第20話 平穏


山口と話した日から、心は少し穏やかになっていた。

7月の最後の大会が近づいていただけに、

話をできたことで部活への影響は少なくてすみそうだ。

それに加えて山口と話せたことで人は何を考えているのか。

本当はどんな人なのかを知ることができた。


山口と話したあの日、高森に山口と話しができたという旨の、

メッセージをスマホで送ると「わかった」とだけ返事が来た。


最後の大会ということで、どこの部活にも活気が出ているのが感じられた。

そして部活の引退という言葉を少しずつ聞くようになっていた。

プロでもないのに引退という言葉は少し大袈裟な気もするが、終わりが近づいていることに変わりはなく、例に漏れずサッカー部の3年生も少なからず感じているようだった。


そしていよいよ最後の大会は明日に迫っていた。

練習メニューはいつも通りの定番メニューであった。

明日の試合は練習試合もしたことのない相手だが、上位に名を連ねる強豪校でもない。

春季大会では0-1で敗れたが、その結果あの時の2年生が今まで以上に取り組むようになり、練習への意識の変化や成長を感じていた。


練習は前大会同様に良い雰囲気で終わった。

3年最後の大会は今回もトーナメント方式で負ければ引退だ。

本田先生からは「明日は8:00に学校に集合して、会場に向かう。負けた時点で3年生は引退だが明日で終わるとは思っていない。勝とう!」と締めくくった。

部員だけではなく、先生にも思うことがあるようだ。


部室で更衣を済ませると山口が部室の前で待っていた。

山口と家は近くないが「途中まで帰ろうぜ」と山口が遠回りして一緒に帰ることになった。

「いつものメンバーと帰らなくていいのか?」

「う~ん。明日が最後になるかもと思うとなんかソワソワして。。」

「いつも通りでいいんじゃないか。」

「いや、なんかそれじゃ締まらないかなと思って。」

「いつもと違うことするほうがソワソワするけどなぁ。」

「それもそうかもしれないけどな。」

悪気はないのだろうが、煮え切らない山口に僕は少しイライラしていた。

こっちは一緒に帰っている時点でいつもと違うことをしている。

僕は気持ちを落ち着けながら言った。

「勝っても負けてもこれからも学校は続くし、部活も高校で続けられるだろう。

「それはそうだけど、違う。皆とできるのが最後かもしれないってことだよ。

お前ほどじゃないけど、オレも部活楽しかったんだよ。でも他の部員との意識のギャップをオレなりに折り合いをつけてたんだよ。」

山口の言葉が自分の言葉を半分代弁しているように聞こえた。

ただし視点がチームなのか個人なのか、これまでの両者の行いは決定的に違っていた。

それを吹っ切りたくて、僕は返した。

「そんなの今更関係ないだろ。今から負けた時の言い訳の準備なんかするな。

まず明日「勝った」っていう結果だろ。」

「そうだな。」山口はそれから分かれ道まで黙ってしまった。

僕は言い過ぎたと思う。でも山口は強かった

「明日勝てば部活は続く。だから勝とう」山口はそう言うと家に向かって歩いていった。







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