6 雪を溶く熱――グラビティ・ファイア・ブリザード――美冬サイド2

2 おのぞみの結末けつまつ


 ノックのおとがした。

 いや、ノックのおとがしたようながする。

 いや、ノックのおとがしたようながするけれど、のせいかもしれない。

 いや、むしろのせいであってしい。

……などとかんがえていたら、まぎれもなく間違まちがいなくしっかりちゃっかり、ノックのおとがした。

 ためいきをつきつつ、玄関げんかんへとかう。

 また、緊急きんきゅう支援任務しえんにんむだろうか?

 先月けんげつもそんなことがあったばかりだ。

 まあ、仕方しかたがないか。組織そしきさからっていことなどひとつもない。

 それにしても今日きょうも、またさむい。

 そとはしんしんとゆきっていた。

 ここに人間にんげんだってさむおもいをするだろうに。

 なんてことをかんがえつつ、左手ひだりてかぎはずしてドアノブにをかける。

 右手みぎてには22口径こうけいのピストルがにぎられている。

 警戒けいかいおこたると、すぐに危険きけんってしまう。

 実際じっさいわたしは2年前ねんまえに、玄関げんかんけたら銃撃戦じゅうげきせん遭遇そうぐうしている。

 そのときはさいわい、わたし非戦闘員ひせんとういんだともくされていたようでかえちにしてことなきをたが、つぎもそうとはかぎらない。

 わたしそと人間にんげんかって言葉ことばけた。

 身内みうちかどうかは返答へんとうしだいでわかるはずである。

美冬みふゆおれだ。秋人あきひとだ。日本にほん一緒いっしょだった……」

 予想よそうななうえ返答へんとうかえってきた。

 のぞまどからると、たしかに秋人あきひと間違まちがいはなさそうだ。

 いますぐにでもドアをけたいとおもったが、てきのスパイとなっている可能性かのうせいてきれない。

 秋人あきひとこえけてすこってもらい、そのかん特殊とくしゅ通信つうしん機器ききで、組織そしき情報じょうほうにアクセスした。

 その結果けっか秋人あきひと組織そしき裏切うらぎったという情報じょうほうはなく、またこのくに滞在中たいざいちゅうということも確認かくにんできた。

 即座そくざ玄関げんかんび、ドアをひらいた。やや不用心ぶようじんだが、秋人あきひとにだったらころされたってかまうものか。

「よおっ!」

 当然とうぜんのこととはいえ、そこにはなつかしいかおあらわれた。

秋人あきひとじゃない? どうしたのよ、こんなきゅうに。もう4年振ねんぶりになるかしら?」

 秋人あきひとうのは、組織そしき暗殺者あんさつしゃ養成ようせい機関きかん卒業そつぎょう以来いらいだった。

「4年振ねんぶり?」

 怪訝けげん表情ひょうじょうをする秋人あきひと実際じっさいには3ねんと10ヶ月かげつほどか? けれどもそれが、秋人あきひと怪訝けげんかおをする理由りゆうとはおもえない。

「いや、昨日きのうったばかりじゃないか! 『赤紙あかがみた』って……」

 昨日きのうったばかり? 一体いったいなにっているの?

 秋人あきひと表情ひょうじょううかがう。どうやら、麻薬まやく使用しようした形跡けいせきえる。

 とはいえ、組織そしき麻薬まやくはラリったりするような粗悪そあくなモノではない。

 暗殺者あんさつしゃ能力のうりょく遺憾いかんなく発揮はっきさせるため、動揺どうようおさえ、精神せいしん覚醒かくせい高揚こうようさせ、かつ、身体しんたい能力のうりょくたかめる強力きょうりょくものだ。

 おそれなくさせ、銃弾じゅうだん直撃ちょくげきえる強靭きょうじん筋力きんりょく精神力せいしんりょくあたえ、さらいたみをいちじるしく鈍化どんかさせる。

 そうしたすぐもの麻薬まやくだ。

 服用ふくよう間隔かんかく厳守げんしゅ必要ひつようだが、使用しようさいして幻覚げんかくたりだとかの副作用ふくさようはほとんど報告ほうこくされていない。

麻薬まやくって狙撃そげきしたら、まったくたりませんでした💉』

では、スナイパーとして使つかものにならないのだ。

 などといったことをかんがえていると。

 突如とつじょ突風とっぷうが、玄関げんかんのドアを全開ぜんかいにした。

 ドアをささえようとした秋人あきひと身体からだもろともだ。

何者なにものかに攻撃こうげきされているの?」

 ただものではない。おそらく、相当そうとう手強てごわ相手あいてのはずだ。

 くついてそとる。

 そとゆきっていたが、とく何者なにものかの気配けはいかんじるということはなかった。

 が、なにかがおかしい。違和感いわかんかんじる。

様子ようすてこよう」

 秋人あきひとがひとり、わたし住居じゅうきょまわりを見回みまわりにった。

 さきほどの、玄関げんかんのドアを秋人あきひと身体からだごとやすやすとこじけたチカラ。

 あれほどのパワーの使つか遠距離えんきょりにいるなどかんがえられない。絶対ぜったいちかくにいるはずだ。

 秋人あきひとちつつも、警戒けいかいおこたらない。右手みぎてには38口径リボルバーコルトパイソン357マグナム弾丸だんがん黒い鉤爪ブラックタロン。ホローポイントだん一種いっしゅで、弾頭だんとうには6つのスリットがはいっており、着弾時ちゃくだんじ弾頭だんとう先端せんたんけることで人体じんたいおおきなダメージをあたえる。

