く、その美しい声と容姿で一躍、全校生徒の注目の的となった。
初めて彼女を見る人は、誰もが二度見、又はガン見はするのは当たり前。
二度目以降でさえ、一目視界に入れば目で追い思考が彼女で満たされる。
同性、異性関わりなく彼女は周りの注目を集めた。
興味、嫉妬、尊敬、羨望、憧れetc...
告白されること数十回、友達になろうと誘われること数百回に及ぶであろう彼女だが、一度としてその誘いに頷いたことはない。
何時もはっきりと断り、いつも真顔。
苦笑さえ見せない。
いつだったかクラスの誰かが「絶対、彦星様と遠距離恋愛しているから告白全部断っているのよ!」とか叫んでいた。
ロマンチズムにも程があると思ったけれど、確かにあれ程の美人だ。
何処かに付き合っている彼氏がいるのかもしれない。
彼女も好きな人の前では花が咲き誇る様な笑顔を見せるのだろうか……。
休み時間は大概、自分の座席にて一人で読書をし、昼御飯も一人で済ます。
たまに無理やり一緒に囲って食べてる子達もいるけれど、基本一人。
不思議と他人と必要以上に関わる事を避けているようにも見える。
ある時、友人から聞いた友達の友達の話だけれど、失礼な事に、一ノ瀬さんの自宅を暴く為に尾行と言う名のストーカー行為をしたが(お巡りさんこっちです!)何時も同じ場所で見失うのだとか。
そして彼女は渾名も非常に多い。笑わない天使だとか、残酷な天使とか(……)、光校(光ヶ丘学園校)の女神とか、七夕様とか、織姫様(これは普通に名前じゃないだろうか?)とか、他にも色々。
逆に、能面女とか、鉄仮面とか、仮面少女とか、美少女仮面(これは意味が少し違うから)とか、美少女戦士(これは意味がわからない)とか、陰口も叩かれてもいる。
だけど、彼女は一切、動じておらず、しかも学業、学内活動共に率先して行い、その優秀さを周りに見せつけることになる。
故に教師陣からの人望も厚く、共に活動した生徒も彼女に尊敬と憧れを抱く。
突然だが、この学校では選挙がない。
選挙はないが、生徒会ホームページに誰でも推薦が出来る。
出来るが、何故その人を推薦したのかの推薦文を記入しなければならないため、遊び半分での推薦は大半の生徒が面倒くさくて推薦しない。
勿論、自信があるなら自分を推薦したっていい。
そして、推薦枠から教師陣からの内申情報を考慮しつつ前生徒会が任命する事になる。
因みに、任命されても断る事は出来るが、内申が大幅アップする生徒会に在籍していたという事実は大学入試や就職活動に大きく寄与する為、本気で都合が悪い人以外は基本的に生徒会入りする。
因みに僕もそんな感じで生徒会入りをした。
そんな彼女が生徒会に任命されるのは至極同然であったのだろう。一年で書記に任命され、慣れない会計に任命された僕の会計補佐も度々こなしてくれていた。
二年で副会長に任命。
三年で会長になり、二年の頃から更に増えた同性の後輩からの御姉様呼びは日を追う毎に増えている。
因みに僕は副会長を任命され、今は一、二年の借りを返すべく彼女のサポートを全身全霊で行っている。
が、それでもよくフォローされる事が度々ある。
やはり彼女にはかなわないな。
勿論、生徒会でも後輩もできた。
後輩男子は一ノ瀬さんと目があっただけで顔を赤くして硬直し、後輩女子はキラキラした瞳で一ノ瀬さんを見つめ続けて仕事にならない時が多い。
それでも、そんな彼女は何時も通り、淡々と作業をこなし、誰よりも早く仕事を終わらせて帰る。
何時も帰る時間は変わらない。
作業進行期日が押していても遅れを、ほんの数分で処理し、飛び込み依頼が入っても、いつ終わらせたのかという位に終わらせて定時に帰宅する。
まるでスーパーウーマンの如き活躍をする一ノ瀬さんだが、何だかんだで生徒会の仕事は好きなようだ。
生徒会にいる時はクラスにいる時より何となくだけど、空気が柔らかいような気がする。
そんな気がするのも三年間、幸運にもクラスと生徒会を共に過ごしてきたからだろうか。
それでも、やはり彼女の笑ったところは見たことがないのだ。
いつか僕は彼女の笑う姿を見ることが出来るのだろうか。
笑わない謎多き少女の笑顔を……。
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