9 雪を溶く熱――量子的な彼女――

 理由りゆうはわからないが、どうやら秋人あきひとわたしには、あたらしい魔法まほうのチカラがそなわっているようだった。

 しかし、このチカラだけで組織そしき対抗たいこうできるのかというと未知数みちすう、いや、心理的しんりてきには不可能ふかのうであるとかんがえられる。

 組織そしきてきまわしたときのおそろしさは、たましいにまできざみつけられている。秋人あきひと瑠奈るなれての逃亡とうぼう生活せいかつなど、できるともおもえない。

 あたらしくそなわった魔法まほうはそれなりにすごそうではあるが、これだけではたたかえない。

 結局けっきょく秋人あきひとたたかいにおもむくのを見送みおくるだけになってしまうのだろう。


 そういったことをかんがえながらも、秋人あきひと瑠奈るな様子ようす見守みまもっていると。

わかれの挨拶あいさつつづきは、ヘリのなかおこなってもらう。はやくヘリにんでくれたまえ。伝説でんせつのスナイパー、ミスターアキヒト」

 ひとりのおとこ秋人あきひとに、そうこえけた。

「おいっ! どういうことだ? 瑠奈るなつまもとかえしてくれる約束やくそくだったじゃないか?」

くちかたけたまえ! このわたしだれだとおもっている? われこそは宇宙うちゅう最強さいきょうころ時尾翔ときお かける。このたび、組織そしきたばねていくことになったしんリーダーなのだよ? これまでの組織そしきのやりかたではなまぬるい。これからはわたしのやりかたで3ねん。3ねん世界せかい掌中しょうちゅうおさめてみせよう」

 あれが宇宙うちゅう最強さいきょう魔女まじょ天城辰子あまじょう たつこちゃんをほうむったというタイムトラベラーの時尾翔ときお かける相当そうとう自信家じしんかのようだ。

「くっ! 瑠奈るな暗殺者あんさつしゃにするつもりか?」

「いいや。おんなころにするつもりはない。おんなわたし優秀ゆうしゅう遺伝子いでんしやしてくれるだけでいのだ。きみむすめさんは、あと7〜8ねんそだてないとならないが、きみおくさんにはさっそくわたしんでもらうことになる。なーに、きみからおくさんをげようというわけではない。ただ、わたしんでくれるだけでいんだよ。きみおくさんは私好わたしごのみの美女びじょだから、たのしみだ♪ もし、きみNTR寝盗られ属性があるのなら、きみまえおくさんをいてやってもいのだが、どうする?」

 なに? あのおとこ? 寝言ねごとってんじゃないわよっ! 女狂おんなぐるいのハーレム脳野郎のうやろう世界せかい征服せいふくなんてできるわけがないじゃない? 

 っていうか、7〜8年後ねんご瑠奈るなをどうするつもり? このロリペド野郎やろうっ!!

 とはいっても、当面とうめんはコイツが組織そしきのトップなのであればしたがうしかないのであろうか。

 秋人がいながら、べつおとこかれる? それは、かんがえていたのとは別方向べつほうこう地獄じごくである。

「かつての組織そしきあく秘密結社ひみつけっしゃだったが、あくにはあくなりの理想りそうがあった。だが、おまえは、組織そしき私欲しよくのために利用りようしようとしている。おまえゆるせん!」

「くっくっく♪ きみ宇宙うちゅう最強さいきょうころ楯突たてつこうとしているのだよ? 面白おもしろい。せっかくきみには華々はなばなしい仕事しごとあたえて、組織そしき復帰ふっきかざってもらおうとおもっていたのだが、わった。最強さいきょうスナイパーのまえで、美人妻びじんづま寝盗ねとる。最高さいこう興奮こうふんするじゃないか? ミスターアキヒトの身柄みがら拘束こうそくしろ。無傷むきずでな!」

 このこえ合図あいずまわりのおとこたちが秋人あきひとかこむ。そのかずにん

 ひとりひとりが、素手すでひと瞬殺しゅんさつする技能ぎのうけた手練てだれだ。

わるいがおれは、無傷むきずで5にんたおすなどできそうにない。怪我けがさせても文句もんくわないでもらいたいな」

「くっくっく。できるものなら……!?」

 時尾翔ときお かけるわるまえに、5にんゆきうえたおれていた。なにこったのか、まったくえなかったが、理解りかいはできた。

「なんだと!? おい、うごくな! むすめいのちが……」

 瑠奈るな拳銃けんじゅう銃口じゅうこうきつけようとした時尾翔ときお かける手首てくび秋人あきひとつかんでいた。

おそいぜ、宇宙うちゅう最強さいきょうなかかわずさんよぉ!」

 と、その瞬間しゅんかん時尾翔ときお かける姿すがたえる。タイムトラベル能力のうりょくだ。しかし。

無駄むだだぜ。『愛ⅰあいアイアイランド』っ!」

 過去かこあるいは未来みらいにタイムトラベルしたはずの時尾翔ときお かける姿すがたあらわれた。

 秋人あきひと姿すがた時尾翔ときお かけるかお蒼白そうはくとなっていた。無理むりもない。タイムトラベルした相手あいてもと時空じくうもどすなどいたこともない。

 秋人あきひと使つかっているのは、組織内そしきない魔法まほう超能力ちょうのうりょく常識じょうしき超越ちょうえつした桁外けたはずれの魔法まほう――量子りょうし重力じゅうりょく魔法まほう――なのだ。

