第23話 後半

後半に入ってもペースは相変わらず、こちらにあった。

しかし、一点を取った安堵感からプレーが雑になり精度を欠くパスが増えていた。


そして後半10分が過ぎた頃だった。

センターバックからサイドバックへ送るパスがミスになり、相手選手に渡った。

ボールを奪った選手は奪った勢いそのままに、スピードに乗って、

サイドから中に突破を試みていた。

しかし、センターバックもしっかりカバーに入っている。

中央には相手選手もいるが、その選手にもしっかりカバーが付いている。

ボールはその中央に向けて放り込まれた。

しかしボールはミスキックにより、精度を欠くハイボールになった。

それは誰にも通るパスではなかった。


ただその放たれたボールは誰にも触れられず、反対側のゴールポストにあたってゴールに吸い込まれた。一番驚いていたのはボールを蹴った相手選手本人であったが、スコアは1-1の同点となった。


ミスと不運なカタチで同点になったが、同点となったあとも落ち込むことなく、終始こちらのペースで試合は進んだ。

だが得点が生まれない。相手ゴールに迫っても肝心なシュートが入らない。

そんな状況に勢いと焦りが入り混じっていた。

「まだいける!」そんな声も響いていた。


しかし、試合終了間際に、この試合初めて相手にコーナーキックを与えてしまう。

相手の初めてのコーナーキックに対してゴール前のマークはついていた。

だがそのコーナーキックは誰にも合わせるものではなく、直接ゴールを狙ったものだった。そのボールを巡って両チームの選手が入り乱れた。

しかしボールはまたしても誰にも触れられず、ゴールに吸い込まれた。

先ほどとは違い、チームで練習してきた、狙ったゴールだったということは相手選手の喜び方から一目瞭然だった。

この結果1-2となった。

そしてそのまま試合終了の笛は吹かれた。


試合終了後、相手ベンチに挨拶をする時点で何名かの部員が泣いていた。

チームのベンチに戻ると観戦に来ていた保護者や監督に拍手で迎えられた。

監督は皆を座らせて試合を振り返っていた。

だが試合結果を言い終えると、自分で受け入れられず、

なかなか言葉が出てこないようだった。

その姿に、他の部員達も涙を流していた。


負ければ最後になることはわかっていた。

だが最後にならない可能性もあったのだ。

その可能性が途絶え、想像や未体験だったものが、現実として降りかかると、

想像の欠如によるギャップにより、予期せず心を震わしてしまい、

涙をながすこともある。


だがこの時、その感覚が僕には理解できなかった。

全国優勝を目指していたならまだしも

一回戦で負けるなんて、練習や努力をしていなかっただけだ。

負けるべくして負けただけなのだ。


こんな時、泣ける者は優しくて一生懸命だった。

泣けない者は非情で傲慢だったのかと錯覚してしまいそうになる。

でもどちらでもあってどちらでもないのだ。


学業、スポーツ、芸術などあらゆる分野で人間の得手不得手や優劣、

さらにそもそもの優先順位や意識、尺度が違うのだ。

それらを存在しないものにはできないし、統一することもできない。

そんな世界の中で生きていることを突きつけられながら、

泣き終えた部員達と共に帰宅した。












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