 だが、相手あいて防弾ベストボディアーマー着用ちゃくようしていると、有効ゆうこう殺傷さっしょう能力のうりょく期待きたいできない。

 その場合ばあいは、真鍮製しんちゅうせい装甲貫通弾アーマーピアシングKTW弾ケーティーダブリュー装填そうてん357マグナムコルトパイソンえる。

 わたし物質ぶっしつ転送てんそう魔法まほう使つかえる。任意にんい場所ばしょにあるものを自由じゆうれできるのだ。

 だから、じゅうわったら、即座そくざたま装填そうてんされたあたらしいじゅうえ、射撃しゃげきができる。再装填さいそうてん必要ひつようがないというのは、銃撃戦じゅうげきせんにおいて圧倒的あっとうてきなアドバンテージとなる。それは、すきがないということだからだ。


 秋人あきひとかえってくるも、収穫しゅうかくはなかったようだ。

なに様子ようすへんだわ。なにがおかしいの……」

 いかけたところで異変いへん正体しょうたいいた。

てっ! ゆき一ヶ所いっかしょあつまってきている!」

 周囲しゅういゆきが、ある一点いってんへとかってんできている。そのかうさきは……マシュマロ?

 わたしたちのまえ、1メートルほどのところに、マシュマロがいていて、周囲しゅういゆきは、うずくようなうごきでそこにかっていた。

 その速度そくど段々だんだんはやくなり、すぐにえる速度そくどえた。

 そしてゆきうず外側そとがわ見渡みわたすことができなくなってしまった。

あつい……。どういうことなの? 吹雪ふぶきなかにいるのに……」

ゆき空気くうき摩擦まさつねつはなっている!?」

「そんな莫迦ばかな!」

 てつくブリザードならよくっている。

 日本にほん豪雪ごうせつ地帯ちたいそだち、冬季とうき野外やがい活動かつどう訓練くんれんけた。

 けれども、高熱こうねつはな吹雪ふぶきなど、はなしにもいたことがない。

 ゆきつめたいモノで、あつゆきなどあるはずがない。

 しかし、今目いまめまえきている現象げんしょうは、まるでたまごくかのようにゆき超高速ちょうこうそくでかきぜてき、その摩擦熱まさつねつ高熱こうねつはなっているのだ。

 超高速ちょうこうそく猛吹雪もうふぶきによって視界しかい完全かんぜんざされる。吹雪ふぶきうず内側うちがわめられてしまった。

 すすべもなくくして、どれほどの時間じかんったのか? 時間じかんにすると、まだ1、2ふんしかっていないかもしれない。

 けれども、正体しょうたい不明ふめい規格外きかくがい攻撃こうげきさらされ、精神的せいしんてき疲労ひろうおおきかった。

 吹雪ふぶきあやつ魔法使まほうつかいなら組織そしきにも存在そんざいする。ほのおあやつ魔法使まほうつかいならいててるほどいる。なんとなれば、わたし秋人あきひとだって、ちょっとしたほのお呪文じゅもん使つかえる。

 だが、高熱こうねつはな吹雪ふぶきなど、どれほどすさまじい魔法力まほうりょく消費しょうひするものなのか? そんなことしなくても、お手軽てがるほのおあやつればいではないか?

 この相手あいてわたしたちを瞬時しゅんじくすくらいは朝飯前あさめしまえばんはんのはずである。


 吹雪ふぶきがやみ、視界しかいがひらけた。半径数はんけいすうメートルないすべてのゆき消失しょうしつした。

 まえにあるのは、ちゅうくマシュマロ。そこからすうメートルはなれると雪景色ゆきげしきになる。

 ぎゃくにマシュマロの支配下しはいか圏内けんないってきたゆきは、マシュマロにせられてえてしまう。

「う〜っ、さむいね〜っ! きみたちはこんなさむいところにんでるの?」

 こえのしたほうた。

 そこには、わたし住居じゅうきょはいみ、ゆか腰掛こしかけた、少女しょうじょ姿すがたがあった。

 ――やはり。

 宇宙うちゅう最強さいきょう魔女まじょ天城辰子あまじょう たつこ

 その最大火力さいだいかりょく概算がいさんは、重力じゅうりょく崩壊ほうかいからブラックホール形成けいせい極超新星爆発ハイパーノヴァ、ガンマレイバーストまでのすべてのエネルギーをしたにひとしいともわれる。

