第15話 結局どっちの水が甘かったんだ

「私が残れば…彼らは、ここから出られるのね?」

 床に降ろされ真っ赤な壁にもたれ掛かっていたJCが『ユーレイ』に問いかけた。

 いつから目を覚ましていたのだろうか。

「JC…やめろ」

 ドライブが『ユーレイ』の返事を待たずに会話に入り込む。

「そうだ、やめたほいうがいいぞ」

 ブッシはJCを護るように両手を広げて『ユーレイ』の前に立ちふさがる。

「フフフ…解ってないのね」

 ユラリと白く細い腕をドライブの背後の絵画へ向けて突き出し、スッと掌を広げた。

「何の真似だ?」

 ドライブが、その手を掴もうと一歩前へ進みだす。

「キャッ‼」

 ブッシの背後でJCが小さな悲鳴を上げた。

 2人が振り返るとJCが赤い着物の双子に両手を掴まれ引きずられていく。

「しまった‼」

 ブッシが頭を抱える。

 そう、すっかり『ユーレイ』のインパクトで双子の方を忘れていたのだ。

「バカ野郎‼」

 ドライブが追いかけるように走り出すと、フッと目の前に『ユーレイ』が現れる。

「クッ…」

「心配しなくていいの…あの子は、自分で行くべき道を選ぶの、アナタ達は立会人に過ぎないのだから…」

「自分で選んでいるようには見えないんでね」

 ドライブが『ユーレイ』の下を潜り抜けるように身を屈めて走り出す。

「足がねぇんだったよな、バーカ‼」

 ブッシがバカにするように舌をだしてドライブと一緒にJCを追う。

「お前等はコッチだ‼」

 ユーレイの顔がギッと歪む。

 ドライブとブッシの頭を片手で鷲掴み、ブンッ…ブンッと絵画に打ち付けるように交互に放り込んだ。


 ドブンッ…

 水の中に落ちたような感覚が2人を襲い…意識が遠くなっていく…


「シャットダウン…強制終了よ」

『ユーレイ』がニタッと笑い、双子の後を追っていった。


「やれやれ…また灯台かい…」

 船の甲板で大の字になって寝転がるレーダー

「勝手に進んでんだか…ただ流されただけなんだか…」

 帆船の操舵など出来るはずもないレーダー、すでに、なるようになれと諦めて打ち付ける雨と海水に身を任せていた。

 そんな夜の海で揺られる帆船は、どうやら崖の上の灯台を目指して進んでいるような気がしてきた。

 数分後、海岸に打ち上げられた帆船は、グズグズと崩れるように消えていったのだ。

 ポツンと独り、夜の海岸に立つレーダー。


「煙草も湿気てやがる…」

 グシャッと握りつぶして、唯一の目印である見覚えある灯台に向かって歩き出す。


(で…結局どっちの水が甘かったんだ…)

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