2 海が太陽のきらり

 組織そしきられ、ころとしてそだてられたわたし秋人あきひとだったが、それでも数少かずすくない青春時代せいしゅんじだいおもというものがある。

 16さいなつわたし秋人あきひとはそのうみていた。

 そこは幼少ようしょうころ、まだ組織そしきはいまえ秋人あきひとあそんだ記憶きおくのある場所ばしょであった。

 組織そしきはただきびしいばかりではない。優秀ゆうしゅうものたいしてはご褒美ほうびてき待遇たいぐうもあって、このうみたのも、それによって10日間とうかかん休暇きゅうかであった。

「ねえ、秋人あきひと一緒いっしょおよぎましょうよ?」

 ちかくの宿やど荷物にもついたあと、秋人あきひとこえけた。

 『おれおよげないから』としぶ秋人あきひと強引ごういんって海岸かいがんへ。

 当時とうじわらず、人気ひとけまったくないうみ

 うみかって右手みぎてほうは、岩礁がんしょうおおくあまりおよぎにはてきさない。

 脱衣所だついじょてき小屋こや(本当ほんとう脱衣所だついじょかどうかは不明ふめい)で水着みずぎ着替きがえると、秋人あきひとをむんずとつかんで、左手側ひだりてがわ砂浜すなはまほうかった。

 最初さいしょしぶっていた秋人あきひとであったが、30ぷんもすると要領ようりょうつかんできたらしい。

 そもそも秋人あきひと身体能力しんたいのうりょくたかいのはわかっていたのである。

 秋人あきひとは、そののうちにそれなりにおよげるようになってしまった。

 翌日よくじつからも秋人あきひと順調じゅんちょう能力のうりょくばし、かえ間際まぎわにはおよげなかったというのがウソのような成長せいちょうげていた。


明日あしたにはかえらなきゃいけないのか……」

 秋人あきひとらした一言ひとことに、きゅうさみしさがげてきた。

 えてかんがえないようにしていた。けれども、楽園らくえんのような日々ひびももうおしまいである。

 さだめられた時間内じかんないかえらなければ、あるのみだ。

 組織そしきもどれば、秋人あきひと自由じゆうごす時間じかんなどほとんどないのがえている。

 と、ここでふとちいさいころ親戚しんせきのおねえさんからいたあるはなしおもした。

 恋人こいびとともにある場所ばしょからんで、海中かいちゅうから太陽たいよう見上みあげたあと、海面かいめん相手あいてつぶやけば、ふたたびこのうみ再会さいかいたしむすばれるということである。

 どものころいたうわさ真偽しんぎ不明ふめいである。けれどもわたしは、そのうわさけてみたくなった。

 実際じっさいんだことはないけれど、さいわいその場所ばしょだけはっていた。

秘密ひみつ場所ばしょ案内あんないしてあげようか? その場所ばしょにまつわるおまじないがあるの」

 わたし秋人あきひとこえけた。


「おいおい、ここからりるかよ?」

「いえ、『りる』のではなくて、『む』のよ?」

 そうかえしてはみたものの、初見しょけんではかなりたかいようにえた。さそってはみたものの、正直しょうじきこわくないとえばウソになる。

 そこは岩礁がんしょうまるえぐれたようなそこがそこそこふかく、比較的ひかくてき初心者しょしんしゃでも危険きけんすくないと陽子ようこねえさんはっていた。

「おいおい、ふるえてるじゃねえか。やっぱり、やめておくか?」

「まさか! ここまでてやめられないわ! おんな度胸どきょうおとこ度胸どきょうよ」

度胸どきょうだらけだな?」

 秋人あきひと言葉ことばかお見合みあわせ、ふたりしてわらった。

わたしくわ。秋人あきひとはやめとく?」

おれくさ。ただ、あたまからは無理むり★ あしからりるぜ」

「さっきったおまじないわすれないでよ?」

「えーと、今度こんどまれてくるときは、うれいのないカタチで再会さいかいしたい……だっけか?」

「そうじゃないでしょ? いえ、その気持きもちはわかるんだけれども、来世らいせじゃなくてきてるうちにまたここでいたいわ……あなたと。……なんだかあついわ。わたし先行さきいくね?」

「お、おい、おれも……」

 ずかしくなって、助走じょそうをつけてあたまからむ。

 一瞬いっしゅん無重力むじゅうりょくのあと、着水ちゃくすいした。

 数瞬すうしゅんのち衝撃しょうげきが。秋人あきひとだ。

 ふたりして海中かいちゅうもぐっていき、そこから見上みあげると――。

 海面かいめんからひかりがきらきらときらめく幻想的げんそうてき光景こうけいがそこにあった。

 いきむようなうつくしさ……って、いきめてるときに適切てきせつ表現ひょうげんかはわからないけれど、自然しぜんつくりだす芸術品げいじゅつひんのようなシーン。

 となりには秋人愛しい人……。

 海面かいめん浮上ふじょうかおげる。はげしくいきをつくふたり。太陽たいよう直接ちょくせつながめるにはひかり強過つよすぎて。

 必然的ひつぜんてきつめうふたり。

美冬みふゆ……」

秋人あきひと……」

 うみ太陽たいようりなす天然てんねんのアート。

 最愛さいあいひとごせるきらり玉響たまゆら時間とき

 日常にちじょうかえれば、かおわせることもすくなく。

 未来みらい希望きぼういだそうにも、わたしたちのかれた環境かんきょう――組織そしき暗殺者あんさつしゃになるべくそだてられ、おそらくはわかくしていのちとす――は、あまりにも過酷かこくぎる。

「おい、美冬みふゆ! いてるのか?」

 無粋ぶすい言葉ことばはらったわたしは、秋人あきひとくちびるうばってやった。

 きっと、この機会ときのがせば、一生いっしょうチャンスはない。秋人あきひとわたしのことをどうおもっているのかはわからない。

 けれども、わたし秋人あきひとにキスをせずにはいられなかった。

 ――このくちづけ想い出だけできていける――

 ひとりよがりなわたしのわがまま。

「ごめんなさい。さよなら……」

 そうげると、わたしげるように、きしかっておよぎだした。

 が、秋人あきひといかけてくる。

 そもそもが、おな宿やどおな部屋へやまっているのである。げてどうなるものでもない。

 くわしい経緯いきさつ割愛かつあいするけれども、結論けつろんだけはしるしておこう。


 ――その少女しょうじょおんなになった――


 うっわ、これ、ずっ!

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