 銀河ぎんがばすなど物語ものがたりでもいたことがない荒唐無稽こうとうむけいさだ。ホント、わらうしかない……★

 左手ひだりてにマシュマロのふくろち、右手みぎてでマシュマロをくちはこんでいる。

 緊張感きんちょうかんなど、微塵みじんもミジンコほどもかんじられない。それはそうだろう。組織そしき強力きょうりょく暗殺者あんさつしゃたちが100にん以上いじょうかっても、まった成果せいかをあげることなく全滅ぜんめつした化物ばけものなのだから。

「さて、問題もんだいです。そっちのきみんだかくミサイルと、このふくろはいったマシュマロ。どちらが武器ぶきとして有力ゆうりょくでしょう?」

 魔女まじょみをかべながら質問しつもんをしてくる。

 しかし、その油断ゆだん命取いのちとりになる。

になさい!」

 サブマシンガンH&K MP7ヘッケラーアンドコックエムピーセブン手中しゅちゅう召喚しょうかんし、魔女まじょ掃射そうしゃ。ターゲットまで3メートル。この距離きょりならはずさない。しかし――

 たまれ、一発いっぱつとしてたることはなかった。

 とおもったら、サブマシンガンH&KMP7本体ほんたいちゅうき、わたし身体からだごと移動いどうする。

美冬みふゆはなせっ!」

 秋人あきひとこえあわててはなすと、その秋人あきひとむようにしてわたし身体からだめてくれた。

秋人あきひと!」

 ゆきえた地面じめんうえをヘッドスライディングしてわたしめるなんて、無茶むちゃなことを。

 そんなわたしたちの状況じょうきょうにはおかまいなく、魔女まじょはなけてくる。

きみたちの組織そしき莫迦ばかなの? わたしころそうとしても無理むりだってわかりそうなものだよね? わたしおだやかに、カコヨモに小説しょうせついて、その広告こうこく収入しゅうにゅうきていきたいの」

 カコヨモ? 日本にほん小説しょうせつ投稿とうこうサイトの?

「カコヨモ?」

 秋人あきひと意味いみがわかってなさそうだ。

出版社しゅっぱんしゃ大手おおての『カクカワ』と『くえすちょブログ』がんでつくった小説しょうせつ投稿とうこうサイトよ。って、なんで『宇宙うちゅう最強さいきょう魔女まじょ』が小説しょうせつ投稿とうこうサイトなんかに……」

べつ小説しょうせつこうが、『ヨーチョーバー』になろうがわたし勝手かってでしょ? それよりもきみたち、覚悟かくごはできてるよね? 人殺ひところしにたんだもん。ころされる覚悟かくごだってできてるよね? ……』

 状況じょうきょうはわからなかったが、どうやら秋人あきひとはこの魔女まじょ狙撃そげきし、失敗しっぱいしたのだろう。

 魔女まじょがって、いたずらっぽいみをかべた。

 なんとか、この魔女まじょたおさないと。

 けれども、わたし魔法まほうがここにきて発動はつどうしない。こんなことははじめてだ。あせりがひろがる。

ってくれ! おまえころそうとしたのはおれだけだ。美冬みふゆ見逃みのがしてやってくれ!」

「はっ? そんなのわたしくとでも? ……」

 そうだよね? わたし一緒いっしょころされますよね?

 すで抵抗ていこうするせていた。

 魔女まじょとの会話かいわつづける秋人あきひと横顔よこがおつめる。

 一緒いっしょらすことはできなかったけれど、せめて最期さいごのときだけは一緒いっしょにいられるなんて。

 不遇ふぐう人生じんせいおくってきたわたしたいするかみからの最後さいごのプレゼントだろうか?

「……。10びょうだけ時間じかんをあげよう。おわかれの挨拶あいさつでもするといよ」

 周囲しゅういゆきわたしたちのほうへと、ゆっくりと渦巻うずま回転かいてんしながら近付ちかづいてくる。

 いよいよ最期さいごのときがおとずれたんだ。

美冬みふゆ!」

秋人あきひと!」

 わたし秋人あきひといていた。でも、秋人あきひと笑顔えがおだった。

 秋人あきひとわたしおな気持きもちなのかな?

 秋人あきひとをぎゅっときしめる。

 秋人あきひと一緒いっしょ地獄じごくへと旅立たびだちましょう。

 たとえさき地獄じごくでも、あなたがいるならそこは楽園らくえん

さんっにっいちっ、じゃあね、さようなら。灼熱しゃくねつ閃光せんこうかれてっちゃえ。グラビティ・ファイア・ブリザード!!」

 太陽たいようよりもまばゆ閃光せんこうに、わたしはぎゅっとじた。

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