第21話 実力
試合当日の朝、学校に集合し試合会場に向かった。
試合会場に着くと普段はワイワイしている部員達が少し静かなことに気がついた。
ウォーミングアップが始まると、さらに普段との違いが目立つようになった。
会話はなく動きは硬い。わずかに聞こえる声も小さい。
本田監督も気づいているようだったが特に指示はなかった。
いつもと違うことに部員達各々も気づいていたが、どうすればいいのか戸惑っているようだった。
みんな昨日の帰り道の山口のように気負っている。だがそれをどう払しょくすれば良いのか分からずにいた。僕が昨日の帰り道に、山口に言ったようなことをもう一度ここで言う気も起きなかった。普段何も言わない僕が言ったとしても浮くだけだろう。
そんな雰囲気を打破できずに時間は流れ、ついに試合5分前になった。
監督は試合での確認事項を話してから最後に「まずは楽しもう」と言った。
だがあまり部員には響いていないようだった。
このまま試合が始まるとぼんやり思い始めていたとき、山口が言った。
「なんでそんな硬くなってんだよ。監督も言った通りいつもどおりでいいじゃないか。」
しかし、他の部員から返事はない。山口は続けた。
「そんな雰囲気じゃなんもできないだろ。いつも通りでいいんだよ。」
そのとき2年生が口を開いた。
「いつも通りじゃダメです。また負けるだけです。」
突如としてその場に緊張が走った。
その声に山口は冷静に答えた。「じゃあどうするんだよ。」
「もっと必死になって欲しいです。」
「は?」
「いつもおちゃらけてるのに、こんな時だけしんみりなんてカッコつけてるだけです。もっと練習のときから一生懸命やってればよかったんです。」
試合直前にこれまでの練習への姿勢をとやかく言うのはもう遅い。
さらにそれは山口だけでなく、他の部員への言葉でもあるようだった。
さすがにこのまま放置すると話題がすり替わり、ケンカになりそうだった。
そのとき、監督が大声で締めた。
「緊張しててもしてなくて、一生懸命やってこい!」
結局、試合直前の雰囲気は最悪に近い状態だった。
今までこんな雰囲気になったことはなかった。
でも監督の言うとおりだ。緊張の有無は関係ない。
根本的には、普段の練習の姿勢や実力があるかないかの話だ。
たぶん、試合前に誰が何を言っても緊張も結果も大きくは変わらなかったと思う。
試合前になっても、みんなの動きは硬く、声も小さい。
これが3年間の部活動に対する、準備と結果。
そして今の実力なのだ。
グラウンド中央に整列し、両チーム円陣を組んだのち、
各々の想いを持って、22人の選手がポジションについた。
そして試合開始のホイッスルが吹かれた。
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