第29話 友達
お盆を過ぎても夏休み期間中のファーストフード店の1階の席は、
学生で溢れていた。
小学生や中学生、部活終わりの高校生まで見事に揃っている。
ところどころにスーツを着たサラリーマン風の姿も見えるが、
食事を終えるとすぐに席を立つ人がほとんどだ。
1階の席はほぼ埋まっており、階段を上り2階で席を探そうとフロアを見渡しても、
あちこちから声が聞こえる。
偶然空いていたソファ席に腰かけようとすると、
ポテトやジュースらしい液体が床に散らかっていることに気づいた。
その席を避けて座席を探し直していると、
ちょうど通路を挟んだ席が空いたのでそちらに移動して席に着いた。
それとほぼ同時に山口がトレーに2人分のオーダーを持ってやってきた。
ジンジャーエール、ポテトのLサイズ、ホットカフェラテが並んだトレーをテーブルに置いた山口はため息をついた。
揚げたてのポテト頼んだら少し混んでて時間がかかってしまったらしいが、
そんな注文ができることも知らなかったし、ファーストフードにそこまで求めるなんてお店の人も大変だと思った。
「おまたせ。」
「今席見つけたとこだから待ってないよ。」
「細かいことは気にするな。よかったら食べて。」
トレーの上に紙ナプキンを広げ、その上に山口はポテトを出した。
「で何?」
山口からは用件などは特に何も聞かされず今日会うことになっていた。
「何が?」
「何か用?」
「いや用はないよ。」山口はポテトに手を伸ばしながら答える。
「用はない?」
「ただ出かけるのに誘っただけ。」
「僕を?」
「うん。で、夏休みは何してた?」
「ぼーっとしながら夏休みの宿題してた。」
これまで部活の時間内でしか話さなかった間柄から、
何を話していいのかもわからない。
「塾通い始めただろ?」
「なんで知ってるんだよ。」
「たまたま見たんだよ。でついでに言うと俺も同じとこ通ってる。」
「あっそ。」
「どこ受けんの?」
「まだ決めてない。」
この時期になると、受験生にとって挨拶のように聞かれるこのフレーズに慣れ始めていたが、実際に志望校が決まっていないことでゴールがイメージできていないことで、少し焦りを感じていた。
「そっか。なぁオレと同じとこ受けないか?」
「はぁ?なんでそうなるんだ?」
一見安易な提案だが、山口はふざけて言うようなやつじゃない。
「もちろん強制はしないし、決まってないなら一つの選択肢としていいだろ。」
山口の唐突な提案に驚きながら、話を聞いていると、
山口は進学校を受験することを考えているようだった。
「少しレベルは高いけど不可能な範囲ではないし、目標は高いほうがいいだろ?」
「まぁそうだけど。…考えとくわ。」
「そっか。ありがとう。じゃあこれから一緒に勉強しようぜ。」
「いや、勉強は一人でできるだろ。」
「勉強はできるけど、受験に関しては悩みとか不安とか皆持ってるだろ?
それに人数いる方が情報交換もできるだろ?だから…な。」
山口はいいやつだ。だが山口がここまで僕に構う理由がわからなかった。
「それはそうだけど、なんで僕なんかを誘うんだ?
こないだのお疲れ会でも、めっちゃ気にしてくれてたけど、
いないほうが楽だろ。」
山口は間をおいて答えた。
「違う。俺はお前を友達だと思ってる。」
「友達…」
聞きなれない言葉に続けて、山口は話し始めた。
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