第26話 赤
書店のその一角には、赤い背表紙がところ狭しと並んでいる。
近くには外国語の本、漢字や算数ドリルなどが並んでいる。
今までは知りたいことを知るために自由に手に取ってきた書店の本。
だが書棚を赤色が覆いつくすこの場所は僕の思っている書店とは趣が異なる。
取りたい本を手に取るのではなく、この中から本を選べと言われているように感じられた。
自分の興味に関係なく、夏休みの課題図書を選んだ中学1年生のあの頃に似ているなぁと思いだしたが、それよりも圧が強く感じられた。
書店の中にしてみれば、そのわずかしかない赤い空間に対して、
居心地の悪さを抱きその空間から距離を置きたくなった。
体を反転させ歩みだそうとしたその時、高森の声が聞こえた。
「ねぇ。こっちの本見ないの?」
僕は体を半分だけ戻した。
高森は先ほどまで手にしていた本を書棚に戻しこちらを見つめていた。
「ちょっと見てただけだよ。」
「ふ~ん。」
「何してるの?」
「受験のために情報収集してる。」
「あ、そう。」
「なんか今日は塩対応ね。」
「いつもこんな感じだと思うけど。」
「確かに。でもいつもより塩対応よ。」
「ここであまり話したくない。」
「あ、それはわかる。」
「それじゃ。」僕は出入り口に向かって歩き始めた。
それと同時に後ろから足音が付いてきた。
書店の外に出ると後ろの足音の方に振り向いた。
「なんでついてくるの?」
「えっ?中じゃなくて外で話したいんだと思ってついてきた。」
「……いや、そうなんだけど。」
「でどこ行く。」
「えっ?」
「のど乾いたからどっか入ろうよ。」
「さっきまで部活のお疲れ会してたから、とりあえず少し歩こう。」
「わかった。」
書店を出てからは繁華街をすぐに抜けだしたい一心で歩を進めた。
繁華街の中心部から500m程歩いたところで、以前高森と入ったことのあるチェーン系列のカフェの前にたどり着いた。
ここでいいか高森に確認しようとすると、高森の姿が見当たらなかった。
周囲を見渡すと、歩いてきた道のりの10m程後ろにいる高森がこちらに向かって歩いてる姿が見えた。
店の前に高森は、
「一瞬見失いそうになったよ。」
「ごめん、普通に歩いてた。」
「なんか怒ってる?」
「いや、ただ歩いてた。」
「あ、そう。」と言い残すと、高森は先に店に入っていった。
店内は大学生や、週末を過ごす若い社会人らしき人たちで賑わっていたが、
座席にはチラホラ空きがあった。
それを確認すると二人でオーダーカウンターに立った。
「えっとホットコーヒーを一つ。何にするの?」
「じゃあ、ホットカフェオレ。」
店員さんから金額の提示を受け、
財布を準備していると高森がすでに二人分の会計を始めていた。
「いや出すよ。」
「部活のお疲れ会だったんでしょ。今日はいいの。」
「いやでも。」
「じゃあまたいつか返して。」
「…わかった。ありがとう。」
高森は二人分のオーダーを受け取り、座席に向かった。
高森にソファ側の座席を譲ると「ありがとう」と言い座席に着いた。
お互い一口飲み終えると高森が聞いてきた。
「で、夏休みは何するの?」
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