第25話 夏休み


部活を引退して、本格的な夏休みが始まった。

天気は快晴。少し湿気のあるまさに夏の一日だった。

僕にとっての夏休み初日のお昼過ぎ、僕は歩きなれない繁華街にいた。

この賑やかな空間は老若男女問わず、大勢の人で構成されていた。

ほとんどの飲食店には行列や待ち時間があり、

歩くにしても複数の人が横並びになったり、歩く速度が遅かったり、

急に立ち止まったりと自分の思うように歩けない。


繁華街の日常を普段避けてきた僕には、その日常が窮屈に感じられた。

山口の発案で部活のお疲れ会が開かれた。

お疲れ会といっても、結局はみんなで遊ぼうというものだった。

僕は大人数で行動する行事は不参加が常だった。

気を遣うのも、その場の流れでモノゴトが決まっていくのが苦手だった。


そのことは空気的に皆が感じ取っていたのだろう。

山口も分かっていたはずだが、最後ということでお誘いが来たのだと思う。

僕もそこは理解していたが、そこを社交辞令半分で参加することにした。

山口は常にそんな僕の横にいた。映画館で映画を見たときも、

ファーストフード店で食事をしたときも、ゲームセンターでプリクラを撮ったときも。すべてが楽しくなかったわけではない。でも僕はやはり馴染めなかった。

そして山口の気遣いに申し訳なさを感じて、どのタイミングで抜け出そうか機を伺っていた。

16:00過ぎに次は何しようかと行き先を皆が決め始めていた時、僕は家族で食事の予定があると切り出し、帰宅する旨を伝えた。

家族で外食の予定はないが、家で食事を囲むことがほとんどのため、嘘ではない。

僕はそのグループから一人歩きだした。角を曲がりグループが見えなくなると少しほっとした。


このまま帰宅しても夕食には早いので、近くの本屋に向かって歩き出していた。

その道中、僕は久しぶりの繁華街を一人で歩いてみた。

おそらく半年ぶりだったと思う。

一人だと自分の歩く速度でも、人の間をサッとかき分けていくことができる。

いつどこに行くのか、一人で自由に決めることができる。

自分にあっているというよりも、これしかできないのかもしれない。

以前にはなかった飲食店ができていたり、昔からあった服屋がなくなっていたり、

町の変化は激しい。世の中はそれと比例するように、流行り廃りが生まれては消えていく。それらをとやかくは思わない。

ただその中で僕はスピードについていけないのだ。

だから僕はそれらの会話も、それら場所からも距離を置くようになった。


繁華街にある本屋に入り周囲を見渡すと、各雑誌コーナーで立ち読みしている人の数は数えられるほどだった。昨日の家での話もあり、初めて僕はテキストや参考書のあるコーナーに足を踏み入れた。するとそこには高森の姿があった。







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