第19話 雰囲気
「…雰囲気かな」
「…雰囲気?」
「話し方とか話すスピードとか服装の感じとか…。」
「なんか曖昧だな。」
「お前は高森の顔やスタイルとか見た目が好みなの?」
「まさか。」
「じゃあお前は何で付き合ってるんだよ。」
毎回のことながら、核心を突く言葉には戸惑ってしまう。
その中で僕は振り絞って答えた。
「…一緒にいて楽しそうだから。」
「楽しそう?」
「…悪い。よくわからん。」
「なんだよ、お前が聞いたんだろ。
高森に限らず、人って顔や服装とか見た目も大事だ。そこは否定しない。
でも結局居心地とか感覚が似てるってとこかな。」
「高橋と付き合ってるって聞いたけど。」
「話の展開が急だな。てか付き合ってないよ。」
「えっ?」
「仲は悪くないけど付き合ってはいない。誰かの勘違いか、ただの噂だと思うけど。」
「そうか。」
「意外だな。そんな話興味なさそうだと思ってた。」
「たまたま聞いた。」
山口は終始明るかった。
これまで山口とは部活が一緒でもほとんど話したことがなかったが、
山口は僕との会話をスムーズに進めてくれた。
「てか、それ以上にびっくりなのはお前が高森と付き合ってるって話だよ。
どういう成り行きなの?」
「いや、なんていうか。」
「そういうのも興味ないと思ってたけど、お前から告白したなんてな。」
設定上はそうなっている。あの提案、いや決定事項を伝えてきたのは高森のはずなのに。
「まぁ俺が二人のことを根掘り葉掘り聞くのは、立場上、気持ち悪いな。ごめん。
まぁ仲良くな。」
社交辞令ではなく、本音で言っているんだと、
いつもの山口の態度や言葉から感じていた。
2年近く同じ部活で時間を過ごしていたのに、全然山口のことを知らなかった。
そもそも部活以外の話をしたのは初めてだ。
山口は僕の返事を待っていたが、これ以上詮索することはなかった。
ただその中で僕は2つだけ聞いておきたいことがあった。
「あのさ…なんで3回も告白できたんだ?」
「はっ?」
「なんで同じ人に3回も告白できたんだ?」
「…お前、心えぐってくるねぇ。」
「いや…話したくないならいいよ。」
「なんだよそれ!」
山口はそんなことをいいながらも話してくれた。
「告白せずに後悔するより、まず伝えてみようと思った。ただそれはオレの勝手な気持ちだけだった。こっちの都合ばかりで、高森のことは何も考えてなかった。高森には悪いことした。」
山口はいいやつだ。
でもいいやつだからといって、必ず両思いになるとは限らない。
それは山口が言っていた雰囲気や相性によるのだろう。
言える立場ではないが、山口と高森は確かに合わない気がする。
そして僕と高森も。
それらは言葉にせず、胸にしまっておいた。
日が暮れるにつれ空腹感もましてきたため、
別れ際にもう一つの質問をした。
「部活楽しい?」
山口のキョトンとした顔がこちらを向いていた。
山口は笑いながら「何でいま部活の話??
お前とは楽しみ方が違うかもしれないけど、楽しいよ。」
「そうか。ありがとう」僕が山口に伝えると、
「またこれからいろいろ話そうぜ」と山口は言ってくれた。
「そうだな」と返事をして、それぞれ家路についた。
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