 重力じゅうりょく時空じくうつらぬき、異次元いじげんまでも効力こうりょくおよぼす。最先端さいせんたん理論りろん物理学ぶつりがく超弦ちょうげん理論りろんによる推測すいそくだ。そして、わたしたち量子りょうし重力じゅうりょく魔法まほう使つかにとっては真実しんじつでもある。

 だが、しかし。

 銃声じゅうせいとどろき、ゆきうえ血飛沫ちしぶきった。秋人あきひとりょうひざをつきたおれる。

 それを時尾翔ときお かけるがにやりとほくそむ。

くやったぞ! このおとこかしておくと危険きけんだ。こいつのまえつまはらませてやりたかったが仕方しかたがない。始末しまつしろ!」

 周囲しゅういから8にんおとこたちがあらわれた。みなみな銃器じゅうきたずさえている。

 瑠奈るなさけこえ勝算しょうさんがあるわけではない。あたらしくそなわった魔法まほうがどの程度ていどのチカラなのかも未知数みちすうだ。

 だが、ここでかなきゃおんなすたる。ぬときは秋人あきひと一緒いっしょだ。あんな下衆野郎げすやろうかれるくらいならんだほうがましだともえる。

 量子りょうし重力じゅうりょく魔法まほう発動はつどう

量子の霧クォンタムミスト!」

①ひとりのわたしは、秋人あきひとほうけてし、

ちなさい! 今度こんどわたし相手あいてよ」

さけんだ。

②ひとりのわたしは、秋人あきひともとへと移動いどうし、かれかかえると安全あんぜん場所ばしょへと移動いどうした。

③ひとりのわたしは、瑠奈るなもと移動いどう

「おかあさんがたから大丈夫だいじょうぶよ?」

あたまでてあげ、秋人あきひと避難先ひなんさきへと移動いどうした

④⑤⑥⑦⑧5にんわたしたちはそれぞれ、さきほど秋人あきひとたおしたおとこたちのもと移動いどう。そのじゅううばい、それぞれ任意にんい場所ばしょへと移動いどうした。

④そのかん、ひとりのわたしてきたれて、きりのようにえた。④ひとりのわたし消失しょうしつ


 わたし魔法まほう量子の霧クォンタムミスト』は、一定いってい時空内じくうないで、同時どうじ多数たすうわたし各々おのおのべつ活動かつどうができるようになる能力のうりょく

 複数ふくすうわたし存在そんざいするときに、ひとりのわたし攻撃こうげきされると、ダメージはけずに消失しょうしつする。

 『量子の霧クォンタムミスト発動中はつどうちゅう移動いどうは、瞬間しゅんかん移動いどうとなる。効果こうか範囲内はんいないであれば、瞬時しゅんじ移動いどう可能かのう

 それぞれのわたしは、独自どくじ思考しこうをしている。その一方いっぽうほかわたしかんがえや認識にんしきしている情報じょうほうもリアルタイムで把握はあく共有きょうゆうしている。にもかかわらずほかわたし自分じぶんかんがえが混同こんどうすることはない。

 たしかに強力きょうりょく能力のうりょくではある。

 しかし、いまわたし暗殺者あんさつしゃスキルをたないただの素人しろうとじゅうにしていても、有効ゆうこう活用かつようできない。

 かつてなら、おそらくつむっていても命中めいちゅうさせられたような距離きょりでもたらないのだ。

 瞬間しゅんかん移動いどう能力のうりょく駆使くしし、背後はいごからおそいかかるも、ひとりずつわたしってゆく。

 わたしがひとりだけになり、一旦いったんクォンタムミストを解除かいじょ再発動さいはつどう。しかし、今度こんどは5にんわたしにしかならなかった。魔法力まほうりょく消耗しょうもうはげしい。まだ、この能力のうりょくれてないということもあるだろう。

 またも、4にんわたし消失しょうしつし、のこったわたし秋人あきひとたちのもとへと合流ごうりゅうし、能力のうりょく解除かいじょ

 もう一度いちど使つかってみたが、ひとりのわたしのままだった。てきのひとりが近付ちかづいてくる。

 ここがつかったら、おしまいだ。わたし秋人あきひと瑠奈るなまもりながらたたかうなどという器用きよう真似まねはできない。

 瞬間しゅんかん移動いどう能力のうりょくで、近付ちかづいてくる相手あいてななうしろに移動いどう。サブマシンガンをかまえ、

になさいっ!」

と、がねを……。

「ごっめ〜ん! おそくなっちゃった〜っ★ あとはわたしまかせて……」

 突如とつじょまえに、宇宙うちゅう最強さいきょう魔女まじょこと、天城辰子あまじょう たつこちゃんがあらわれたのだが……。

 咄嗟とっさゆびめられず、銃口じゅうこううえらそうとするもわず、サブマシンガンの掃射そうしゃ辰子たつこちゃんの上半身じょうはんしんばすことになってしまった。

 ああ、なんという……★

 突然とつぜんあらわれた辰子たつこちゃんにられ、本来ほんらいねらった相手あいてにはかすりもせず、その相手あいて銃口じゅうこうわたしけられた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る