第14話 海、嫌いになれそうだわ

「人間ってのは重てぇもんだな」

 ドライブがJCを背負ってレーダーの後を追っていた。

「しかし…オニィは何で帰っていったのかね~?」

 ドライブの隣を歩くブッシがドライブに尋ねた。

「そんなこと知るか」

 どうでもいいとばかりにドライブが素っ気なく答える。

「ただ…」

「ただ?」

「いや…なんでもない」

 ドライブは何か言いかけて言葉を飲み込んだ。

(あのとき…JCに何か言っていた…)

 聞き取れるはずもない位置にいたのだ、考えるだけ無駄だと言葉を飲み込んだのだ。

「………なぁ…おい‼ ドライブ‼」

 考えながら歩いていて、ブッシの声に気づかなかったドライブ。

「ん…なんだ?」

 聞き返したドライブ

「なんだじゃねぇよ…」

 ブッシが指さした先に赤い着物の少女が2人、手毬をついている。

「…なんともまぁ…赤い美術館には、よくお似合いで…」

 ドライブが後ずさるとトンッ…と背中を押す冷たい手。

「その子を置いて立ち去れば?」

 耳元で女が囁く。

「契約違反でね‼」

 ブッシがいつになく強気で言い返す。

「どうしたんだブッシ?」

「なにが?」

「いつもなら、逃げ出す場面だろ?」

「ふっ…相手が金属バットやら銃をぶっ放すような奴ならそうだろう…が…」

「が?」

「やるしかねぇだろ‼ 相手が丸腰の女ならよ‼」

 ブッシが目の前の少女に向かって走り出す。

「それが子供なら…なおさらだ‼ 負ける要素が見当たらねぇ‼」

「あっ…おい…」

 少女がブッシの前蹴りをヒョイッと避けて、脇腹に深々と小さな拳をめり込ませた。

「グブッ…」

 ピタッと足を止めて前のめりに崩れ落ちるブッシ。


「アナタは…どうする?」

 女がドライブの耳元で再び囁いた。

「ひとつ聞きたいんだが~」

 ドライブが後ろの女に尋ねた。

「なに?」

「レーダーは? ここに来たコートの男はどうした?」

「彼なら…」

 ドライブの横から白く細い腕がゆっくりと伸びて正面の絵画を指さした。

「後悔してるんじゃないかしら、フフフ…」


「暗い海で独り…後悔しながら航海してるのよ」

「してる~♪」

 双子の少女がケタケタと笑う。


(航海…)

 ブッシが声にならない言葉を呟く。


「アナタ達はどうする?」

 ドライブがJCをそっと床に降ろした。

「フフッ…賢明な判断ね」


 床に寝たままのブッシが止めろと叫ぶが声にならない。

「そうだろ」

 ドライブがブンッと右足で女の足を払おうと身体を捩った。

 スカッ…

 空を切るドライブの足。

「フフ、幽霊に足は無いのよ」

 目の前に浮かぶ女。


「そうですアレがゴーストです」

 ようやく声を出せるようになったブッシ。


 その頃、帆船の甲板で風雨に晒されているレーダーは思った。

(海、嫌いになれそうだわ)


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